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360・スプリントノーゼの実状

前回のあらすじ


ルディアの条件を飲んでスプリントノーゼに向かう事にしたユシュタファ一行の前に現れたアネット・マルティナ・ミストリアの3人は、自分達も仕事に同行すると言う。渋るユシュタファだったが、雇い主権限で同行を許可するルディア。それでも懐疑的なユシュタファにアネットは自分の動悸を語るのだった。

「すっげぇ! 建物でっか!」

「おい あっち塔が建ってるぜ」

「あの丸い建物は何だ?」



 入場待ちの一般人を尻目に貴族特権でスプリントノーゼに入った僕達は、再びこの異様な喧騒に晒される事となった。ユシュタファ達は初めてのスプリントノーゼと言う事で、ハルメリーには無い発展具合に感嘆の声を漏らすけど、怖い思いとか酷い思いとか経験した僕達は彼等と比べて素直に喜べない。



「フフン どう? ここが私の暮らすスプリントノーゼよ 凄いでしょう」


〔表面だけを見れば確かに凄いわね でもこれから触れるのは裏の部分 それを見たら街の見方も変わってくるでしょうね〕


「ハルメリーを持ち出しても勝ち目がないからって負け惜しみかしら? 素直じゃないわねぇ せっかくの都会だと言うのに気分が萎えるわ」


「いや 萎えるのはお前等の言い争いのせいだよ・・・」

「何でそんなに仲悪いんだ?」



 ターヒル達の指摘の通り、彼女等のどちらかが口を開けばその都度言葉の応酬となる。最初こそ2人の関係に興味を示したユシュタファ達も、道中継続されるネチネチした(いさか)いに次第に意気は消沈し、街に着く頃には車内全員の精神をガリガリと磨耗させた。



「まぁ 観光したい気持ちも分かるけど まずは私の家に行くわよ そこで詳細と作戦会議を開きましょう」


「作戦会議もいいけどよ この規模だ 俺達だけで薬の製造拠点なんか見付けられるのか?」


「問題ないわ 貴族の庇護から外れた奴の情報なんて そこらに転がってるわよ」


「ならいいんだけどよ・・・」



 アテでもあるのかルディアはどこか楽観的だ。勝手知ったる自分の街と言ったところかな? それでも貴族宅ですら直接命を狙われる程の街の治安だ。ルディアにおんぶにだっこって訳にもいかない。


 華やかな街道をパカパカ馬の蹄の音を聞きながらしばし馬車に揺られていると、目的地に着いたのか車輪はその動きを止めた。変わりに聞こえてきたのはやはりユシュタファ達の感嘆の声だった。



「何だこれ これが家? 城の間違いじゃないか?」

「貴族って何なんだ・・・」


「ビビる事ぁねぇよ ここに金が集まるってだけの話だ」


〔ユシュタファの言う通りよ 犯罪都市で利回りが良いと言う事はお世辞にも誇れる事ではないわ この主張するようにそびえる建物の厚さはそのまま面の皮なのよ〕


「あらあら 貴族は稼いでなんぼじゃない 見た目が財力を表して それが信頼に繋がるのよ おっと・・・もう貴女には関係ない世界のお話だったわね」



 些細な会話ですらこの2人にかかれば口論の種となる。そんな香ばしい空気に触れてターヒル達もげんなりと現実へ引き戻されていった。まだ仕事に取り掛かってもいないと言うのにこの調子じゃ先行きも不安になると言うもの。



「いいから もう行こうぜ・・・」



 そんな僕達にユシュタファも何か諦めたように呟いた。


 僕が建物を把握する際、屋内の反響も然る事ながら実は直感的に匂いの方が早かったりする。鼻から吸い込んだ空気が鼻腔を通じ、その家の歴史を如実に伝えてくれる。


 例えば冒険者ギルドなら汗と鉄の匂い。バウゼン伯爵邸なら数多の香辛料の匂いと言った具合に、この家もまた僕達の生活圏ではかがない洗練された匂いを放っていた。これはたぶん香水だろうか。



「うぉぉ・・・」



 玄関ホールに入っても外観に負けず劣らず此方を圧倒する程の内装を呈していた。もちろん僕は見る事ができないのでユシュタファ達の感情から読み取った感想だけど。


 ルディア相手に突っぱねた態度のユシュタファだったけど、さすがに現実を理解させられたのか借りてきた猫のように虎が大人しくなった。その反応に優越感を得たのかルディアは何だかご機嫌だ。



「フフ まぁ上級貴族ともなれば これくらいは当然よね」


「・・・そうかよ」


〔ユシュタファ ここのお宅は庭園も立派よ? そう言えば賊に侵入されてボロボロにされちゃったみたいだけど大丈夫だったかしら 心配だわ〕


「えぇお気遣いなく 誰かさんのせいでとばっちり食らったのは極めて遺憾だけど この街で貴族に手を出した連中がどうなるか そっちを心配するべきね」


「お前何やったんだよ」


「ミストリアの言う通りよ 表の華やかさに浮かれてると 通り魔に刃物向けられるって話」


「はぁ?」



 すっとんきょうな声を出すユシュタファだけど、この街の治安の程は後々体感できるだろう。とは言え今は今後の事だ。旅の疲労もあるけれど善は急げ、広目の部屋に通された僕達はそこでこれからについて話し合う事となった。



「で? こうしてスプリントノーゼにまで来た訳だがどうすんだ 製造拠点に心当たりでもあるのかよ」


「あなた達の言っていたナイームだっけ? 出入記録に名前があったわ でも出た記録は無いの だったらまだこの街に居る筈よ」


「はぁ? 名前があったら何なんだよ そんなもん無視して出てきゃ記録なんか付かないだろ」


「甘いわね 街の門はこのルンドレン家が受け持ってるの 貴族から許可を貰ってる者以外 必ずチェックがされてるわ」


「いやチェックって・・・ んなもんすり抜けたら意味ないだろ」


「ないわよそんな事 絶対にさせないわ」



 そう発したルディアの声には妙な重さがあった。それは責任とか自信とかそう言う感じではなく、どちらかと言うと抑圧とか恐怖とかそんな・・・


 何にせよ手抜かりはしないと言う意気込みだけはひしひしと伝わってきた。



「この街の外壁はかなり堅牢でね 侵入と言うか・・・脱出を許さない造りになってるんだ その意味するところは想像に任せるが ともあれ貴族の後ろ盾がない者は記録なしに街から出られないと思ってもらって構わない」


「ロダリオもここに家があるの?」


「いや そうじゃないが 王都と比べても遜色ない構造してるからな あそこは例外的にダンジョンで内外が繋がってたりはするが ここは違う 気になるなら直接見てみるといい」


「なる程 自力で脱出は困難だってのは分かった そうなると目星を付けての捜索になる訳だが 俺達には土地勘がねぇ」


「そう難しくはないわ 街の施設の数々は貴族達によって管理されてるの 当然それらを利用するにはお金が必要だし 貴族の許可無しには勝手も許されない つまり権利から外された者が向かう先なんて1つしかないのよ」


「スラムってか ・・・何処にでもあんのな」


〔この街の有りようだと むしろスラムの方が大きいのじゃない?〕


「スラムにもスラムの権力構造があるわ でも殆どが貴族の下部組織 自由の身でいられる場所なんて限られるのよ」


「まるで華美な牢獄みたいだわ この街」



 マルティナの感想は的を射てるかもしれない。自身の置かれている状況から身動きがとれないとなると、街が大きいとか建物が凄いとかは関係ない。


 更に誰かの視線にまで怯えなければならないとなると、いよいよそこは牢獄だ。地獄と言い換えてもいい程の・・・



「今ので大体察したぜ なら俺達は心当たりを探してみるわ」


「あら 土地勘無かったんじゃないの?」


「こんな街だ 必ずアーキア人で纏まってる筈だ そこを当たる」


「ユシュタファ達だけで大丈夫?」


「他の奴が行ったって警戒されるだけだぜ 特に貴族丸出しの奴とかな」


「それなら仕方ないわね 内から溢れるオーラは隠しようがないもの」


〔遠慮しないで付いていったらいいじゃない 庶民相手にマウントとれるわよ?〕


「結構よ 貴族は貴族にしかできない事があるの 私はそっちからアプローチするわ 貴女こそもう庶民なんだから高望みしないで彼等と一緒に行動したら?」


〔言われなくてもそうさせてもらうわ 元々私達がここにいる理由ってアネットを助ける為であって 御貴族様のご機嫌伺いする為ではないもの〕



 問題可決の為にチームを組んだ筈が早々に亀裂が生じてしまった。これじゃ何の為に組んだんだか分からない。街の実情を把握してユシュタファなりに筋道は立てられたみたいだけど、いざと言う時の結束力が弱くちゃ成果も手からこぼれ落ちてしまいそうな気がする。


 これは行動より先に意識改革が必要みたいだ。





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