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魔王が唱える機械必要論  作者: ◆smf.0Bn91U
春の出来事
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授業を進めた生徒たち

「ほぼ完璧だな。たまに躱すべきか防御すべきかで悩んでいるような隙もあるが、その点を魔力移動でカバーできている程度には、反射的に動かせている。

 自分の身を守る程度ならこれで十分だろう、ルコリティ」

「と~ぜんですわっ!」


 ほ~っほっほっほっほ……! と高笑いでも飛んできそうな程ふんぞり返るメイジ・ルコリティ。




 ……初回の授業から、一月半が経過した。

 さすがにこれまでずっと、ちゃんと授業の時間を使って練習を繰り返し、ああしてドールに実践形式で教わっていれば、それなりに形にはなってくる。


 初日の授業でお嬢様口調が目立っていたあの子が、現状把握している中では一番成績が良いだろう。


「次、バレスタ。相手が必要か?」

「もちろんです! よろしくお願いしますっ!」


 実践形式を終えて評価をもらったメイジが敷地の隅へと移動し、代わりに、肩幅の広い筋肉質な男子生徒──レイシクル・バレスタが肩で風を切り、敷地の中央へと現れる。


 授業は週に二回。一回につき時間割二時間分をもらっている。

 その間に設ける十五分の休憩の後には、ドールが成績優秀だと思う生徒から順番に、ああして呼び出し、初回授業で説明した、木の剣を使った魔力移動の授業を行っている。


 もちろん休憩前も、生徒から要望があればドールが相手をする。

 それがない間は、もっぱら生徒の自主訓練に任せっきりだ。


 最初の頃は、ドールが授業の最初から一対一で戦い、寸止めの度に私がコツを教えたり彼が注意をしたりなど、二人付きっきりでなければ魔力移動なんて全く分からなかったものだ。

 が、今となっては、自分なりの感覚を掴んでいない生徒がいない程だ。


 自主訓練で任せっきりでもサボらず、己の感覚を磨くことに全力を尽くしている。

 中には友人を頼り、ドールが行うような不意打ちからの寸止め訓練をしている程だ。

 ……さすがに、そちらは無視していると怪我をしてしまうかもしれないので、寸止めもまた訓練の一つだと教え、そうしてお互いに練習している間は、私が目を光らせているのだけれど。


「ふっ!」


 男子生徒が体重の乗った良いパンチを放つ。

 しかし隙も何も衝いていないその攻撃は、あっさりと木の剣の腹で止められる。

 あの筋肉で体重を乗せることが出来ているのだから、当てることさえ出来れば大きなダメージを与えることは出来るのだろうが……如何せん、戦闘のセンスがない。

 さっき戦闘形式の練習を行ったメイジですら、もう少し巧く戦えていた。


「バレスタ、お前は相変わらず隙が多すぎる。そのパワーを当てれば良いと考えて大振りになりすぎだ。牽制も覚えろと前回も言っただろ?」

「くっ……はい!」


 返事は良いのだが、そうなると考えることに意識が向きすぎてしまうのか、途端に動きがぎこちない。

 本当は魔力操作の授業なので、戦いに関するアドバイスを送る必要も無いんだけど……まあ、レイシクル本人は喜んでくれているから良いだろう。

 ああいうのも、授業を続けるモチベーションに繋がっているはずだ。


 そもそも、ああしてドールに戦いを挑む生徒自体、メイジとレイシクルの二人と、もう一人ぐらいしかいない。

 そのもう一人である自称天才の戦いを見て、挑む気が無くなっている生徒が多いのだろう。

 そんな中でも挑めるあの二人が、ある意味異端と呼べるのかもしれない。


「ここまでだ」


 レイシクルの力任せに放たれた拳を木の剣の腹で打ち上げ、がら空きになった腹にその切っ先を突きつけたところで、ドールが終わりを告げた。

 メイジよりも時間が短いと思ったが、よくよく見てみればレイシクルの息切れが激しく、膝に両手を付き、辛うじて立っているような状態だった。


 先に体力が尽きたか。


「何度も言わせるな。学習しろ。

 無駄に考え続ければ良いわけでもない。

 お前に足りないのは経験だ。

 それを積み重ねて、相手の攻撃を躱せるパターンを身体に沁み込ませ、相手に当てるための攻撃パターンを思考し、状況に合わせてそれを引っ張り出せるようにする必要がある。

 今は攻撃を当てることではなく、相手の隙を見つけて動けるようにしろ。

 そのためにも、筋トレ以外の訓練を増やせ」


 そこで一つ、言葉を区切る。

 戦闘に関するアドバイスは終わりなのだろう。


「ただ、肝心の魔力移動はそれなりに様になってきている。去年は強化の授業を受けていたせいで、たまに攻撃に魔力を割こうかどうかで悩む間があったり、本能で移動しようとした魔力を止めてまで、自分で動かそうとしてしまう変な癖があるせいで完璧ではない。

 が、それもまたさっき言った訓練でどうとでもなる分類だ。

 戦闘も授業も、このまま経験を積め」

「あ……ありがとう、ございました……!」


 フラフラとした足取りながらも、ゆっくりとその場を離れていく。


「よし次、ミミーシア」

「はいっ!」


 と、次に呼ばれたのはメガネを掛けた女子生徒。

 この街に着いた夜、私達が助けた例の子だ。


「相手は必要か?」

「いえ」

「ならそこに立て。いつものように魔力移動に集中してろ」


 メイジやレイシクルとは違い、周りの生徒がやっているような、向き合っての寸止め授業。

 戦いの形式ではない、本来私達がやりたい授業の形態だ。


 動きもなく、不意を衝くように放たれるドールの木の剣を受ける授業。


 狙われた箇所にちゃんと魔力移動がされていれば、魔力が込められていない木の剣を当てられ、魔力移動がされていなければ、寸止めされる。

 最初の二人が戦いを挑む二人だから、つい戦闘を強制させる授業かと思われがちだが、そうじゃない。

 身につけて欲しいのはあくまで、本能レベルでの魔力移動だ。

 そこに戦いの要素は必要ない。


 ……レイシクルもまずはコレに集中して、完璧な魔力移動を身に付けてくれたほうが戦闘方面も伸びやすいと思うんだけど……。


 というかそもそも、今の時代にこの国で、戦闘を目的とした魔法の授業を行うこと自体必要性が低い。

 世は戦争反対が声高らかに叫ばれる時代だ。

 軍関連の学校ならいざ知らず、こんな民間の魔法学校なら、戦うための魔法よりも、仕事に活かせる魔法を学ぶほうが、生徒たち自身のためにもなる。


 そしてこの魔力移動は、そうした方面に活かせられる上に、護身用としても活用できるのが大きい。


 それこそ今、ドールに何度か木の剣を当てられている、ウリシャ・ミミーシアのように。


 魔力操作が出来たから、あの夜、脚に魔力を移動させ、速度を上げて逃げることが出来た。

 そう。あの私達が助けた夜の日に、ウリシャはとっくに、魔力操作を扱うことが出来ていたのだ。

 それも、今の授業のような、魔力移動だけではなく、その魔力を性質変化させるといった、より高等な技術で。


 普通の魔力移動では、脚は早くならない。

 そこにさらに一工夫が必要になる。

 その一工夫がなければ、積まれた空の木箱に投げ飛ばされても骨折一つしないような、丈夫さを上げるような使い方しか出来ないのだ。


 とはいえ本人曰く、アレはあの日始めて出来たことで、それも無自覚に出来たことなのだとか。


 初日の授業を終えた後、改めて呼び止められてお礼を言われたその場で聞いたので、間違いない。

 ピンチになって必要に迫られたから覚醒した、といったところだろう。

 彼女が個人的にいる師匠とやらに、「そういったものがある」という話は聞かされていたらしいので、それを再現できた、といったところか。


 ……案外、彼女は才能に満ちている可能性がある。

 『蛇』の魔法を開花させ、多数の種子を持つ彼女とはまた別の才能が。


「ふむ……」


 何度か木の剣を当てたドールは、一息吐いて、ウリシャの気が少し緩んだのを見計らい、さっきまでよりも早い刺突を放つ。

 が、それは寸止めされることなく、彼女の鳩尾に突き刺さる。


 痛みを感じている様子はない。

 魔力を移動させ、自分を守ることが出来ている証拠だ──


「っ!!」


 ──が、次いで放った顔面を狙う回し蹴りだけは、寸止めされた。


「さすがに、ここまで不意を衝かれると魔力移動は出来ないか」

「あ、当たり前です!

 だって先生、木の剣でしか攻撃しないって……!」

「ああ、その通りだ。しかし本来なら、そうして驚いていても、魔力だけは移動しているものだ。

 ……とはいえ、それはこれから勝手に成されるだろう。

 だからこれは成績に何の関係もない。

 ただ個人的にできていれば嬉しかったから、試しただけだ」


 言って、脚を下ろすドール。


「先週よりも魔力移動が完璧だ。

 このまま立ち止まって向き合ったままの攻撃なら、おそらくお前に木の剣を当て続けることになるだろう」

「それじゃあ……!」

「努力の賜物だな。

 前回の授業からたった三日でここまで出来るということは、それ以外考えられない。

 自己鍛錬でここまで出来るということは、意識しても魔力移動が出来るのだろう?」

「は……はい!」

「なら十分だ。次からは別の課題を用意しよう。

 とはいえもちろん、この授業は毎回受けてもらうがな」

「あ、ありがとうございます!」


 喜びを全身で表現するかのように、大きく頭を下げるウリシャ。

 その表情は、「満面の笑み」という題材で、お手本として見れるほど、輝いていた。

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