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41・大通りの決斗

前回のあらすじ


どうして私がこんな憂き目に逢わなくてはならない! それもこれも全部イカれた「あいつ」が悪い!

「あなたは・・・ プルトンさん・・・」



 今にも倒れ込みそうな息遣いとヨタヨタとした彼の足取りの後ろで、ジョストンさんの雄叫びと激しい戦闘音が鳴り響いていた。


 匿われていたプルトンさんがここに居ると言う事は貴族街からここまで避難してきたと見るべきか・・・


 貴族街からここまでは結構距離があった筈。事はその前から起きていたと言う事か? やはりプルトンさんは一連の出来事を何か知っているのだろう。


 彼は大事な証人だ。もろもろの真相を(つまび)らかにする為にも彼にはここで倒れられては困る。


 ラトリアの一件を追及する必要もあるし・・・



「ギルドまで避難します! 付いて来て下さい!」


「おぉ! ちょうど良い! す・・直ぐに案内しろ! ゼェーゼェーゼェー・・・ 全く・・・何故私が・・こんな目に・・・あわなくてはならん・・ どいつもこいつも愚図ばかりだ! どけガキ!」


「あぅ・・! マ~~マ~~~~!!」



 プルトンさんは八つ当たり気味に偶々(たまたま)目の前にいたであろう小さなネリーちゃんを突き飛ばした。



「ちょっとアンタ! 子供に何て事をするのよ!」


「うるさい! 今はそんな事でごねてる場合ではない! 直ぐ様ギルドに向かわねばならん非常事態である事が分からんのか!


 金なら後で払ってやる! いいから私を警護しろ! 私の命はこの中の誰よりも重いのだぞ! ゼェー・・ゼェー・・」



 やはりと言うか・・・バウゼン宅で会った時のまんま。彼は大分横柄な性格の人物だった。


 非常時だからこそ人の素の部分が滲み出るのだろう。しかしここで突っ掛かっていては進むものも進まない。



「落ち着いてマルティナ 今はここで立ち止まっている場合じゃないよ」


「アネット! ここで何してる! とっととギルドに逃げろっ!! コイツはやばい!!」


「ジョストンさん!」


『アネット~ あの子が近くに来てるよ~』



 プルトンさんを連れてきたであろうジョストンさんはモンスター相手に圧されているようだった。


 重い物通しが激しくぶつかる音が徐々に近付いてくる。攻撃の頻度も高い。


 誰が戦っているのかは知らないが、とても僕が戦闘に参加出来るレベルではないと感じた。


 そんな手練れと思われる人物を圧すモンスター。一体どんな相手なのか。足運びは2足歩行で体格は大きく素早い。


 当然の事ながら圧倒的なパワーを持っている。対する人物も真正面から受けようとはせずに流している感じだ。


 僕が今まで戦ってきたモンスターなんか比較にならない程の強さだ。


 しかし・・・感情を視覚で捉えられる僕だから気になったのか、モンスターの後ろに佇む2つの感情がある事に気が付いた。


 このモンスターのスキルさん・・・? 違う。僕はこの混沌とした感情の持ち主とは以前会った事がある。


 そう。


 バードラットさんからの依頼で旧市街の調査に出掛けた時に会った女の子。


 そして女の子の傍らに浮いてるスキルさん。


 そのスキルさんを僕の感覚で表現するとしたら「王様」と言った感じだ。


 もちろん本物の王様なんて見た事ないけれど、物語の中に出てくる王様は多分こんな感じなのではと・・・


 人を惹き付ける至高の存在。それが僕の中の王様像だ。


 そんな王様を連れる旧市街で出会った少女。


 そうだ・・・この子はプルトンさんを探していたんだっけ。



「プルトンさん やっと見つけたー ねぇねぇ見て見てこの子! 最近お友達になったんだ~ 山の奥にこの子が居るってガウが教えてくれたんだよ?」


「し! 知らん! お前など・・ 知らん!」



 上ずった声をあげるプルトンさんの中にあるのは恐怖。一方の女の子はまるでお友達に会いに来た時のような軽い口調だ。


 彼は少女に何を思ったのか。不摂生が祟った体に疲労が鞭打ってプルトンさんは後ろ手に転倒した。



「プルトン! この子は何者だ!」


「知らんと言っておるっ!」



 この声はランドルフ(ギルド長)さん? さっきまで戦っていたのは彼だったのか。僕と戦った時は相当手加減していたのが分かってしまった。


 少女の会話が挟まった事で距離をあけるランドルフさん。戦闘の節目と感じた僕は思ったままを少女に投げ掛けてみる事にした。



「君が・・・モンスター達を操っているの?」


「うん そうだよ~ ガウの能力なんだって」


「ガウ? ガウって・・・君のスキルさんの事?」


「うん いつもガウガウ言ってるからガウって呼んでるの」

『ガウガウ』


「そう・・・君はどうしてここに?」


「どうしてって プルトンさんがいきなり居なくなっちゃったから ずっと探してたんだー」


「そうなんだ それでその・・プルトンさんに何か用事があったのかな」


「そうそうっ プルトンさん居なくなっちゃってご飯くれる人居ないから困っちゃったのっ!」


「そうなんだ それは大変だったね それじゃあこの町の人が君にご飯を御馳走するから 取り敢えずモンスターを暴れさせるの止めてもらえないかな」


「? ご飯なら今食べてるよ?」


「え? その・・ご飯って・・・もしかして・・人?」


「うんっ! プルトンさんいらない人間沢山くれたんだっ」


「おい・・プルトン それはどう言う事だ」


「知らん知らん知らん! そいつの言う事を真に受けるなー! そいつは狂ってるんだ! まともじゃない! だから魔物さんなんてスキルさんに憑かれるんだっ!」


「何? 今なんと言った・・・ 魔物さん? 魔物さんじゃと? あの災害級の・・?」



 僕が思わず一目をおいたスキルさんはとんでもないスキルさんだった。


 災害級・・・少しだけ聞いた事がある。マイナス等級と位置付けられたスキルさんの中でも他者に害しか及ぼさない存在なのだとか。


 そんな子供を彼は奴隷にした? 何の為に・・・



「ねぇ どうしてプルトンさんは君に・・・ご飯を食べさせてくれたの? 君はその・・奴隷・・・みたいだけど」


「う~んとね この子達が人間食べるところを見て楽しむ人達がいるんだって だから沢山食べさせたの そうすればご飯くれるからっ」


「何じゃと・・・ どう言う事だそれは・・」


「おい! こんな誰とも知れないガキの言う事に耳を傾けるなっ! それとそこの奴も余計な事を聞いてるんじゃない!」



 正直耳を疑った。聞き間違いかと思った。


 人を食べるところを見て楽しむ? え? 意味が分からない・・・



「知らん! お前等そんな目で私を見るな! このガキのただの狂言だっ!」



 確かに狂言としか聞こえない。しかし少女が嘘を言っているようには感じない。むしろ話せば話す程プルトンさんの感情は焦りに追い詰められていく。



「ふ~む・・・ 提案なんじゃが もしおぬしの食べ物を用意したら 今は一旦退いてもらえんか


 そちらも色々言いたい事もあるだろう その後で今後の話し合いをする・・・と言う事で取り敢えず手を打たんか?」


「ん~ それってお野菜のスープとか? でもいいや 皆人間の方が美味しいって言ってるし ここなら御馳走が沢山あるもんね


 それに色んな味でごちゃごちゃしてるより 生肉の方が美味しいし ガウもその方が健康に良いんだって」


「やれやれ 交渉の余地無しか・・・」



 あれ? 人が人の肉を食べると体に良くないって聞いたような・・・



「待って! こんな事をしてたら沢山の人達に追われる事になっちゃうよ? 君が何を思って生きてるのか分からないけど 多分幸せはやってこないと思うんだっ」


「ガウが言ってたんだ 世界は誰かの都合で出来てるんだって


 正しい事も間違った事も 時と場合と人のよって変わるんだ


 お兄ちゃんがダメって言った事に喜ぶ人も居れば 今まで良かった事がダメになっちゃう事もあるし プルトンさんは知らないって言っちゃうし・・・


 きっと幸せな世界って 自分の望みを通せる世界なんだと思うの でも誰かと誰かの望みがぶつかっちゃうとケンカになっちゃうんだよね・・ でも勝てば良いだけなんだよっ


 泣きながら食べられちゃう人と それを見て笑う人 これが持つ者と持たざる者の差なんだよって プルトンさんも言ってたよ?」


「人は互いに譲り合う事が出来るんだ そうすれば衝突する事なんか無い


 それなのに人通しがいがみ合う事をプルトンさん・・・ 貴方はこんな小さな子に教えたんですか!?」


「知らん! 大商会を取り仕切るこの私が! こんな子供など相手にするわけなかろうが!」


「他にも色んな事を教えてくれたよ? 狩りの仕方とか男の人の喜ばせ方とか・・・


 本当は痛いだけで嫌だったんだけど 今だったらそんな人この子達に食べさせちゃえば良いだけだもんね


 どう? 私強くなったでしょ? プルトンさん嬉しい?」


「プルトンてめぇ・・・ とんだゲス野郎だな・・・!」


「知らんと言っとろうがぁぁぁ!!」


「つまり成長した自分を見せに来たと言う事じゃな・・・ やれやれ まだ幼かろうに それでもこの位の事はやってのけるか・・・ 流石は災害級と言われるだけはあるの


 プルトンよ こんな幼子を化け物に仕込みおって しかしこうなってしまったからには 今さら更正など効くまいよ


 残念じゃが その短い人生に幕を引いてもらう他あるまい 勝てば良いと言ったんじゃ 互いにするべき事は理解しておるじゃろ?」


「生きていくには食べるしかないもんね 皆お爺ちゃんの事食べたいってワクワクしてるよ? 美味しそうだってっ」


「良かったなギルド長(じじい) 孫ほどの歳の子供に喜んでもらえてよ」


「ランドルフさん 何とか拘束する方向でいけませんか・・・」


「捕まえて それからどうする アネット あの子が改心して人の中で上手く生きていけると思うか? ワシには思えん」



 確かにここまで町の平穏が脅かされて死傷者が出た後ではそれも難しいか。



「スキルさんはその人間の本性に同調する 残念だがこの子の中で人はもう食うか食われるかでしかないんじゃろ」



 手遅れ。


 そうなのかもしれない。


 ランドルフさんはこう言うが、どう言った経緯で“魔物さん”を連れる事になったのか。それが気になった。


 元からこうなのか、こうなるように仕立てられたのか。


 それを知るのはプルトンさんだけだろう。



「悠長に話などしとらんで とっととそのガキを殺さんか! そいつは悪だ! 全人類の敵だ! 早くしないと周囲を取り囲まれるぞ!!」


「それならとっくに囲まれとるだろうよ」



 周囲に耳を傾けてみると、この大通りに繋がる脇道には既に何体かのモンスターが潜んでいる気配があった。


 ここにはランドルフさん達と僕達避難民が何人も居る。


 モンスター達は餌が目の前にあるのにご主人様から「待て」と言われているのかその場から動かない。


 これは統制がとれていると見るべきだろうか。ペットなんて飼った事が無いから分からないけど。



「ワシとジョストンパーティーであのデカブツに当たる! 残りの冒険者とギルド職員で生存者の護衛に回れ!」



 その言葉が引き金となって両者は一斉に動いた。



「皆! ご飯だよっ」

『ガウガウ』

「グアアアアァァァー!!」

「「「ウオオォォォン」」」



 少女の「食べていいよ」の合図を皮切りにモンスター達もまた一目散に餌へと群がった。



「皆さんかたまって! 子供を中に! 盲目さん!」

『ぷちだーく!』



 止めどなく溢れるモンスターに向けて黒い(もや)を解き放つが、食欲に支配された獣は靄などお構いなしに突っ込んでくる。


 マルティナは前の反省を活かして「ブロック」のスキルに自分の助走をつけた体当たりで対処した。


 他の冒険者達もギルド職員もそれぞれ自分の武器を駆使して対応する。


 しかし野生に生きるモンスターはその数に限界を知らないのか止めどなく現れる。人は自然の力には抗えないのか奮闘するも徐々に圧されてきていた。


 一方のランドルフさん達も巨漢のモンスターに立ち向かうが、複数人でようやく拮抗している状況だ。


 ジョストンさんのパーティーメンバー、ロゼリーヌさんは隙を突いて少女に矢を射掛けるが、モンスターは少女を身を呈して守りながら戦っている。


 このモンスター。実は相当強い個体ではないだろうか。


 僕も負けじと襲い来るモンスターに刃を滑らせるが、体毛や強靭な筋肉に阻まれて肉を断つ事が出来ない。


 何とか弱点と思われる目・鼻・口に狙いを定めるが、逆に咥えられた挙句振り回される始末だ。


 力勝負に持ち込まれたら詰む。ここに来て僕の弱点が浮き彫りになった。


 剣を封じられ身動きとれない僕に次々とモンスターが噛みついてくる。


 手、足、腕・・・首。


 部位など関係ない。彼等にとっては全身が肉だ。



「アネット!!」


「「「「おおぉぉぉぉぉ!!」」」」



 遠退く意識の中でマルティナの悲壮な声と押し寄せる怒濤の声が微かに耳に届いた。



「やれやれ・・ ようやくお出ましか」


「1班2班は避難民の救助! 3・4班であのデカブツにあたれ!」


「おいギルド長(じじい)! こいつらって・・騎士団か!?」


「あぁ やはり伝書鳩を騎士団の駐屯所にも飛ばしといて正解だったわい」


「えーー! せっかく美味しそうなお肉が食べられると思ったのにー! この人達嫌い! 皆やられちゃうんだもん!


 でもいっか ご飯なら他にも沢山あるし・・ じゃ~ね~ プルトンさんっ」


「逃がすなっ!!」



 この少女の判断が早い。形勢不利と思ったら躊躇わずに撤退を選んだ。少しの迷いも無い。


 巨漢のモンスターは少女を掴むとこの場を離れていった。



「追えっ!」



 駆け付けた騎士団を含めランドルフさんも逃げた少女を追うが、残ったモンスター達は自らを盾にするように一斉に飛び掛かってきた。



「ぬぅ! こやつ等・・・!」


「主に忠実な犬っころだな!」



 もう少女を追うどころではない。次々襲い掛かる残党の後処理に追われる事になった。


 騎士団が来てくれた事で僕の周りのモンスターは完全に排除されたようだ。


 うっすらとする意識にマルティナとカルメンが僕の名前を叫んでいるのが聞こえる。


 今自分が立っているのか倒れているのか分からない中、ふと横に顔を向けると安堵にくれる住民達に混じって1人絶望に体を震わせるプルトンさんがいた。


 大勢の前で名指しされ逃れられない状況に彼の胸中は穏やかではいられないだろう。


 真相を語る条件が反省か計算か妥協か取引か、何でも良いで(つまび)らかにされなければ、亡くなった人達がうかばれないし残された人達も納得しない。


 あの子供・・・少女がどうしてああなったのか。


 それを紐解かなければ事の根幹に辿り着かない。何としてでもプルトンさんには真実を話してもらわねば・・・


 そんな事を思いつつ僕は静かに意識を手放した。





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