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49・ギルドへの来訪者

前回のあらすじ


フォルマさんから水と称して差し出されたお酒を飲んですぐ眠りについた。

 窓から差し込む陽の光を肌で感じた僕は、ゆっくりと意識を取り戻していった。普段感じる寝具の肌触りとは違う感触。そして呼吸をした際、鼻腔で感じた芳ばしい香りに僕の意識は急速に覚醒されていった。


 慌てて上半身を起こすと薄く柔らかい布団がかけられている。香水でも振り掛けられていたのか、体を動かすと仄かに爽やかな柑橘系の香りが辺りに優しく舞った。


 ズキッ・・!


 急に上体を起こしたせいか頭にズキリと頭痛が走る。僕は急いで寝る前に何があったのかを思い出した。



「そうか・・・僕はフォルマさんにお酒を飲まされて・・・ってて」

『アネットおはよう~』


「おはよう盲目さん ・・・盲目さん 僕が眠っちゃった後に何もなかったよね? ただ眠っただけだよね?」

『うん アネットよく寝てた~』


「そう 取り敢えず間違いが起こらなくて良かったよ」




「あら 男女の営みは正しく導き出された生命の本質よ?」


「ひうっ!」



 何事も無かった事で気が抜けた瞬間。僕のすぐ隣からフォルマさんの声が聞こえた。モゾりと動いた彼女だが、寝ている間に足を絡ませていたのか人肌の感触が僕の太股を撫でた。



「ウフフ おはようアネット君」


「おっ おお ・・・おはようございます フォルマさん」



 どうやら隣にはフォルマさんが寝ていたらしい。体内にお酒が入ると身に危険が迫っても状況に即時対応できなくなるようだ。


 うん。もうお酒は飲まない。



「・・・? フォルマさん?」


「ふふ 人にとって視覚から入る情報って いかに大きな役割を(にな)っているのかって思っただけ」



 ジ~っと僕に注視していたのか、肩に手を掛けてきたフォルマさんが耳元で囁いた。体をずらし体を密着させると彼女はそのままベットから出ていった。



「朝食・・・・食べていかない?」


「あっ! ご ごめんなさい! まさか泊まる事になるなんて思ってもみなかったので・・・ 家族に心配を掛けさせる訳にはいかないのです」



 言われてハッとした。どうしようマルティナには何も言ってない。今物凄く心配してるんじゃ・・・


 あっ・・・ でも今はギルドに寝泊まりしてる筈。言わなきゃバレないのでは・・・ もし何か訊かれても「仕事上の付き合いだよ」で押し通せるかも。



「だったら馬車を用意させるわ せめてギルドまで送らせてちょうだいな 此方としてはきちんとサービスを提供出来なかったのだから」


「は はい ではお言葉に甘えさせていただきます」



 帰りがけ階段を降りる際に彼女は僕の手とって支えてくれた。


 そんな優しいフォルマさんと馬車が到着する少しの間何気ない会話を楽しんだが、彼女の声はこの日差しとは裏腹に陰りが見えていた。


 多分僕と言う存在が彼女の過去を思い出させているのだろう。昨日の出来事は所々思い出せるが、人間関係とは言葉を並べた理屈だけで成立するものではないらしい。


 だったら僕はフォルマさんとどんなやり取りをすれば良かったのだろうか。


 それとも出会わない方が彼女にとって良かったのか・・・



「それじゃぁ 次来るときは是非とも自分のお金でいらしてね? その時 貴方は冒険者として成功を収めている事になるのだから それはとても喜ばしい事だわ」


「・・・そうですね もしそうなった時は 寄らせていただきます」



 彼女の言葉は本心か。はたまた建前か。


 僕はあえて彼女を見なかった。僕を乗せた馬車は彼女を背に静かに走り出す。きっと彼女も僕を振り向かないだろう。


 誰かと寄り添う事でしか救われないのに、触れ合わない方が互いの為と言う関係も、悲しいかなこの世の中にはあるのかもしれない。


 僕はフォルマさんと過ごした時間を一夜の夢として心に留め置く事にした。













「おはようアネット昨日は家に帰らなかったそうね」


「マルティナ・・ 何で知って・・・」

「夜中近くになってミストリアがギルドまで知らせに来たの」


「そ そうなんだ」



 馬車に揺られてようやく日常に戻れたと思ったら、朝早くからマルティナがギルドの玄関先で待ち構えていた。



「ご ごめんね? 僕も昨日すぐに帰るつもりだったんだけど 思いの外仕事が長引いちゃって帰れなかったんだ」


「そうよね ポリアンナさんから聞いたんだけど あ! の! カストラ商会からのお誘いだものね 無下にはできないわよね」


「そ そうなんだよ ラトリアの事もあるし・・・ ね?」


「ふぅ~ん 取り敢えず中に入りましょうか そこでじっくり聞かせてもらうわね 皆() 心配してる事だし」


「う うん・・・」



 何かを確信しているマルティナは「むんず」と僕の腕を掴むと、強引にギルドの中へと引っ張っていった。



「ポリアンナさん どう?」

「え? ちょっ・・・」



 マルティナに促されるまでもなく室内に入った途端、ポリアンナさんは僕に近付いて鼻をスンスンさせた。



「・・・・・・・・このにおいは 間違いなく香水ね しかも高級品」


「高級・・・? どう言う事よ!」



 と言いながらマルティナは僕のにおいを嗅いでくる。ポリアンナさんも嗅いでいる。もう1人。これはミストリアかな? 興奮しながら嗅いでくる。



「アネット君あなた・・・ 歓楽街に連れ込まれたわね」


「か 歓楽・・!? 何それ ふ 不潔よっ!」


「はぁ~ カストラ商会から迎えが来たからまさかと思ったけど・・・ 何も知らないアネット君にまで手を出すなんて・・・


 プロの姉さんに寝取られるくらいなら いっそ無理矢理にでも私が・・・!」


「ポリアンナさん! どう言う事よ! 歓楽街!? どうして歓楽街が出てくるの!」


「これがカストラ商会のやり口なのよ 近付きたい人を食事に招いては そのまま歓楽街に放り込んで既成事実を成立させちゃうの」


「なんですって~~~~!!」


「それに・・・スンスンスン やっぱり・・・この香水はかなりの上物ね そこらの娼婦が手を出せる代物じゃないわ


 ねぇアネット君? 昨晩貴方のお相手をした女性が居たわよねぇ お姉さんにその人の名前・・・教えてくれないかしら」


「え えぇと 相手と言うか ちょっとお食事をご一緒しただけですよ? その・・・フォルマさんって人と・・・」


「フォッ! フォルマッ!? ちょちょっ・・・ それ本当!? おのれカストラめぇ~ 本気でアネット君を落としにきてるわねっ・・・!」


「ポリアンナさんっ! 1人で納得してないできちんと説明して下さいっ!」


「そっ そうね フォルマって娼婦は歓楽街で5本の指に入る高級娼婦なの この町でその名を知らない男は居ないってレベルよ」


「そ そんな・・・ まさか アネットが指名した・・・?」

「違うからっ! そんな事しないからっ!」


「で? どんな人なんですか そのフォルマって人はっ」


「彼女の容姿に振り向かない男はいないわね 私も仕事で1度会った事があるんだけど 同性の私ですら目が釘付けになったわ


 あの豊満な体は本当にヤバイ 聖職者ですら煩悩の坩堝に叩き落とすとまで言わせるだけはあるわ」


「そ そんな人にアネットは寝取られ・・・ う ううぅぅうぅぅ~~~」


「ま 待ってよ皆っ 僕はただお食事をしただけだよっ 不意打ちでお酒を飲まされてそのまま寝ちゃっただけで・・・」


「寝た? 寝たの?」


「いゃ・・・ 寝たって言うか 意識を手放して そのまま眠っちゃっただけだから・・・」


「ねぇ 香水の香りって どのくらい体を密着させれば移るのかしら」



 マルティナとポリアンナさんは懐疑的な感情を向けてくる。ミストリアは鼻息が荒い。



「う~ん! 煮え切らないわねっ! 盲目さん! 貴方はずっと側に居たんだから 夜の間に何があったか全部見ていたよねっ!」

『ね~』

『ね~』


『ア アネットぐっすり そのまま女の人がくっついて幸せだった』


「え? くっつ・・ それって同衾? 同衾ってどこまでが許される範囲なの?」


「え~ ん~ ギリギリアウト?」


「も~~~~っ! 本当に何も間違いは無かったんですって! 確かに彼女もそう言うつもりで近付いたのかもしれないけど


 話をしている内に僕と似たような境遇と言うか フォルマさんもそんなつもりは失くなってたと思いますっ!」


「はぁ もう良いわ 私も娼婦になる人の境遇には思うところもあるし これ以上追求はしない 但しっ これからは相手や会話の流れからどう言う事態に発展するのか よく考えて行動するように」


「はい・・・」


「ちょっ ポリアンナさん? 良いの? このまま終わらせてっ」


「良いも何も これからは気を付けてねって言うしかないじゃない それともずっと疑い続けて付き合ってくつもり?」


「う ・・・む~ 分かったわよ」



 マルティナもポリアンナさんも半信半疑と言った感じだが、何とか許してくれたみたいだ。そもそも許しを乞うような事をした訳ではないが、これ以上食い下がっても良い事は無い。


 ポリアンナさんの言ももっともだし、ここは自分の未熟が招いた結果として心に留めておく事にしよう。


 僕達が何やかんやと揉めていると、そろそろ冒険者達がギルドに顔を出す頃合いになったのか、数人があちらこちらと固まり歓談に花を咲かせていた。


 ギルド職員も奥から顔を除かせて、カウンターを掃除したり依頼書を整理する紙の音。テーブルと椅子を整えたりと、1日の始まりを告げる音を立てていた。


 依頼書争奪戦とは無関係の僕は、戦いに巻き込まれないよう距離をおこうとその場を離れると、ちょうどギルドの扉が開いたのか、入ってきた人物とぶつかりそうになった。



「あ すいません」


「え あ あぁ 此方こそ」



 咄嗟に道を譲ったがその男性はちょっとおっかなびっくりと言った感じで反応していた。ギルドは初めてなのかな? 明らかに冒険者ではなさそうだ。


 徐々に殺気立つ冒険者達の中を縫うように歩いている男性。もたつく足取りでカウンターまで辿り着くと彼は第一声こう述べた。



「あの・・ 此方にアネットと言う盲目の冒険者が居ると聞いたのですが その方に仕事の依頼をお願いしたいのですが」



 え?



「すいません 当ギルドでは個人の依頼は受け付けておりません 商会又はそれに準ずる組合からの依頼のみ 受諾される運びとなっておりますので・・・」



 カウンターのギルド職員はやんわりと断ると、男性は懐やら鞄やらポケットやら全身を手探るように触り、ようやくお目当てのものを探し当てたのか1枚の紙をカウンターの職員に提示した。



「あの 一応これを・・・」


「はぁ・・・・・


 ・・・っ!! こっ! これっ! ・・しょっ! しょしょ! 少々お待ちくださいっ!!」



 何だろう。紙一枚でこの慌てぶり。嫌な予感がする。


 紙を渡されたギルド職員は脱兎のごとく奥へと引っ込んでいった。聞いてしまった以上いずれは僕の元までやって来る。ここで聞かなかった事にしても仕方がない。


 僕は意を決して男性に話し掛ける事にした。う~ん・・・名指しの依頼かぁ。一体何なんだろう。



「あの アネットは僕ですけど 貴方は?」


「え・・ 君があの盲目の冒険者? うわ~! 本当に盲目さんを連れてるんだ~! ホントに目が見えないの? それでよく冒険者なんてやれるね~! やっぱりマイナス等級のスキルさんでも有効なスキルが有ったのかい?」


「えっ? えっ? えっ!?」



 先程の自信無さげな態度から一変。何か彼の琴線に触れたのか、僕の眼前で手を振ってみせたり、腕や胸そして太股からお尻に至るまで、余すところ無く撫で回してきた。



「とても冒険者の体つきじゃ無いけれど でもそこがまた興味をそそられる いやぁ~ 興奮するなぁ~~!」



 あヤバイ。依頼内容以前にこの人がヤバイ。僕は背筋に寒気を感じて反射的に後ろに退いた。


 悪意のようなものは見られなかったものの逆にそれが不気味だし、またマルティナ達に誤解されるかもしれないし、常識的に人前でする行動ではない。



「あのっ! 貴方は・・・」


「あぁ・・! 申し訳ない つい興奮してしまって自分を押さえられなかったようだ


 僕は王立の・・・・ あれ・・?





 君は まさか・・・・





 ミストリア・・・君・・・・?」



 僕の側にやって来たミストリアは自分の名前が呼ばれた事にビクッと反応した。そして次第に感情が冷々と変色していく。



「ミストリア?」



 彼女は僕の言葉に反応する素振りすら見せず、逃げるようにこの場を立ち去ってしまった。



「ミ! ミストリア君! 待って!」



 彼女の後を追おうとする彼だったが、この状況にすかさず反応したマルティナは、男性の腕を思い切り掴んでそれを阻止した。



「あなた! ミストリアの何なんですか! あの子があんな風に逃げ出すなんて普通じゃないです!


 まさか・・ あの子が可愛いからって無理やりいかがわしい事してたんじゃないでしょうね!? いくら胸が大きいからって まだ手を出していい歳じゃないわっ!」



 僕とのやり取りが尾を引いているのかマルティナはそんな事を口走った。まぁそれは兎も角。


 僕もマルティナ同様。一目見た男性に対してあんな反応を示すなんてただ事ではないと男性を訝しんだ。



「い・・ 痛い! き 君ぃ! 自分の教え子にそんなことする訳無いじゃないか!」


「いくら教え子だからってあんなっ ・・・は!? ・・・え・・? 教え子!?」


「何やっとるんじゃ2人して・・」



 2人が悶着していると先程の職員が話の出来る人物、ランドルフ(ギルド長)さんを伴って僕達の所にやって来た。



「いやぁその・・・ 何だか誤解があったようで・・・ 僕は王立学園の教師でスキル学者のファムエル ミストリアの担任だった者だよ 今となっては 元・・・ だけどね」





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