アラデルギル区域6
結果としてドミトルの干渉地帯の正常化の意見は通った。だがそれを認める代わりに、アラデルギル区域の皇族・王族の参加は認められない事になった。
過去、参加した皇族や王族はそれほどいないので、デルモスラウナが要求する事を承認する事は難しい事ではなかった。
では何故、今回これほどデルモスラウナがドミトルに反応してきたのかは、それはデルモスラウナの方に事情があった。
エルスドラの弟、第三神子のイクセドラが参加をしようとしたらしく、それを止める為の理由づけと、万が一ドミトルが本当にお見合いを実行した場合に対する対処だった。
アラビスレイドの方は、自国からの参加者をアイドル化しているのが理由で、自国でも人気のある者達が際限なく連れて行かれれば商売に関わるので、抗議の意味でデルモスラウナに続いて、干渉地帯から一時的に引いていたようだった。レウィングが片言で事情を話してくれた。
「それで、イクセドラは大人しくなったのか?」
ドミトルが聞くとエルスドラは首を振る。
「今は厳しい遠征に放り込んでいる。帰ってくれば少しは大人しくなっているだろう」
「そうか」
「そちらの第一皇女はお元気か?」
「もちろんだ。毎日公務を頑張っておられる」
「それは良かった。昔、会った事があるが中々会う機会に恵まれないのでな。それだけでも聞けて良かった」
エルスドラはそう言って足元に転移陣を作ると、影が増えていき隠していく。
「また会おう」
「ああ」
そう言って完全にドミトルの前から姿を消す。残ったのはドミトルと、足を掴まれているレウィングだけだった。
こいつをどうするか、と考えていたドミトルはアラビスレイド光王国がある方向を見る。
迎えにきてくれるとありがたいのだが、そんな都合のいい事はなかった。
内心諦めつつ自分で送る方向に考えを変えていくドミトルだが、そんな時、掴んでいる手元が揺れる。
レウィングがドミトルの方を見ていた。
「早く足を離してくれませんか?」
「復活したな」
エルスドラがいなくなってから、そんなに時間が経つ事なくレウィングに動くだけの元気が戻る。
余程デルモスラウナのエルスドラに恐怖を抱いていたのかと、レウィングに対して思っていた。
「全く怖くないですからね」
逆さ吊りのまま血の気の引いた顔色で言ってくる。
「ああ、そうだな」
「怖くないですからね」
「あの状況で良くやったと思うぞ」
国の代表者二人を前に気絶しなかっただけでも凄い事だとドミトルは本気で思っていた。
しかも相手の一人は過激な宗教国家の神子で、現れる前からレウィングを殺すと決めていたので、ドミトルが掴んでいなければ今この場で生きていない。
走って逃げたとしても間に合わなかっただろう。
「下ろすぞ」
ドミトルがそう言ってから手を離す。
レウィングはクルリと回転して地面に膝をつけて着地した。
ドミトルが自分の魔力を使ってエルスドラの魔力から守っていたので、二つの魔力が衝突した時にかなり揺れたらしく、今もレウィングの体はグラグラとしている。そのまま倒れてもおかしくなかった。
「俺に送られるのは嫌だろうな。仕方ない」
ドミトルは剣をゆっくりと抜くと、片手で持ってアラビスレイドの方向に剣先を向ける。
「さぁて、何発でくるかな」
腕を回すだけで剣が簡単に動く。回転した剣を半分までゆっくりとした動作で動かした後、地面を削るように剣を振り抜いた。