表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/357

31・ミストリアの可能性

前回のあらすじ


情報を得るためバードラットさんと契約することになった。

 僕達はバードラットさんとの対話を終えて帰路についた。しかし商人と懇意にする事のメリットにばかり目がいって、肝心な部分に思い至らなかった事に気が付いた。


 それは彼からもたらされる仕事内容と受け取る情報の中身が果たして釣り合いのとれるものなのか。


 もしかしたら色々理由を付けて良いように使われるだけなのでは・・・ 何だか今になって不安になってきた。どうしよう・・・


 とは言え。まずは情報を得ない事には始まらない。契約と言っても口約束なのだから期待はできないが。


 それでも何とか解決には持っていきたい。



「皆 今日の事は誰にも内緒だよ? 特にラトリアに知られたら絶対怒ると思うんだ」


「だったら初めから怒られるような事しないでよねっ 私だって納得してる訳じゃ無いんだから」


「わーい! アネットと2人だけの秘密ー!」


「2人だけじゃないでしょ!」


「あっ! そう言えば・・・・ 僕はどうやってバードラットさんの依頼を見付ければ良いんだろう」



 ★



「ミストリア 今日の仕事お休みにしたいんだ・・・ ・・・ちょっと買い物してくるよ」



 そう言ったアネットの様子は知り合って数日の私から見ても挙動が不自然だった。


 長年寝食を共にしているマルティナにそれが通用する筈もなく、何故ついていこうとするのか不思議に思っているアネットが私には不思議だった。


 そんな訳で私は今お世話になっているオフェリナ宅で小さなソフィリアと一緒にお留守番をしている。


 事故とは言え水魔法を使えた私は、何故あの時使う事ができたのか、あれこれ考察する毎日を送っている。


 しかし残念な事にこれと言った進展は見られない。2人のスキルさんを見ても変わった様子はない。


 スキルさんとの繋がりは心。


 私はスキルさんを個別の存在と見ていたが、アネットと出会って彼のようにお友達或いは家族として考えてみた。


 結果進展無し。


 もう取り戻せない程私達の関係は冷えきってしまったのかしら・・・ スキルさんの為にどうあるべきか。そう思って色々考えていたのだけど。


 心・・・心・・・心。心と言ってももう思い付く事がない。後は精々自分の事?


 もしかしてこんな事になっているのは自分のせい?


 心当たりは・・・ ある。


 言葉が喋れなくなって。魔法が使えなくなって。恨んで不貞腐れて。みんなスキルさんや他人のせいにした。


 父も母も嫌いになった。自分なんかどうでもよくなった。人を・・・信用できなくなった。


 字面にすると酷い。


 でも今は・・・ 目標がある。


 こんな私の手を引いてくれる人がいる。


 暖かい手。・・・信用 しても良いのだろうか・・・









 トントントン・・・


 来客だろうか。どこか上の空になっていた私を家の扉のノックが現実に引き戻させた。


 すかさずステテテテーとソフィリアが駆け出し扉を開けて「誰ですかー?」と質問している。できれば扉を開ける前に聞けると正解だ。


 後で教えてあげよう。


 開け放たれた扉の前に立っていた人物は他の誰でもない私のよく知る人物だった。


 私が生まれるずっと前からコルティネリ家に仕えている執事のルドマンその人だ。当然屋敷の中の順位も低くはない。それどころか筆頭を努め父も認める忠臣である。


 本来屋敷に控えて然るべき人物がここに何の用だろう。



「ミストリアお嬢様・・・ご無沙汰しております」


(今の私はお嬢様ではなく ただのミストリアよ)



 深々と頭を下げるルドマンに、私は会話用に用意してある紙とペンを使って返事を返した。



「ミストリアおねーちゃん この人お友達?」


(まぁ そんなところ)



 と、紙に書いたがソフィリアは不思議そうな顔をするばかりだ。あ・・そうか。この子はまだ字が読めないんだった。


 今度教えてあげよう。


 文字では伝わらないので取り敢えずコクコクと首を縦にふると「じゃー お茶いれます」と、トテトテ茶筒のある棚のところまで走っていった。


 可愛い。


 ルドマンを立ちっぱなしにさせとくのもあれなので家に入れる。


 しかしその立ち居振舞いはこの場所にはそぐわないと思った。染み付いた執事の貫禄なのだろう。外の誰かに見られると私が身バレする気がした。


 ここでは平民のミストリアで通っているのだ。



(それで 何の用?)


「はい 実はアネット様にミストリア様をお任せする際 生活費の工面をお約束しましたので そちらと お嬢様のお着替えをお持ちした次第でございます」


(それだったらルドマンがわざわざ来ずとも 他の使用人に任せれば良いのに)


「いいえ これは旦那様にも厳命されている事ですし 私とてお嬢様の身を案じない日はございません


 それで・・・お嬢様におかれましては 日々健やかにお過ごしで御座いましょうか」


(ここに来たのは正しかったと思うわ 今後の事はまだ分からないけど 確かな手応えは感じてるもの)


「左様でございますか 旦那様のご英断は間違いではなかった・・・ 私も心安らかにご報告する事ができます」



 父は何故アネットの元に私を寄越したのだろう。


 私が“失語さん”に魅入られると父は私を学園から呼び戻した。体面を気にする貴族にとって私は邪魔者だと思っていた。


 けど・・・


 もしそうではなかったら?


 父も貴族であるなら当然学園には通った筈。ならば学園の内情とそこに集う人間の本質も理解していたに違いない。


 彼等の目から遠ざけるなら監禁でもすれば良いのに・・・ でも同じマイナス等級のアネットの元に預けられた。


 盲目で冒険者。


 その確かさはこの目で見た。


 父はアネットに私を託したんだ。


 私は見捨てられてなんかない。



(お父様とお母様は お変わりない?)


「そうですね お体もいたって健康ですし 政務も滞りなく執り行われておりますが・・・ 長年旦那様方のお側におりますと やはり離ればなれのお嬢様を想い 日々気を揉まれておいでなのが伝わってまいります」


「お茶どーぞ」



 作りおきのお茶をお盆に乗せて、カタカタと音を鳴らしながらソフィリアがお茶を差し出した。


 この子の家事は見ていて危なっかしいが、そのひた向きさが愛くるしくてつい笑みがこぼれてしまう。



「此方のご家族とは 懇意にされているようですね ・・・正直申しますと お嬢様が家を出られる事に対して私は反対だったのです


 と言うのもマイナス等級保有者の扱われ方は歳を重ねた分 他の者より多く見てきておりますから


 仮に此方のご家族とは上手くやられたとしても 町の者達までそうとは限りません 中には悪辣極まる者もおります


 その様な者は此方が近付かぬよう気を付けていても 臭いを嗅ぎ付け何処からともなくやって来るもの・・・


 そうなった時に 手を差し伸べてくれる者がいないのです ともすれば近親者にすら見放される・・・」



 近親者・・・アネットにとってオフェリナは叔母だ。


 ではご両親は・・・



(大丈夫 アネットは強いわ それに支えてくれる人達だっている 彼は一人じゃない 私にお父様やお母様 そして 貴方がいてくれるように・・・ だから私も自分の事に専念できるのだもの


 私ね 最近やりたい事を見付けたの


 彼の中に可能性を見てから 私も何かを成し遂げられれば 同じように苦しんでいる人達に道を示せるのではないかって


 具体的に何が出来るかはまだ分からないけど 下を向いて塞ぎ込むなんて時間の無駄だわ)


「人は・・・誰と出会うかで こうも変われるものなのですね・・・」



 ルドマンのその一言は感慨深かった。まだ一歩踏み出せただけだけど、アネットとなら何処までも歩いていける。


 そんな予感がした。


 それからは互い近況報告してルドマンは来た時と同じように執事然とした態度で帰っていった。


 その後アネットとマルティナも程なくして帰ってきたのだが・・・・・










「ミストリア? その・・・頭の上に浮いてるの・・・なに・・・?」



 と、マルティナは私を見るなり当惑した表情でおたおたし始めた。ソフィリアも「何か浮いてるー」とはしゃいでしきりに私の頭上を指差していた。


 一体どうしたと言うのか・・・





〔きゃっ// ()()アネットが帰ってきたわっ 今日はこっそり胸元の空いた服を着ているのだけどちょっと大胆だったかしらっ 彼見えてないのよね?


 でも 見えていない筈の彼の視線が私の胸元に吸い寄せられていると思うと 段々と胸が高鳴ってくるわっ//


 こっ 今度こっそり顔のすぐ近くまで持っていってみようかしらっ// ハァハァ///〕



















 ・・・・・・・・・・・・・え?


 ななななななななな・・・何これ!?


 私の頭上には水で形成された文字の羅列が、あられもない文言で(つづ)られてフヨフヨと漂っていた。


 え・・・水の・・魔法・・・?


 そして・・・



『ミスティー!』



 今・・・懐かしい声が・・・



『わぁー ボク達の声が届いたー!』


『〔ボクの・・言葉が届く 良かった・・・ ボク ミストリアに謝れる・・・ ごめんなさい・・・ボク ミストリアの事沢山傷付けた〕』



 久しぶりに聞く“水魔法さん”の声。

 そして文字に現れた“失語さん”の言葉。



 あぁ・・そうか・・・単純な事なんだ。


 私もどこかで“失語さん”をマイナス等級って思っていたんだ。でも違う。スキルさんは等しくスキルさん。


 一方的に相手を決めつけるのではなく、理解しようと努める気持ちが大切だったんだ。


 私は“水魔法さん”そして“失語さん”と繋がった。そこに答えは見えていた。


 彼等を理解するだけじゃなく自分も見つめる事も大切なんだ。だって繋がっているんだもの。


 私は思いを魔法に乗せて表現してみた。何故そうしたか・・・


 今ならそれも出来ると思ったから。



〔良かった・・・想いが届いて・・ ようやく2人と話をする事ができるのね


 いいの 過去の出来事って結局は成るべくして成るものだもの 私達の出会いはきっと必然だったのだわ


 重要なのは 過去の教訓を活かして 未来の糧にする事よ 私達はその第一歩を踏み出したのだもの〕



 気付けば3人自然と寄り添っていた。


 頬を伝う涙は喜びか感動か安堵からか分からないけど、心の中の熱くて痛い気持ちがそうさせている事だけは理解できた。


 私達の気持ちは1つになって、ようやくスタートラインに立つ事ができた。


 しかし・・・どうしてアネットが帰ってきた途端あんな文字が浮かび上がったのだろう。謎が深まる。


 そこはかとなく前途が多難な道程が待ち受けていそうな気はするけれど、今は一段落ついた事に愁眉(しゅうび)を開くとしよう。



 そうしよう。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ