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ショクザイをあつめよう



饗宴なる這い寄る獣・アゾマンゾルド。


ドミトル達は十日間かけてこの場所まで辿り着いた。


交代で休みを入れながら、平原を走り抜け、谷を通り、山を越え、湿地を走り抜けてきたので隊員達には疲れが見えている。


途中で獣達に襲われ、噛みつかれ殴られ蹴られしていたが、比較的軽傷ですんでいた。


そんな状態のまま隊員達は食糧確保の為に戦う。


目の前にいる獣達は員達を食おうと、場所を狭め、近づいていた。


巨大な木が生い茂り、小さな木に覆い被さるるようにして枝を伸ばしている。蔦が縦横無尽に張り巡り、岩が針のように突き出て侵入を拒んでいた。


そんな中、ドミトルの声が響く。

隊員達は死にたくないので真剣にそれを聞いていた。


「各自、四人で一匹対応しろ。絶対に一人になるんじゃないぞ。怪我人が発生したら一人が退路を確保し、怪我人の退避を優先しろ。

医療班の元まで二人で行ったら各々の判断でその場に残るか、残している二人に合流するか決めるんだ。


危険なら待機しろ。


残った二人は獣相手に応戦。無理だと判断した場合、救援要請を近場のヤツに言え。余力がある場合は四人の内の一人を救援に向かわせろ。


もし救援が来ないようなら二人で獣を払いつつ退避優先で下がるんだ。

周りも下がる部隊を発見したら獸の動向に注意しろ。


下には突貫で作った防衛部隊兼食糧貯蔵部隊を20人配置している。医療班、衛生班の防衛にも20人。合わせて40人。

下がったとしても問題ないようにしている。


今回の使命は食糧調達だ。命をかける必要はない。

聞き逃した者がいるかもしれないからもう一度言う。


絶対に生き残れ。以上だ」


ドミトルの言葉一つ一つが隊員達に染み渡る。過酷な状況だが冷静な声が救いになっていた。


仁王立ちのまま腕を組んで隊員達の後方にいるので、いざとなれば大丈夫だという安心感もある。

自分達の戦闘に集中できるので、隊員達にとっては良かった。


少しだけ心の中に余裕というものができ、表情に明るさがでる。


そんな時だった。


「あ、忘れていた」


今気づいた、というようにドミトルが目を大きく開ける。


「頭を大切に守りましょう」


自分の言葉に満足しているのか頷いている。どうせなら頭以外の事も気にしてほしい、と隊員達は思った。







ーーーー



「食糧調達でなんでこんな目に!?」

「昼食が強すぎるんだよ!!」

「ふざけんなーーーーー!」


隊員達は文句を言いながら剣で獣を退けている。己に合った武器で戦っていた。


噛みつこうとしてくる敵を勢い良く剣の裏で飛ばす。飛ばした獣は木に足を付けて元の位置に戻った後、隊員達の回りをゆっくりと歩いていた。


四人で獣一匹と戦っているのだが、その獸が普通の狼型の五倍の大きさがある。しかも頭から背中にかけての毛が真紅で、他の部分は黒紫色の毒々しい色をしていた。


その獣が突然、近場の岩を轟音と共に齧りとり、そしてボリボリと噛み締めて喉の奥に魔力を貯める。


口から漏れ出た赤い魔力が垂れて地面に滴り落ち、地面は赤く染まり草を溶かした。


「来るぞ、視線をそらすな」


隊員の一人が全員に忠告する。


狼が首を振るうと口の中が光り、音と共に砕かれた岩石が発射され、当たった衝撃により隊員達は50センチほど下がった。


自らの魔力壁に軽く損害があったらしく顔をしかめる。

問題があったのか、口々に叫んだ。


「ちょっと痛いぞ!!これは普通の岩じゃないだろ!」

「まてまてまてこれってミシナル原石で鉄よりずっと固い鉱石じゃねぇか!なんでこんなもんが普通にあるんだよ」

「ちょっと、向こうの狼もあっちの狼もモグモグしてる!」

「おいっ、ヤツらを止めろ」


間に合わずに隊員達は話の途中で四方八方から身体中に直撃を受ける。腕を交差させ何とか防いでいたが、狼達はまた容赦なく岩を齧り取っていた。


自分達の縄張りに入ってきた敵を許すつもりはないようで、殺意のある目線で隊員達を見ている。


油断すれば噛みつこうとする狼も、巨大な木に隠れながら隊員達に迫っていた。


「あたたたた、やってられっか!!全身のコリをとりに来てる訳じゃないんだぞ」


何発も受けた隊員の一人が敵がいるにも関わらず愚痴を吐き出す。

他の隊員達も各々勝手に喋っていた。


「以外と美容にいいかも。血行がよくなった感じがする」

「興奮する。もっと俺を撃ってくれ」

「気持ちの悪い事を言ったヤツ、前に出て狼に齧られろ。その隙に倒す」


隊員達は退避する事なく戦っている。大怪我をするような状況ではないので、隊員同士言い合いをしながら戦っていた。




ーーーー



「もう少し苦戦すると思ったが大丈夫そうだな」


総隊長のドミトルは全体が見えるよう少し後ろで様子を見ている。その周りには補佐達がいて敵が来ないか警戒していた。

モイスが報告する。


「総隊長、向こうから何か来ますよ」

「ああ、蛇型の獣か」


体長50メートルほどありそうな蛇がこちらに向かってやって来ている。灰色の体には頭と尻尾の部分にトゲが生え、凶悪な蛇の顔からは長い舌が見えていた。

一部拓けた場所から崖が見えるので、そこを根城にしている可能性が高いと推測する。

狼を補食する生物なのだろう、と考えていた。


ドミトルは補佐達を見てから、獣の方を向く。その目にはしっかりと敵が映っていた。


「この場に待機。何かあれば呼べ」

「了解」


足を踏みしめ駆け出すと上に向かって飛ぶ。蹴った地面に跡がつきドミトルの体が空中に浮くと、走るようにして移動していった。

そして上空から蛇の位置を確認し、猛スピードで何もない場所を蹴って前に進み、蛇の上まで移動すると首元を掴み、いとも簡単に引き千切る。


千切れた場所から血が吹き出し、ドミトルの表面を滑るようにして地面に落ちた。


魔力壁のおかげで汚れる事はないが地面に血溜まりができる。他の獣が寄ってきてはいけないのでボトボトと落ち続ける血を魔力で押し潰すように消した。その次に掴んだ頭を握り潰し、残った体を殴りつける。

蛇の体が振動しマヒしたかの様に体を横たえて動かなくなった。


それを清々しい表情でドミトルは見る。

中々の大きな獲物なので満足していた。


「食糧確保だな」


これだけあれば全員で食べれるだろう、とドミトルは考える。皮を剥いで骨をとっても、かなりの量の肉がとれた。


「いい獣が来てくれたな」


断面の肉を確認しながら匂いを確かめる。蛇の独特な臭いがしているが、この程度なら大丈夫だろうと考えていた。

だがドミトルの考えを否定するかのような声が補佐から聞こえる。

振り向いてみると、遠くの方で補佐達が全力で拳を振り上げていた。


「蛇は断固拒否するーーー!」

「皆狼をうちとれ!!」

「今日の飯は俺達が決めるんだ!!」

「蛇食三昧のフルコースを味わいたいのか貴様ら!気合いをいれろ!!」

「頑張ってーー!」


何故か補佐達が叫んで隊員達に発破をかけている。参加してない者もいたが全く止める様子もなく、蛇を捕まえたドミトルはそっちのけだった。


ドミトルは蛇を手に持って補佐達の方へ向かって引きずって行く。無理矢理浮かべた笑顔は怖く、引きずる音だけが聞こえていた。


ズリズリ・・ズリズリ・・


音と共に近づくが、補佐達は気づかずに叫んでいる。

それが止んだのは突然で、モイスの頭を掴み上げたドミトルが後ろに立っていた。


「何か言ったか?」


言ってくるドミトルに全員首を振る。

掴まれたモイスはその状態でしばらくいる事になった。


そして総隊長命令で補佐は蛇のフルコースが決定する。

もちろん文句を言われたが聞き入れる事はなかった。



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