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361・この街らしいトラブル

前回のあらすじ


スプリントノーゼにやって来たアネット一行。しかしルディアとミストリアの関係が芳しくない。情報を詰めいざ行動となった時案の定互いに別行動となったアネット一行達はルディアを残し荒れた街に出向くのだった。

 ルディアとミストリアの不仲のせいと、貴族丸出しの風体は諜報活動に不向きと言う事で、今回ルディアとは別行動と言う事になった。


 とは言え全く知らない土地みたいなものだしやっぱり案内役は必要。と言う訳でロダリオに同行をお願いして僕達は今、喧騒が響く大通りを歩いている。


 ただ仕事が仕事だし賑わう街並みに浮かれる訳にもいかず、加えて人間関係にも不安が残る訳で・・・



「ミストリア 仕事で来てるんだし もう少し文句を押さえてくれると有り難いんだけど・・・」


〔そうね あの子が純粋に誰かを助ける為に行動を起こしていたのなら私も協力的になるのだけど 自分の野望に他人を利用する心根には賛同し兼ねるわ〕


「何言ってんだ 世の中そんなもんだろ 利用したりされたりな お互い様さ」


「身も蓋もないわね 完全に他人って訳じゃないんだから もう少し寄り添っても良いじゃないって話よ 一緒に仕事もしてるんだし」


「お目出度いな 血縁通しだって互いに憎しみ合う連中は居るんだぜ? 他人なら尚更だろ 無理なもんは無理 そればかりはどうしようもねぇよ」


「だな 結局仲なんて理屈じゃない訳よ」

「実際 交遊関係だけで閉じ籠ってちゃ集落みたいになるからな 相手にも相手の事情があるって そこは線引きしてかないと色々やってけねぇぜ」


〔・・・理解はできるけど 納得はしかねるわ〕



 相手は他者と上手くやれるのに自分とだけは距離がある。此方に比があるのか或いは相手が理由を抱えるのか。それは分からないけど他人では計れない境界線のようなものが、意識無意識関係なく強烈に引かれているように、まさに水と油の関係で彼女達を隔ててる。


 混ざりに混ざって乳化でもすれば、また違った側面が表れるんだろうけど、せめて互いに悪感情を募らせない程度の仲までは軟化させて欲しい。


 でないと今後一生、凝り固まった関係のまま硬直してしまいそうな気がする。



「やれやれ なぁロダリオ お前この街には詳しいのか? 少し観光案内してくれよ」

「お 良いねぇ 仕事で来てるとは言え さっきから建物が気になってしょうがねぇんだ」


「構わないが大雑把な説明になるぞ?」



 ルディアとミストリア。その片方がいない事もあって空気も正常に戻ったか、今度こそ素直に心踊らせるターヒル達は、ここぞとばかりにロダリオに観光案内をせがんだ。


 正直言うと僕も気にならない訳ではない。行き交う人々の灯す色は兎も角として、脳内地図を埋める作業は僕も心踊る。



「今歩いてるこの通りはメイン通りで東西に伸びているんだ それを挟むように大きな施設が建っている 劇場 闘技場 各種商店 その全て貴族が取り仕切ってるんだ もちろん個人商店もあるが残念ながら日の当たる所にはない」


「闘技場かぁ 興味あるな」


「あぁ まぁ なんだ・・・その あまり気持ちの良いものじゃないぞ? 特に女性陣には な」


〔大体の想像がついたわ〕



 人権が捨てられた紙クズ並みの街でその舞台に立たされる者は何者か、それを考えると真面な神経をしてる人は眉をひそめるだろう事は僕にも予想できた。


 果たしてこの闘技場の土台は何で造られてるのか。たぶん数多の血肉と怨嗟だろう。演目も含めロダリオの言う通り、気持ちの良いものじゃないのだろう。



「それにしてもあまり食べ物の匂いがしないね 露店とかないの?」


「この通りに至ってはないな ほぼほぼ貴族御用達な店ばかりだから 露店を見たいなら裏も裏 奥地に行くしかない」


「そう言えば冒険者人口って少ないんだっけ」


「ああ ダンジョンの数もそうだが 資源としても弱いものばかりでな もちろん深層まで到達してる訳じゃないが 費用対効果が割りに合わないと冒険者はあまり寄り付かないんだ そんな訳でこの街の繁栄は人の欲で支えられてるって訳だ」


「うげ マジかよ まんま集落じゃねぇか」

「でもよ 考えてみれば見映えのいい建物も闘技場も それが欲しいと思ったから存在してるんだよな」


「バランスの問題よ 知ってる? ハルメリーにあるカストラ商会の宿 外観が派手で周りの景色から浮いてるの でも貴族には受けが良いだってさ 信じらんない」


〔あの子の家を見ればまぁ 貴族のセンスなんてそんなもんでしょ〕


「なる程な 連中の頭ん中にあるのは見栄の張り合いってか 救えねぇ」



 人間お金が有り余ると趣向は何処に向かうのかと考えさせられる。例えば冒険者が力で地位を勝ち取るように、貴族も金と権力が武器とするならば、それは振るって当然のものとなるのだろうか。


 ただ相手がモンスターから人間になるだけで・・・



「こっちだ」



 ロダリオの案内で賑わう大通りから横道に逸れる。いわゆる裏通りに入った訳だけど、そこを進むにつれて喧騒は止み華やかさも徐々に消えていった。


 それは行き交う人の感情にも反映され、裏道を歩く人生を表すよう心にどこか暗がりを宿してる。



「ここらは貴族の仕切ってる店ばかりだ だからってトラブルがない訳じゃない 気を付けてくれよ?」


「明らか人相が変わってきたな 店員がしていい顔じゃねぇ」



 看板でもある筈の店先には何故か数人が僕達を訝しむようにたむろしていた。一見さんお断りの店だろうか。でも歩けど歩けど建ち並ぶ店の雰囲気は変わらない。目の見えない僕にも伝わる。ここは雰囲気が悪いと・・・


 そんな通りをロダリオを先頭に歩いていると、ふとマルティナが別の小道に意識が奪われてるのに気が付いた。最初は訝しんでいたそれもしばらく注視していると段々と確信めいたものへと変わっていく。



「ねぇ あれ・・・ 人じゃない? 人が倒れてるわ」



 言われた先を意識すると確かに色が地面に横たわっている。



「ほっとけよ どうせ酔っぱらいだろ」



 ユシュタファはそう言うけど感情が色付いて見える僕には分かった。あれは明らかに苦しんでる人の色だ。少なくともおふざけで出せる色じゃない。



「いや 違うよ 本当に倒れてる」


「そうよね 助けなきゃ」


「チッ おい ほっとけって!」



 僕達が倒れている男性に近付くと案の定彼は苦しそうに呻き声を洩らしていた。呼吸は荒く喋る余裕もなさそうだ。



「ちょっと・・・ 血 血が出てるわっ」



 男性は具合が悪いとかではなく、この街に似つかわしい深刻なトラブルに見舞われていた。マルティナ曰く横たわって腹部を押さえているものの、そこから血が止めどなく溢れているらしい。



「ど どうしよう・・・ こ こう言う時は確か布かなんかで傷口を押さえる だったっけ」



 身に付けていた小物入れから応急処置用の布を手にすると、男性に近付いて出血している箇所に手を置き圧迫する。たぶんギルドの講習で習ったんだろう。マルティナは震えながらもテキパキと動いた。



「ダメ・・・何か止まらない これ本当に合ってるの?」


〔・・・マルティナ 血って水よね だったら 水魔法さん この人の傷口辺りの血 止められる?〕

『ん~ たぶん出来るー』



 確か血を失いすぎるとショックで死に至ると聞いた事がある。ならばこの対処法は合ってる訳だけど、止血が完了したとして次はどうするか。この近くに診療所でもあれば良いんだけど。あるのかな・・・



「おい 応急処置したならとっとと離れるぞ」


「ダメよ! ほっといたら死んじゃうわ!」


「言いたい事は分かるけどよ どうも・・・ トラブルの臭いがすんだよなぁ」



 まぁこの街でこの街らしい状況で倒れているのだから、それはそれはトラブル臭しかしない訳だけど、それでも倒れている相手に咄嗟に動けるのは凄いと思う。


 もしこれが僕一人であったなら果たして正しい対処ができただろうか。それ以前に動けただろうか。現に今、僕は立ってる事しかできないでいる・・・



「ん? おい ガキ共 こんなとこで何してやがんだ ここはガキの来るとこじゃねぇぞ・・・ あ? おい それ ミッチじゃねぇか? テメェ等ミッチに何しやがった!」



 マルティナ達が怪我人の手当てしていると近所の人と思われる男性に唐突に怒鳴られた。どうやら倒れている男性とは顔見知りらしく僕達を犯人と思い込んでいるらしい。



「応急措置よっ この人お腹を刺されたらしくて 今止血をしているわ ねぇ ここら辺に診療所みたいな場所とかある?」


「診療所? それよか命に別状はないんだな 血は止まったんだろ?」


「何言ってるの! ちゃんと治療しないと死んじゃうかもしれないじゃない!」


「ここいらに俺等みたいなのを診る医者なんざ居ねぇよ 血止まったんなら後は俺がやるから 取り敢えず店ん中まで運んでくれ」


「はぁ!? 店って──────」

〔マルティナ 言っても無駄っぽいわ 言う通りにしましょう〕



 取り敢えず医者は居るらしいのに心に迷いが生じるこの男性にとって、ミッチと言われたこの人は知人か仲間か友人か、はたまた赤の他人だったのか。


 それとも人間関係ですら街の形で歪められてしまうのか。規模の割りにどうにも窮屈だ。



「うう・・ セブラ・・・」


「ミッチ? おい 大丈夫か! どうしたんだ! 誰にやられた!」



 どうやら意識はあるようだ。絞り出すように掠れた声で男性の名前を呼ぶミッチ。安堵したのか自分の状態そして周りの状況を確認するように意識を配べている。


 ここまでくれば命が助かるのか・・は分からないけど、何か確信めいたものでもあるのか彼はみるみるその色を変えていった。


 悪い方向に・・・



「こいつ等・・・ こいつ等に 刺された」


「ああ!? どう言う事だ! テメェ等どこのもんだ!!」


「はぁ? なに 何言ってるの? 私達はただ この人が倒れていたから助けようと・・・」


「助けるだぁ? 適当ぶっこいてんじゃねぇぞ! 自分誤魔化すのに必死かぁ!? どうせ他のシマのもんだろテメェ等!」


「ふざけないで! 私達はこの街の人間じゃないわ!」


「そう言や許されると思ってんのか!? おーーい! お客さんが来やがったぜ! 全員で歓迎してやれやっ!」



 セブラと呼ばれたこの男性は自分の店に向かって大声で叫んだ。するとそれを耳にしただろう数人が空かさずゾロゾロ中からやって来る。


 その手には余すとこなく武器が握り締められて、こんな状況が日常茶飯事である事を物語った。



「んだ ガキじゃねぇか」

「おい ミッチの奴 刺されてんぜ」

「ガキにやられるとかどんだけだよ」

「まぁ何にせよ テメェ等もう帰れねぇけどな」



 ここがどんな店かは分からない。分からないけど店員の全員が悪どい感情で彩られていた。たぶん荒事を生業にでもしてるのか、話し合おうとする気配すら見せない。


 そんな人達に囲まれる中、不意にロダリオが前に出て服の内から何かを取り出すと、彼等の前にそれを唐突に突き付けた。



「俺達は本当に彼を介抱してただけだ 他意はない それはルンドレン伯爵家の名代として このロダリオ・ウィンスターが保証しよう」


「はぁ? ・・・っ! これ ルンドレンの 記章・・・?」

「本物か?」

「いや でも・・・」

「この街で貴族の名前を語る事の愚かさを知らない奴はいないぜ」

「じゃ モノホンだってのかよ・・・」


〔傷口が塞がった訳ではないわ 魔法で血を止めただけだけど これ以上助ける義理は失くなったみたいだし 後はあなた達に引き継ぐわね〕












「信じらんない! 何なのよアイツ!!」


「もしかしてあの人達 最初から僕達を嵌めるつもりだったのかな・・・ それにしては致命傷だった気もするけど」



 あれから記章1つで丸く納めたロダリオに連れられ歩く僕達は先程の出来事に悪態をついていた。此方の善意が踏みにじられたともなれば誰だって文句の1つも飛び出すと言うものだ。



〔違うわ 本当にトラブルにあったけど 私達を見て咄嗟に金を巻き上げられると踏んだみたいね スキルで確認したから間違いないわ〕


「だからほっとけって言ったのに」


「そう言う訳にも いかないじゃない・・・ 冒険者は助け合いが基本よ」


「ああ言うのは思考が打算で出来てんだよな 損得勘定っての?」

「詐欺やら美人局やら 裏はどこもそんなんばっかだぜ」

「騙されるのが悪い 性善説が通じるのは常識がある奴だけだって」


「はぁ~ っとに! ここの街の兵士は何やってるのよっ」


「たぶん何もやってねぇんじゃね? 貴族のペット だから治安が終わってんだろ 取り締まる奴が仕事サボると 治安のレベルも下がってくんだよな それに比例して住民の人間性も低下すんだよ」


「そう言う人間を貴族は利用する・・・ それじゃ改善の兆しも見えないね」





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