僕の気持ち
「ククク・・・ブフッ」
「あのさ、隠せてないから。もう、吹き出してるから」
僕の側近であるラウルを睨みつけていう。
「だって『適任』ってなんだよ。婚約者になってもらうために、王位継承権を放棄したんだろ」
ギャハハと笑い転げるのを、さらに睨みつける。
そうだ。僕は、マリアベルを婚約者にするために王位継承権を放棄した。
母は「一途ね」と笑って許してくれた。
父は苦い顔をして「なぜか息子どもは、あのご令嬢に骨抜きだな」とぼやいていた。
マリアベルは、もともとウイリアム兄上の婚約者候補だった。
幼いわりには物怖じせず、兄上にごまをするでもなく。いつも好奇心旺盛な目をキラキラさせていた。
兄の話に熱心に耳を傾け、時に鋭い指摘をして驚かせていた。
年の離れたマリアベルを、兄はとても可愛がっていた。
第一王子としての重い責務を背負う兄は、マリアベルの笑顔に癒されていたのだろう。
いよいよ婚約者決めを・・・という時、兄が選んだのはマリアベルだった。
僕は、当時、同い年のマリアベルの聡明さに、どこか嫉妬していた。
その一方で、それを鼻にかけない快活そうな笑顔から目が離せなくなっていた。
なんだか複雑なその感情を、当時の僕は持て余していた。
実は、マリアベルと僕には共通の思い出がある。
それは残念だけど、マリアベルの記憶には残っていないはずだ。
残っていたとしても、その思い出の相手が僕とは認識されていないに違いない。
でも、彼女が忘れている思い出に、僕自身も救われたのだ。
でも、彼女は兄の想い女。
楽しそうなお茶会の様子を、遠くから眺めていることしかできなかった。
マリアベルが9歳の誕生日を迎える少し前。
兄はマリアベルを婚約者にすることを決めていた。誕生日に贈り物を用意する兄は、それは嬉しそうだった。
自分の瞳の色と同じ宝石でネックレスを作っていたのを、僕は知っている。
伝えることもなく終わった初恋。でも、兄の幸せと彼女の幸せを心から祈ろうと思っていた。
そして誕生日の朝。
王宮に侯爵が駆け込んできた。父の執務室に飛び込んだ後、人払いがされたようだった。
そして兄が呼ばれた。なんだか嫌な予感がした。モヤモヤと胸の中に不安が広がっていく。
彼女の身に何か起きたのではないか。とっさに、そう思ったのだ。
案の定、しばらくして執務室から出てきた兄は、真っ青な顔をしていた。
少しの間自室にこもった後、突然、侯爵家に出かけていった。
王族がお忍びで侯爵家を訪れるなど通常ではあり得ない。
夕方、帰ってきた兄は数日部屋から出てこなかった。
そして、婚約内定は白紙になった。
母に頼み込んで事情を教えてもらおうとしたけれど、母は首を横に振り続けた。
僕は、密かに情報を集めることにした。
最初は、彼女に身に何か悪いことが起きたのではないかと思った。
でも、兄はこっそりマリアベルに護衛をつけていたから、身体的な危害が加えられるようなことはなかったはずだ。
次に病気を疑った。でも、他家のお茶会に元気な姿で出席していることが確認された。
病気でもないとすれば何なのか。わけがわからなかった。
有益な情報がつかめないなか、思いも掛けない情報を得ることになった。
あの日の朝、精霊たちに不審な動きがあったというのだ。
それだけしか情報はつかめなかった。
だた、それこそが重要な情報のような気がしていた。あくまで直感だったけど。
父の執務室を訪れて、直談判した。
教えてくれるまで一歩も引きません。
僕の言葉に、重い溜息をついて、父は「国家機密に関わる。聞くなら相応の覚悟をしなさい」といった。
そして教えてくれた
「マリアベル嬢は、精霊ディオンのいたずらにあったのだ」