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西のレンジャー小隊


今回の武力衝突を受けて開催された国連の緊急安全保障理事会。共和国・合衆国という利害が対立する拒否権保有国により、何一つ有効な決定を下せずに終了していた。


残ったのは、紛争開始前とほぼ同じ施政権の及ぶ範囲の境界線と、最悪となった共和国との二国間関係。この結果は国の経済に暗い影を落とす。

一方で圧倒的な軍事力により直接対決を避けた合衆国は高い経済成長を維持している。国内では今回の武力衝突の意義について議論を呼んだ。第1列島戦は文字通り死守した。しかし、この国はそもそも西の海岸線を共和国にさらしている。最大の受益者は誰だったのか?


最初に魚釣島に上陸した4名は、高い練度を誇る有能な工作員とみられた。

一方で、道雪が助けた少女の存在に当局は困惑する。彼女が拘束されたとき、その手に握られていた小銃は発砲できない状態であることが判明したからだ。なぜこれほど練度が不揃いなのか?そもそも身元も不明であり、年齢すら不明である状況において、彼女を成人の不法侵入者としては扱えない状態である。結果として彼女の存在は公になることはなかった。


*****


半年後。

佐伯教子は、自宅で見るからに不満そうに来訪客を迎える。対照的に、笑顔で歓迎する道雪。


「沼田さん!お久しぶりです。まさか海自の佐世保基地に移動だなんて!偶然ですね」


沼田二佐は満面の笑顔でかわいい弟子に応える。


「本当にすごい偶然だね。しかも、海自の幹部宿舎が君の自宅とこれほど近いとは!私も驚いたよ!」


如何にも不服そうな態度で教子は答える。


「本当に、すごい偶然。あの作戦に参加した主要士官で沼田二佐だけ昇進していない理由が分かったような気がします」


道雪は教子の不遜な態度を責める。


「教子さん。沼田さんは、僕の仕事ために、わざわざ来てくれたんだよ」


道雪の眼が見えないことをいい事に、沼田はここぞとばかりのどや顔を教子に見せる。教子はそれが悔しくて仕方がない。


「道雪!あなたはこの人を信用しすぎよ!この人は本気であなたの貞操を狙っているのよ?」


「教子さん!そんなわけないよ。それだったら、僕が入院中にいくらでも手が出せたはずなのに、沼田さんは()()()()()()()()()()()()()んだから!」


「「・・・・・」」


道雪のこの発言は正確ではなかった。羽田空港での別れ際のキスは、彼にとっては事故のようなものであり、本人は忘れているだけ。だが、聞き手は彼が事実を隠したと理解する。本当の事を言って貰えなかった教子と、それによって庇われた沼田二佐は互いに相手を見る。一方は勝ち誇り、他方は悔しそうな顔で。沼田二佐はここぞとばかりに教子に対し特大の爆弾を投下する。


「そういえば、来週から佐伯一尉は東富士での特殊作戦群との長期の合同演習に出かけるんだって?彼をこの家で一人にするのは心配だろう。家も近いし、君がいない間は、私がちょくちょくこちらに来て彼の様子を確認するから、安心して演習に励んできたまえ。一尉」


「!!!っく・・・どこでそれを・・・・」


「臼杵から聞いたよ。ちょうどいい機会だ。彼女がいない間は、私がここで一緒に暮らして君のサポートをしてもいいぞ、()()。校正の仕事もはかどるだろう。電車事故時の傷の具合も気になるしな。風呂上りに傷の具合を見てやろう」


「お断りします!!!この家は私と道雪の家です。他の女の宿泊は認めません!」


「そんなことを言って、もし君がいない間に彼に何かあったらどうするんだね?ん?」


「!!!・・・・」


道雪の無事を人質に取られた教子には反論が見つからない。だが、これには道雪自身が反論する。


「沼田さん。ありがたいお言葉ですが、僕は一人でも大丈夫です。今の僕は半年前とは違います。自宅周辺での日常生活はほとんど問題なくできますので、そこまで気を使っていただく必要はありません」


「成る程。頑張っているようだね。()()。それなら、彼女がいない間は、君の仕事の手伝いがてら、適当に訪問するから、時々、食事でも一緒に食べようか?」


「はい。お願いします」


教子は沼田二佐の道雪に対する呼び方が、名字から名前に変わっていることを見逃さない。道雪は見えていないから分からないだろうが、彼女が気合いの入ったフェミニンなスカート姿であることも気に食わない。ジーンズにノーメークの教子の格好を見た時の勝ち誇った視線が彼女の嫉妬心を余計に刺激する。


とはいえ、沼田二佐の目的が道雪の仕事の手伝いである以上、家に上げざる負えない。教子はしぶしぶ彼女をリビングに案内する。このあと、道雪と沼田は数時間におよび医学に関するやり取りを交わし、沼田は教子の用意した夕食まで食べて帰宅する。


*****


就寝前、教子は切り出す。


「道雪、話をしましょう」


普段より棘のある声に、道雪は警戒しながら返す。


「うん。何?」


突然、彼女は道雪を抱えると、寝室に連れてゆき、ベッドに彼を寝かせたうえで、ゆっくりと彼に覆いかぶさる。彼女が何かに怒っていることは明らかだ。


「道雪。私ね、夜、暗くなってから家に帰ると、時々、思うことがある」


「え?何を?」


「どんなに貴方が頑張っても、目が見える人と同じは難しいってこと。家に帰ると、貴方は真っ暗な部屋で点字の本を読んでいることがある。貴方には明かりが必要ないことは理解できる。でも、長く私が家を空けているとき、ずっと電気がつかなかったら不用心だとは思わない?」


「分かった。これからは時間を決めて部屋の明かりを点けるよ」


「これは一例よ。だから、今度の演習中、沼田二佐に、時々貴方の様子を見てもらおうと思う。悔しいけど、貴方の為にはそれが望ましいわ」


「・・・・・うん」


教子は道雪の両手を少しづつ押さえつけることで、徐々に彼の自由を奪っていく。


「あなたが相浦に戻ってきた日、私は沼田二佐から電話を受けたのよ」


「え?何って?」


「次にあなたが一人で街を歩いていたら、貴方を攫って手籠めにするって」


「沼田さんはそんなことはしないよ」


道雪は完全に教子に押さえつけられ、身動きが取れなくなる。教子は道雪の耳元で、囁くように続ける。その声色は、これまで道雪が経験したことのないものだ。


「知っているわ。その後、彼女は言ったの。別れ際に貴方の唇を奪ったって」


「あ!・・・(そんなことがあったかも)・・・」


「やはり本当なのね。私が悔しいのは、本当のことを話してくれなかったこと」


「・・・あの・・・あれは・・・」


ここで、教子は道雪の唇を奪う。彼の口の中を自らの舌で蹂躙するような、これまでにない激しいそれに、道雪は僅かな恐怖心を覚える。


「・・・ごめんなさい。でも、隠してたわけではなく、忘れてただけだよ」


「道雪、二度と隠し事はだめよ」


「分かった。もうしない。ごめんね?」


「許さない・・・今日はお仕置きが必要だわ」


その日、教子は自らの嫉妬心を道雪にぶつけるような激しさで彼のことを求めた。こんな風にするのは二人にとって初めてであった。


*****


第1小隊と特殊作戦群の合同演習では、幾度かの模擬戦が行われる。

本来、水路潜入を専門とする第1小隊にとって、東富士での模擬戦は専門外とも言える。しかし、結果は驚くほど拮抗したものとなる。この演習を通じ、第1小隊は、国内で唯一、実戦で証明したその実力を、改めて陸上自衛隊幹部見せつける。東の第1空挺団・西の水陸機動団。東の特殊作戦群・西の水陸機動団レンジャー小隊と呼ばれるほど、第1小隊は確固たる地位を確立していく。


数年後、佐伯教子は水陸機動団、第1連隊、第1中隊の中隊長となり、彼女の後任は一条定子が任命される。陸曹長は、教育隊教官となり、その腕を振るう。


その後、彼女たちは、偶然にも同じ年に男の子を出産する。出産後、子供を連れて交流することが多くなる。彼女たちの子供を見かけた人は、ただでさえ珍しい男の子が3人もいる上に、その容姿がとても似ていることを尋ねることがあった。そんな時は、一条定子が口癖のように答えるのであった。



「だって、道雪君は、みんなの道雪君だもの」







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