強欲と侮蔑
マイアミース アルカナ教会附属高校 レント・ルクセリア私室
俺たちは雷蜘蛛が開けた穴を塞いでいた。あのままだと寝る部屋が無かったので丸一日かけて全力で塞いだ。
「サバキ先生、今さらですけどこれ業者に頼みません?」
まあ、本当に今さらだ。あとはペンキを塗り直すだけなのだから。
「本当に今さらですね。あとはペンキを塗るだけですよ。みんなやる気です」
いや、あいつら、ぜんぜん手伝ってくれなかったくせに。何で今さらやる気満々なんだよ。っておい。
「やっぱりここは、戦車の絵をどかんと描くべきだわ」
おい、戦車の絵を描くべきだわ、ってまず描くべきじゃねえし、例えそうだとしてもそれはーー男性器にしか見えんぞ。
「いや、ここはだな、異端審問の絵を大きく描くべきだ」
正義子のそれは美しい西洋絵画だ。上手すぎるがグロすぎる。俺の部屋なんだぞ。女神の絵にしてくれ。
「もう、皆さん真面目にやってください」
ああ、レオナ。君はとても真面目にやってる。だが刷毛は折れまくるし、壁は削れてるし、正直言います。
やめてください。
「エレミットは何してんだ?」
エレミットは端で黙々と作業していた。
「ペンキを塗っています」
なぜ赤なのか。
「ああだが、それにしてはなんか……まあ、ありがとな……いや、ちょっ」
えっ待って、嘘でしょ。
エレミットは血を塗っていた。
○○○
まず、止めるべきはレオナだ。あいつは壁を壊している。
「レオナ、ちょっといいか、っと」
俺はつまずき、レオナの豊かな胸に飛び込んだ。わざとじゃないって。
「あら、レントさん。みんなの前でだ・い・た・ん」
パーン、ガシャン
いつも通りの音、シャルロットの銃弾だ。だが、いつも通りじゃない音は
「痛ててて、気を付けろ」
シャルロットの銃弾は俺の額を貫通後、正義子が持っていた白いペンキに当たりそのまま、正義子は白いペンキまみれになる。
「ごめんなさい、正義子」
シャルロットさん何で今それ言う? あーあー正義子がぶちぎれているぞ。
「リリース・三角木馬」
シャルロットは喘ぐ。
「ひゃん、ひゃああああん、あん、あああんひゃあ」
ちょっとやめろってそれはまずいんだって。
近くにいたレオナが俺に上目使いで話しかける。
「レントさん、ここ大きくなってますけど、どうしたんですか」
俺は逃げ出した。
○○○
結局、俺の部屋の壁は、半面が大きく男性器のような戦車の絵、もう半面が三角木馬で喘ぐシャルロットの絵になった。男性器がシャルロットを狙っている。しかも、正義子がひっくり返ったときについた白いペンキとエレミットの血がそれはもうなんというか、そのままで、それはまるで……いやよそう。
えっ、逃げたあとどうしたかって。それ言わなきゃダメ?
○○○
教室内
広い教室は五人で使うには広すぎる。女神の油絵が四方に囲んでいる。もちろん、レントの部屋(卑猥になる前)のストーカーのような状態よりは遥かに少ない。木製の椅子と机が六つ。うち五つが埋まっている。残りの席に座っていた青みがかった髪の小柄な女の子はすでに敵に洗脳されて向こうへ行ってしまった。取り返しに行きたいが今の自分達ではあまりに無力。
「今日は君たちに届け物が来てたよ」
黒板の前に立つサバキが声をあげる。病弱な男の子が健気にも空元気を出しているようにしか見えない。
それにしても届け物? 誰から?
一人一人段ボールに入った届け物が机の上に置かれる。送り主は影王となっている。影王?誰だそれ。そんな知り合いはいない。
躊躇したものの開けてみることにした。
『恋式一番 聖剣エクスカリバー
プラズマブレードです。切れない物は男女の縁だけ。』
とんだキザ野郎だな。何言ってんだ。それにしても何でも切れる?
その剣は持ち手とそこにスイッチがあるだけで肝心の刃がない。持ち手の方は単純な柄というよりも細かい機械がたくさん組合わさっているように見える。
スイッチを押しても何も起こらない。だが何かを感じる。
刃があるはずのそこに手を当てると、
「痛っ」
そこには確かに刃があった。この剣はスイッチを押すと見えない刃が出るのか。すごいなこれ。
「何よこいつっ」
シャルロットは叫ぶ。シャルロットの届け物には、
『戦式一番 聖銃ブリューナク
弾が無限に出ます。詳しい仕組みは君にはわかんないかな(笑)』
ブリューナクはシャルロットの持っているハンドガンを銀色に塗り直しただけのように見える。だが、その銃には弾を詰めるところがどこにもない。
他にも正義子のは。
『正式一番 バロルの聖眼
目からビーム。以上。付属の眼帯にはめ込んで利用してください。まばたきの仕方で眼が開く仕様です。』
窪みのある黒の眼帯と人間の眼球がセットで入っていた。これは組み立てなければならないようだ。
エレミットのには。
『陰式一番 聖符シャムロック
お守りです。相手はあなたの位置を正確に把握することができません。いまは要らないかもしれないけど、きっと必要なときがくる』
紫地のお守りに四つ葉のクローバーの刺繍が施されている。中を覗くことはしないが恐らく入っているのも四つ葉のクローバーだ。
「先生、私は?」
レオナだけ荷物がない。不安げな表情だが。
「レオナさんのは大きすぎるので外においてありますので、手紙だけ受け取ってください」
『力式一番 聖槍ゲイボルグ
最重量の金属、イリジウムをもとに特別な合金で作りました。作るのが大変でしたので壊さないようにしてください。』
窓の外には、2メートル級の巨大な槍が置いてある。その槍は鈍い光沢を放っている。
あと皆さん全員に手紙が来てました。
『皆さんこんにちは、影王です。西サハリアでパーティーをするのですが、今からでは、間に合いませんので、使いをやります。その人にパーティーに行きたいのですとお願いすれば連れ行ってくれます。来てくれたらそれ、差し上げます。お待ちしております。』
教壇にはサバキーーではなく蜂蜜色の髪に蜂蜜色の目、目もとのみの仮面を被っているが、それでいて、いやそれゆえに、魅惑的な女性が立っていた。
「こんにちは、使いのハッチーです」
○○○
少し前のこと。
「私に願い事?」
霧の中、蜏は蜜蠭と話し始める。
蜏がついに動き出す。彼にとって最初から戦争を止めるだの何だのはどうでもよかったし、ましてやハングドマンなど気にも止まらぬ些事であった。彼が欲しいものはただひとつ。
「いいの? 黒蛾たちに怒られない?」
「珍しいじゃないか。心配してくれるなんて」
「だって、みんな私を毛嫌いするから」
蜜蠭は悲しげな表情を浮かべる。悲しげなだけで悲しい顔ではない。ただの戯れだ。
「僕はしないよ」
こちらも真面目そうに言っているだけで、戯れに付き合うだけ。だからもちろん、蜜蠭は顔を赤らめ……ない。
「私をからかうの? 言っとくけど私、あの少年とお嬢ちゃんたちみたいに、あなたとラブコメする気はないけど」
戯曲は終わり。これからは真面目な冷戦だ。
蜜蠭も蜏も黒幕体質なので、できるだけ目立つことはしたくない。願わくば操られていることに気づかず操られてほしい。互いが互いに思うことはそれだけだ。
「手厳しいね」
「雑談はいいから、本題に入って」
「じゃあまず……」




