ルナミリスの執務室
三日間温泉を楽しんだ後、ドミトルは帰るとそのままルナミリスの執務室を訪ねた。
女性の侍従に恭しく案内されると、ルナミリスが立って待ってる。
ドミトルと同じように魔力の多い髪には銀の魔力が散って煌めき、巨大な窓の側に立つルナミリスは神秘的な美しさがあった。
眩しいものでも見たかのように薄目になった後、いつもの状態に戻る。目に映っていた魔力を極力見ないように、ルナミリス本人を見るように視点を変えた。
お土産の温泉ふっくら水晶菓子を優しく持って、近くまで歩いて行く。
「姉上、仕事の邪魔をしてすまない。温泉の土産を持ってきたんだが時間は大丈夫か?」
「もちろん。一時間ほどなら大丈夫よ。話を聞くからソファーに座りなさい」
侍従の女性、カルラがドミトルに近づき土産を受けとると、壁の方に下がって行く。
金色の瞳で、青色の髪を肩より少し長く伸ばして右の一部分を三つ編みにしていた。
ドミトルはルナミリスに促されるまま、自分が座れるほどの大きな白いソファーに向かう。
弾力のあるソファーは簡単にドミトルを押し返した。
カルラは特殊能力を使って空中に白く透明な板を出すと、その上で箱を開けて中身を取り出す。
白く透明な皿を作り出して、その上に箱から取り出した半円形の丸く膨れた菓子を乗せ、透明な木の枝と葉を作ると、飾りとして同じ皿の上に置いた。
それをルナミリスとドミトルの前に用意する。
そしてもう一人の侍従の女性、マナリスが千年青葉の茶を真っ白なティーカップに注いで二人の前に置いた。
マナリスは薄金色の短い髪を左目を隠すように伸ばした灰色の瞳の女性で、胸が大きく丸みのある体型をしている。
目線だけの感謝をするとドミトルは周りを見渡す。あとこの部屋にいるのは壁の前に立っている侍従の女性、ルジェナだけだった。
ルジェナは紺色の髪を長く伸ばしており、胸も大きく制服の上からでも筋肉が分かるほど体格が良かった。
「珍しいな。アルスがいないじゃないか」
ドミトルが執務室の中を見渡すが、いつもいる無表情の男の姿がない。
三人の侍従が苦笑する。
「今頃、温泉にでもつかって死んだ目をしているんじゃないかしら」
ルナミリスは抑揚のない声でそういった。
「なんで温泉で死んだ目になるんだ?」
「アルスだからでしょう」
「温泉嫌いのくせに温泉に入っているのか。物好きな」
勘違いするドミトルに、ルナミリスは訂正をしなかった。
それから二十分ほどブレスト温泉の話をする。ほとんどが子供の話だったがルナミリスは嬉しそうに聞いていた。
「そうなのね。貴方が楽しそうで良かったわ」
「今度は姉上にも夜の温泉虫の飛行を見せたいな」
「綺麗でしょうね」
「ああ、一斉に飛び立つ時、暗闇と光が混ざる瞬間が綺麗だぞ」
「いいわね。最高の護衛がいる事だし、今度見に行こうかしら?」
「案内も得意だから任せてくれ。姉上が飽きないように色々と調べておくよ」
ルナミリスは微笑みながら相槌をうつ。
「では、もうそろそろ失礼する」
「ええ、またいつでも来なさい」
ドミトルは軽く一礼をして部屋の扉から出ようとするが、少し立ち止まる。
「ああ、そうだ姉上」
「どうしたの?」
「リングレアの事、感謝する」
そう言ってあっさりと扉から出ていった。
しばらくルナミリスはそのままドミトルの出ていった扉を見ていた。