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40・プルトンの逃亡劇

前回のあらすじ


モンスターの襲撃から何とか逃れ大通りへ出たが、そこで息も絶え絶えのプルトンさんと出会った。

「なぁギルド長(じじい) 俺達なんでこんなとこにいるんだ?」


「それはなジョストン ワシの感がここで何かが起こると如実に伝えとるからじゃよ」



 俺達は今ギルド長(じじい)の一声で貴族街の一角に造られた庭園内の木陰に来ていた。


 俺と俺の仲間達。ギルド長に幾らか戦えるギルド職員と手隙(てすき)の冒険者数人。


 どう言う訳だか昨日から交替の見張り番を強いられている。



「あのな・・ 年の割に爺の腕が確かなのは認めるぜ? ただ感頼りになるとアンタ途端にダメになるよな?


 以前も楽な仕事と録な説明も無しに引っ張ってこられて 蓋を開けてみりゃ~ とんでもないトラブルに巻き込まれてよ それで泣かせれた事が何度も有ったよな?


 別に責めちゃいねぇよ? 結果それが誰かを助ける事に繋がってんだからよ


 ただな?


 起こる事態に対して あまりにも此方の準備が不足してると思わねぇか? 何時(いつ)も何時も何時もよ?


 俺が言いてぇのはな つまるとこそこなんだよ」



 2日前。


 アネットを伴い貴族街に出掛けたギルド長(じじい)は、遣いの者を寄越して俺をギルドに引っ張ってきやがった。


 せっかく嫁といい感じになってたところを「仕事がある」ただそれだけ言って貴族街に放り込みやがった訳だ。



「で? 仕事って何なんだよ」

「ここにいれば直に分かる」



 打てば鈍く鳴る空の木箱みてぇに内容もカラッポの会話がここ2日で何度飛び交った事か分からねぇ。


 しかしギルド長(じじい)の感は何故か悪い方向にだけは当たるんだよ。


 その殆どが命の危機に直結するもんばかりだから、その度に心の中で残しちまうかもしれねぇ家族に謝ったもんだ。


 そんなギルド長(じじい)の散歩に連れてかれたここに居る連中は、葬儀に参列した奴等みたいに浮かねぇ顔して夕日に黄昏れてやがる。


 そんな俺等を笑うように夕飯時、豪勢な料理のいい香りが鼻先をかすめていきやがる。


 はぁ~・・・ 何やってんだ俺達。



「仕方なかろぉ 使えそうな連中は皆 大金を追っかけに行っとるし・・・


 今回ばかりは先手を取られた気分じゃよ 出来る事ならあの阿保んだら貴族をボコって 知ってる事を洗いざらい吐かせたいところだが それも叶わん」



 ギルド長(じじい)は貴族じゃねぇが平民でも貴族に真っ向から意見できる数少ない立場だ。


 力を生業とした組織が貴族の言いなりでは国が傾きかねないと、王家の意向によって擁立された地位それがギルド長。


 しかし政治に関わる権利は無く国に仕える兵士を動かす権限も無い。


「アイツ怪しいからちょっとついてこい兵士共」が通用しないから俺達がここに居るって訳だ。



「相手が只のボンボンなら押せば倒れるが 小癪(こしゃく)な古狸は妙に肝が据わって頭も回るからなぁ


 まぁ 小僧も今回の件とあの連中は十中八九関係していると見とるようじゃが」


「お それじゃあいつもそれなりに仕事はした訳だ (すす)めて正解だったぜ


 にしても・・・俺が言うのも何だがよ よく素直にアネットを連れてく気になったな 普段なら「いらん」の一言でバッサリ切り落とすだろ」


「戦いが上手いだけのやつなら そこらを探せば適当に落ちとる あの時必要だったのはそう言う手合いではなかっただけの話よ 


 お前の言う通り 人の内面を見透せるスキルなら適任じゃろうて


 それに───


 以前手合わせした時 常識を引っくり返す才能を あぁも見せ付けられたら 認めざるをえんじゃろ? それこそ現実も見えていない「只の盲目」なら説教の一つでもくれてやったところじゃがな」


「なぁギルド長(じじい)・・・ 俺もそれに魅せられて突き放さなかったが 


 正しかったのかな・・・


 確かに凄いとは思ったし その先を見たいとも思ったよ だが冒険者として大成出来るかは別だ


 体格には恵まれてねぇし いくらスキルがあるったって ハンデを抱えてる事にはかわりねぇ・・・


 俺は・・・ 血に餓えた獣の前に獲物を差し出したんじゃないかって つい思っちまう」


「及び腰じゃな・・・ 別に成功するだけがそいつの幸せとは限らんよ その過程を大切に思う者もいる


 あやつは・・・ 盲目的に冒険者である事を望んだ もしそれが叶わなかったなら 他の者達同様 死人の様に延々生きる人生を余儀なくされたじゃろう


 それに 冒険者としての人生を選んだのは小僧自身 その部分の責任を負ってやる必要はない」


「はぁ~~~~・・・・ なぁ~んか吹っ切れねぇなぁ~・・・


 何だろうなこの胸のわだかまりは いい服着たそこいらの通行人にチラ見されて落ち着かねぇとかじゃねぇ・・・」


「フフ・・ 嫌な予感の程度と言うのは 人によって様々らしいからな お前の場合 ガラにもなくナーバスになるから分かりやすい」



 認めたくはねぇがその通りだ。だがその曖昧な予感が何度もこの身を救ってくれた。


 イキった輩と怖いもの知らずは早々にこの世からおさらばするが、冒険者を長くは続けたいなら理屈屋だけでもまだ足らねぇ。


 何かしら直感みたいなものを信じる事ができる奴が優秀な冒険者だったりするんだよな。



「あ~あ~ 認めるよ 認めますよ! だから準備が足らねぇって言ってんだよ 何時も何時もなっ!」


「スパイスの香りに混じって 獣の臭いが漂ってきとる そろそろ動くか・・・


 おい 警戒信号の伝書鳩を飛ばせ それと緊急警報の伝書も準備しておけ」


「は はい!」



 ギルド長(じじい)は文字通り鼻が利く、これは自分のスキルさんに頼らない正真正銘ギルド長(じじい)の才能だ。


 奴がギルド長の地位に上り詰めたのもそれによるところが大きい。


 稀に利きすぎてバカになるとか言ってたが、こう言う異常事態の前触れはまず外した事がねぇ。


 職員は指示に従い伝書鳩を飛ばす。


 ちなみにこの伝書鳩は本物の鳩じゃなく“伝書さん”って言うスキルさんの能力で作られた鳩の形状をした何かだ。


 大昔は何だかフヨフヨしたものが手紙なりを運んでたそうだが、情報伝達を担うそれが狙われるようになってから動物の形を模したものになってったらしい。


 如何に本物の動物に似せられるかが術者の腕の見せどころな訳だ。



「さて では我々も行くとするか」



 夕方。巣に帰宅する鳩の群れに合流する伝書鳩を見送ってギルド長(じじい)は一言号令をかけた。



 ★



「ゼッヒュ・・・ゼッヒュ・・・」



 どうしてこうなった・・・


 私は最善を尽くしてきた筈なのに何処で狂った。


 貴族同士の派閥争いに負けてからか、それとも爵位を剥奪されてからか。


 いや・・・ そうなるもっと前からなのかもしれない。


 自分が良いと思った事は(ことごと)く外れる。努力が実った事など無い。


 人に好かれようと思っても距離が縮るどころか何故か避けられる。それどころか都合の悪い奴ばかりが執拗に追っ掛けてくる始末。


 やる事なす事全部が裏目に出る。


 何故だ・・・


 私はこんなに必死でやってきたと言うのに・・・











 廊下が騒がしい。


 それはこの屋敷であってはならない行為だ。バウゼンは静寂を好むのか屋敷の者にも私兵にも騒がぬよう徹底させている。


 ここで騒ぐヤツと言ったら金に困った連中と相場は決まっているが、バウゼンは不敬罪を言い渡し早々に追い出している。


 個人的には泣いて懇願する奴等の顔を眺めるのは好きだがバウゼンとは趣向が合わないらしい。


 だが文句は言えない。


 何故ならこの界隈ではバウゼンこそが王だからだ。例え目の前の(からす)が黒くても、奴が白と言えばそれは白いのだ。


 つまり奴にとって間違いは間違いにはならない。



「ちょっと邪魔するぞ」



 廊下から扉越しにも聞こえる複数の足音と共に、どこぞのバカタレが王の間の扉を豪快に開け放った。


 金にあかして商人が怒鳴りこんで来たのかと思ったが違った。それは数日前にやって来たハルメリーのギルド長と武装した冒険者の面々だ。


 めんどくさい・・・



「おい貴様等! ここを何処と心得る! 高貴で格式高いバウゼン伯爵のお住まいであるぞ!」


「よい・・・プルトン」



 そう言うとバウゼンは私を手で制した。



「ふむ・・・ いくらそなたが貴族に意見できる立場とは言え 帯刀し 更には土足で人の屋敷に上がり込むなど・・・ あらかた自分が貴族と同列とでも錯覚したか?」


「いやいや 今日ここに来たのはな そこにいる商人に知ってる事の全てを吐いてもらおうと思っての ほれ 以前やらかしたオイタで 方々からさぞ恨みも買っとるだろうしな」



 む? バウゼンでなく私が目的? 何だ? どっち道厄介事は勘弁だ。下手にバウゼンの気を引きたくない。



「今のうちにギルドに来ないと そやつの身が安全でなくなる案件が浮上しそうな雲行きでの 老婆心ながらご招待に(うかが)った次第なのだよ」


「な! 貴様! たかだかギルド長の分際で許可無く伯爵様のお屋敷に上がり込んだ挙げ句 この私を脅すか!


 だ 大体あれは既に終わった事 過去の話ではないか! それを蒸し返して何が身の安全だ!


 それに貴様に安全を保証されなくとも こうしてバウゼン伯爵の庇護を受けている! これ以上安全な事があるかっ!」



 安全が脅かされるだと? 一体何を言っている。どの事を言っているのだ。



「確かにな・・・ しかし此方に来た方がバウゼン伯爵殿と その財産にとっていい理由があるぞ?」


「な・・ なにぃ~!?」



 くそっ! どうしてそこでコイツを引き合いに出すんだ!



「ほう面白い 我が屋敷に踏み込んだ正当な理由とやら その言い訳の程を聞かせてもらおうではないか」


「もうすぐここは戦場になる ワシの見立てでは 直にモンスターの集団がこぞって押し掛けて来るぞ? はて 一体何を目指して来る事やら・・・」


「はっ!? 何を根拠に! そんな与太話! 誰が信じるものか! それに万が一そんな事態に(おちい)っても ここには伯爵様の私兵もいるし町の兵士達もいる! 屋敷の守りも堅固!


 それに町には冒険者だって居るのだ 緊急事態であるなら嫌でも戦わざるをえんだろう!」


「その冒険者は何処ぞの鶴の一声で疲れきっとるがのぉ そこを狙い澄ましたかの様に襲撃をかけるモンスター・・・ それは誰が動かしてるのだろうな」


「何時も通りの黄昏時(たそがれどき) この静かな(とばり)に獣が吠えると?」


「それが分からん様なら ギルド長など務まらんよ」


「ふむ・・・ よかろう プルトンを其方(そちら)に引き渡そう」


「な・・・? バウゼン卿!?」



 まずい・・・



「意外じゃな もっと渋るかと思ったが しかし良いのか? 話を持ち掛けて何だが 痛い腹を探られて傷口が広がりはせんかの?」


「ははは どんな傷でも治すのがワシの取柄(とりえ)よ 案ずる事は無い」


「バ・・・バウゼン卿! まさかお見捨てになられるのですか!? 私は今まで誠心誠意尽くして参りました!


 この不埒者(ふらちもの)と私 一体どちらを信じるのですか!」



 まずい・・・



「見苦しいぞプルトン 人生とはやる事をやった上に ただあるだけよ


 それに如何な相手と言えど 人の才覚は素直に認めるのも お前に足らんのはそれよな」



 まずい・・・



「こそばゆい事を言う しかしどんな傷も治せる才の中身が如何なるものか 是非とも切り開いて見てみたいものじゃ」


「無理よ無理よ 幾ら切ろうが次から次へと同じ顔が出てくるのみよ 権力に取り入りたい者なぞ そこらに幾らでもおるのでな」



 いや・・・まだだ!


 まだ終わりではない筈! 私もバウゼンに上手く取り入ってきた。その間に培ったコネもある。


 それにモンスターの襲撃だと!? そんなもの・・・まさか本当に・・・


 本当に「ヤツ」が来るとでも言うのか? この私を狙って・・・


 だとすると馬鹿な奴だ。


 折角自由になったと言うのに、私に固執して自分の人生を見据えないとは。


 諦めれば良いものを・・本当に馬鹿な奴だ。





「バ! バウゼン卿! 貴族街の周囲にモンスターの大群が!!」



 あぁ・・・くそ・・・ 本当に・・本当に来たと言うのか・・・



「町と()()()()に伝書鳩を飛ばせ! 緊急警報じゃ! 律儀に鳩に模す必要は無い! 兎に角迅速を(たっと)べ!」


「はい!」


「おいプルトン! 今の内に正直に話しておいた方が 後々の為にも良いのでは無いか!? どのみちギルドに来てもらう事になるのじゃからな!」



 話せない・・・ 話す訳にはいかない。


 話せば終わる。


 私の人生に未来が無くなる。



「しらん! 貴様の言う通り今だ恨みの晴れん愚か者の仕業だろう! 


 ・・・・とは言え ここに居座ったところで伯爵様にご迷惑をお掛けするだけ・・・ ならば・・ 今は素直に貴様の提案に従おうではないか」



 どうせイカれた「ヤツ」の戯言など、誰も聞く耳など持たんのだ。私は知らぬ存ぜぬを貫けばいい。


 バウゼンの妙案も水泡に帰した今、冒険者は使い物にならないとしてもギルドは町のほぼ中央。ここにいるよりは安全だろう。


 (しゃく)な話だが貴族に悪感情を持たれたらこの国では人権など望めなくなる。特にこのバウゼンに睨まれたら持てる全てを搾り取られて人生は破綻を来す。


 本当なら今まで尽くしてきたこの私を無下にした事を後悔させてやりたいが、残念ながら今の私ではそれも適わない。


 であるなら虎視眈々と機を窺う為にも、ここは従順である事を示しておいた方が後の為にも良いだろう。


 奴とて私との縁が切れるのは望むところでは無い筈だ。



「おいギルド長(じじい)! とっととずらかろうぜ! 外の様子が明らか怪しくなってきやがった!」


「予想より早いの・・ これはうかうかしてられんな そう言うわけだ伯爵殿 ワシ等はこれにて失礼させて頂こう」


「道中気をつけて行かれよ 見掛けによらず中々に賢いでな」



「ヒヒーーイン・・・」部屋から出ようとした矢先、外から馬の悲鳴と「ガルルル・・」と言う捕食者特有の(いなな)きが聞こえた。


 それに伴って使用人のあわてふためく金切声、私兵達の怒号で屋敷は包まれた。


「人を捕まえたくば まず足を狙え」


 教えた通りだ。


 おそらく今襲われているのは各屋敷の馬達だろう。



「おいおい人より先に馬を襲ってるぞ・・・ どうする これじゃ馬車は使えねぇ ここに籠城した方がいいんじゃねぇか!?」


「いや 立て籠ったところでそれに耐えうる構造をしているとは思えんよ それよりも混乱に乗じて相手の予想外の行動に出た方が良いかもしれん


 直ぐに立つぞ! まごまごしている時間が命取りだ!」


「俺達だけなら兎も角 どう見てもお荷物なのが1名いるけどなぁ・・・ おいプルトン! 死にたくなきゃ死ぬ気で走れよ!?」



 無礼な輩だ! 今でこそ商人に身をやつしているがこれでも元貴族、走るなど品性の欠片もない行為する筈もなかろう!


 私を連れていきたければ馬車を用意するのが最低限の礼儀と言うものだろうが!


 くそっ! ここに来て「教育」が仇となった。こうなると分かっていたなら、ただ相手を噛み殺すだけの獣に育てておけば良かったか!


 あの吸収の早さについつい興が乗って、色々と教え込んでしまったのは失敗だ。まさかこれ程の成長を遂げるとは誰が予想できようか!



「はぁ~はぁ~はぁ~・・・・」


「おいプルトン! まだ屋敷も出てないんだぞ! もうへばってんじゃねぇよ情けねぇ!」


「うぅんぐ・・このっ!・・」



 平民風情が! この私がこの国の為にどれ程貢献してきたか分かるまい!


 幾多の犠牲を払い使える者は重用し使えない者は適宜、無駄がないよう()()()()()()に割り振ってきた。


 人材を上手く扱う事で我が商会は名を博してきたのだ!



「ぜぇ~ ぜぇ~ ぜぇ~・・・」


「とっとと走れよプルトン!」


「!! ギルド長! 2羽飛ばした伝書鳩の1羽との連絡が途絶えました! これは・・・ 打ち落とされた・・・?」


「直ぐに伝書を飛ばせ! 落とされたらまた次の伝書を飛ばすんじゃ!」



 そう言えば伝書鳩についても教えたな。


 冒険者の中には遠く離れた仲間に合図を送る術を持つ者も居るから、最低でも2匹でその伝書を潰せと。


 まだその頃は可愛いものだと思っていたが、いつ頃からだ・・・手に負えなくなったのは。



「ひゅ~ ひゅ~ ひゅ~・・・」


「あぁ! また落とされた!」



 この様子なら伝書鳩を飛ばしているこのギルド職員はマークされているな。


 つまりは今走っている一本道の周囲の雑木林の中には、2匹のモンスターが絶えず此方の様子を窺っている事になる。



「ガルルルルル!!」


「後方2! 左側面3!」



 冒険者の掛け声からいよいよ我々を襲い始めたようだ。しかし・・・デカイな・・・


 以前見た時よりも一回りは大きくなっている。どうやら私が捨てた後も順調に成長していたらしい。


 そのまま何処か遠くへ行けば良いものを。もう1人でも立派に生きていけるのだ、私に固執する必要は無いと言うに・・・


 まさか見捨てた私を恨んでいるのか?


 確かに利用していた事は認めよう。


 しかし「ヤツ」の長所を十二分に発揮できる場所を提供できたのは私だけだ。


 その特技が自立して生きていける術にもなるのだから、感謝こそすれ恨まれる筋合いはないのではないか?


 私を殺したいのであろうが生憎ここに居るのは名だたる冒険者。その証拠に「ヤツ」の放ったモンスター達は(ことごと)く打ち倒されている。


 所詮は教えられた事を愚直に(こな)すしか能がない小者か。幾らスキルさんが凄くても術者がヘボではどうしようもないな。


 しかし・・・


 世の中とはつくづく上手くいかないものだ。もし「ヤツ」のスキルさんが私に備わっていたのなら、もう一度貴族に・・・ いや・・・この国の頂点。


 王になる事も夢ではなかったのに・・・



「おい! 止まるなプルトン! 死ぬ気で走れ! 死んでも走れ!」


「お・・おぃ・・ も 無理・・・ 少し 休ませろ・・・・」



 死んでも走れだと? 死んだら走りようが無いではないか! これだから教養の無い冒険者は! 言葉の使い方も分からないとみえる。








 あれからどのくらい走ったか・・・


 ここはどの辺りなんだ。


 町まであとどれくらいだ?


 それにしても・・・・



「楽しんでやがるな・・・ さっきから小出しで突っ込んで来やがる」


「狩りでもしている気なんじゃろう 町まであと少し この調子でいてくれたら楽なんじゃがな」


「ギルド長! 伝書鳩繋がりました! 町の兵舎と()()()()2ヶ所に!」


「ではスピードを上げるぞ! 鐘楼の鐘が鳴ったら 相手がどんな行動に出るか分からん!」



 光明が見えた矢先、更に早く走れと言うか。



 あぁ・・・ 思い出した。


 あの目だ・・・ 最初こそ懸命に生きようと足掻いていたが、いつからか狩りを楽しむ様になっていた。


 魔物に貪り食われる人を前にニタニタしていたのがやけに印象的だったな。


 そうだ。その頃からだ「こいつは危険なのでは」と胸中を悪寒が駆けたのは・・・


 それが普通の人間の所業であるなら何ら問題はない。ただ「ヤツ」だけは・・・ 「ヤツ」のスキルさんだけは・・・




 どうしてこうなった?


 私が「ヤツ」に狩りの楽しさを教えたからか? いや・・・ きっと「ヤツ」の中に眠る本性を呼び覚ましてしまったからだ。


 でなければあんなスキルさんなど付く筈が無い。「ヤツ」は遅かれ早かれああなっていたに違いないのだ。


 であれば悪いのは私ではないではないか。


 そうだ! 


「ヤツ」の存在事態が悪なのだ! 私は知らなかっただけだ。困っている者に手を差し伸べて善行を施したのがたまたま「ヤツ」だっただけだ。


 私は上手く騙されたのだ!!








 ・・・と言う体でいこう。


 鐘楼の鐘が鳴ったな。1ヶ所2ヶ所3ヶ所・・・町を包囲したか。


 しばらく見ない間に増えたな。まったく・・・こうなると分かっていれば出会って早々殺していたのに・・・


 掛けたのが情かそれとも興か。ともかく私は判断を間違えた。



「ゼッヒュ・・・ ゼッヒュ・・・・」



 1にも2にも今は助かる事が第一だ。


 混乱渦巻く町の大通りを周囲の人間を盾にしてでもギルドに辿り着かなくてはならない。


 私はここで死ぬべき人間ではないのだから。





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