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精霊ディオンのいたずら

それは、私の9歳の誕生日の朝だった。


ここ一週間、私は少し落ち込んでいた。


第一王子ウイリアム様との婚約が内定したと聞かされたからだ。

まだ、正式な発表ではないけど、近々、王宮から正式な通達があるとのことだった。


ウイリアム様は、私にとって兄のような存在だ。

私が7歳になった頃、第一王子の婚約者決めが始まり、侯爵家令嬢である私も「候補」としてお茶会に招待されるようになった。最初はたくさんの令嬢が参加していた。それが一人減り、また一人減り・・・と参加者は少なくなっていき、8歳をすぎる頃にはウイリアム様と二人でのお茶会となっていた。


私は候補者の一人ではあるけれど、ウイリアム様とは5歳も離れている。

他の令嬢は、もっと歳の近いものばかりだったので、自分はいずれ候補から外れると思っていたのだ。

だから、二人でもお茶会になっても、他の候補者とも、こうして二人でお茶会をしていると思っていた。


ウイリアム様は優しいし、私の幼い意見にもきちんと耳を貸してくださる。

いつもニコニコしていて、お茶会は、それはそれは楽しかった。

でも、それは「妹」を見るようなものだと思い込んでいた。


だから、父から「殿下の婚約者に内定した」と言われて、正直なところ、とても戸惑った。

もちろん貴族の婚姻は恋愛感情とは無関係だと百も承知していた。

私自身はともかく、政治的に大きな派閥の筆頭である我が侯爵家を味方につけることが、王家として重要であることも理解している。5歳の歳の差は、そうした政治の前では小さなことだったのかもしれない。

おそらく私によっぽどの問題がなければ、最初から最有力候補だったのだろう。


そうやって決まったのに違いない。


父と母は、私が毎回お茶会から上機嫌で帰ってくるのを見て「殿下との相性も悪くない」と嬉しそうだった。

今回の話をとても光栄に思っていることだろう。


でも、私は憂鬱だった。


これから始める王妃教育は、さぞかし厳しいものになるだろう。

両親の愛情に守られて、おおらかに育ってきた私には少々窮屈かもしれない。

その窮屈さを受け入れるには、私はまだ幼すぎた。

だから、単純に「窮屈な人生を送るのか」と落ち込んでしまった。


私はもっと自由に生きていたい。

貴族としての役目をいつかは果たさなければいけないけれど、

せめて、もう少しは自由に。


そんなわがままで罰当たりな願望を持っていたからなのか。


私は、とんでもなくありがた迷惑な魔法をかけられてしまうことになるのだ。



その日のことは、今でも鮮明に覚えている。


9歳の誕生日の朝。


眼が覚めると、目の前に一人の少年が立っていた。

銀髪で深紅の目がルビーのようにキラキラと輝いていた。

よく見ると背中から翼が生えている。


そもそも、なぜ部屋の中に?

戸惑っていると、少年はニカッと笑った。


「憂鬱なの?」


まっすぐに私の目を見ていう。

なんだか目が離せない。


心臓がドキドキする。何かよくないことが起ころうとしているような気がしてならない。


「どういう意味かわからないわ」


答えながら、気づかれないように魔法で両親に緊急信号を発する。


「親を呼ぶの?いいよ、待っててあげる」


・・・魔法が気づかれた?この魔法は、両親が私のために作ったもので簡単に見破られるものではない。

変な汗が背中を伝う。

目の前の少年は、ただ笑っているだけだ。なのに、おかしい。得体の知れない恐怖を感じる。


「マリアベル!」

バタンと扉が開いて、両親が駆け込んでくる。

私に駆け寄ろうとしたが、少年がフッと息を吐くと、私と両親の間に見えない壁ができた。


少年の存在に気づいた父が顔をあげる。

少年はジッと父の目を見ていた。


次第に顔色が悪くなる父。


「あなたは・・・」


言いかけた父に、少年はニヤリと笑ってこう告げた。


「彼女、いいね。気に入ったよ。僕は、彼女にもっと人生を楽しんでほしいな。だから9歳の誕生日に、僕からプレゼントをあげよう」


「ダメだ!」

叫んだ父は魔法を展開した。

父の魔力も強大だが、目の前の壁を打ち砕くことはできない。


そして

私の目の前に、見たこともない魔法陣が展開された


「マリアベル!」母が悲鳴をあげる。


でも、キラキラと輝く魔法陣から私は目が離せなかった。


「何、これ・・・」


「お誕生日おめでとう。マリアベル」


少年がそういうと、魔法陣が光り輝きあたりは光に包まれた。


目を開けると、もう少年はいない。


「君なら、うまく使ってくれるんじゃないかな」


どこからか少年の声がすると


バシャン


水が降ってきた。


「冷たい!」


思わず叫ぶ・・・と。


「・・・マ、マリアベル・・・?」

父の顔が青ざめていた。母は「まあ」と目を丸くした。


え?と思って、そばにあった鏡を見る。


そこにはずぶ濡れになった「男の子」が立っていた。


「え・・・・?」


ギャハハと大きな笑い声がする。


「水を被れば男の子になるが、お湯に浸かれば元どおり。これを忘れないことだ。さ、君の人生に彩りを!僕はいたずら好きの精霊ディオン。退屈な世界を面白くするのが僕の役目。じゃあね」


呆然とする私たちを残して、

精霊ディオンの声は消えていった。


それが、私の9歳の誕生日だった。

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