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82・仕事の骨休め

前回のあらすじ


スプリントノーゼから帰ってきたアネット一行を待ち受けていたのは、はぐれモンスターの襲撃その事後であった。


ギルドでは避難している人達が居る中、大声で話すギャレズリー大佐の声。そこに居合わせたディゼルと一騒動あったが、大佐の口車に上手く乗せられるディゼルであった。


 今日から数日は仕事を休みにする事に決めた。町がこんな状態だからこそ無事な者が動かなくてはいけないんだけどスプリントノーゼの経緯もある。マルティナとミストリアには休養が必用だ。


 朝起きて日課にしていた走り込みをする。今はまだ早起きな鳥達が、餌を探して合唱している時間帯だけど、これもモンスター襲撃の影響か、そこかしこに兵士達の気配が感じられる。


 ランニングも終わって家に到着するとちょうど食事の準備も終わったタイミングに帰ってこれた。皆で「頂きます」をして久し振りに一家団欒を過ごす事ができたけど、当のマルティナとミストリアの心は晴れない。


 それでもウジウジと思い悩むのは性に合わなかったのかマルティナは「ちょっと出掛けてくる」と言い放ち、食後直ぐ勢い任せに家を飛び出してしまった。


 やる気が戻ったのは喜ばしい事だけど、ポツンと残された僕達は何をやって良いのか分からない。もっとも骨休めなんだから何もしないと言うのが正解なんだろうけど・・・


 さすがに日がな一日呆けているのもあれなので、今日から数日は今まで一緒に居られなかったソフィリアに構ってあげる事にした。



「ソフィリアは何かしたい事はある?」


「ん~ お勉強~ ソフィリア字が書けるようになったんだよ~ 見ててー」



 今まで家の中を走り回っていたソフィリアが机に向かってお勉強するようになっていたとは・・・ その変化は嬉しいようでちょっと寂しくもある。それにしても字か。ソフィリアは一生懸命カリカリ紙に書いているのだけど、肝心の僕が何を書いているのか分からない。



「どーお? 合ってる?」


「う・・ う~ん・・ どうだろう・・?」



 ギルドの託児所では読み書きを習っているらしい。覚えたての文字を得意気に披露してくるけど、字が見えない僕ではこの子の期待に答えられそうにない。しかしそこは学園に通っていたミストリアの領分。ツラツラと紙に書き足したり水を使ってレクチャーしていた。


 どうやらお兄ちゃんの出番は無いらしい・・・


 僕はそんな頑張っているソフィリアに、フト聞いてみたい「ある事」が頭を過った。



「ソフィリアはこれから どんなスキルさんと仲良くなりたいと思ってるの?」


「え・・ う~ん・・ う~~~ん・・・ まだ分かんないけど~ 皆と仲良くなれるスキルさんがいいー」


「託児所のお友達ともっと仲良くなりたいから?」


「そうだけど~ 色んなスキルさんとかも・・・かな~ お散歩の時にね スキルさん撫でようとしたら 先生が触っちゃダメって怒るの」


「そうなんだ・・・」



 それは僕にも心当たりがある。虐められてたスキルさんを前に、本当の両親は僕の手を引いてその場を立ち去った記憶。


 でも今の僕にその先生を責める事はできない。


 何故ならこうして自身の体に不調をきたすスキルさんが居る事を、この身をもって経験してるからだ。僕もいつかスキルさんに優しくなれない大人になっていってしまうのだろうか・・・ 複雑な気持ちにさせられる。


 それでも「戦闘系のスキルさんがいいー」とか言われなくてホッとした。将来は冒険者になりたいとか熱く語り出されたら絶句していたに違いない。


 あんな危険な仕事は断固として反対だ。ソフィリアに冒険者の道など進ませる訳にはいかない!


 ミストリアはそんなソフィリアの答えを優しく受け止めていた。彼女も彼女で他者との関係には思うところがあるのか、勉強を教えつつも何処か上の空と言った感じで接している。


 もしかしたらスプリントノーゼの出来事がまだ尾を引いているのかもしれない。心の悩みであるなら1日2日で答えが出るとも思えないけど折角時間があるんだ。ここはじっくり悩んでもらった方が良いだろう。


 昼食は皆で作って午後はまったりと過ごす。そしてスキルさん談義だ。僕はその時ソフィリアを通じてミストリアの新スキル『スピーキングNGワード』なる存在を知った。


 それは相手の言葉を封じる効果らしい。けど教えてくれた当の本人は何だか心に靄が掛かっている。たぶん彼女が悩んでいるのはその事だろう。


 ミストリアは以前マイナス等級の人達の処遇についてバードラットさんに尋ねた事があった。それは自分と同じような悩みを抱える人達の助けとなりたいと。だけどここに来て「他人の口を封じる」では、それは人の助けになるのだろうか。


 幸い会得できるスキルは1つだけではないのが救いではある。僕だって闇の霧を出したり、相手を盲目にさせたり、周囲の認識を曖昧にしたり・・・あれ? これも人の邪魔しかしてないのでは・・・


 でも“盲目さん”のスキルには、まだ人の心を色で見る能力があるのだ!


 まぁ・・・ これが知れたら不気味さに拍車が掛かるだけだろうけど。う~ん・・・ 今になってミストリアの抱える悩みが具体的に見えてきた気がする。







 夕刻になるとオフェリナ叔母さんが仕事から戻ってきた。しかしその時刻になってもマルティナは戻らずじまい、一体何処で何をやっているのやら。


 さすがに心配になってきた矢先、玄関のドアが数回ノックされた。家族であるなら必要ない行為なので、扉の向こうの人物はマルティナではないだろう。


 お隣さんかな?


 僕はドアを開けると、しかしそこに居たのは聞き慣れた鉄で武装している複数の人達だった。その瞬間とても嫌な錯覚を覚えた。



「此方はオフェリナ宅で合っているか」


「あの・・・ 兵士の方々がウチに何の用でしょうか」



 奥から出てきたオフェリナ叔母さんが彼等の応対をするのだけど、叔母さんも只事ではない雰囲気を察したのだろう声が僅かに震えていた。



「実はお宅の マルティナと言う娘が複数人を相手取って暴行を働いてな 取り調べの為 今兵舎の牢に身柄を勾留している」


「そ・・・ そんな あの子に限ってそんな事はしません!」


「叔母さん・・・」



 すいません。多分します・・・


 でも理由なく暴力に訴える事だけはしない。ハルメリーも治安が良いとは言い難い部分もあるのだし、もしかしたら彼女にとって避けられないトラブルに巻き込まれた可能性だってある。



「マルティナに・・・ マルティナに怪我は無いですか?」


「さてな 普通に歩いていたし 本人から申請があった訳ではないから 表立った怪我は無いだろう」


「そうですか 分かりました 今は牢に居るんですよね? 案内して下さい 僕が会いに行きます」


「ダメだダメだ 勾留中の被疑者に会わせる訳にはいかない!」

「おい! 相手はまだ子供だぞ 家族と面会させてやるくらい良いじゃないか」

「何言ってる 規則は規則だ」

「お前は自分の家族が檻に閉じ込められていたら 仕方がないと何もしないつもりか?」

「それは・・・」

「坊主 ついて来い 本当は規則違反だが兵士の知り合いに会いに来たって言えば問題ねぇ」


「は はい! お願いします!」


「チッ・・・ 大佐にどやされても知らないぞ・・・」



 流れ作業のように淡々と会話をしていた人達の中にも情を汲み取ってくれる人がいて助かった。周りの兵士達は快く思っていないみたいだけど、きっと彼はギャレズリー大佐とは馬が合わないんだろうな。



「叔母さんは家にいて 僕がマルティナの所に行ってくるから ミストリアは皆をお願いできる?」


「アネット あの子の事をお願いね」


「うん」



 叔母さんは今にも駆け出しそうだったけど、感情的になって事が大きくなるのは避けたいところだ。と言うのも昨日のディゼルの言動と言いやり方と言い、どうにも引っ掛かったからだ。


 マルティナに怪我は無いとの事だけど相手の様態はどうなんだろうか。今日は休暇と言う事で装備一式は置いていった筈だけど・・・置いていったよね?


 そう言えば以前、僕達が絡まれた際にはミストリアが水の魔法で悪漢共をボコボコにしてたっけ。マルティナも似た状況なんだろうか。でも相手に怪我を負わせたとなると話が拗れる未来も見える。


 もっともここで思い(わずら)っていても現状が変えられる訳ではない。訳ではないけど僕の頭はそんな理屈でグルグル思考が循環していた。







 そんな僕はいつの間にやら兵舎の前に立っていた。しかしここはこんなに騒がしかっただろうか。普段の兵舎の様子を知っている訳ではないけれど、この雰囲気はちょっと異常だ。何故なら僕以外の一般の人達がこぞってこの場に詰め掛けているのだから。


 皆口々に「息子を返せ」とか「何でアイツの方が捕まらなきゃならないんだ」とか憚らず大声で叫んでいる。そんな彼等をよそに案内の兵士の人の先導で僕だけ中に入れるようで何だか後ろ髪を引かれる思いがした。



「おい! 出せよこの野郎!」

「悪いのはアイツ等の方だって言ってるだろうが! ぜぇーぜぇー・・・」


「うるさい! 静かにしろっ!」



 中は中で、これまた納得いかないと喚く怒号があちこちで飛び交っていた。モンスターの襲撃と言い、このハルメリーで一体何が起きているのだろう。



「アネット!」



 ガン・・・


 僕はマルティナが収容されている場所まで来ると、悲痛な声で僕の名を叫ぶ彼女が居た。今すぐにでも連れて帰りたかったけど、僕達の前には互いを隔てる鉄の棒が幾重にも並んでいた。


 声の様子から心なしか(やつ)れているように思うけど彼女はこの程度ではへこたれない。とは言えたった半日でいったいマルティナの身に何が起こったのか。周囲の状況から考えても余程の事があったのは間違いない。



「マルティナ大丈夫? 何があったの」


「私は不良達に絡まれてた人を助けただけよ! 向こうがナイフをチラつかせたから 殴って退路を確保しようとしたわ


 そしたら丁度兵士の人達が来て助けを求めたのに アイツ等がいきなり私に殴られたって! そりゃ殴ったけど それは暴力から逃げる為よ! 私は自分の身を守っただけだわ! なのに兵士は理由も聞かず私だけを捕まえて・・・こんなの絶対おかしい!」


「その事をちゃんと兵士の人達に話したの?」


「当たり前じゃない! 話したわよ! 何度も何度も何度も・・・っ! でもお前が悪いって・・・聞く耳すら持たないのよ!」



 マルティナが疲れてしまっている原因はそれか。ここに来る途中も不当を訴える人達の叫びで溢れていたし。



「分かった 僕からも兵士の人に話してみるよ」


「無駄よ! 上手く言えないけど あいつ等不良共の味方しているみたいだったわ」



 う~ん・・・不良達に兵士の動向ね。


 何となく予想がついてしまった。


 昨日のギルドでのやり取り。何かを成したい2人が居た。規模こそ違うが、それぞれ人を動かせるだけの背景はある。その2人が手を組んだ・・・ となると、ここで声高に訴えても無意味だろう。


 でも確認は必用だ。


 僕は兵舎の中に居る兵士達の、特にこの状況にご満悦の兵士に話し掛ける事にした。その中でも更に輪を掛けて悦に入っている人が良い。



「あ・・ あの・・・ ぼ 僕の家族が牢屋に居るんです 助けてもらえませんか・・?」


「あ? 何だこのガキは ここに居る連中は問題を起こしたから連れて来られたんだ 町の衛兵として そんな連中を解き放つ訳にはいかないんだよ」


「でも でも それは無実で 人を助けただけだって・・・」


「それを決めるのは俺達の仕事だ」


「もしそれが間違いだったら? おじさんの方が後で問題になっちゃうよ?」


「おじっ!・・・ いいか坊主 これはこの町を守る偉い人の命令なんだ 命令は絶対なんだ 誰も逆らっちゃいけないんだぞ?」


「偉い人? ・・・えぇと えぇと・・・ 確か ギャレ・・・ズリー 大佐?」


「おぉ! 良く知ってるなぁ! そうだ そのギャレズリー大佐殿のご命令なんだ 大佐はなぁ 戦場で幾つもの武勲を挙げた それはそれは立派な方なんだぞ? 王様にも謁見できる身分なんだ その方の出された命令に逆らう方が問題で 間違っているんだ ホレ坊主 分かったらとっとと家に帰りな」


「あうぅ~・・・・」



 物事の正否より上の命令か。それに懐疑的な人も居る反面、この人のように従順な兵士は疑う事すらしないのだろう。


 それが当たり前の事なのか或いは楽だからか分からないけど、いずれにしても言葉1つで人が動くのも良し悪しだ。権力とは恐ろしい。だからこそ切望する人間も居るのかもしれないけど・・・


 ギャレズリー大佐。大佐と言うからには数々の勲功を挙げているのだろう。昨日の今日で動くこの足の早さもその一環なのかもしれない。


 しかしどうするか。


 国の上層にいる人間に1市民の嘆願など何の影響力も無い。ならば相応の立場の人間に頼るしかない。思い付く限りだと騎士団長のエルヴィラさん? 或いは各所にコネを持っているバードラットさん・・・ いや、やめておこう。最近彼に頼りきりな気がするし、人を乗せて使うところ等、彼に影響・・・毒されている気がする。


 であるなら残るは(あまね)く冒険者の味方。冒険者ギルドしかない。





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