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不死の受命と無神論者の神  作者: 自然対数
第二章 泡沫と消える絶食の誓い
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蠭を刺す女王の言葉

 昼過ぎ、広場には全員が集まる。


「結果発表ー。じゃあ、アリスちゃんとババアは前に出てきてください」


 ヘクセが蜜蠭みつばちを睨み付ける。見た目はどちらも若々しく美しいが、どちらもババアである。ババアとは、ババアにババアと言われるのが一番ムカつくものである。


「じゃあ、お二人さん、願いは?」


 蜜蠭みつばちいなごに笑いかける。いなごも微笑み返す。


『じゃあ、私の能力を返してください。心を読む能力を』


「私はそうだな、蝗に幸せを、くらいで」


「では叶えましょう。願いを!」


 蜜蠭みつばちが大きく手を広げる。


「ふっ、ふははははは、戻った、戻ったぞおおおおお」


 いなごは口を縫ってある糸を外す。

 今、心が読めるようになっている。蜜蠭みつばちの心すらだ。ここからが本番。


「あともう一つあるんだが、蠭」


 いなごの目がぎろりと蜜蠭みつばちをにらみ、口元はニヤリと笑う。


「お願いは、一人一つよ。アリスちゃん」


 高台の上、蜜蠭みつばちいなごの心の戦いが始まる。


「蜜蠭、私の傀儡になれ」


 いなごの言葉は女王の言葉。この場の誰もが唇を噛む。それでも、彼女には効かない。言葉は受けとり方で意味が変わる。


「その願い聞き入れた」


 蜜蠭みつばちにとってそれは“命令”ではなく“願い”。貯めているつがいの願いと組み合わせる。


「いや、願いじゃない。命令だ。私の傀儡になれ」


「いいわよ、あなたの願いは私が傀儡になることで、もう一つはあなたが死ぬことだ。あなたを恨むものなど腐るほどいる」


 いなご、いやアリス・クイーンハートは人々を“脅す”ことで国のトップまで登り詰めた。彼女の死を願うものは少なくなかった。しかし、それはいなごは揺すに至らない。


「命令だ。聖 蜂巣はちのす。貴様はストーリーシリーズを操作できて舞い上がっているようだが、彼らは操作されてなどいないぞ」


 もちろん、ハッタリである。いなごにそんなことわかるはずもない。というか最初から、この女の心だけは読めなかったのだ。

 だがそれでも構わない。蜜蠭みつばちの心の中にあった疑念の種に水を与えるだけでいい。


「正確にはストーリーシリーズを操作したのはお前じゃなく、そこの紅ずきんだ。お前“が”利用されたのだ。こんな顔してかなりえげつないことを考えている」


「てめえ」


「黙れ」


 はりねずみの言葉を一言で伏せる。スカーレットをかばう気持ちはわかるが、もちろん今は邪魔でしかない。

 蜜蠭みつばちにはわかっている。スカーレットはそれほど頭が切れるわけない。ただ、単純に純粋に願っただけだ。だが、もし……もし……と疑念はどんどん育っていく。


「そんなわけないだろ、この童女がそんなことを考えるはずが……」


「はずがあるんだなあ、これが。何たって今は心が読めるんだぞ。お前のもスカーレットのもな」


 蜜蠭みつばちからは汗が止まらない。蜜蠭は蝗が心を読めているのかどうかがわからない。

 焦った彼女は心で負ける前に攻撃を仕掛ける。


「くっそ、小癪な小娘がああ」


 蜜蠭みつばちがついに武力に訴えた。蜂蜜色の髪を一本むしり、レイピアのように使っていなごを刺しまくる。その剣撃は文字通り、目にも止まらない。本当に蜂のようであった。


「私がただ願いを叶える能力だけでやってるとでも? 私も聖だ! 戦の心得くらいある。お前とは違うんだよアリス。いまお前なんかに邪魔されるわけにはいかないんだよ!」


 いなごの身体中には穴が開く。もちろん蜜蠭みつばちは顔、とくに舌を中心に狙った。これで生きているわけがない。

 いなごが“煙”になって消えた。


「はあ、これでは蠭も形無しですね」


 蜜蠭みつばちの肩には手が乗せられる。そんなわけがない。確かに刺したはずだ。

 だが、彼女はもう自分の意志では喋れない。


「服従しろ」


 蜜蠭みつばちが完全に女王の支配下におかれた。


 ○○○


『はーい、解散です。終了』


 いなごは自分の名刺をばらまく。


『あと、雄魯鹿についてはこんなところで待つよりも自宅にいった方が早いと思うわよ。ってかこの糞蠭、雄魯鹿来るとか言って、呼んでないし』


 いなご蜜蠭みつばちの髪を掴みつきだす。蜂蜜色の雑巾からはいろんな知識を搾り取ることができた。心が読めないことはばれてしまったが、質問すれば答えるので問題なかった。

 名刺と共に、雄魯鹿の住所をばらまく。

 そこに雄魯鹿はいないだろう。けれども手がかりはつかめるはずだ。


『じゃあ、黒蛾と女神のことはみんなに任せるから。もちろん、困ったことがあったら電話して。じゃあねー』


 いなごは高台を降りて、そのまま歩いていく。彼女についていくのは蜜蠭みつばち、蘭央、ヘクセ、サン、ステラ、スノーそしてエレミットだ。


『ありがと、エレミット』


 スケッチブックを見せたあと、四つ葉のクローバーの刺繍のされた御守りを投げ返す。これのお陰で助かった。


「待てよ、エレミット。どうして」


 叫ぶのはレント。


「ああ、レントさん。何かあったら連絡してください。別に、今生の別れじゃないんだから、そんな顔しないでくださいよ。変な感じがするんですよ、ルクセリア」 


「エレミット……」 


 レントは立ち尽くす。ついていけないのだ。またしても彼は何がどうなっているかが理解できない。


 ○○○


「いいの、れっか?」


 蛇は火蟻の腕に絡みつきながら、耳元でささやく。


「まあ、連絡先あるし、いいんじゃない? それよりも僕たちは雄魯鹿のところに行こう。ここで、油売ってもしょうがないからね。支度しようか」


 火蟻と蛇はログハウスに向かう。


 ○○○


 まあまあの驚異であった蜜蠭はもはや傀儡。心が読まれるのではないかとひやひやしたが、さすがは絶対障壁。心にまで壁を作れるとは。彼女の心にも一応封印を掛けておいた。これなら大丈夫であろう。

 我々の意向に反し、蝟が代表者候補となったが、そんなことは計画の妨げにはならない。彼よりも蜏の方がいい。蜏を“あいつ”にぶつけよう。意外にも最高傑作となった蜏は切り札であると同時に脅威でもあるから、今後の課題はそれだけだ。

 レントの加護はほとんど無くなったし、もう放っておこう。ただ、まあ、なんというか、“あの女”に似た顔で困惑するのはどうも落ち着かない。

 火蟻も腑抜けたのでもういいだろう。火力は十分だが、それだけでは耐えられないはずだ。

 何よりも恐ろしいのは“あいつ”だ。あいつを倒してもらい、我々は平穏な暮らしをしよう。


 神さまは神さま気取りにでも倒して貰えばいいのだから。 我々……私はただ目立ちたくないだけだ。


 ○○○


 完全に油断した。

浮かれていたと言って構わない。

蜏を退けた今、誰も私に叶うものなどいないと驕り高ぶっていた。

いや、違うな。

あの子を見ると、なぜか放っておけないのよ……。





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