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殲滅部隊5


ー少し前の事ー



転移の塔を管理している者達に挨拶しながら、ドミトル達は塔の中を歩いていた。その後ろをついて行きながら補佐達は塔の中を珍しげに見ている。


転移の塔は、その地域の特徴があるので観察していた。


「この塔は他の塔よりも大きいですね」


アルフォンドが周囲を見渡す。


それにドミトルも答えた。


「この場所から行ける村や街が多いから転移陣も多くなっている。その内また拡張するかもな」


陣の間にある通路を通りながら説明する。ぼんやりと光って浮かぶ数多くの転移陣がある。


通常、塔を管理している隊員から案内される事になるが、ドミトルがいる場合それがない。見張っているのがドミトル自身になるので、他の者が監視するよりも安全だった。


「総隊長はこの塔には何度も来ているんですよね」


アタランテが聞くとドミトルは軽く頷く。視線を建物内に巡らせると見慣れた光景があった。


「ああ。転移する時や見回りでな」


立ち止まって、ある方向を示す。そこには他とは別に結界で隔離されている転移陣が見えた。


「俺なら別の転移陣を使って帝都からここまで来る事が出来る。なるべく使わないようにしているがな」


地位によって使える陣が違う。普段使いにするものでもないのでドミトルは時間をかけて来ていた。


転移陣には様々な種類があり、指定された場所に飛べる転移陣もある。防衛上の理由で使える者は限られていた。


「アタランテも知っている通りギルデイザイス国内では好き勝手に特殊能力や魔力を使って転移をする事は違法だ。転移をした者を追跡、捕縛する専門の部隊もある。しっかりと守るように」


「はい。総隊長が真後ろに立つような事件を起こさないよう絶対に気をつけます」


何故か気合の入った声で言われる。ドミトルは思い出すように宙を見た。






犯人の男は住居侵入を繰り返す常習犯だった。


人のいない家の中に転移し、秒以下という短時間出ていく異常者で、防衛するにも探知するにも難しく、特定できるほど痕跡を残さない。街の安全を守る警備隊にとって厄介な相手だった。


別の事件もあるので、被害の少ないものは後回しにされる事が多い。入られた家主は家の中に侵入された事に気づくので被害届けが何件も出た。


出て入るを繰り返すだけなので被害が一気に拡大。同じ被害者が多くなれば声も大きくなり、その話は街で有名になった。


そしてドミトルの耳にも入るようになり、末端の部隊ではなく城から派遣された部隊が介入する事になる。


隠蔽、消音、などの複数の特殊能力を持っていたようだが、そんなものは全く問題にならない。能力を多く扱っていると言う事は、一つに特化していないと言っているようなものなので、軍の特殊能力を持った者が網を張れば、犯人は簡単に見つかった。


気づいていない犯人は、いつも通り転移して、転移した瞬間、別の空間に繋げられる。見た事もない部屋に転移した犯人は直ぐに去ろうとしたが、能力を使う事ができず、その場で喚き散らし、真後ろに立つドミトルに気づくのに時間がかかっていた。


犯人逮捕と共に事件の解決を大々的に報告すると市民達は大喜びで祝う。


しかし後になって転移事件の話になると、ドミトルが後ろにいる。という言葉だけが残り、転移犯罪は減少した。






「だから何でそうなる」


頭の中で思い出された光景に疑問を口にする。聞いていたアタランテが不思議そうにドミトルを見上げた。


「どうしました?総隊長」

「いや、何でもない」


他人が勝手に自宅に入るなど許し難い事件だったが、その話から離れる事にする。事件は終わっているので、こだわる必要もなかった。


話を変える為にドミトルは転移陣を見る。


見てみろ、とアタランテに声をかけ、少し説明を始めた。


「転移陣は魔力の形が少しづつ違うだろ?今でも転移陣の開発をしているから、これからも種類が増え続けるだろう」


目線の方向には転移陣が浮いており、発する魔力が違うのは誰にでも分かる。微妙に色も変えているので、間違える事のないよう工夫されていた。


「緊急用の転移陣もあれば、高位貴族用の転移陣もある。もちろん皇族専用のものもな。ただの買い物に来ただけの者が、貴族だらけの転移の陣を使う事になるのは可哀想だからな」


野菜を入れた手さげ袋を持った村人が、高位貴族の集団に囲まれた事に直接苦情を言ってきた事もある。

身分制度が残っている弊害なので仕方がないが、今は庶民の方から区別されていると感じる事の方が多かった。


身分制度が庶民を守る防壁になり、そして貴族の主流が、如何にして一般人に紛れる事が出来るかなので、その攻防戦はこれからも続く事になる。


事件にならない限り勝手にしてくれ、とドミトルは思っていた。


アタランテと話しながら歩いていると、目的だった転移陣の前まで辿り着く。

立ち止まって待っていると、後ろからドミトルを呼ぶ声が聞こえる。


静かな中だったので、全員の視線が集まった。


それはオスマンドで、悩んでいるような表情をしている。隣にいるモイスが、どうしたのか?と顔を傾けて覗き込んだ。


声をかけられる前にオスマンドがドミトルを見ながら口を開く。


慎重になっているのか、言葉が非常にゆっくりだ。


「目的地に着くにはまだ時間がかると思います。でもその前に・・少しいいですか?」

「どうした?言いたい事があるなら言ってみろ」


気弱そうに見えて、何でも言ってくるオスマンドを知っているので、ドミトルは言い淀んでいる姿を珍しく思う。同じ思いなのかモイスと目が合った。


オスマンドは決心をしたのか言いにくそうに声を絞り出す。気を使っているのか眉毛がさらに下がっていた。


「殲滅部隊の事ですが・・」


ぽつり、ぽつり、と話す内容に顔を顰めていく。内容を聞いたドミトルは一旦、前にある転移陣を使う事を止める事にした。


リングレアに任せて待機させる事にする。


操作している隊員に向って、魔力を使って停止の合図を送った。












ーーーー




「これはどういう事だ?今日は新人を連れてくると言ったはずだが」


壁のなくなった転移の塔の惨状をドミトルは見る。まだ残っている所もあるが酷い状態で、これで新人達を迎え入れるとは到底思えなかった。


転移に使う重要地点が破壊されているので、どちらかと言えば激戦地のように見える。乾いた大地から見える光景は痛々しいものだった。


ドミトルが来たので殲滅部隊の隊員達は慌てたように瓦礫を下に落としている。走っていた浮進送車が岩にぶつかり瓦礫が周囲に散らばった。


来るのは午後だと聞いていた隊員達は慌てふためく。予定が変わりすぎて動揺していた。


一人で来たドミトルは核がある頭を抑える。


オスマンドから、このまま行っても大丈夫でしょうか?と思われる殲滅部隊の実情が見えた気がした。


「何故止めなかった?」


ファレスに聞くと、背筋を正して真っ直ぐに伸ばし、頭を下げる。緊張しているのか体も声も硬くなっていた。


「申し訳ありません」


目線を下に向けて、こちらを見ないように気をつけている。軍にいる何割かは畏怖と敬意を示す者がいた。


謝罪されたドミトルは、頭を上げろ、と声をかける。


怒っている訳ではないので、その状態でいられても困った。


ファレスに止められないなら、誰にも止められないと思っている。殲滅部隊にいる者達は、アテイシアと同じような豪胆な性格の者が多いので、賛同する数が多ければ、それに引きずられるのは当たり前だ。


アテイシアの実力は本物であり親愛なる友人だが、少しは止まれ、とドミトルは思う。


戦う力も権力も持っているので、暴走する時はあっという間だ。


強力な攻撃も跳ね返す事が出来る頑丈な転移の塔を、力を合わせる事によって取っ払い、出来た瓦礫でさえも危険なのにも関わらず、仲間との連携により力を削ぎ落とし、単なるゴミとして処理している。


やっている事を除けば、短時間にも関わらず凄い事をやり遂げているが、こんな所で力を発揮しないで欲しかった。


どのようにするか・・そうドミトルが考えていると声がかかる。


「何を難しく考えているんだい」


それはアテイシアで、自信に満ちた声と同じような態度で、胸を張り、こちらを見ていた。


金の波のような長い髪が風に吹かれながら光を反射し、それがアテイシアの魔力と合わさり、さらに眩しい光を放つ。それが力の象徴のように見え、ドミトルはその元気な様子に自然と口の端を上げた。


顎を上げて見下ろすようにしているアテイシアは、全くドミトルに恐れを抱いている様子はなく、それどころか好戦的な瞳をしている。


二人は同じような表情をしたまま見つめ合ったが、それを終らせたのはアテイシアだった。


「受け止めな」


そう言って地を踏みしめると前に出る。


獰猛な笑みを浮かべたアテイシアが、自分の体で風を切り裂くように進み、ドミトルを目指して速度をあげた。


周りにいた隊員達は、何事かと驚いて視線を向ける。


ゆっくりとした時間の流れを感じながら、どれだけ早く駆けろうともドミトルにはアテイシアの動きが手に取るように分かった。全身を使って近づいてくる姿を捉えている。


アテイシアは拳に力を入れたまま地面を蹴って飛んだ。


さて、どうするか。そう考え迎撃すると思われたドミトルだったが、腰を下げ、手を広げる。


アテイシアは激突する直前に握った拳を開くと、同じように手を広げた。


それから相手に抱きつく。


激しい鈍い音と共に、グッ、と空気を吐き出した。


受け止めたドミトルは、呆れたように友人を見るが、尋常ではない力で抱きつかれたまま背中を叩かれる。


ドミトルでさえ衝撃があるので、他の者では危険だった。


「あははっ、久しぶりだな!ドミトル。会えて嬉しいよ」


アテイシアは背中を叩きながら、会えた事を喜んでいる。それに悪い気はしないのでドミトルも笑みを作った。


「ああ、俺もだ」


ちょっと痛いんだが、と思いながらドミトルも会えた事を喜ぶ。


過激な友は愛情表現も過激だった。




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