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362・スプリントノーゼのアーキア人

前回のあらすじ


ルディアと別行動をとったアネット達はロダリオの案内でアーキア人が住む場所へと向かう。道中裏路地で人が倒れている現場に出会したアネット達は男性を介抱したが、男性の下心によりトラブルへと発展してしまった。

「そう言えば派閥について話してなかったな」


「派閥?」


「ああ この街にも派閥は存在してるんだ 大体大きく2つ 公爵家派閥と商業派閥 それらに貴族が集まって下に幾つもの組織が作られている さっきの連中もその一部だろう」


「ハルメリーで言うダクプリみたいなものね」


「公爵家ってここの領主様でしょ? それと対を成す対抗勢力が存在しちゃってていいのかな それとも公爵様でもどうにもならないとか」


「んー どうにもならない・・か ある意味そうかもな そもそも自治領があるのに他家の領地に別邸を建てるのはざらだ 何故かと言うと貴族にも納税の義務が課せられているからな」


「それって ダンジョン資源?」


「それか金だ 自分の領地にダンジョンが少なければ当然 他の領地からそれらを得なければならない 或いはこの街の様に金を動かす事に特化するとかな」


〔普通なら物を作って流通させてお金を流す行為を ここでは欲で釣って暴力でお金を動かすと言う訳ね〕


「まぁ そんなところだ なのでああ言う手合いは実際のとこ少なくない 組織によっちゃ自分の命よりチームの利益 そんなところもあるだろうな」


「へぇ 良いじゃねぇかそれ それくらい結束力が強けりゃ 組織も安泰だな」


「気持ち悪い それで自分が死んでもいいなんて 普通の神経じゃならないでしょ」


「そうか? 自己犠牲なんか お前の言う助け合いの究極形じゃねぇか でも組織を強くするってそう言う事だろ? 皆が自分を事優先してたらそんな組織 いずれ壊れるだろうぜ」


「・・・・・っ」



 言葉で否定しても心で理解してしまったのか、マルティナの心は苦々しく濁った。反論の余地が無くなったのか、それからしばらく沈黙が続く。


 しかしながらユシュタファの言葉を裏付けるような怒号が時折聞こえては消え、角を突き合わせるこの界隈で自身の居場所を守ると言う事は、僕等にとってのモンスターと相対するのとそう変わらないのだと印象付けた。



「で アーキア人はこの先に居るのか?」


「俺も末端まで把握してる訳じゃない ただ聞いた記憶を頼りに歩いてるだけだ もっとも人だって流動的だからな 果たして今も居るかどうかは保証できない」


「まぁ それは仕方ないか・・・」



 ハルメリーの裏事情に重ねたのかユシュタファも納得したみたいだ。ここに来る前は地元民と小競り合いしていたし、集落も崩壊していたし・・・


 そんな甘えが許されないような地を更に進むと、臭いにも明らかな変化が表れた。敢えて表現はしないけど鼻を押さえたくなる臭いが時たま通りに漂ってくる。


 住民達はこれを気にしないのだろうか・・・



〔酷いわね・・・〕


「これぞスラムの醍醐味だよな 社会から見放されてるところなんか特によ」

「それでも人はそれなりに居るっぽいし ギリ成り立ってるところが風味を増してるよな」



 それなりに人も行き交ってはいるけれど、その殆どに心の火が灯っていない。この環境を完全に受け入れてしまったのか、良くしようとする気配もない気がする。



「お あれアーキア人じゃねぇか?」



 狭くなった通りを進んでいるとユシュタファが同族と思われる人物を発見した。しかし彼女は声を掛けるでもなくその後に続く。どうやら無言の案内人になってもらうつもりのようだ。行く先は分からないけど日の当たらない路地をひたすら進んでいく。


 しばらく歩くと両側の、今にもくっつきそうな幅の建物の間を抜けた先は開けた広場になっていて、ここに来てようやく日の暖かさを肌で感じる事ができた。


 そこは円形に形が設えられていて言い表すなら憩いの場なんだけど、そこに座り込む人々に会話はなく、項垂れた感じで雰囲気も暗い。場所が変わってもスプリントノーゼはスプリントノーゼと言う事か。これでは僕等も先行きが不安になってくる。


 それでもユシュタファは臆する事なくその数人に向けて話し掛けた。



「おい ここいらでナイームって奴の事知ってる奴いないか? 何でもいい 些細な事でも知ってたら教えてくれ」


「・・・・・・・」

「・・・知らねぇよ 他人の事なんてな」



 しかし返ってきたのは漂う雰囲気と変わらず後ろ向きな返答だった。彼女の声は複数人に聞こえていた筈だけど答えたのは1人。これがここの「答え」なんだろう。


 これは場所を変えた方が良いか? と思っていると、突如カンカンと缶でも叩く音が広場に響き始めた。すると広場の人達も含め、建物の間からゾロゾロとこの広場に人が集まってくる。


 もしかしてまた狙われる?



「これから配給を配るっ 有り難くいただけよ? それと言った通り今週のアガリも回収する 飯はそれと交換だ」



 配給? ご飯を配るって事だろうか。「アガリを回収」と言う辺り慈善活動とは違うみたいだけど、ここの皆は然も当然とばかりに粛々と列に並び、お金を置いては用意されたご飯を受け取っていく。


 いまいち事情が分からない。



「あ? お前等見ねぇ顔だな新入りか? ここの規則だ 金を持ってこなきゃ飯にはありつけねぇぜ 飢え死にしたくなきゃ金持ってきな」


「金だぁ? 何なんだここ 何でアーキア人がこんな事になってんだっ」


「・・・なんだ知らねぇのか ここじゃアーキア人なんざ奴隷だよ ど れ い 俺達が生きる事を許可してやってるからここに居られるんだぜ? ろくに働けねぇ 外にも出れやしねぇ となるとこの街じゃ生きられねぇ訳だ だから俺達が救ってやってんのよ 分かったか?」


「・・・ ・・・いいや 分からねぇな ただ1つだけ分かったのは テメェ等みたいなのが居たんじゃ アーキア人が生きられねぇって事だけだ」



 バキッ!



「ぐへぇー!」



 怒りが沸点を通り越したユシュタファは感情に任せて目の前の男を殴り倒した。彼女の力の程を知ってる僕の身としては、かなりの衝撃があったのが伝わる。もちろん精神的にも・・・



「こ コイツ! 殴りやがった!」

「俺達をブランディーゴファミリーと知っての狼藉かぁ!?」


「知るかよ!」



「やる」と決めたら止まらないユシュタファ。それに追随するようにターヒル達も殴り合いに参加し始めた。僕達を完全に敵と認識したファミリーの面々は僕達にも容赦なく殴りかかってくる。



「おらぁ!!」


「ぐふぅ! くそがぁ!!」



 武器こそ抜かないものの現場は乱闘騒ぎの様相を呈した。彼等もまた数人で徒党を組んでいたが、鍛練不足か現役冒険者の勢いに圧され始める。ファミリーの人達は1人また1人と立ち上がるのを諦めて転がっていった。


 しかしこの場も制圧できると思った矢先、突如としてそれは起こった。



「止めてくれ! もういいからっ もう止めてくれ!」



 そう懇願したのはファミリーの人ではなく虐げられたアーキア人の口からだった。それにはさしものユシュタファも困惑を隠せない。



「はぁ!? 何言ってんだっ コイツ等はここで分からせねぇと どこまでも付け上がるんだぞ!」


「そんな事は分かってるっ でも俺達にはここしかねぇんだっ この牢獄からは抜け出せない 戦う事すらできやしない 俺達は哀れな少数民族でいなければ生きられないんだ!」


「は? ・・・ふざけんな ・・・ふざけんなよっ! テメェ等揃いも揃って恥ずかしくねぇのか! 立てよ 立ち上がって抗えよ!!」


「・・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」


「・・・そうかよ」



 ユシュタファの(げき)にも無反応なアーキア人を前に彼女も見切りを付けたのか。熱かった心も冷めて、たちまち無色無関心になっていった。



〔言い返さないと事態は何も変わらないのよ それすらしないと言うの? それは人権の放棄と変わらないわ〕


「お前等みたく逆らった奴もいたよ ここから出てった奴もな でもその後 そいつ等の姿を見た奴はいねぇ つまり・・・そう言う事なんだよ」


「俺ならそっちに可能性を見るな 屍の山と一緒に居るよりかはずっといい」



 ここでの用事は済んだとばかりにユシュタファはもと来た道を1人戻り始めた。さすがの僕達も住民達がこれでは追求も協力も無駄と踏み彼女の後を追う。


 言葉が出ない。


 でもここの同胞を諦めたと思われたユシュタファだけど、その心はまだ死んではいなかった。どうやらここを抜け出したと言うアーキア人に希望を持っているらしい。



「ねぇ いったんカストラ商会の支店に行ってみない? 情報だったら商人だって集めてると思うんだ」



 そう・・・諦めるのはまだ早い。





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