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アビデスの街


ドミトルとリングレアは転移陣を使ってアラデルギル区域の目と鼻の先にある街、アビデスまで来ていた。


この場所では犯罪が多いのでドミトルもかなりの回数見回りをしているが、捕まえた数だけ犯罪者がやって来るので、治安の悪さが改善する事はなかった。


干渉地帯のアラデルギル区域が作られたおかげでできた街なので、参加しようとする犯罪者予備軍が来るので治安も良くならず、かと言って干渉地帯がなくなれば街も滅ぶという、やっかいな問題を抱えている街で、治めているのは凄腕の女領主だった。

帝都から離れ皇帝の威光も届きにくいこの場所をよく治めている。


己の力で敵を排除する必要があるのがこの街アビデスだが、長年住んでいる者はドミトルの力を認めているので逆らう事はない。頭を下げてくる者もいるぐらい認知されていた。


しかし新参者の怖いもの知らずは、攻撃をしてくる時がある。


ドミトルとリングレアが廃れた感じのある建物の側を歩いていた時に、横から飛び出してくる者がいた。


「死ねや、デカブツ!」


性能の良くないナイフを握りしめ突っ込んでくる。そのまま体ごと体当たりをする勢いだったが、それをドミトルは簡単に顔面を掴んで止めると、自らの勢いと、顔面を掴まれた衝撃で、男はナイフを落とす。

ドミトルがナイフに足を踏み下ろすと、ナイフはそのまま土のように粉々になった。


「ぐっ・・っ・・っ・・」


苦しそうな犯人を気にする事なくドミトルは隣にいるリングレアに声をかける。一々こんな場所で犯罪者を気にしていたら、このアビデスではゆっくりと話もできなかった。


「直接来た事はあまりないだろ?必要な物を売っている場所は分かるか?」

「はい、この街の最新情報を取り込んできたので大丈夫だと思います。ですが、夜逃げや倒産をこの数日間にしていた場合は聞き込みから始めます」


「帝都で買ってから来ればよかったな」

「私は総隊長が仕事をしているこの街を見て回りたかったので丁度良かったと思っています」

「それならいいか」


犯罪者を手に持ったまま話ながら歩いていると、前方から移送中の警備隊がオープンタイプの浮進送車に乗ってやってくる。

浮進送車というのは角の丸い長方形の箱形の金属に車輪があり、浮力と推進力を備えた装置が付いており、己の魔力を注ぐと地面から浮き、一定の速さで移動する車の事だ。


ギルデイザイス帝国では、走る速さにも速度制限があるので、この浮進送車は重宝されている。

昔は走って衝突事故を起こし、死者を出す重大事故に発展する事も珍しくなかったので、そこで生まれたのがこの浮進送車という便利な車で、速度を指定すると一定の速度で目的地まで運んでくれるという、ギルデイザイス帝国では夢のような車だった。


もちろん軍の隊員や警備隊員などには走る速度に制限はない。だが犯人輸送に多大な貢献をしていた。


「こいつも一緒に運んでくれ」

今回はオープンタイプに乗っていたのでドミトルは直ぐに停車させる。

犯罪者を持ち上げたまま警備隊員の横に移動させると、警備隊員も慣れたもので捕縛用の装置を起動させ、犯人を金属製のロープで捕縛した。

その間、犯人は一言も喋っていない。ドミトルが口を押さえ喋る事が出来ないようにしていた。


「総隊長殿、犯罪者の引き渡しに感謝します」

「かまわん、いつもの事だ。こいつを一級犯罪で王獣討伐の檻に入れておけ」

「分かりました」

警備隊員は浮進送車を発車させる。

ドミトルとリングレアはそのまま民家の多い区画に入って行った。




ーーーー


檻にも種類があって犯罪の重さで変わる。一級犯罪は王獣討伐の檻、二級犯罪は獣討伐の檻、三級犯罪以降は刑監所の檻になる。


王獣討伐の檻は、北の奥地に転移され王獣討伐部隊の一部になる。実力のある者は助かる事ができる。


獣討伐の檻は、強力な獣を討伐する時の先鋒隊員になる。実力のある者は活躍できる。


刑監所の檻は、犯罪者を働かせる事もできる更正施設だ。稀に記憶操作する時もある。



「ここのヤツらは本当に元気だな」

ドミトルの目線の先には、木を伝って登り、他人の家に入ろうとしている者がいた。下には手引きしている者もいる。


「へへへ、ここなら開いてるだろ」

「残念だが閉まっているな」

今度は後頭部を掴み上げる。家の中に入ろうとした者は悲鳴をあげようとしたが、ドミトルの力によって白目をむいて気絶し、ぐったりと四肢を投げ出す。


その後、後頭部を掴んだまま下に降りると、待っていたもう一人を軽く蹴って、その頭を掴んで体を引きずった。


「リングレア、俺はこいつらを届けてくるから別行動をしよう」

「分かりました。こちらの用件がすみましたら警備隊の詰所の近くに用意されている総隊長の部屋でお待ちしております」

「襲って来るヤツがいたなら対処してもかまわんが子供には注意しろ」

「了解しました」


ドミトルとリングレアは離れていき、それぞれ自分の行く場所に向かって歩く。


「何事もなければいいが・・」

そんな心配をしながらドミトルは収監所に向かっていた。





ーーーー


忠告したドミトルだったが、収監所に辿り着く前に手には犯罪者が三人も増えていた。


「・・・・」

何とも言えない顔で犯罪者を見るドミトル。


一人は民家侵入の罪で捕まった二人の仲間で、魔力壁を損傷できる猛毒入りの違法改良弾を使い、己の魔力で発射させて襲ってきた。

回避する手間も必要がないと判断したドミトルは、顔面に向かって飛んで来た弾を歯で砕き、そのまま犯人を無言で睨む。

心が折れた犯人はそのままあっさりと気絶した。


後の二人は、女が男の持ち物を狙って襲っているという現場に居合わせたドミトルが現行犯逮捕した者達だった。


「いつもの事か・・」

犯罪者がいなかった時がないので、ドミトルは慣れた様子で肩に三人と片手に二人を持ったまま移動する。


街の角を曲がると、綺麗な民家が並ぶ場所にでた。


少し場違いのドミトルだったが、最短距離で行く為にその道を通る事にする。

すると家の窓が開き、声をかけてくる妊婦の女性がいた。


「総隊長さん、お久しぶりです。私の事覚えてますか?」

「ああ、前に店の前で助けたな。子ができたのか。元気そうで何よりだ」

「ええ、おかげさまで。あの時はありがとうございました。今日は仕事が休みだから旦那と一緒にいるんですよ」

「旦那は元気か?」

「前より動きが悪いみたいですけど、元気ですよ。今は外でガーデニングをしています」


女が子供を孕む時に男の核魔力を吸収する必要がある。

額同士を合わせてお互いの核の魔力の交換を二日間ほど行い、その魔力を女の方が吸収すると、女の腹に子ができる。そして男は一年間ほど弱体化する。


「腹の卵も大丈夫そうだな」

「ええ、少しづつ大きくなっているのが分かります。お腹から出す時が楽しみです」

そう言って女性は自分の少し膨れたお腹を撫でた。


妊娠した女は、子供を守る為に魔力壁で作った殻で子供を覆う。

一定期間経つと女は腹から魔力卵を取り出して、弱体化している男に渡すというのが一般的だ。


「良かったな。体を労るんだぞ」

「お腹から出た時には総隊長さんにもお見せしますね。旦那も見せたいと言っていました」

「卵から出た後にしてくれ」

困った様子のドミトルに女性は微笑む。


「フフフ、お邪魔してすみませんでした。今度、窓辺に花を飾っておきます。心が癒されるぐらいとても綺麗ですよ」

「この場所を通る事があったら見せてくれ」

「総隊長さんもお気をつけて」

女性は犯罪者を捕まえているドミトルを気遣いながら見送った。


頭に存在する【核】と言うモノは、魔力を発生させる性質と、体の設計図を保存している場所だと言われているが、まだ解明されていない。

頭さえ守れば再生できるのも、この設計図のおかげと言われていた。


「元気な子供に会えるといいな」

ドミトルはそう願いながら落ちそうになっていた犯罪者を担ぎ直す。


檻は収監所に用意されており、一日一回、決められた時間に転移陣を動かし、それぞれの場所に行く事になっているが、現行犯逮捕以外は取り調べを受ける事になっていた。


ドミトルはきちんと収監所まで辿り着く。


建物は転移塔と似た白い円柱の形をしており、転移塔よりも分厚い壁の作りで外には警備隊が歩いていた。


中に入ると、やってきた警備隊員に捕まえていた犯罪者を渡す。

全員無事に収監所に入れる事ができた。


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