27・ギルド内見聞
前回のあらすじ
ミストリアがお漏らししたらしい。
謹慎も解けて最初の依頼を熟した翌日。僕は朝早くからギルドの隅で他の冒険者達の邪魔にならないように突っ立っていた。
マルティナは晴れて冒険者になった訳だけど、後任の職員が見付かるまでは託児所の仕事をするらしい。
僕だったら冒険者になれた事に舞い上がって、翌日には外に飛び出していた事だろう。マルティナはしっかり者さんだ。
ところで何故ギルドの隅で突っ立っているのかと言うと、キラーラビットの一件を反省して、事前の情報収集に勤しもうと思ったからだ。
今は不安定なミストリアもいるので万が一があってはいけない。そうは言ってもただ立ってるだけの作業にミストリアを付き合わせるのは申し訳ないので、今日はマルティナに臨時で預けてみる事にした。
小さなソフィリアとも打ち解けていたし、託児所の子供達ともきっと仲良くやれるだろう。
さて、気を取り直しギルド内でごった返している冒険者の声に耳を傾ける。
どこどこになになにが出た。
誰々には気を付けろ。
そんな端切れのような1枚1枚を拾い集め繋ぎ合わせてゆくと、今まで見えていなかった事が浮かび上がってきた。
例えば依頼に関係する決まり事で、依頼主は冒険者を指名できないのが鉄則なのだけど、それには抜け道があるらしい。
例えば仕事内容に報酬が釣り合っていない。文面は用をなさない等々。
どうやら特定の誰かに宛てた依頼のようで、それが分かる冒険者は手をつけない。
何故そんな事を? と思うけど、信頼できる人物にとか、裏取引があるとか、たぶんそんな感じなんだろう。掲示板に張り出されてるって事はギルドも黙認してるんだろう。
あと1番多く聞こえたのがモンスター分布の変化だろうか。僕もそのあおりを受けた内の一人だ。
簡単な薬草集めの仕事でモンスターの大群と鉢合わせた。希少植物採取のため危険なモンスターの領域に足を踏み入れても驚異は存在しなかった等々。
もはや情報の精査が追い付かないくらいのズレが生じているらしい。
なのでこの件に関しては冒険者のみならず国の騎士団も動いており、このハルメリーにも近々騎士団御一行様が駐屯するらしい。
何だか凄く大事になっちゃってるな。冒険者になったばかりだけど、しばらくはダンジョンメインで仕事を探した方が良さそうだ。
颯爽とした冒険には憧れるけど、勇気と無謀の違いくらいは分かっているつもりだ。
ではコドリン洞穴の噂は?
此方は変わりなく平和そのもの。ダンジョンが平和って言うのもおかしな話だけど、冒険者にとって安定してるって意味では平和だ。
でも都市伝説として語られてる噂ならある。
それはダンジョンの最奥にはモンスター達の町が作られてるんじゃないかって噂だ。眉唾な話だけど、上層で産まれたモンスターはそこで経験を詰んで下へと降りていく。
敵と戦っていく中で徒党を組んだり、勝つ為の工夫をしたりと知恵をつけていく。実際中層ではモンスターも連携をとってくるそうだし。
なので奥ではモンスター通しで会話をしたり、道具を使い僕達と同じような暮らしをしてるんじゃないかって・・・
ではどうしてそんなモンスターと出会わないかって話だけど、そこは都市伝説と言う事で。
でも僕は知っている。
洞穴の最も深いその場所には『ミーメ』と言う名の精霊さんが居る事を・・・
「ねぇ盲目さん ミーメはコドリン洞穴に住んでるの? ダンジョンって他にも一杯あるんだよね 居心地が良いのかな」
『ん~ ミーメはキラキラを作ってるんだ』
「キラキラって・・・宝石の事?」
『わかんない でもミーメはいつか世界中をキラキラで包みたいんだって言ってたんだ~』
「ミーメに会った事があるの?」
『うん ボクが暗闇に閉ざされていた時に キラキラを教えてくれたんだよ だからアネットと出会えたんだ~』
「そう・・・だったんだ?」
キラキラ・・・キラキラって何だろう。キラキラが何を指すものかは分からないけど、あれこれ邪推するよりも、名前の通り綺麗なものにしておいた方が良いのかもしれない。
その方が夢も広がって世界はキラキラだ。
「お アネットじゃないか どうしたんだそんな隅っこで」
「ジョストンさん こんにちわ 仕事終わりですか?」
「あぁ丁度な それより聞いたぜ? お前町長のとこの馬鹿息子とやり合って謹慎食らったんだってな ご愁傷さまだ
で? ここにいるって事は謹慎が明けたんだよな 何か仕事でも受けにきたのか?」
「いぇ 今日は以前の反省を活かしてギルドで情報を集めてたところです」
「情報って・・こんな隅っこにいちゃ~
お前・・・
まさかここで聞き耳スキルなんて使ってないだろうな!?」
「え 使ってはない・・・と思いますけど? そんなスキルもあるんですか?」
「いいか? よく聞けよ? ギルドってのは様々な情報が集まる場所の1つだ 中には国家機密レベルの情報まである だからギルドはこと諜報活動に対する防衛は厳重にしてんだ
そこにド素人が下手なスキルでも使ってみろ 一発でバレて重い罰則を受けるはめになる 下手すりゃスパイ容疑で国に捕まるぞ?
俺達の扱っているものは国にとっての資源なんだ その中には俺達にだって知られたくない情報も含まれる 世の中綺麗事だけで出来てる訳じゃないからな」
「は・・・はい・・」
「スキルさんのスキルってのは開示されているものもあるが 秘匿されているものも多いんだ 努力の末辿り着いた道の先は己の強みでもあるからな 基本教えないのが普通だ
そう言った未知のスキルにも対応するのがギルド職員なんだよ まぁ その道のプロって訳だ」
どうしよう・・・・ 今日1日ギルド内で聞いた話だけでも僕の中の世界地図はどんどんと広がっていく。
やっぱり情報は大切だ。知ると知らないのとでは今後の人生を左右しかねないのだもの。僕はもうそんな世界に足を踏み入れているんだ。
「あ~~~!! アネットだ~~~!」
物思いに耽っているとそんな情緒を吹き飛ばす空っ風のような声で、薪割り場の主人モーリスさんの娘カルメンが話し掛けてきた。
そして然も当然といった感じで無遠慮に腕を絡ませてくる。暑い・・・
「なんだアネット~ 彼女か~?」
「違いますよ 以前の仕事場でお世話になっていた親方の娘さんです カルメンどうしたの? ギルドに用事?」
「フッフッフ~ 実は私も冒険者登録したんだ~! それに・・・ じゃじゃ~ん!! 私もついに狩人さんと契約したんだよ~!」
「え!? カルメン冒険者になるの!?」
「ん~ 正確に言うと狩人の仕事と兼任かなぁ ホラ 狩人って狩りするじゃん? 基本雑木林で狩りするんだけど たまにモンスターなんかも見かけるんだよねぇ~
だ・か・ら ギルドの方でも依頼を受けておけば仕事の報酬と獲物の肉の両方でお得なんだよね~ ちなみに狩人の人達は大体冒険者の資格は持ってるよ? 私のお母さんも持ってるし」
「そうなんだ じゃぁ カルメンも大人の仲間入りだね と言う事は今日はギルドの仕事でここへ?」
「違うよ~ なんか家に新しく商会の人が来てさー うちらの仕留めた獲物を専属で高く買い取りたいって言うんだよねぇ
でも私達って冒険者登録してるじゃん? それでなんか商会とギルドの取り決め~ みたいなのがあるらしくって その説明を聞きに来たの~
本当はお母さんが来ればいいのに これも勉強だからって 無理やりお使いに出されたんだ~」
とか呑気に話しているけど、これは下手すると結構重要な交渉事になるのでは? 確かに世間に揉まれるのは勉強にはなる。なるんだけど、時には人任せにしてはいけない事もある。
人選・・・間違ってないでしょうかね。大丈夫なんですかね。
めんどくさそうな顔をしているカルメンに気を引き締めるよう忠告していると、僕達の方に聞き覚えのある足音が近づいてきた。
「これはこれはアネット殿 ご無沙汰しております 1週間ぶりですな」
その声は忘れない。カストラ商会の会頭、そしてディゼルの後見人バードラットさん。もしかせずともカルメン親子に近付いてきた商会ってカストラ商会?
彼は偶然を装った物言いだけど、その声は幾分含むところがあるように聞こえた。




