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殲滅部隊


ー殲滅部隊ー



両側にある切り立った崖が天を貫き、その間は何キロも離れている。奥まで続く先が、曲がりくねり、終着点は見えず、水晶や崖に生えた特殊な植物が隙間から見えていた。


地面には凹凸があり、極端に飛び出る岩や鉱石など、乾いた大地が広がっている。


辛うじて小さな虫などは飛んでいるが、大きな生物の姿は確認できなかった。


空に近い崖には針のように飛び出た場所もある。そこには飛行する生物が住み、優雅に飛んでいた。


下から見上げれば、遠すぎて黒い点が動いているように見える。浮遊する岩石で、隠れて見えない時もあった。


地上には崖に沿うようにして建つ、巨大な建造物などがある。その中にはギルデイザイスでよく見られる円柱形の白い転移の塔もあり、近くには整地された広場もあった。


その広場に目立つ人物が立っている。


殲滅部隊隊長のアテイシアで、腰までの長い金髪が、力強い存在感を周りに示していた。


髪の量が多く、上に向かって跳ねているが、それが激しい気性を現しているようにも見える。力強い瞳は深い青色で、冷徹な鋭さも秘めていた。


背も高く、背中の筋肉も発達しており、丸みのある大きな胸は筋肉と同化している。

真っ赤な口紅と爪が印象的で、重量のある赤い槍を、筋が浮き出ている左手で持っていた。


灰色の軍服の長袖が、肘まで上げられている。ボタンは閉めずに全開で、下に着ている支給されている服が見えた。


アテイシアは下に座り込んでいる隊員に向かって言い聞かせている。


眉間に皺を寄せ、大きく足を開いたまま腰を屈めていた。


「あたいの言う事が聞けないのかい?昼間から爆酒(ばくしゅ)を飲むんじゃねぇって言ったよな?足がふらついて怪我でもしたらどうするんだ?あぁ?聞いてんのか?」


乱暴な言い方で酔って倒れている女性隊員の心配をしている。その様子は一見すると喧嘩を売っているようにも見えた。


その右後ろに立っているのは補佐官のファレスで、スキンヘッドで瞳は赤い色をしている。平均的なスタイルの女性で、唇と尖った耳にはピアスをつけており、紫に塗った爪には、翡翠色の模様が施されていた。


鞭を腰に装備している。灰色の軍服は上まできっちり閉じられていた。


「大丈夫だと思いますけどね」


隣に来たファレスは、横に倒れてしまった隊員を見下ろしている。

寝ているだけだと確認したアテイシアは、自分の体を起こした。


「とにかく運ぶかぁ?」


槍を回すと、柄の方を隊員の腹の下に入れて持ち上げる。

そしてそのまま運んで行こうとした。


「何しているの?」


補佐のルビーナが空中を飛んでくる。可愛い顔で、まつ毛が長く、背は低い。ふわふわとした肩より長い銀髪で、爪の色も銀色にしていた。

装備品はワイヤーで腰に下げている。軍服の下からフリルが見えた。


「運んでるんだよ。邪魔するな。あと、ちょろちょろ飛ぶな。ぶつかったら危ないだろうが。歩け、ビー」

「歩くと遅いの。あとビーって言うのやめて。ルビーナって呼んで」

「あー分かったからビー。あたいの周りを飛ぶな」


ドスドスと威圧するようにアテイシアが歩くと、ファレスも続き、その後にルビーナも続く。


塔の隣に建っている、建物の側まで歩いていると、遠くで飛ばされた者に気づいた。


岩を壊しながら、地面を跳ねるようにして転がっている。次の岩にぶつかっても止まる事なく、破壊しながら飛ばされていた。断続的に破壊音が響く。


そんな中、ファレスは何も言わずに腰の鞭を取ると、右手を動かし、振るった。


鞭が直線的に伸びて進むと、飛ばされた者を絡めとる。

そして、そのまま容赦なく地面に叩きつけた。


「ぐっ!!」


地面で跳ね返る事なく、その人物は埋まる。


右半分を地面に埋めた状態で、土煙の中で倒れていたが、しばらくすると片手を地面につけ、震える体をゆっくりと持ち上げ、立ち上がった。


「あ、あざっす・・」


頭を下げ、助けてもらった事に感謝する。

最後、地面に叩きつける必要はなかったが、それに対しての文句はなかった。


「遠くまで飛ばされたら危ないですよ」


ファレスが表情を変えずに鞭で地面を叩くと、自分の手元に綺麗に円形になって収まる。それを腰の部分に装着し、元の状態に戻った。


簡単に出来るように工夫されているので、あっという間に終わる。

助けられたエルビナスも手から離れた武器を拾っていた。


短髪で髪の左半分が無く、鼻に黒いピアスをつけている。切れ長の瞳は紺色で、細身の体型で手には手斧を持っていた。


灰色の軍服についた汚れを叩いている。

それを見ながらファレスは声をかけた。


「お元気そうで何よりです」


エルビナスはもう一度、軽く頭を下げると、飛ばされてきた方向に体を向ける。


その先には、補佐の男性、パライアノンが立っていた。


ピンクと白の混ざった髪は肩より少し上で、一部分が跳ね、瞳の色は金色。片手には剣を持ち、こちらを睨み付けている。

背が高く、均整のとれた肉体には筋肉がついていた。


「虫の一匹も許さない」


そう言って呟いている。

暗い目をして、どこを見ているか分からなかった。


「誰が虫だ!コラァ」


聞こえていたエルビナスが食って掛かる。


するとパライアノンの瞳に光が宿り、表情に穏やかさが加わった。


「ああ、ごめん。虫じゃないな・・エルビナスじゃないか。おはよう」


その突然の変わりようにエルビナスは引く。先程とは打って変わり、気遣わしげに声をかけた。


「いや・・お前、精神状態大丈夫か?」


伺うように聞くが、パライアノンは意味が分かっていないのか、表情が変わる事はない。


そんな二人のやりとりを見て、アテイシアが槍の穂先をパライアノンに向けた。


「ビー、パライアノンを医療班の元に連れて行け」

「・・了解。パライアノン、行くわよ」


呼び名に不満そうだが、ルビーナは特殊能力を使ってパライアノンを拘束し、空中に浮かせる。突然の事に、相手は暴れだした。


「大丈夫だって言ってるだろっ。離せ、赤ババァッ」


暴言を吐いて抵抗し、歯茎が見えるほど威嚇する。


暴れるパライアノンの鳩尾に、高速で槍の柄の部分が飛んできた。


突き刺さり、ごはっ、と息を吐き出してから体が曲がり、その後に追撃するように横から払うような一撃が飛んでくる。


横っ腹を強打した後、そのまま大岩に向かって槍で殴り飛ばされた。


空気を切り裂きながら飛んでいき、岩にめり込み、轟音を立てながら岩に穴が開いて、その中でパライアノンは気絶する。


パラパラと小石が落ちる音がした。


「あーー、何か言ったか?」


耳を触りながらアテイシアが言うが、それに頷く者はいない。


「いえ、何も」


ファレスは冷静に答えると、ルビーナの方を見た。


「きちんと運んで下さいね」

「はーい、直ぐに運びまーす」


今度は意識がないので簡単に運べる。


「おい、こいつもついでに運んで行け」


そう言ってアテイシアは地面に置いていた隊員を、槍の柄の部分を使って投げ、それをルビーナが受け止めると一緒に運んでいった。


それに続き、歩き出す。

エルビナスも後ろからついて行った。




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