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第12話 お揃い

 それから、僕らはまた部屋の中を見て回った。


「あ、見て、フラウ。これ、ペンダントみたいだ」

 僕は机の下からのぞいている細い鎖を見つけて引っ張った。

「魔道具かなぁ。うん、そうみたいだ」

 僕はペンダントをかざしてみる。


「この形は、よくこの辺りで出る装飾品だね。他の人たちが見つけたのを見たことがある」

 僕はついている石をこすった。

「リリ姐さんが持っているのに何となく似ているよ、ほら。あ、もう一つ、発見。同じ型のものかな?」


 僕は一つをフラウに渡す。


「これ、フラウが持っておきなよ。一つくらい持って帰ろうよ。記念だよ。記念」


「ちょっと、そんなもの拾って、大丈夫なの? これ」

 慌てて調べ始めるフラウの様子がおかしくて僕は笑う。


「大丈夫だって。この辺りでよく出る遺物だよ。持っておこうよ。この部屋を見つけた記念と、秘密を守る約束の印だ。僕とフラウの絆の証だよ」


 ちょっと気取った言い回しをしてしまった。向こうの“僕”がどこかで仕入れた言い回しの一つだ。鎖をもてあそんでいる彼女の手からそっと取って、フラウの首にかける。


「似合っていると思うよ。うん、うん」


「二つも首飾りはいらないわよ」

 そういえば、彼女はいかにも価値がありそうな首飾りをつけていた。今は外しているが、あれも魔道具だったのだろうか。


「大丈夫だって、リリ姐さんを見てごらんよ。十も二十もつけてるじゃないか」

 その様子を思い出したのか、フラウはくすりと笑う。

「二つつけていても、問題ないよ。ほら」

 促すと、フラウは外していた首飾りをつけた。やはり、前から持っていたほうは魔道具だったのだろう。彼女の灰色の髪が見る見るうちに色を失っていく。あっという間に黒髪のフラウが出来上がりだ。


「灰色の髪のフラウもいいけど、こっちのほうが見慣れてるな」

 僕が感想を述べると、彼女は慌てて髪に手をやった。


「もっと探してみる? まだ、色々落ちているかもしれないな」


 宝探しにもくたびれた僕らは休憩をとる。その間にもフラウはあたりの調査をおこたらない。


「どうも、ここは変なの」

 フラウは僕の入れた飲み物をすすりながらいう。


「どこが変なの?」僕の目からするとただの実験室だ。


「呪文室なのに、むしろ呪文を抑える効果のある素材を使っているようなの」


「それってどこが変?」


「呪文を調べるのに、光術を抑える効果のある部屋にする必要がある?」


「そもそも光術を調べる部屋じゃなかったんじゃないかな。だって昔の人は術を使わなかったんだろう」

 そう、“僕”の住む場所のように。


「じゃぁ、何のために……」フラウは黙り込む。


「うーん、わからないけど、なにかの実験をしていたとか」


「実験? たとえば、どんな?」


「うん、そうだなぁ。昔の人にとって光術は、新しい技術だったんじゃないかな」

 “僕”の世界には光術のような技術はない。そして、ここには“僕”の世界の“電気”は使われていない。どちらも明かりをつけたり、道具を動かしたりする技術だが、全く成り立ちが違う。もし、”電気”を使う人たちが、今の光術を発見したらどうだろう。

「だから、昔の人は魔力を研究して新しいものを生み出そうとしていたんじゃないのかな。その結果、生まれたのが光術で、彼らはそれを危険なものだと考えていたからそれを押さえる部屋を作った。彼らにとって光術は危険なものだったのかもしれないね」


「アーク」フラウが息をのんだ。「それは、あなたの言っていることは」


「なに? 何か変なことを言った?」


「アーク、光をもたらしたのは誰か知っているわね」


「うん。光と秩序をもたらしたのは偉大なる存在だよ。僕らは全能なるお方の与えてくれた秩序のもとに守られて暮らしているんだ」

 僕はすらすらとこの世界の常識を述べる。小さいころから叩き込まれた考え方だ。


「そうよね。そうでしょ。あなたのいっていることは、まるで、銀の国の人や異端者みたい。いえ、その、あなたが追放された者たちといいたいわけじゃないの。でも、その……光を……」


 僕も、過ちに気が付いた。これは、絶対に口にしてはいけないことだった。


「違うよ、フラウ。僕は光を否定してなんかいない。光と秩序は絶対で、偉大なるものが与えてくれた真理だ。ただ、僕は、昔の人は、光を知らなかったとそういいたかったんだ」


「アーク、他の人の前でそんなことを絶対にいわないでね」

 フラウの目の中には恐怖がちらついていた。

「わたしたちは昔から光に包まれていたの。わたしたちの祖先が光を知らなかったなんて。それは、許されない考え方よ。神殿と人の成り立ちを否定する考え方だわ」


「……フラウの前だからこういう話をしているんだよ。他の人の前ではしない。安心して。もうこんな話はしない。この遺跡の話も、呪文室の話をしない。このお宝は、たまたま落ちていたのを見つけたんだ。それでいいよね」


「ええ」


 どうしてだろう。目線を落としたフラウの顔がとても大人びて見える。僕は保護者に怒られているような気がしてならない。


 短い仮眠をとった後僕らはさらに先に進んだ。ともかく、上へ登っていく。不思議なことに空気が循環しているらしく息苦しくなることもない。“エアコン”とか“空気清浄機”とかという単語が頭の中でぐるぐる回っていた。


 ある地点を過ぎたところで、フラウはぴたりと足を止めた。


「あ」


 僕にもこれはわかった。空気が変わったのだ。それまでの安心して呼吸のできる空気ではなく、よどんだ重苦しい長い間動いたことがない空気の塊がたまっている。


 フラウがため息をついた。彼女は前から持っていたほうの首飾りをはずしてから目を閉じて神経を集中させる。

 再び彼女の体が淡い光を放つ。


「そばから離れないで。浄化の魔法をかけているから」


 僕はフラウの手を握る。


「こうしておくと、少しは楽に術が使えるかな?」


「アーク。そんなことしないで、といったわよね」


「保険だよ。保険。ここでは術が使いにくいんだろ」

「ええ。でも、さっきほどではないわ」


 口ではやめてといったが、手は振り払われなかった。


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