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剣豪の復讐物語  作者: 大土 土人
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24話 雷龍

 眠りから目覚めた零は辺りを見渡す。

 だが、もうどこにも零の探している人はいない。


「夢だったらよかったのにな」


 そうだ何もかもが夢であって欲しい。

 こんな地獄に捨てられたのも、この世界に転生した事も。


 だが、今はそんな事を考えてもしょうがない。

 これが夢でない事は分かりきってる事だ。もし夢だったとしても、目覚めるまで抗ってやるつもりだ。


「とりあえず、移動するか」


 零は目を細め、空を見る。今は夜明け直後だ。


 この世界ではどうかは知らないが、地球では日の出は大体東だ。


「つー事はこっちか」


 零は太陽とは反対の方向を向き、思いっきりジャンプする。

 これで高度100メートル程は跳んだ。

 そして、空中を思いっきり蹴る。


 すると、新幹線にも匹敵する程の速度で空中を進んでいく。


 これは、心流で透明の壁を作り、それを蹴っているだけだ。


 それだけで新幹線並の速度が出るのだから心流の身体強化はとてつもないのだろう。


 更に、これに縮地を加えたらもっと速くなるんじゃね? とか考えたが、どうやら空中では縮地は使えない様だ。


 だが、地上で移動するよりもこっちの方が速い。


 確かに縮地は数百メートルもの距離を一瞬で移動出来る。


 だが、それは平原などの障害物がない場所に限ってだ。当然だがここは森だ。もはや障害物しかないと言っても過言ではない。


 つまり何が言いたいかって言うと、森で縮地を使うと、木にぶつかってしまう事があるのだ。


 例えるならば、市街地の中を最高速度の車で爆走している様なものだ。すると、当然建物に衝突する。


 縮地を取得して間もない頃は、速すぎて酔うわ、木にぶつかって痛い目にあうわで結構移動するのに時間がかかっていた思い出がある。


 今は縮地をある程度制御出来るようになってきて、酔う事は無くなったが、木にぶつかる回数はそれほど減っていないのが事実だ。


 それと、空中で移動すると、1部の鬼を除いて鬼に遭遇しなくなる。もし、遭遇したとしても零のスピードには着いて来れないだろう。


 そんな事を考えながら、しばらく移動していると、目の前に暗雲が見えてきた。それもかなり大きい様で、空全体を覆っていて、零の後ろ以外は空が見えない。

 しかも、豪(ゴウ)という音が鳴っているので、雷も落ちている様だ。


 それを見て、零は顔を少ししかめ、移動するスピードを加速させる。

 誰でも雨に濡れるのは嫌なのだ。もちろん零も濡れるのは嫌だ。息が吸いにくくなるし、体が重くなって動きにくくなる。


 零はいち早く豪雨地帯を抜けたいのか、更に加速していく。


 空中を跳んで加速すると、最早、時速300キロはくだらない様な速さになるのだが、その分、心流を使うと消費する精神力を大幅に使用するため、その状態で敵と対面すると、不利な状態になってしまう。


 まあ、空中で高速移動をしていれば敵からの攻撃は当たらないだろうと考えての加速なのだが。



 暗雲の下は物凄い量の雨が降っていて、滝の様に雨が落ちてくる。

 これならば台風の方がまだマシだと思える。この大雨は正しく天災だ。

 そう思える程、この大雨は凄まじいのだ。


 だが、零は足を止めない。例え止めたとしても雨宿り出来そうな場所はどこにもないし、雨が止む気配も全くない。


 10分程経っただろうか。雨はもちろん止まず、地平の果てまで暗雲が続いており、この豪雨地帯を抜け出せるのかどうかすら分からない。


 しかも、雷がそこら中で鳴っていて、雷が落ちる度に気配が無くなっていっている。

 つまり、雷が落ちる度に生き物が死んでいるという事だ。


 正に、天が行う蹂躙劇であった。


 だが、空を高速移動をしている零には雷は当たらないだろうと思い、気にせずに跳んでいる。


「ぐあぁ!? 」


 だが、それは間違っていた様だ。


 雷が当然の様に零を撃ち抜いたのだ。


 零は常人ならば即死していただろうあまりの衝撃に体が動かなくなってしまい、そのまま地面に落ちる。

 勿論、受け身も取れない。


「けっ 」


 高い場所から落下すると、内蔵が破裂したような激しい衝撃と痛みがあるのだが、零は一切苦悶の表情を浮かべる事なく、ましてや上を見て舌打ちまでしている。


「はっ、何だよコイツは」


 零は凶悪な笑みを浮かべて、投げやりに言う。


 そこには、雷を纏った龍がいた。


 以前戦った黒竜は西洋の神話などで見る様な竜だった。

 だが、この雷を纏った龍ーー仮に雷龍と名ずけるーーは東洋の伝説などで見る様な龍だ。


 雷龍はゴロゴロと雷の様な声で鳴き、零を観察する様な目で見ている。


 警戒しながら零が立ち上がると、雷が零に直撃した。


「ぐっ…… 」


 零はあまりの衝撃に地面に倒れる。


 本来、雷無効の能力がある零には雷に撃たれてもどうって事ない。


 だが、それを無効化出来ていない所を見ると、炎無効と同様に、この場合は雷無効を《雷無効・極》に強化されないと完全には無効化されないのだろう。


 零は雷に撃たれないように、立ち上がってすぐに縮地で移動する。


 だが、その抵抗も虚しく、2発目の雷で撃ち落とされてしまう。


「がっ…… 」


 これで雷龍が雷を操っている事は分かった。


 零は地面に倒れながら雷龍の殺し方を考える。


 まず、雷龍に近づかなければ話にならない。だが、それは無理に限りなく近い。

 ある1つの方法をを除いては。


 零はそれを行動に移す為に息を整える。


 一瞬の静寂があり、気配殺しを使いながら出来る限り素早く動き、刹那の間に雷龍に近づいた零は、渾身の一薙を放つ。


「くっ……そッ! 」


 だが、雷龍が纏っている雷が鎧の役割を果たし、刃が全く通らない。


 そうこうしている気配殺しが切れ、雷に撃ち落とされてしまう。


 零は考える。

 まず、一撃を入れるためには、あの雷の鎧を剥がす必要がある。では、どう剥がすか。


 しかし、何も思いつかない。零は刀を振る事しか出来ないバカだ。あの一薙で雷龍が倒せていたらどんなに楽か。

 だが、こんな事を考えていてもどうにもならない。


 零はなんとなしに魔力探知を使う。


 相変わらず、空間に存在する魔力を全て探知するので情報量がバカ多い。少しはこれにも慣れたが、それでも気持ち悪くなってしまう。


 それでも零は何かないかと魔力探知を切らさない。


 そこで零はある事に気づく。


 雲全てが魔力で出来ているのだ。勿論、普通の雲は魔力ではなく水蒸気で出来ている。


 そして、その魔力は雷龍の纏っている雷と同じ色の魔力をしている。


 ちなみに、魔力の色というのは、生き物が持っている魔力は、微妙だが魔力濃度や適性魔法によって見え方が変わってくる。

 それに零が勝手に名前を付けただけだ。


 だが、鬼犬は群れのは、零の魔力探知が不完全なのかもしれないが、群れの長以外は全員同じ色の魔力だった。


 そういう事なら雷龍が複数いてもおかしくないのだが、そんな最悪の事態は考えたくない。


 とにかく今は目の前の敵に集中だ。


 話がそれたが、つまり、ここら一帯を覆い尽くす雲を維持するにはそれだけ魔力を使っているという事だ。


 どれだけ魔力量が多くても、それが無限という事は決してない。


 ならば、持久戦に持ち込んで魔力が尽きるまで待てばいい。まあ、持久戦とは言っても零はただ立ち上がって雷を撃たせるだけなのだが。


 とにかく、そうと決まればあとは行動するだけ。


 零はゆっくりと立ち上がると、案の定雷に撃たれ、倒れる。


 そして、また立ち上がり、雷に撃たれる。


 これを永遠と繰り返すだけだ。


 10分程経っただろうか。零はまだ雷に撃たれている。


 だが、倒れる事はなくなった。この10分間、雷に撃たれ続けた事で耐性が付いたのだろう。


 ここで言う耐性は取得した《氷耐性・大》などの能力ではなく零自らの力で得た力だ。


 雷龍は自分の雷撃が効かなくなっている事に焦ったのか、雷撃の密度が増していく。


 これには流石に膝を着いてしまう。


 だが、それだけだ。


 元々、《憤怒の炎》と《怠惰の雷》という強力な自傷ダメージを受ける能力を長い間使っていたので、こんなにも長い事ワンパターンな攻撃を受けていたら体が慣れてしまう。


 まあ、こんな訳の分からない事を言えるのは《強欲の不死》というチート能力を持っている零しかいないのだが。


 密度の増した雷撃にも耐えられる様になった零は、まるでダメージを受けていない様な顔をして雷龍を見る。


 雷龍は、まだ雷撃を放っているが、そのペースは落ちており、雷の鎧もだいぶ剥げていて、かなり疲弊している様に見える。


 更に、魔力探知で雲を見てみると、魔力濃度が10分前の100分の1までに薄まっていて、雨の勢いも弱くなっている。


 もうそろそろ雷龍の魔力は底を突くだろう。なのに、まだ雷撃を撃ってくるから不思議だ。


 そもそも何故、雷龍はこの超絶不利なこの状況で逃げないのか。


 雷撃は雷龍にとっての唯一の攻撃手段なのだろう。それは、この20分間を見れば分かる。

 もしかしたら、他にも技があるかもしれないが、魔力がスッカラカンの状態では撃ちたくても撃てないだろう。


 今の雷龍の状況を簡単に説明するならば、自分は満身創痍で体力も魔力も底をつきそうだが、敵には自分の攻撃がまったく効いておらず、涼しい顔をしている。というところか。


 つまり、詰んでいる。


 零がこの状況に陥ったなら、迷わず逃げる。そもそも、逃げようにもその敵が見逃してくれるとも思わないが。


 だから、零も雷龍を逃がさない。


「そろそろいいかな」


 零は跳ぶ動作を見せずに一瞬で雷龍の首元に近づくと、思いっきり、叩き切る様に黒刀を振るう。


 多少の抵抗はあったものの、驚く程あっさりと首が胴と離れた。


「グルゥ……? 」


 雷龍は最初、何が起きてるか理解出来なかった様子だったが、段々と自分の首が斬られている事を理解した様で、今度はぎゃあぎゃあと騒ぎ出した。


 首から下が無いのにどうやって叫んでいるのか知らないが、とにかくうるさい。

 今にも鼓膜が破れてしまいそうだ。


「うるせぇなぁ」


 零は無表情のまま、雷龍の首に近づくと、黒炎を纏わせた黒刀を雷龍の眉間に突き刺した。


「ーーーーッ! 」


 すると、瞬く間に黒炎が雷龍の首を包み込み、叫び声を燃やし尽くす。


 そうして、10秒も経たない内に雷龍の首は跡形もなく消え去った。

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