表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/44

宿舎5


「怪我をしたのは俺が総隊長になる前だから、お前達が気にする必要はない」

「そうですか。で、名前教えて下さい」


アタランテは諦める様子はなく、ドミトルに圧力をかけてくる。アタランテだけならまだしも、体格の良いアルフォンドから掴まれているので、服が破けそうで動けない。


何だこの状況は、とドミトルは思う。


日頃、あんなに頭が無事ならいいと言われているのにも関わらず、こうも自分の怪我を気にするとは思っていなかった。


リングレアもそうだ。


アラデルギル区域でのエルスドラの出現以来、ドミトルを心配してついて回る様子が見られる。

心配されるのにドミトルは慣れていなかったので、このような時にどう対処すればいいのか、困惑するばかりだった。


「・・もう処理をしたから知る必要はないな」


少し罪悪感を感じるが、ドミトルは三人にそう言って聞かす。

すると、やっと普段通りの表情に戻った。


「そうだったんですか。良かった」


アタランテが笑顔で言うが、ゲルモンテはまだ口の端を曲げ不満そうだ。


「どんな目に合わせてやろうかと思ってたんですが、終わってたなら仕方ないな」


拳を握りしめ、気持ちを抑えているように見えるゲルモンテに対して、いつもの人格を取り戻せ、とドミトルは思う。


「生きてるよりはいいでしょ」


アルフォンドが好青年の皮を投げ捨て、そんな事を言っている。それよりも女性関係を解決しろ、と思った。


「総隊長、もう怪我なんてしないで下さいね」

「ああ、分かっている。大丈夫だから心配するな」


アタランテが念押しするように言ってくるのを、大人しく聞く事にする。この話しは早く終わらせたかった。


「今度、もしやられそうになったら、誰でもいいから盾にして下さいね。私でもいいですよ」


ドミトルはアタランテの頭に手をおいて、撫でる。


「そこまでしなければならないほど、俺は弱くない。動揺しているみたいだな。深呼吸しなさい。いつもの状態に戻れるぞ」


アタランテは言われたように深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。いつもの自分が戻ってきたように、顔色が元に戻った。


「すみません。ちょっと頭に血が上ってたみたいです」


アタランテがドミトルから離れると少し笑う。

照れているようで、頬が赤くなっていた。


最強の人物像を壊して悪かったな、とドミトルは反省する。

これからはもっと強靭なイメージを心掛けないといけない、と自分に言い聞かせた。だが、心の隅で、俺はすでに十分強くないか?とも思う。

あの時はやられてしまったが、今は十分に強くなっているし、これ以上強いイメージというのも自分では思いつかなかった。

それに、もし自分に何かあったとしても帝国自体はビクともしない。一人の力で帝国が守られている訳ではないので、過剰に心配する必要はなかった。


「何度も言うが昔の話だ。他の者達にもこれから話す予定はない。お前達も自分の胸の中だけに留めておいてくれ」


三人はお互いに目線を交わし頷く。

ドミトルは安心させるように続けた。


「今は何をやられても打撲ぐらいだからな。帝国自体を消滅できるぐらいの力がなければ、俺の防御を完全に突破する事など出来ないぞ。まぁそんな事は初めからやらせないがな。ラブレスの性格が好青年になるほど、有り得ない事だ」


冗談を言いながら三人を見る。

これで分かってくれただろう、とドミトルは思っていた。


「ちょっと待って下さい。何をやられてもって何です?それに打撲って聞いてないですよ」


アルフォンドがドミトルを見てくる。アタランテとゲルモンテも同じように見ていた。


「は?」


ドミトルの目が点になり、理解の範囲を超える。どれだけ自分に最強のイメージがついているのかこの時やっと理解できた。


打撲だぞ?と思う。

再生能力で直ぐに治るぐらいのものなので、覚えてすらない時がある。そもそも戦いをしている者で、打撲の一つもしない者なんていなかった。

確かにドミトルの魔力を、誰の事も考える事なく常に放出している状態ならそれも可能だが、それをやると捕まえた犯罪者はその場で死亡する。

親しい人間も傷つける事になるので、非現実的で考えるだけ無駄な事だった。

そんな事はできないので、魔力を常に体の中に抑えた状態で戦闘に加わっている。ふいをつかれれば当然打撲ぐらいはするし、無敵の体など持っていないので、表面上の軽い怪我はする時がある。しかし、少し深い怪我ともなると、魔力を内包しているので跳ね返す事ができた。

しかも再生能力が高い体なので、全く問題はない。

それなのに打撲の一つも、してはならないともなると制限が大きすぎるので、勘弁して欲しかった。


総隊長のイメージはもはや超人か、と思う。

殺さず、壊さず、守り、怪我をせず、常に戦いに勝利する。

この俺にそんな超人になれと?いや無理だろ。ドミトルはそんな事を思っていた。

言い訳を探すようにドミトルは目を泳がせる。


「こう見えても忙しいし色々対処する事があるんだ。打撲ぐらい許せ・・」

「総隊長をやるなんて許せません。草の根分けてでも探しだし、晒し首にしましょう」

「俺も協力するぜ。補佐集めてそいつ潰そう」

「部隊に報告して皆でやっちゃいましょう」


アルフォンド、ゲルモンテ、アタランテが言う。拳を手の平に打ち付けていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ