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ゴブリン騎士と農民姫  作者: 照喜名 是空
実りの章:一年目・秋
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ゴブリン騎士と託された使命・結

 ◎ギルド到着


 少しの休息を挟み、街へ急ぐ。

 暗く恐ろしい森はやがて後方へと姿を消し、城下町の灯りが見えたとき、ゴブリン騎士は心底安堵した。

 城塞都市の壁外、街道ぞいにまばらにある城下町を通り抜け、街の東門から冒険者ギルドへと入る。


「夜分すまない。どなたかギルド職員の方はおられるか?」


 ゴブリン騎士は受付にある呼び鈴を鳴らした。

 夜のギルドは閑散としていた。だが、それでも門を開けて最小限の人員は残している。

 規模の大小はあれど冒険者ギルドとは元々街の酒場兼宿屋を発祥とするからだ。

 二階から上にある宿屋部分では今も大勢の冒険から帰った冒険者たちが寝ているはずだ。

 奧から、目をしょぼしょぼさせた受付嬢が出てくる。当直なのだろう。


「どうされました。ゴブリン騎士」

「おお、受付殿。実は……いずこの者かはわからんが、伝令の騎士が行き倒れていた。そこで荷物と軍旗をあずかり任務をひきついだ。なんでも、火急にご領主様にお渡ししたいと……」


 ゴブリン騎士はゴブリン騎士用となっている踏み台を使ってカウンターに荷物である魔法のポーチと軍旗を差し出す。


「これは……王族直轄の紋章のようですね。たしか、少し遠くに王族直轄の実験施設があったはず。そこの伝令かもしれません」

「子細はわからぬが、私がみつけた時には追手に深手を負わされていた。立派な死に様であった。私もここにくるまでに追手をなんとか退けてきた」

「それは、きな臭くなってきましたね……」

「なんとかご領主様にわたりをつけてもらいたい。このポーチは私がまもっておくゆえ」

「わかりました。では泊まっていきますか?」

「ああ、使い魔小屋と庭を使わせていただきたい。手持ちの食糧で煮炊きするつもりだ」


 使い魔小屋はこういった大きめの都市の冒険者ギルドでは必須のものだ。

 馬小屋に獰猛な使い魔はおいておけない。

 ここの使い魔小屋はかつてテイマーと先達の使い魔たちも利用していた。

 また、庭で冒険者達が取ってきたわけのわからぬ肉を煮炊きするのも珍しくはないことだ。


「いいでしょう。銀貨2枚です」

「ここに」

「お疲れ様でした。ではゆっくりお休みください。領主様との連絡はまた明日の朝にします」

「ありがたい」


◎夜食はベーコンの炙り


 外につないでおいたカナリアンテを庭にある水場につれてゆき、自身とカナリアンテの飯の支度をする。

 金属コップに汲んだ冷えた井戸水は火照った体に救いのようにしみこむ。

 とにかく、食事だ。

 ギルドの庭は広く、雑に芝生が茂っている。そこに練兵場や井戸、バーベキューのように火を使える場所がある。

 四方を建物に囲まれ、壁にはランタンに灯が灯り、上を見上げれば夜空に星が輝く。

 安心できる場所だ。横にはふかふかのカナリアンテがいる。


 「やれやれ……火を起こすか」


 鉄籠に突っ込まれている薪と火打ち石を使った。これらは冒険者であれば無料で使用できる。

 ポケットから火付け用の乾燥した松葉に火打ち石で火花を散らせばやがて火がつく。

 そこに白樺の表皮と細く切った薪をを投入。やがてこれが焚き火となるのだ。


 「ふう、ふう……」

 「クーン」

 

 あたたかい。手を当てて暖まると、焚き火の光はなんとも心を安心させてくれる。

 羊肉のベーコンを薪を削って作った串に刺してあぶり、クラッカーを砕き、鍋に水と入れて煮る。

 どちらもお菓子やつまみといったサイズではない。業務用、といった大きさだ。

 やがてベーコンはじゅうじゅうと脂を垂らし、焦げ目がついてくる。良い匂いだ。

 カナリアンテはよだれを垂らして期待に満ちた目でゴブリン騎士を見た。


 「ハッハッハッ」

 「頃合いだな」 


 カリカリに焼けた厚さ一指はあるステーキのようなベーコンをナイフで半分に切る。

 半分を己のために、残り半分を手で裂いてふやけたクラッカー粥に混ぜ、少し水を入れて冷やす。

 カナリアンテ用の飯だ。


「カナリアンテ。よく頑張ってくれた。さあこれを食べて休むがよい。待て……よしっ」

「ウォンッ」

「うむ……はふっはふっ。少し焼きすぎたか?だがうまい」


 ゴブリン騎士は温めたベーコンの残りと、妻が用意してくれたサンドイッチを食べた。

 暖かく、香ばしく、薫り高い。たまらぬ美味である。

 ドリンクはコップに乾燥させたレモン皮とショウガ粉、砂糖に湯を入れたショウガ湯だ。

 食べ終えると芯から体が温まり、疲れが消し飛ぶようだ。

 片付けると、ゴブリン騎士は使い魔小屋でカナリアンテの毛皮に包まれて眠った。


 ◎報償


 翌日、ゴブリン騎士は使い魔小屋でギルド職員に起こされた。

 すでに日は十分に昇っている時間だ。ゴブリン騎士にしては遅い目覚めである。


「う、うむ……ああ。受付どのか。どうされた」

「身だしなみを整えたらすぐにお越し下さい。応接室でサイラス辺境伯の使者の方がお待ちです」

「お、おお!それはいかん。すぐに用意する」


 素早く水場で顔を洗い、鎧についた汚れをボロ布で落す。

 一息つくと、ゴブリン騎士は素早い足取りで応接室に向かった。

 しかし、思ったより動きが速い。何かあったのだろうか?ゴブリン騎士はいぶかしんだ。


「おはようございます、ゴブリン騎士殿。私はサイラス伯家臣団『執事長』ジェイムズです」

「こ、これは執事長殿……ご挨拶痛み入る。お久しぶりにございます、ゴブリン騎士にございます」

 

 以前、食事に招待された時に見た執事が応接室に座っていた。

 小綺麗なソファとテーブル、壁には安っぽそうな絵が置いてある。そんな応接室だった。

 上座には黒い執事服姿の男。壮年で白髪交じりの髪をキッチリ脂でなでつけている。

 彼が執事長だろう。

 執事長ともなればほぼ城から出ずに家の切り盛りをするような側近中の側近である。

 これは、思ったより大事になっているな。ゴブリン騎士はそう直感した。


「ではまず軍旗とポーチをお見せ下さい」

「はっ、こちらです」


 血のしみこんだ軍旗を一目見るなり執事長の顔色が変わった。


「ふむ、やはり……ご苦労様でした、ゴブリン騎士どの。くわしく話をお聞かせ願えますか?」

「はっ、では最初から……」


 ゴブリン騎士は説明した。行き倒れの伝令に魔法のポーチと財布を報酬にこの任務を授かったこと。追手に暗殺者のゴブリンが来たこと。全て偽らず話した。


「なるほど……ありがとうございます。質問ですが、そのゴブリンの暗殺者はどれほど強かったですか?」

「そうでございますな……かなり強かったです。奴らが2人でかかってきたならば手傷なしにはとても。3人であったならば殺されていたでしょう」

「なるほど、やはり……ふーむ……ありがとうございます。大変有益な情報でした」

「いえ、お役に立てたならば光栄です」

「ふむ、ではこちらからも情報を提供しましょう。いえ、ぜひあなたには聞いて欲しい」

「はっ」


 そうして執事長は話した。農業研究施設がゴブリン王国を名乗る異常なゴブリンたちに襲われ、略奪されたこと。

 魔王の件は伏されていたが、それでもゴブリン騎士には何が起こったか明白であった。

 あいつだ。ゴブリン英雄がとうとうやったのだ。やつは言葉通りに自分の軍団を築き上げ、それが自分たちの足下まで来たのだと。


「市井の噂では、あなたはゴブリン王と因縁があるとか」

「はい、事実です。奴は倒さねばならぬ宿敵です」

「ならばいずれこの件であなたの手を借りる事になるでしょう。いずれゴブリン王と戦うとき、あなたにお声がけしても?」

「私はぜひにも。ですが、決断されるのはテイマー殿です」

「もちろん筋は通します。その時は依頼として頼みましょう」

「かたじけない」


 ふう、と一息つき出されていた紅茶に手をつける。ぬるい。だが、気を落ち着けるには丁度良い。


「さて、報酬ですが……こちらを伯からお預かりしています。それから、このポーチもいずれお返ししましょう」


 こぶし大ほどの金貨袋であった。思わず顔がほころんでしまうほど重たそうだ。


「こ、これほど……よろしいので?」

「かまいません。これはあの施設の研究の成果です。いわば国の宝。中身は種籾でしょう。この改良された種籾は千金にも値します……よくぞ護ってくれました」

「その言葉、胸にしみる光栄……さようの事であればありがたく頂戴いたします」


 よかった。大変な道中ではあったが、やった甲斐があった。ゴブリン騎士は心からそう思った。

 帰ろう。我が家へ……


 なお、ゴブリン騎士が村に帰るとコボルト術士がゴブリン暗殺者をそれはもう手ひどく魔法で焼き尽くしたと宴になっていた。

 ゴブリン騎士の持ち帰った報酬はその宴にすばらしい花を添えることとなった。

 何はともあれ、頼もしい友人は家族を護ってくれたようである。

 

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