36・忍び寄る変貌
前回のあらすじ
ミストリアに何やら変化があったようだ。
マルティナの頭から何かが駄々漏れているらしい。以前はミストリアから駄々漏れていたものが今はマルティナに移ったようだ。
ミストリアの魔法が暴走状態であるのが原因らしいので次は僕の番なんだろうか・・・怖いけどちょっと気になる。
「どうなってんのよこれ! こんなっ! 思ってもないっ! 言葉がっ!」
「わー! ソフィーもー!」
必死になってバチャバチャ拒絶するマルティナとオモチャみたいに遊ぶソフィリア。何をそんなに焦ってるのか知らないけど無秩序に現れる現象ならまだまだ外には出せないな。
「ね ねぇ 何が出ているの? 言葉?」
「アネットは知らなくていいのっ!」
〔────・・・・──────・・──〕
「はぁ!? まったく・・・ はぁ しょうがないわね これはまだまだ訓練の必要がありそうね」
〔・・───・・・───〕
「分かってるわよ」
僕にはスキルの概念も魔法の理屈も分からない。これはそう言うものなんだと当たり前のように思ってるから。
でもミストリア魔法に関しては「特殊」なんだそう。魔法の普通は詠唱と言う決められた文言を言葉にする事で不可思議な現象を現実にするのだけど、彼女の場合言葉が話せないにも拘わらず魔法が行使できている。
分からない事づくめだけど使えなかった魔法が使えるようになったのはかなりの前進だ。
「ねぇ 僕も何か手伝えないかな ミストリアを引き取っておきながら家に籠らせっぱなしじゃ申し訳ないし・・・」
「それはダメ! アネットが近くに居たら この子どんどん悪化するわ!」
「えぇ~!? それはどう言う・・・ え 僕? 僕が原因なの?」
「うふふふ そうね アネット君がいたら良くなるものも良くならないわね マルティナはしばらくミストリアちゃんに付いていてあげなさい」
「はぁーいっ」
家長のオフェリナ叔母さんの言う事は絶対だ。なので明日は1人でギルドに行くとしよう。
朝。
家族に「行ってきます」の挨拶をしてギルドに向かう。旧市街の小道から大通りへ。
まだ朝早いこの時間でも通りは人の流れが出来ていて、ギルドに近付くにつれて脇道から徐々に人が合流してくる。
これがハルメリーの朝の風景なんだけど、この日に限ってその流れは悪かった。目的地まで後ちょっとと言う所で人の流れは止まってしまった。
前の方で何かあったのかな。周囲の冒険者達も「何だ?」「朝から誰か喧嘩でもしてんのか?」「勘弁してくれ仕事取られちまう!」等々文句が飛び出して段々怒号へと変わっていく。
僕も何かあったのか周囲の会話から情報を探ろうとしたけれど、鎧やら筋肉やらが僕を潰してそれどころではない。助けて・・・
「アネット? 良かった ようやく知り合いに会えたぜ・・・」
この声には聞き覚えがある。肉の壁を掻き分けて僕に声を掛けたのは、以前キラーラビットの大群から共に生還した職人家系の冒険者ルミウス。
「ルミウス こんなに人が集まって 前の方で何かあったのかな」
「あぁ お貴族様だ」
「・・・え? お貴族様?」
「ここ最近ハルメリー周辺でモンスターの分布がおかしいだろ? 未だに改善が見られないと業を煮やしたどこかのお貴族様が 事態の収拾に乗り出して広く冒険者を雇うらしい
んで その貴族がギルドの前に陣取っているせいで ここは苛立つ冒険者達の芋洗い状態だ」
モンスター分布の問題は以前から指摘されていた。しかしいつまでも改善されない事に各所から不満が出ていたらしい。
依頼の不履行や失敗。その矛先はギルドに突き付けられる。こんな事態になったのも当然と言えば当然か。
「静聴ーー!!」
やや高くも良く通る声が辺りに響き渡ると、罵詈雑言を捲し立ててた冒険者達は皆一様に押し黙った。
「昨今 このハルメリー近郊でモンスターの分布の変動による被害が各所に出ている!
周辺の畑や家畜は言うに及ばず 物の流通にも影響を及ぼしている!
にもかかわらず! ギルドは一向に解決策の指針を示さない! この町を支える鉱石類や生活物資の輸出入が滞れば! 物価の変動により市場価格の高騰! 何より我々の生活に大きな影響が出る事は間違いない!
今こそ力ある者が決起しこの事態に挑まねば! ハルメリーの町は近い内に畜生共のされるがままになるだろう!
この町は危機に直面しようとしている! およそ知性もなく他者を喰らう事しか能の無い無慈悲な捕食者が! その牙を爪を我々に突き立てようとしている!
諸君らはそれを座して待つ肉袋か!? 断じて否である!
冒険者こそがこの社会と秩序とそこに住まう人々を守る剣であり盾なのだ!
冒険者とは自らの力で未来を勝ち取る存在である筈だ! だからこそ数多の種族の中で繁栄する事を許された! だからこそ尊い存在なのである!
なればこそ! 今直面している現状は! 人類とモンスターとの全面戦争であり! 我々はこれを乗り越え勝利をこの手に掴み取らなければならない!
アゼルジャン・バウゼンの名の元に勇気ある同志を募る!
それにともない もしこの危機の元凶を突き止め 我々に牙を剥いた愚か者に正義の刃を振り下ろした者には 金貨600枚!
これを支払うものとする!
敵は獣である! いちいち理由を問う必要はない! 情をかける価値もなし! 見つけ次第即刻斬首せよ!!」
呆然と聞き入っていた冒険者達は金貨600枚と聞いた瞬間色めきたった。最初は半信半疑だった聴衆もざわめき声が大きくなるにつれ、疑いは次第に確信へと変わっていく。
これも群集心理なのか。ここら一帯は嬉々とした感情で埋め尽くされていく。
「おーーーー!!」
「マジかよ!! さすが貴族様だな!」
「ギルドもこれくらいやりゃ~ 良かったのにな!」
「くー! これなら貴族に仕えた方がいいんじゃねーか!?」
彼等は思い思いに貴族を持ち上げるけど、僕にはどうにも彼の言葉尻に違和感を感じた。彼の感情を見ようにも沸き立つ冒険者達の色に隠れてその内心を知る事ができない。
「聞いたかアネット!! 金貨600枚だってよ! こうしちゃいられないな! リッタやエデルにも教えてやらないと 誰かに手柄を取られちまう!」
「ルミウスちょっと待って って うわっ!」
浮かれたルミウスを止めようとしたけど彼と同じ感情に取り憑かれた筋肉達に押し流されて、しばらくゴツゴツした流れに揉まれる事となった。
「うぅ・・ 酷い目にあった・・ 今日はマルティナ達が家に居て正解だったかも・・・ 盲目さんは大丈夫だった?」
『潰されそうになった~ 欲望怖い~』
何処とも知れない岸辺に押し流された感の僕は、這這の体でギルドに辿り着いた。しかしその頃には例の貴族の遣いの人も姿を消していた。
あんな事があった為かギルドのホールは閑古鳥が鳴いている。ガランとしたギルドホール。これはこれで新鮮だ。
「アネット君!?」
「ポリアンナさん おはようございます 何だか大変な事になりましたね」
「まったくよ! どこぞのお貴族様が勝手な事してくれたお陰で 只でさえ仕事が滞ってるのに! これじゃ完全に機能が停止しちゃうじゃない!」
冒険者達は金貨600に湧いたけどギルドとしては嬉しくない悲鳴が上がったようだ。自分の店先で客を奪われた様なものだから恨み節にも納得できる。
でも状況が改善してほしいのは僕も本音であって、誰でも良いので早々に終止符を打ってもらいたい・・・とはポリアンナさんの前では口が裂けても言えない。
「アネット君・・・ 何か言いたそうな顔してない?」
「そ んな事ないですよ・・・?」
「はぁ~ 分かってるわよ でもギルドだって何もしていない訳じゃないのよ? モンスターの動きには常に目を光らせていたし 異常な行動が確認されたら調査に乗り出してたし
そもそも同じ状況が隣の領地で起こったから国に騎士団の要請を出したのに そっちで手一杯らしくて 中々こっちに来てもらえなかったのよ~~~!」
ポリアンナさんはここぞとばかりに愚痴るけど事はそう簡単じゃないかもしれない。
ラトリアの話によると騎士団とは様々な知識と教養を身に付け厳しい訓練過程を終えた選ばれし精鋭部隊・・・だそうで、そんな彼等を一ヶ所に釘付けにするなんて結構な大事なのではないかと。
「う~ん 騎士団が手を焼く事態がこっちに飛び火した場合 冒険者を霧散させたのは悪手かもしれませんね」
「そう・・ そうよねっ アネット君もそう思うよねっ!」
「は・・ はい」
とは言え冒険者とて長年培った経験と勘と実績がある。金に目が眩んだ彼等なら必ずやこの町の盾となるであろう。今はそう思うしかない・・・
「おぃおぃ こりゃどうなってるんだ? この時間帯に人がいないギルドなんて初めてじゃねーか 冒険者追い出して大掃除でもおっ始める気か?」
「違うわよ 高額報酬に目が眩んだ冒険者が 町の外の大掃除に繰り出したの!」
「おはようございます ジョストンさん」
「おぅ で? 何があったんだ?」
「それが・・・・」
僕は早朝にギルド前で起きた珍事をジョストンさんに掻い摘んで説明した。
「成る程な・・・金貨600枚か こりゃ~俺達も乗っかっといた方が良かったか?」
「ジョストンさんっ!!」
「まぁそう怒んなさんなって それにしても大金ぶら下げられているのに アネットは行かなくって良かったのか?」
「何と言うか・・・彼の言葉に引っ掛かる点があったもので・・・」
彼は最後にこう言った。
要約すると「相手は獣 理由を問う必要も 情を掛ける必要もない 我々に牙を剥いた愚か者 元凶を取り除いた者には金貨600枚」
並べ直すと疑問が浮かぶ。
「まず相手はモンスターなのだから理由は問えません 冒険者も彼等に情は掛けません
次に「元凶」と言いましたがそれが何なのか知っていなければ 報酬など渡せません
単純にモンスターを討伐させる為の強引な芝居ともとれますが・・・ 僕には『元凶』が何なのか知っている気がしてならないんです」
「口ぶりから・・・か」
「どちらにしたって! ギルドにとってはいい迷惑よ!」
「でもまぁ 逆に言えば今なら割りのいい仕事が選び放題だな こんなに大量の仕事が張り出されたままの掲示板なんて 始めて見るぜ」
「そう! そうなのよっ! って事でジョストンさん! 受けられる仕事はバンバン受けて ドンドン消化していって下さいね!!」
「無茶言うなよ! それよかアネット お前今日は1人か? 最近は女の子とパーティー組んでるそうじゃないか」
「それが今日はちょっと事情があって 今は自宅待機中です」
「そうか・・・じゃ 丁度良い 久しぶりに一緒に仕事してみないか? 今なら選び放題だしよ」
「は・・はい! よろしくお願いします!」
と言う訳で僕はコドリン洞穴2層にて採掘師達の護衛の仕事を請け負う事になった。僕にとっては初めての2層、ベテラン冒険者が3人もついているので何かと心強い。
書類上の手続きを済ませた僕達は採掘師達のいる職人通りの待合室へと向かう。そこで彼等と合流して洞穴へ一緒に向かうのだけど、大通りの有り様を見た採掘師達は閑散とするその変貌ぶりに唖然としていた。
「これ・・・ 影響出んのギルドだけじゃなさそうだな・・・」
「よぅジョストン それにアネット」
「ゴドウィンさん ロゼリーヌさん おはようございます」
コドリン洞穴の手前に到着すると入口にはジョストンさんのパーティーメンバー2人が待機していた。仕事の選定はジョストンさんに一任しているようだ。
「ねぇジョストン さっきから冒険者が誰も来ないんだけど 町で何かあったの?」
「あぁそれな どこかの貴族が 不明瞭な情報を元に外のモンスター討伐 その大元を叩いた奴に金貨600枚出すんだそうだ」
「何だそりゃ! そんなんでホントに600枚も出すのかよ! 何だか眉唾だな・・・」
「それに情報のすり合わせの無い依頼なんて 不確実な仕事に手を出したくはないわね 下手しなくても 冒険者同士のいざこざに巻き込まれる未来しか見えないもの」
「うちのパーティーは冷静で安心したぜ そんな訳で仕事選びも時間をかけて じっくり精査してきたからな 今回は安全かつ割りの良い仕事を持ってきたぞ?
それと今日はアネットも一緒だ こいつのお仲間は用事があるとかで来られないみたいだから 俺が引っ張ってきた」
「よろしくお願いします」
「おぅ よろしくな!」
「よろしく~」
目指す目的地は地下2層。
気を抜いて良い訳はないが肩肘はって体を固くするのも良くない。なので世間話や近況報告を交えながら奥へと進む事にした。
その中でウェグナスに話が及ぶと親としては子供の普段の様子が気になるのか、2層の目的地にたどり着くまでゴドウィンさんの自慢の息子談義に花が咲いた。
「ここが2層・・ 1層とあまり広さは変わらないですね」
「まぁ まだまだ上層階だからな」
「でも・・・ 言葉で説明し辛いんですが 何か濃い気がします」
「濃い? 空気がか? 特に違いが分からんが・・・」
『む~ 何か違う気がする~』
“盲目さん”も僕と同じ意見のようだけどそれを上手く言語化できない。でも敢えて表現するならピリつく・・・かな?
そんな不明瞭な雰囲気の中を採掘師の指示で現場まで歩いた僕達は、仕事に取り掛かる彼等の護衛に就いた。普段通り決められた作業に移る採掘師と周囲に気を配っていると、ここにきてある変化に気付く。
「あの ジョストンさん 何も起こらなさすぎじゃありません? さっきから1匹もモンスター出てきませんし ここに来る途中も1度も接触しませんでした」
「・・・だな」
ジョストンさんもそれとなく感じていたのか警戒色が強くなっていた。これも外で起こってるかもしれない事がダンジョンにも影響してる?
そう思った矢先、僕の耳に人から出る足音ではない、軽くてモンスター特有の歩調が微かに届いた。
「後方 足音1」
開けた採掘場所の奥、通路の先から流れてくる。脳内地図によるとその相手はまだ通路のゆるいカーブの先にいる。
僕の声に素早く反応したロゼリーヌさんは弓の弦を絞るけど、視認するに至らないため矢を番えたまま微動だにしない。
しかし相手も相当警戒しているのか、壁を削る掘削作業の音のみが開けた空間に響くばかりでなかなかその姿を現さない。
正確にはもうすぐそこまで来てるんだけど、目と鼻の先といったあたりの洞穴の岩陰に隠れたまま動く様子が無い。相手は相当警戒してるのか膠着状態がしばらく続いた。
ロゼリーヌさんは挑発の意味も込めて矢を放つ。
壁に弾かれる音と共に相手はやはりモンスターだったか「ギャッギャッギャッ」と声をあげ、肉食獣に追われる草食動物ばりの脱兎で走り去ってしまった。
「2層のモンスターは1層と違って 相手との戦力差を推し量る知能を持ってるんですね」
「いいや あの鳴き声はコドリンウォーボルグだ あいつらは狂暴性が取り柄だからな 2層とは言えここはまだ入り口に近い 劇的に変化するのはもうちょい下だ 逃げるなんてまず無ぇよ・・・」
『アネット~ ここの皆 とっても怯えてるよ~?』
「怯えてるって・・・ 何か怖いのがいるの?」
『ん~ わかんない~』
“盲目さん”も洞穴の変化に敏感になっているようだ。原因が不明な状態で他の冒険者達がいない中、悠長に採掘なんてしていて良いのだろうか・・・
「ジョストンさん・・・これ 早めに引き上げた方がいい気がするんですが・・・」
「あぁ 偶然だな 俺もそう思った・・・」
僕は採掘作業に没頭する採掘師達に事情を説明する為に彼等の方に向く。さっきの事などまるで無かったかのようにせっせと壁を削る採掘師達の中に紛れて・・・
「それ」は居た。
「それ」がすぐ隣に居ると言うのに彼等は気付かないのか作業を止めない。
それだけ採掘師の集中力が優れているのか「それ」が自分の存在を悟らせない程の隠密能力を持っているのか。
僕としても振り向いたらそこに「それ」が居たと言う感じで察知できなかった。ではどうして「それ」が居ると分かったか。
色だ・・・
「ジョストンさん・・・あれ」
僕は極力相手に気取られないようジョストンに促した。
「おい・・・・アンタ 冒険者か?」
冒険者か? 何故冒険者と聞くのだろう。
それでは目の前にいる異様な感情を携えた「それ」は、まるで人の形をしているようじゃないか。
採掘師達は自分が話し掛けられたものとジョストンさんを意識するけど、まさか作業している自分達の傍らに「それ」がいたとは露程も思わなかったのだろう。
「それ」が目に入った瞬間思わず「うおっ」と声をあげて後ずさった。
その事態に気付いたロゼリーヌさんとゴドウィンさんも「それ」の異様さにただならぬ気配を感じたのか、言葉が通じるかもしれない相手であるにもかかわらず臨戦態勢をとる。
つまり今の今まで、この中の誰一人として「それ」の存在を認知できた者は居なかった事になる。
もし「それ」が敵であった場合、それは採掘師達の何人かに死人が出ていてもおかしくない事を意味した。
「おい 聞いてるんだぜ? それとも恥ずかしがり屋さんか?」
ジョストンさんが対話を試みるけど今のところ返事が無い。果たして言葉を話す事ができるのか。本当に人間なのか。この気配が察知できない相手は僕の感覚として未知との遭遇に近い。
何せ心が色付いて見えていなければ透明人間を前にしているのと同じなのだから。
ジョストンさん達も「それ」の力量を機敏に感じ取ったからこそ動かない。採掘師達の手も止まり洞穴本来の静寂が取り戻されていった。
緊張状態が漂う中で次にこの場面はどの様な様相を呈するのか全員が固唾を飲んで動けずにいる。
そんな中、最初に反応を見せたのは「それ」だった。
この異様な存在がどんな心境なのかは分からない。分からないけど僕達と敵対する意思はないのか、ゆっくり横に移動すると採掘師達から距離をとりそのまま洞穴の奥へと消えていった。
反響音がする筈の洞穴で足音すら無く・・・
以前旧市街の調査で幽霊かもしれない子供と相対したけれど、同じような異質さでも音がしない分こっちの方がよっぽど幽霊だ。
しばらく沈黙が続く中、誰かの息を吐く音が聞こえると次第に緊張が解けだして「何だったんだ? 今のは」等々みんな思い思いの感情が口から出始めた。
「ジョストンさん・・・今のは人間だったんですかね?」
「あぁ・・・獣みたいな耳と尻尾が生えてなけりゃぁな だがお前がそう聞くって事は 少なくとも 普通の人間とは感じなかったって事だよな?」
「・・・はい」
確かに異様は異様だけど僕がそれを異様と認識するのはジョストンさんが「それ」を人と表現したからで、僕の目からはモンスターの出す色に近い。
獣耳と尻尾があると言うし・・・
ともかくこの異例の事態に僕達は足早に帰還する事を決めた。帰りの道中は来た時と同じような無駄話はしない。そんな余裕は無い。
音が聞こえない相手。感情しかその姿を捉えられないのでどうしても辺りをキョロキョロ見回してしまう。
「そう気張るなアネット 後方の警戒は俺達に任せな」
「は・・はい・・」
感情とは行動に出るものだ。ジョストンさんの目にはさぞかし怯えているように見えただろう。
でも結果だけを見れば今回の仕事は「とても安全」だった。何せ帰りの道中も結局モンスターは出てこなかったのだから。
これは早急にギルドに報告すべき事案だ。外でも洞穴でもただならぬ異変が起こっている。
どちらが原因かは分からない。ただ洞穴内のモンスターが怯える程の脅威がハルメリーの町を包囲している。そう捉える方が自然だろう。
そして国の騎士団を足止めさせる猛威を、果たして足並みの揃わない冒険者達が対処出来るのだろうか。
今手元にある情報はあまりにも少ない・・・




