83・防衛のあり方
前回のあらすじ
心労を鑑みて数日の休みを取ったアネット達。各自思い思いに過ごす中、外に出ていたマルティナが夕方になっても帰ってこない。
突如家に来た兵士からマルティナが捕まったと聞かされたアネットは、兵士に案内され兵舎へと向かうのだった。
聞くべき事は聞けたので一旦この場を離れる事にした。このままマルティナを連れて帰りたい思いに駆られるけど、駄々をこねても兵士達に手柄を与える口実になるだけだ。
帰り際「何とかするから待ってて」とマルティナに伝えると僕はその足でギルドまでひたすら走った。
本当はオフェリナ叔母さんに報告するのが先なんだろう。だけど相手の規模を考えれば優先先は相応の力を持つ組織。兵士達は何だか妙な動きをしてるけど、僕とて末端ではあれど冒険者だ。話くらいは訊いてくれる筈だ。
「アネット君? どうしたの? そんなに息を切らして」
「はぁ はぁ はぁ・・・ ポリアンナさん・・・ 良かった・・ 居てくれて・・・ ギルド長・・・ ランドルフさんに・・ 取り次いでもらえますか・・?」
「それは良いけど・・ どうしたの?」
「マルティナが・・・ 兵士の人達に 捕まったんです・・・ はぁ はぁ・・」
「えぇー!? え!? 何で? 何かやったの!?・・・ 良いわ! ちょっとそこで待ってて!」
カウンターにポリアンナさんが居てくれたのは助かった。僕の様子を汲んでくれた彼女は直ぐ様ランドルフさんの元へと案内してくれた。きっと彼女でなければここまでスムーズにいかなかったろう。
「ギルド長 アネット君を連れてきました」
「うむ・・・ その様子だと お主の所も何かあったようじゃな」
部屋に入ると僕と同じような感情を抱いた人達が数人。既にランドルフさんの元に集まっていた。きっと彼等も助けを求めているのだろう。皆神妙な色でギルドの長と向かい合っている。
この様子だと町の全てを巻き込んだ。いわゆる大事にまで発展してるのではなかろうか。
「これはこれはアネット殿 昨日ぶりですな」
「バードラットさん? 貴方の所にも兵士達が来たのですか?」
「いえいえ もしかすると近々ハルメリーが大きく動く事態になるかもと ランドルフ殿にご忠告に参っただけなのですが・・・」
「小僧 血相かえてどうした もしやお主のところでも何かあったのか?」
「はい 実は─────」
僕はマルティナが陥っている状況と兵舎の中で聞いた話、兵舎の周辺に人が集まっていた事を話した。ランドルフさんはそれを聞くと「ぐぬぬ」と頭を抱えてしまった。
何を悩む必要があるのだろう。真実を追求するのかそんなに難しい事なんだろうか。でもここにお集まりの方々も同じように心に靄を抱えてしまった。もしかしてこれ単純な話と違う?
「見境なしですか・・・ 本格的に動き出したと見るべきでしょう 難しいですね」
「何が難しいのです こんな横暴が許されていい訳ありません! マルティナは人助けをしただけですっ それをちゃんと調べもしないで」
「それがそうでもないのですよ 緊急時において町の防衛は何よりも優先される 一時的ではありますが その権限はギャレズリー大佐に委譲されるのです」
「それが・・・何だって言うんですかっ それとマルティナの事は関係無いじゃないですかっ」
「差し詰め町の権限を握りたいのでしょう 元々ハルメリーのあり方に彼は不満を持っていましたからね 非常時のどさくさに紛れて掌握するつもりだと思います 理由なんてそれこそ何でもよいのですよ」
「そんな・・・ そんな横暴がまかり通っていいんですかっ?」
「はぐれモンスターが3匹 まさに町の危機です 彼はそれを利用したのですよ 先程も言ったように口実があれば何でもいい」
つまり危機的状況を利用して町の人達を人質にとったって事? そこまでしてハルメリーが欲しい? 理解ができない。
「納得いかない顔してますね まあ言いたい事は分かりますよ 力付くで押さえ付けたって住民の賛同は得られないと・・・ しかし残念な事に大佐を師事する人は一定数いるのです」
「そう なんですか? 何と言うか随分と横柄な方のように見受けられましたけど」
「決断力と行動力には定評がありましてね こう言っては何ですがサバサバとした性格と声の大きさと功績が 師事する人達を後押ししてるのです 実際武勲によって立身出世を成し遂げた彼は兵士達にとっての英雄なのですよ ハルメリーに飛ばされたとは言え彼を慕う者は多い
今回の件は以前から準備をし後は機を待つのみだったのかもしれません そこに体の良い駒が見つかった事で決行に踏み切った と見るべきでしょう」
「まぁ あれじゃな・・・ 今派手に動いても向こうの思う壺じゃ 可哀想だが 捕まっている人達には今暫く辛抱してもらう他ないじゃろう 防衛作戦の妨害と言う向こうに都合の良い大義名分だけは与えたくないのでな・・・ とは言え座して静観は有り得ん」
「そう言えば近々 定例の町内会議がありましたな」
「・・・・・・会議なんか今更出てくるでしょうか 自分のやっている事に自覚はあるでしょうし 話し合いで足元をすくわれるのを嫌うのではないですか?」
「出てくるじゃろ 行動を起こしたからには説明責任が伴う 責任を怠る者に 人心は靡かんよ」
話し合い・・・できるのかな。怒鳴って罵倒して言いたい事だけ言って此方の言う事には耳を塞ぎそうな気がする。まるでディゼルみたいじゃないか。そう言えば彼も簡単に大佐の口車に乗ってたな。この2人凄く気が合いそう。
問題は囚われている人達が実質人質と言う事だ。これじゃ本当に要求だけ突き付けられて終わるんじゃないか? ランドルフさんは座して待つつもりはないと言ってたけど、どうするつもりだろう。僕としてはすぐにでも行動したいけど人質と言うからには下手に動けない。
帰ってから家族に僕は何て説明すれば良いのだろうか・・・
5日後・・・ 町の定例会議はマルティナが捕まった日から2週間後に開かれる予定だったのが、軍部の暴走で開催日時が前倒しとなった。
そうなるにはなるだけの理由がある。
先ず僕のように兵舎に詰め掛けた住民までもが構わず勾留された事。その家族が今度は町長やギルドや商会等方々に助けを求めた事。
更に住民や冒険者の間にも町の再建を求める改革派と、古きを残そうと言う保守派で別れた事。それに伴って各派閥が動きを見せた事。
何だかどんどんどんどん騒ぎが大きくなって収拾がつかないとの判断から話し合いが早まる事になった次第だ。
僕もこの5日間、マルティナの様子を見に兵舎を度々訪れたけど現場は猫の子1匹入れないくらい厳重に兵士によって固められている。更には捕まる事を覚悟で抗議する住民達がそれを囲って、とてもじゃないけど近付く事さえ敵わない。
そう言った事情を踏まえ町内会議は日を早めて行われ、そして今日。おおよそ1時間前にその会議が終了した事をバードラットさんの部下であるマデランさんが、わざわざ僕の家まで報告しに来てくれた。
「それで 話し合いはどうなりましたか?」
家は大きくはないので、お客様を持て成せる食堂の椅子に座ってもらい話を聞く事にした。その場には僕とオフェリナ叔母さんソフィリアとミストリア、マルティナを除く家族全員が揃っている。
ソフィリアにはまだ早いと思われたけど家族の醸す空気と姉だけが居ない家に何かを感じたのか、頑なにこの場から離れようとしなかった。
「先ず結論から申しまして状況は芳しくありません」
「それはどう言う・・・ ウチの子はどうなるんですか!」
「落ち着いて下さい 先ずは会議で何が話し合われたのか 掻い摘んでお話します」
★
今日の会頭は珍しく悩んでいるように思われる。町内会議のある日、もっと言えば町がざわついた日から思い悩んでいる節が見受けられた。
会議の場には私と会頭、町長に冒険者ギルドの長、件のギャレズリー大佐と各所代表の面々。
そしてディゼル様。
「おいディゼル! 私はお前を会議の場に呼んだ覚えは無いぞ! 関係無い者はこの場から立ち去れ!」
「町長よ 自分の息子を責めるな ディゼルは自らの意思でこの場に立っているのだ それに今回の防衛の功労者でもある お陰で町の問題点を早期に発見 解決に導く事ができたのだ」
「問題だと? 町のチンピラ共を市民にけしかけておきながらぬけぬけと 良くもそんな事が言えたものだな! ディゼル お前も一枚噛んでいるようだが ここまで落ちたか!」
「俺は俺のやれる事をやっただけだ! 町が良くなるんだから良いじゃねーか!」
「一方的に蹂躙される町の 何処が良いと言うのだ!」
「まぁまぁお二方 我々は親子喧嘩を観賞する為に集まった訳ではありません 取り敢えず落ち着いて 町にとって何が最善かの話し合いを始めましょう」
姦しくなっていく場を会頭が止めに入った。このまま言い争いが続けばディゼル様とギャレズリー大佐の性格上、引くに引けないところまで突き進んでしまうだろう。
そうなると落としどころが掴めなくなる。もっとも大佐にとってはその方が都合が良いのかもしれないが・・・
「町長の倅 ディゼルと言うたかの・・・ 何故そのようなやり方で町が良くなるのか この老骨に1つご教授賜れるか?」
「あんた等冒険者だよ イキった冒険者が我が物顔で闊歩するせいで町の空気が悪くなってんだ 特に冒険者崩れの脱落者が安い旧市街にたむろするから そこにどんどん同類が増殖していく
だからって全ての冒険者を否定したい訳じゃねぇんだ ここは冒険者の町だからな それに何てったってダンジョンがある 嫌でも人は集まんだ
だったら質の高い連中が多い方が良いじゃねぇか 金に困らねぇ奴等にサービスを提供した方がよっぽど町が潤うぜ
だからあんな薄汚い旧市街なんか叩き潰して 高ランク冒険者向けの遊興施設を建てた方が将来的なんだよ」
「流石はディゼル様 そこまで町の事を思っているとは このバードラット 幼少の砌よりディゼル様の後見人を努めていた甲斐がありました
ただ威張りたい 見下したい等 仰られていた頃より成長なされて 万感胸に迫る思いに御座います」
「なっ! どう言う意味だバードラットっ!」
「しかしディゼル様 今回の議題はあくまで町の防衛に関する話し合い 町に対する熱い思いは皆同じですが 今は将来の理想より目先の現実です
それに以前の例で言いますと町への被害と言う意味では 大通りを中心とした新市街より 入り組んだ構造の旧市街の方が その被害は 建造物 人身共に少なかった
おそらく迷路のような複雑な路地がモンスターに対しても有効だったのでしょう それも普段から旧市街に慣れ親しんだ人達が居たからこそ機能したとも言えます」
「だったら迷路のような新しい町を作れば良いじゃねぇか!」
「それでは今住んでいる人達はどうするおつもりで?」
「そんなもん どっかの町や村に追っ払えば良いだろ!」
「あの構造を活かせるのは今の住民の方々ですが 彼等を追い払うのは寧ろ逆効果 もし危機的状況が起きた場合 無用な混乱しか招きません」
「っ!・・・ だったらそのまま住まわせておけば良いじゃねぇか!」
「もし新しく住居が作り直された場合 当然ながら家賃が上がります 貴方の言う通り生活に困窮している方も多いですから不満も出てくるでしょう そうなると根本的な解決にはなりませんね」
「なら町が金を出せば良い!」
「町が補填する場合 町の収入が減ると言う事です そうなると他の部分の防衛に財源から費用が出せなくなる可能性も出てきますな」
「だ・・・ だったら領主や! 国から出してもらえば良いだろっ!」
「国にとっての有事とは戦争です 戦争でもないのにお金を要求する等 それこそ町の兵士は何をやっているのかと あまりよろしくない評価を頂く事になるのではないですかね? 大佐
そもそもモンスターの襲撃に備えて兵士は町に常駐している訳ですから 結果は出せて当然・・・と お偉方は仰るでしょう」
ダンジョンの存在はここだけではない。各地ではぐれモンスターは出没しているし、ハルメリーでも今に始まった事でもない。
常軌を逸した魔物が現れたからとその都度町の要求に答えていては、数あるダンジョンを抱える国はいずれ回らなくなるだろう。
ハルメリーだけを特別扱いはできない。
もっとも対応する相手がモンスターであるのならば・・・だが。
「町にとっての驚異はモンスターだけではない 悪が世に蔓延るなら 我々はそれに対しても対処していかねばならん! しかし悪とは何故起こるのか・・・ 貴殿は考えた事があるか?
それは満たされない感情から来る幸福への渇望だ
戦争も犯罪も 誰かの満たされない心が引き起こす当然の心理 であるなら足らない部分を補ってやれば 間違い が起こる数も減る そこら辺の匙加減は お前の得意とするところだろ? 商人」
「確かに 言いたい事は伝わりますが しかし無闇矢鱈と問題に定義付けるのはいかがなものかと 彼等は町に暮らす権利を持った一市民 それを蔑ろにするのは それこそ誰かの願望の擦り付けなのではないですか?」
「ふん! これだから自ら武器を持たん奴はダメなのだ 戦場を知っているか? 希望を抱いて出兵した者 最愛の家族を残してきた者 だが死は平等に訪れる
呆気ないもんよ・・・ すぐ隣にいた奴が矢で頭を射貫かれて簡単に死んでしまいおった 良い奴だったよ 互いに将来を語り合った事もあった・・・
だが関係ない 理不尽は突如として身に降りかかる 現実とは無情 そこにあるのは只の自然淘汰だ」
「つまり弱者には発言も その存在も許されないと?」
「違うな 俺はハルメリーの『未来と平和』を守っているだけだ」
自らの野望の為なら悪でも構わないと、大佐のふてぶてしさが窺える内容だ。町の発展を望むのは会頭とて同じだが、人となりが違えばこうも結果が選択に出るとは感慨深いものがある。
戦場から遠退き会頭に拾われた私は正解だったのかもしれない。
「何が未来と平和だ! 無実の人間を捕まえて問題を解決しているだと!? そんなもの町の調停者として看過はできん! 町長として命じる! 即刻牢屋に入っている人達を解放しろっ!」
「町はまだ完全に安全となった訳ではない それを決める権限を有するのはこの俺だ 凄惨な事件が立て続けに起こったのだ 町の安全を切望する声は 思いの外多いぞ?」
権限・・・ 結局話は平行線のまま会議は終了した。その際、会頭から言伝てを預りとある一家の元へと急ぐ事となる。




