84・テオテリカへ
前回のあらすじ
ギャレズリー大佐の暴挙で時期を早めて行われた町内会議。しかしそこに現れたディゼルと大佐の言い分に、結局会議は物別れに終わった。
今後の混乱を踏まえ、バードラットは部下のマデランをアネットの元へと送るのだった。
「なる程・・・ 確かに行動を起こしておいて引き下がる選択は無いと思っていましたが 話に聞いた通り横柄な人だったのですね」
危機的状況の有無がギャレズリー大佐の匙加減で決まる以上、牢屋に閉じ込められている人達は彼が満足いく結果になるまで出られない。実質の人質と言う訳だ。
町長やギルドの権威すらはね除けてしまうだなんて、これは思った以上に長引きそうだ。
「そこで取り急ぎ会頭から言伝てを預って参った次第です アネット様 ミストリア様両名にカストラ商会より正式な仕事の依頼をしたいと 内容は領主様の居られる町 領都テオテリカまでの哨戒」
「領主様のって・・・ そうか 権限には更に上の権限・・・」
「お二方には至急旅の支度を整えていただき 『風靡轟く吟遊館』までお越しいただきたい そこで我々の子飼いの冒険者と合流し その後ハルメリーを発っていただきます」
「そうですね 事が動いてから何日も経っていますから 実行力に長けている大佐なら 町を包囲するくらいの事をしててもおかしくありません それとお願いなのですが叔母さんとソフィリアを匿っていただけませんか? ディゼルが関わってる以上 僕達家族が狙われるかもしれないんです」
「なるほど 分かりました しかし安全地帯と言う意味ではギルド程利にかなった場所はありませんよ あそこは貴族や軍とはまた別の権限を持っていますから 大佐とて許可の無い場所に踏み込む事はできません 事が終わるまで軟禁状態になるかもしれませんが 身に危険が及ぶよりかは良いと思われます」
不便をかけるけどしばらく我慢してもらう他ない。これ以上家族に魔の手が及んではいざこざを通り越して戦いになってしまう。たぶん住民達はこの町の兵士に既に敵意を抱いてる事だろう。
「な・・・ 何だか思った以上に物騒な事になっているのね・・・ そんな時に外になんか出ちゃって 2人とも大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないけれど 何とかしないとマルティナや捕まってる皆を助けられないから・・・」
「・・・・そうね 貴方はもう冒険者だものね でも危ない事はしないで 無理そうならちゃんと逃げるのよ? 死んじゃったら意味なんかないんだから・・」
「うん」
『大丈夫~ ボクが目になるよ~』
〔──────・・──────・・───〕
「えぇ そうね ミストリアちゃんも アネットの事をお願いね それと貴女も無理はしないように もう家族も同然なんだから 居なくなってしまうのは悲しいわ」
〔─────・・! ─────・・!!〕
「では皆様 早速行動に移りましょう 敵は待ってはくれません ご家族のお二人は事情を話せばギルド長が保護してくれる筈です」
叔母さんはソフィリアを連れてギルドへ。僕達は別れを惜しむ間も無く迅速に動いた。できれば僕もギルドまで付いて行きたかったけど「そんな悠長にしてる時間はないわ」と諭されてしまった。
そそくさと支度をした僕達は、マデランさんの案内で旧市街を抜け廃墟郡の隣にある『風靡轟く吟遊館』まで走る。
旧市街─────
ここの住民達は昔から根差した人達が多い。その為よそ者や自分達の住み家を掻き回す者を良しとしない。治安が悪いとされてるのもそう言った一面が片寄って噂されるせいだろう。
その為「地元は自分達の手で守る」と言う気概の彼等にとって、今の不届者は兵士達であるからして、彼等の衝突した怒号が路地によく響く。そのお陰で僕達はトラブルなく目的地に到着する事ができた。有難い。
館に到着した僕達はそのままバードラットさんの元まで通される。町の喧騒とは程遠い高級な部屋の香りの中に彼は静かに座っていた。僕達を確認すると柔らかな口調で話し始めた。
「まったく大変な事になりましたな 大佐は今回で一気にケリをつけるつもりでしょう 彼の事です 当然貴族の後ろ盾も抜かりなく用意していたに違いありません」
「貴族・・・やっぱり貴族が絡んでるんですか 騎士団の方々はどうしているのでしょう エルヴィラさんの姿が見えてこない気がするのですが・・・」
「イーブル騎士団の面々なら 襲撃後に大佐の命令で外の警戒に駆り出されていますよ 邪魔されないよう 早々に手を打ったのでしょう もっとも彼等が居たとして 非常時に命令権を持つ大佐に果たして抗えたか」
「・・・釈然としませんね 権力の前に正しい行いが膝を折らなければならないなんて」
「フフフ 膝を折っても心が折れた訳ではないのでしょう? だから貴方はここに居る 陳情書を認めてあります これを持ってミストリア様の手で領主様にお渡しください この町の誰よりも効果覿面でしょう」
「そうですね 確かに受けとりました それにしても随分と用意がいいですね 会議が終わってから余り時間が経ってないように思いますが・・・」
「あぁ それは何日か前から用意していたものですよ 無駄にならなくて良かった」
「つまりこうなる事を予期していたと?」
「先を見越しての準備が徒労に終わるのは致し方なしですが 未来に待つ落とし穴への用意が無いのが一番の問題です できる事ならもっと早く動きたかったのですが 本人の口から直接聞くまで下手は打てませんからね」
さすが成功を収めている人は違う。僕なんかこの数日間兵舎の周りをうろちょろする事しかできなかった。心の何処かでこれは一時の暴挙だと思っていたし、ギルドが動いてくれれば何とかなると安心していた自分が居る。
正に彼の言う通りどこか楽観的で未来への備えなんてしていなかった。僕の行動は問題だらけだった。もっとも僕にできる準備なんて旅支度くらいなものだけど・・・
しかし気概だけは示さなくてはならない。冒険者は先行きの見えない冒険を乗り越えてこそ。ミストリアもこれからの旅路に鼻息荒く興奮していた。彼女も冒険者が板についてきたらしい。
善は急げと表に出るとバードラットさんが呼びつけた冒険者らしき人物が数人、既に万全の状態で待機していた。しかし彼等を見たミストリアの情熱は何故か一気に下火になった。
「お 何だ坊主 ちゃんと生きてたか」
この声はノクタールさん。スプリントノーゼまでの道中一緒だった冒険者だ。マルティナとミストリアは毛嫌いしているようだったけど。
でも僕の印象は違う。言葉使いこそ乱暴だけど、そのどれもが的確なアドバイスだったし「同業者に寝首を掻かれる」それは本当の事となった。おそらく彼は勘違いされる性分らしい。そこを直せば頼れる兄貴分も夢ではないと思うのだけど。
「ノクタールさん その節はどうも 貴方の助言が役立てられたかは怪しいですが 何とか生きてます」
「運に助けられてるようじゃ まだまだ半人前だなぁ この業界じゃ気ぃ抜いた瞬間に殺られるなんて そこらに転がってる話だぜ?」
「ノクタール そう言う事は追々分かっていけばいいんだよ 取り敢えずは修羅場を乗り切ったんだろ? 助かった上に勉強になったんだ 優しい言葉くらい掛けてやったら良いじゃないか」
「相変わらず甘ぇなぁ~ジョストン 甘やかされて育った冒険者に 長生きした奴ぁいねぇぜ」
「ジョストンさん!」
「よぉアネット 暫くぶりだな・・・ その割には背が伸びてないみたいだが まぁ元気そうで何よりだ 今回は臨時のパーティーって事だが まさかお前が来るとはなぁ」
「此方こそ まさかこんな形で会うなんて思ってもみませんでした」
ジョストンさんはダンジョンで護衛の仕事をしている人だけど、召集があれば町の為に動く冒険者でもあったのか。でも僕にとって初めて行く土地になるので知った人物が居てくれるのは有難い。
「アネットー!」
「え・・その声 カルメン!? わっ!」
この唐突に抱き付いてくるのはカルメンで間違いない。彼女は狩人兼冒険者だけどまさかね・・・
「カルメン? もしかしてだけど一緒にテオテリカまで行くつもりじゃないよね?」
「ブー! アネット私の事信用してないー! まあ本当はお母さんが受けた仕事なんだけど 社会勉強だから私が行けって それに森の中突っ切ってくんでしょ? だったら私の出番かなー」
「森の中? ・・・そうだね 街道を行くよりもそっちの方が良さそうだもんね」
やっぱりバードラットさんも領都に至る道は封鎖されてると見ているのか。それにしてもテオテリカまでどのくらい掛かるんだろう。マルティナ達の消耗を考えるとあまり時間はない。
「一応今回の仕事を依頼するに当たってメンバーの内訳を説明すると 我々カストラ商会からはノクタール殿 アネット殿と面識がありその腕を見込んでジョストン殿 それから斥候として狩人のミスティラ殿に仕事をお願いしたのですが・・・」
「大丈夫だもん! お母さんから文句言われる回数も減ったもん!」
皆言葉にこそ出さないけど「それは大丈夫なのか?」と言う疑問で一致した。でも彼女の腕は知っているつもりだ。如何にジョストンさん達が手練れと言っても森の歩き方は彼女に分がある。足手まといにはならないだろう。
と言うより僕の方が足を引っ張りそうだ。
「うん分かったよカルメン 森の案内は君に任せるね それともうそろそろ離れてね? ミストリアも・・・」
何を競っているのかこの2人は僕に抱き付いて離れようとしない。こんな調子で目的地まで辿り着く事ができるのだろうか。先が思いやられる。
「ったく 仲良くお手々繋いでピクニックに行くんじゃねぇんだから 先が思いやられるぜ」
はい・・・全くその通りです。
★
やったぜ・・・やってやった! 親父もバードラットも様あ見ろ。俺はお前達の人形じゃねぇ! どうだ親父。俺だってやれば出来るんだ。俺は俺の理想を作る。賛同する奴だってちゃんと居るんだ。それに町の兵士まで味方について、これで負ける筈がねぇ。
「へへへ・・・」
「ディゼルよ 戦いは勝つまで気を抜いてはいかんぞ? 慢心は隙を生むからな」
「そんなんじゃねぇよ 今まで散々否定していた奴にやられる気分はどんなかなって 親父の顔を想像しただけだ」
「デュダルか 奴は町のパイプ役だ お前の気質とは相容れないやもしれんな だが我々が実権を握れば もう父親の呪縛など気にする必要はないぞ?」
「おい そうなったら本当に俺が町長の座につくんだよな? 用が済んだら裏切ったりしないだろうな」
「安心しろ 我々の向いている方向は同じだ ハルメリーの未来の為に お前はお前で好きにしろ 俺が欲しているのは偏に 町を発展させた功績だけだ」
「功績ねぇ そんなもんで腹が満たされるのかは知らねぇが・・・ それにしても冒険者までこっちにつく奴が多かったのは意外だったな」
「そうでもない 冒険者など目先の欲にしか目がいかん哀れな生き物よ 逆に言えばクーデターさえ成功させればディゼル お前の未来は約束されたも同じだぞ?」
「ハッ! ハッハッハッハ! そうか! 何だよ! 案外簡単だったじゃねぇか! そうだな 俺が新たな町長になったら今度は俺がちゃんと親父を否定してやるか そんでバードラットの奴も扱き使ってやる
あぁ~ それと・・・ 忘れちゃならねぇ 俺をこけにしやがったアネットのチビ野郎ぉ あいつは俺の奴隷にして死ぬまでイビり倒してやらねぇとなぁ」
「ほぉ アネットか 確か盲目の冒険者だったな」
「あぁ? 何だよ知ってんのか?」
「兵士はこの手の話に事欠かん 特に見込みの有りそうな奴にはな 何と言ってもあのランドルフから一本取ったと言う話だ 一目置かれん方がおかしい」
「ランドルフだか何だか知らねぇけど どうせまぐれだろ? そもそも盲の分際で冒険者なんかやってんのが生意気なんだよ あいつには徹底して分相応ってヤツを叩き込んでやる」
「フッ 嫉妬か・・・」
「あぁ!? そんなんじゃねぇよ! ガキの頃からムカつく奴ってだけだ! それといつも金魚のフンみてぇにアネットに付いて回ってるあの女ぁ~・・・ 捕まえたら俺が正しい女の在り方ってもんを体で教えてやる
そう言やぁ~ もう一人居たなぁ 俺に水の魔法を散々ぶつけてくれた奴 確かミスト・・・何とかとか言ったっけ
領主の娘だか何だか知らねぇが あいつも同罪だ 今度はこっちがたっぷりと楽しませてもらおうか」
「待て・・・ ディゼルよ 今何と言った」
「あぁ? だからたっぷりと楽しませてもらおうって・・・」
「違う その前だ!」
「え 領主の娘だか何だかってやつか?」
「おい! それは本当に領主の娘なのか? どう言う経緯でそれを知った!」
「はぁ? 確か・・・ 慰霊祭の時だったかなぁ バードラットに唆されて・・・ そう言やぁ協力すれば何かくれるって言ってたけど 俺まだ何も貰ってねぇ・・・」
「バカモンがああああああぁぁぁー!! 何故それをもっと早く言わん! その娘はミストリアと言う名前ではなかったか!?」
「あぁ そう言われてみればそんな名前だったな・・・」
「それで水の魔法を使ったんだな!?」
「あ あぁ・・! そうだ! そんで一回酷い目に遭わされたんだよ!」
「不味い・・・ 不味いぞ・・・ ミストリアは今もこの町に居るのだな!?」
「多分な 何でか知んねぇけど アネットと一緒に居たからな」
「公爵令嬢が冒険者と一緒に行動? バードラットが貴族の名を持ち出してまで謀るとも思えん・・・ 何か理由が・・・ いや それはこの際どうでもいい
問題は今娘は何処に居るかだ ギルドか? 違うな もし我々に恭順でないのなら必ず動きを見せる筈 どう動く・・・
領主の娘が取る行動など1つしか無い 冒険者と共に領主の元まで説得に行くに違いない! ディゼルよ! 貴様も来い! 連中がテオテリカに到着する前に身柄を拘束せねばならん!」
「あぁ!? んで俺まで行かなきゃなんねぇんだよ!」
「元は貴様の伝達ミスだ! くそっ! これだから凡愚は当てにならんのだ!」
「おい! そりゃどう言う意味だ!」
「至急馬を用意しろ! 我々はこれからテオテリカに向かう!」




