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28・ラトリアの事情

前回のあらすじ


ギルド内で情報収集をしていたらカルメンがやって来た。

「おいおい ハルメリーの大店(おおだな)カストラ商会の会頭様ともあろうお方が 小さな商談に自らお出ましとは 一体どういう風の吹き回しだ?」


「これはジョストン殿 どうも ご無沙汰をしております


 まぁ 普段は部下に任せている面もございますが やはり将来有益と思われる方の元には自ら(おもむ)くのは道理


 大切なお客様に誠意を尽くすのはむしろ当然の事ですとも」


「有益・・・ねぇ まさか外堀から埋めて アネットを取り込もうって腹じゃないだろうな」


「もちろん我々商会にとって 利益をもたらして下さる冒険者様は皆 隔てなく大切なお客様です」


「気を付けろよアネット 接待にかこつけて あいつの経営しているいかがわしい店に連れ込まれないようにな」



 大店と言うからには、肉を扱う食事処と別の意味での肉を扱う店も経営してるのかな。でも商人と言うだけあって返答をはぐらかすのはお上手だ。


 それにバードラットさんが来てからギルドの空気も変わった気がする。まるで何かを期待するような・・・少なからず難色を示している人はこの場にいない。


 この3人を除いては・・・



「やっぱりその男は碌でもない奴だったのね!!」



 情報収集に1日を費やして気付けば帰りの時間になっていたらしい。バードラットさんの言葉に意を唱えるようにマルティナとミストリア、そして()()()()は怪訝な色を示した。



「カストラ商会か あまりいい噂を聞かないな 風俗店に高利貸しと 泣いてる人間が大勢いるともっぱらの噂だ」 


「最低! アネット! 今後この男に近付いちゃダメよ!」



 誰だろう。マルティナのお友達かな? 色合いが鮮明で意思が強いように思う。もしかして訓練生仲間だろうか。


 何より善悪の区別をキッチリとつける性格みたい。



「はっはっは 可憐な乙女達に嫌われてしまっては立つ瀬がない とは言え私も商人です このまま不興を被ったままと言う訳にもいきますまい


 そうですな・・・これから私の店にお越しいただけますかな? 不肖このバードラット 全力をもっておもてなしさせていただきますよ?」


「ふん! 誰がアンタなんかの店に行くもんですか!」



 マルティナは明確に敵意をむき出しにする。けど彼はそれをひらりと躱して更に一言付け加えてきた。



「どうでしょう冒険者の皆様も 今宵私の店にいらしていただければ 全店半額でサービスを提供させていただきますよ?」


「マジかよ! 流石バードラットさん!!」

「おい聞いたか! こりゃ今日行く店は決まりだな!」

「た・・高嶺の花のフォルマさんが は・・・半額・・・ゴクリ」

「仲間全員に声かけろ!! 店のポーションは俺達が買い占めるぞ!!」


「おいおい・・・そこまでやるか?」


「なっ!! 力に物言わせて周りを抱き込むなんて最悪!」


「ささ そうと決まればカルメン様 雑事は早々に片付けてしまいましょうか」


「で・・でも~ ・・アネット~・・・」



 カルメンは困った様子で僕に助けを求めてくる。仕事なのだから止める権利はないのだけど・・・でも僕が答えを出すより早くカルメンの手を取ったバードラットさんは、彼女が好きそうな飴を口に放り込んだ。



「聞けば今回カルメン様はお1人で仕事を行った事になります どうでしょう今日のこの日を記念して ご家族で豪華なディナーなど如何ですかな? 勿論カストラ商会が全額 持たせていただきますよ?」


「え!? 本当!? やたーーー!!!」


「ちょっ!? カルメン!?」



 言うが早いかバードラットさんはカルメンを伴って足早にギルドの奥へと消えていってしまった。食べ物の力は強いらしい。



「うぅ~~~! ホント頭にくるわね! いつもニヤついた顔して! きっとああやって周りを丸め込むのが常套手段なんだわ!」


「私もああ言う手合いは嫌いだな 金や物で釣る行為は虫酸が走る まぁ それが商人と言うものなんだろうけどね」



 そうか・・・バードラットさんはいつもニヤついた顔をしているのか。でも彼は僕と兵舎で出会った時も、ディゼルと話し合いをしている時も、そして今も。


 ここにいる誰よりも真摯だと感じたんだけど・・・


 冒険者が命がけの戦いをするのと同じように、彼にとって人と相対する時こそが戦場なのかもしれない。



「ジョストンさん バードラットさんはいろんな意味で怖い人なのかもしれませんね」


「商人ってのは言葉が武器だからな 気を付けろよ 連中が風呂敷を広げる時は何か企んでる時だ」



 だよね。お金儲けしようって人が損する話なんかする筈ないし。もしかしたらミストリアの出自に勘づいた?


 もっとも当の本人の心は掴めてないけれど。



「ところでマルティナ そちらの人はお友達?」


「あぁ この子はラトリア ここの訓練生よ」


「君がアネットだね はじめまして 君とマルティナとの戦いは観戦させてもらったよ 実に興味深い 機会があれば是非とも手合わせ願いたいな」


「お手柔らかに・・・ラトリアも冒険者志望なの?」


「いや 私は思うところがあって騎士を目指しているんだ


 イゼッタ先生の元から巣だった騎士も多くてね 先生の指南を受けたと言うのは騎士の訓練学校でも覚えめでたい


 先生のいる町に私を産んでくれた事だけは親に感謝だな」



「だけは・・・」僕はその一言が妙に引っ掛かった。



 ★



 私がラトリアと出会ったのは訓練所の門を叩いた翌日の事だ。


 イゼッタ先生の授業で練習相手としてペアを組まされたのがラトリアだ。年の頃はたぶん私よりちょっと上。


 品行方正でハキハキとした物言いをする子・・・と言うのが彼女の第一印象だ。


 彼女が連れているスキルさんは“長槍さん”


 “戦士さん”と同じく戦う為のスキルさんなんだけど、自身を強化する“戦士さん”とは違って、武器を上手に扱う事に長けたスキルさんなんだそう。


 ちなみに私の“盾さん”もこれに分類される。


 ラトリアとの初戦闘は剣と盾を装備しても、その絶技の前にボコボコのボコだった。


 でも彼女の良いところは訓練後「なぜ負けたのか」と言うアドバイスを事細かに教えてくれるところだ。


 そのおかげで徐々にボコボコにされる回数は減っていったものの、結局今日に至るまでラトリアに勝った事は1度もない。


 そんなラトリアの勝率は高い。


 訓練生でも1・2を争うのではないか? と噂される程の実力の持ち主だ。ある日「それ程強ければ試験を受けて冒険者になっちゃった方が良くない?」と聞いてみたけど「自分が目指しているのは騎士なんだ」と返された。


 騎士とは国に仕える者であり、騎士学校の過程を経て初めてなれる職業なのだとか。


 そしてその学校に入学するにも試験があって、実技のみならず教養も求められるんだそう。なので学問に関しても先生の元、訓練と並行し勉強中なんだって。


 家が貴族であるならそれこそ幼少のみぎりから学業に勤しむ事もできただろうけど、残念ながら彼女の身分は平民だ。


 幸い親が冒険者だった事もあって、騎士への道のりが閉ざされた訳ではないのが唯一の救いだと話してくれた。


「なんで騎士になりたいの?」と興味本位で聞いてみると、そこはアネットと同じく子供の頃に憧れた存在だからだそうだ。


 でもその時のラトリアの表情はどこか陰りがあるように思えたのが気になった。









 ラトリアとアネットが知り合ってからは、私と訓練生のウェグナスが混じって模擬戦をするようになった。


 でも私はアネットに1度も勝てない。まぁ、他の訓練生相手でも勝つ事は滅多にないんだけど・・・


 そこに来るとアネットとラトリアはとてもいい勝負をする。この2人が戦うと自然と人が集まるってくる。きっと2人の戦いから学ぶものがあるのかもしれない。



「どうしてあそこでこう動くんだ?」

「ここはこうしたほうが良いか?」

「さっきの攻撃はどう思う?」


「うん そうだね・・・」



 私達4人はすぐに打ち解けた。特にラトリアの食い付きは凄い。その距離はほぼほぼ密着するくらいだ。


 ちょっと近すぎじゃない?


 アネットも同年代の実力も近しい相手との戦闘を経験できてまんざらでもなさそうだ。


 そんな日々が数日過ぎたある日、ギルドでちょっとした事件が発生した。





 今日も日課の訓練を終え帰宅の途に着こうという時に、酒の臭いを漂わせた中年の冒険者が私達に、正確に言うとラトリアに絡んできた。



「よぉ ラトリア~久しぶりだなぁ~ 元気にしてたかぁ~?」


「・・・・・・・・・・・何の用?」


「そんなあからさまに嫌な顔するなよぉ 俺とお前の仲だろぉ?」



 酒の勢いか素なのか知らないけど、中年冒険者は無遠慮にラトリアの肩に手を回してくる。体を寄せ今にも口と口がくっつきそうな程の密着状態になった。


 ラトリアは嫌そうに顔を背けるけど男はそれでも離そうとしない。



「ちょっと!! 何なんですかあなたはっ! ラトリアが嫌がってます! 離れてください!!」


「あぁん? 何だぁ? お前のお友達かぁ? 親子のスキンシップに口挟むのは野暮ってもんだぜぇお嬢ちゃん」


「いくら親子だからって 嫌がってる女の子を無理やり抱き寄せるなんて・・・・



 ・・・・・・・親子!!?」


「すまないマルティナ こんなのでも私の父親なんだ」



 信じられなかった。


 酒に溺れ目は据わり無精髭は伸ばし放題。ちゃんと体を拭いていないのか心なしかすえた臭いもしている。


 こんな男から利発なラトリアが産まれたなんて、彼女の口から直接聞いても信じられなかった。何かの間違いだと思いたかったけど、彼女の諦めた顔がこれは真実なのだと物語っていた。



「実の親に向かって こんなの はないだろぉ 俺だって頑張ってるんだぜぇ~? なのに利子だけは膨らんで借金が返せないんだよぉ~ なぁ~ 可哀想だろぉ? 俺ぇ~


 可哀想だと思うんならお金を工面してくれよぉ~ ギルドからちょっとはでてんだろぉ~?」



 酒に酔ったダメ親父かと思いきや、人目も(はばか)らず実の娘に金をせびるクズ男だった。


 私なら力いっぱい突き離すところだけど、真面目なラトリアは家族の問題だからか中々強くは出られないようだった。


 もっとも家庭の恥部など人に晒す事でもないんだけど・・・



「悪いけどもうお金は渡せない 私が騎士を目指してるのは知ってるでしょ? 騎士学校に入るのだって ある程度のお金は必要なんだ」


「お前ぇ・・俺が大切じゃないのかぁ!? 俺は親だぞ!! 誰のおかげでここで生活できてると思ってるんだぁ!! 俺が冒険者をしているからだろうがっ!!」


「ぐっ!」



 自分勝手な言い分を撒き散らしながら、ラトリアの父親は彼女の胸ぐらを掴み激しく揺さぶった。これはいくら実の親だとしてもやって良い範疇を超えている。


 私が止めに入ろうとした矢先、ラトリアの胸ぐらを掴む父親の手にアネットの木剣が飛んだ。



「いでぇー!! な・・何しやがる!!」


「子供は親の道具じゃありません! 貴方にも思うところがあるのでしょうが せめてラトリアの行く末の前に立ち塞がらないで下さい!」


「そんなこと赤の他人に言われる筋合いはねぇーんだよぉー!! これは家族の問題だぁー!! このっ! は・・・離せっ!!」



 ラトリアの父親は駆け付けたギルド職員達に取り押さえられた。ひとまずこの場は収まったけど語気を荒らげたアネットの言葉が、どこか悲痛な叫びに聞こえてしまったのは、私が彼の両親の事情を知っているからだろうか。



「すまない・・・恥ずかしいところを見せてしまった」


「ラトリア大丈夫?」



 渦中の本人は申し訳なさそうにしてたけど、連れていかれる父親を蔑視しつつも心配そうな目で見ていたのが印象的だった。



「場所を変えよう 周りの視線が痛い」






 ラトリアに促されて私達はギルド訓練生の寮の談話室に移動した。彼女はこの寮で生活をしている。



「ラトリア お前の親父は一発ぶん殴って根性叩き直してやらないと駄目だぞ


 親父の受け売りだけど 1度楽な道のりを進んでしまうと 昔の自分に立ち戻るのは理想を現実にするより難しいって言ってたぜ」


「殴るのは兎も角 借金があるって言ってたけど・・・どういう借金なの? 不当なものなら訴えれば何とかなるんじゃない?」


「・・・いや 何とかするには時間が経ちすぎてるんだ 何せ私がギルドの施設に入る前の話だからね」


「全く水臭いぜ 俺達に話してくれれば存外力になれるかもしれないじゃないか で? いくらあるんだよ その借金は」


「いくら・・・か それを言葉にするのは難しいな 私達の抱えている問題を正確に言うと お金を借りたのではなく 父さんが仕事中に“借り物の剣”を失くした事が原因なんだ」



 借り物・・・つまり人の物を紛失した事で彼等は長い年月苦しんでいる訳か。しかし剣1本ってそんなにお高いものなの?


 まぁ装備はピンキリと言うから一概に「たかが剣」とは言えないのかもしれないけど。



「そうだな・・・借金の事を話すには まず私の子供の頃から語らなければならないか」





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