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剣の記憶 Re:  作者: はじめ
単話
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11/11

魔物への情熱

「ちょっとそこの傭兵くん」


 私は今王国の南西に位置する街を訪れていた。

 今は特に主を構えずに一人旅を満喫し、王国内に不穏な影がないか旅をしている。

 そんな昼下がりの午後、テラスのあるカフェで紅茶を楽しんでいるとそんな声が私にかけられた。


「傭兵くん」


 私が何も言わずに無視しているとその男は私の対面の席に図々しく座ってきた。


「ちょっとお願いがあるんだよ」


「私は傭兵じゃないわ。それに女性に君付けはどうなのかしら?」


「そんな些細なことはいいじゃないか、傭兵くん」


 ふざけているのか?私はメガネをかけた学者風の男を訝しめた目で見るが、男は至って真面目な視線を私に向ける。

 私は視線をそらし紅茶を口にするが男はまだ私を見つめている。


「で、なんのよう?」


 根負けした私はそう口走っていた。

 男の顔が見る見るうちに笑顔になる。


「ありがとう。傭兵くん。僕の話を聞いてくれたのは君が初めてだよ」


 嫌な予感しかしない。

 私は男から視線を逸らせたまま紅茶を再び口にする。


「僕はルーカス。覚えやすい名前だろう?」


 どうだろう。名前に覚えやすいも何もないと思うが。


「そう、私は……」


「そんな事より傭兵くん。依頼があるんだ」


 私が名前を述べようとしたところでルーカスは話を始める。

 私は早くも関わったことを後悔しだしていた。

 周りの様子を見ると明らかに私を憐れんだ目で見てくる人が何人もいた。おそらくこの街の住人だろう。


「依頼?」


「そう、依頼さ!この世の全てを知るための重要な依頼だよ」


 声高らかにそう言うルーカスに周りの住人はまたか……といった表情をする。


「なら傭兵ギルドに頼みなさい。この街にもあるはずよ」


 私は何とかルーカスの依頼を拒否しようと考えて一番可能性がありそうな提案をする。


「傭兵くん、僕の話を聞いていたかい?僕の話を聞いてくれたのは傭兵くんが始めてなんだよ。ギルドにはもう行ったに決まってるじゃないか」


 ルーカスは呆れた様に私を見る。


「あなた、私に依頼する気はあるの?」


 喧嘩を売って歩いている様にしか見えないルーカスの態度に私はそう尋ねていた。


「もちろんさ、ギルドには僕は出禁にされていてね。こうやって旅の傭兵に直接頼るしかないんだ」


「私は傭兵じゃないわよ」


「そんな事は些末ごとさ、傭兵くん」


 ルーカスこそ私の話を聞いているのだろうか?先程から会話が成り立っているようで成り立っていない気がする。

 それに、ギルドを出禁など聞いたこともない。

 私は痛くもない額を抑え、軽く揉む。


「で、その依頼って何よ」


 投げやりにそう答えるとルーカスは嬉しそうに話しだした。


「僕の依頼はね。僕の研究に関係するんだけどなんだと思う?それはね、魔物の研究さ」


 私に問いかけておいて間髪入れずに答えを言う。

 ここで一々反応したら話がいつまでも終わらないと思い、黙って聞く事にする。


「あれ?ボケたのにわからなかったかな?」


「ふざけているなら帰るわよ」


「冗談さ、依頼主とは仲良くなっておいた方がいいと思ってね」


 そんな事はないと思うが。ギルドの依頼はカウンター越しに受付とやり取りするだけで大半は依頼主に会うことすらない。


「それじゃあ本題に入るよ。僕は見ての通り研究者なんだけど」


 白衣を胸元を持ってヒラヒラさせるルーカス。


「最近研究に行き詰まってていてね。どうしても生きたサンプルが欲しいんだ」


 恐らく、ネズミや外にいる動物か何かだろうと思いつつ、ギルドを出禁されるぐらいだからそんな簡単なことではないと考えた。


「一応聞くけどサンプルってなに?」


「この街の外にいる魔物さ」


 ルーカスはメガネをクイッと持ち上げてメガネのポジションを直し、当たり前の様にそう言った。

 私は、とんでもない事を言うルーカスに絶句する。


「そいつを一匹生け捕りにして欲しい」


「ありえないわね」


 魔物一匹でも街に入れれば大騒ぎだ。余りに洒落にならないことを言う。


「大丈夫だよ。傭兵くんがいるんだから」


 何処からその信用が来るのかは疑問であったし、何が大丈夫なのだろうか。


「言わなきゃ誰にもわからないさ」


 ルーカスは飄々とそう答えて、人差し指を口に当てた。どうやら自分の声量は計算に入れていないらしい。

 周りの人もいつの間にか皆こちらを注視していた。


「あなた自分で言って気づかないの?」


「なんのことだい?」


 私はルーカスの態度にため息を吐き、話を聞いたことを後悔した。






 街を出て更に南に位置する湿地帯で私は窮地に陥っていた。

 湿地帯は足場が悪く魔物にとって絶好の狩場となっており、傭兵や旅人でさえ近づかない。

 そんな湿地帯で私とルーカスは魔物に襲われている。


「ちょっと君たち数が多いね。さて傭兵くん、君の仕事だよ。できればあの大きい魔物を捕まえてほしいな」


 魔物に囲まれながらも余裕を保っているのは良い度胸と言うべきだろうが、如何せんルーカスの招いた事態なので褒められたものでは無い。

 それにルーカスの指定する魔物は大小様々にいる中で大型。二メートルはある頭から二本の角が生えた何かだ。

 恐らく鬼に似たそれは、この群れのリーダー格だろう。


「まだ捕獲に賛成した訳じゃないわ。あなたが勝手に飛び出したんでしょう」


 ルーカスは私を見てグイッと顔を近づけてくる。


「な、なによ……」


「着いてきたじゃないか。協力してくれるんじゃないのかい?」


 ルーカスはメガネの中心をクイッと上げる。


「話を聞いて死なれたら後味が悪いから着いてきただけよ」


「優しいですね」


「茶化すなら私だけで帰るわよ」


 私が至近距離で睨むもルーカスは気にした様子もなく、魔物たちに向き直り、鬼を指差す。


「さっ!いらない魔物はやっつけてサンプルを持って帰りましょう!勿論生け捕りで!」


 ルーカスは勝手にテンションを上げる。

 自身は戦わないというのに気楽なものだ。


「生け捕りは却下よ」


 私はそう言って私達の半径五メートルに展開していた魔法障壁を解除し、ルーカスのみに全方位障壁をかける。


「───!!」


 ルーカスが何か叫んでいるが無視する。

 魔物の数は大小合わせて十五体。主がいない今の私一人でぎりぎり何とかなる相手だ。

 小型の犬型の魔物が四体私に迫ってくる。

 攻撃系統の魔法が使えない私は、身を逸しすれ違いざまに横なぎを入れ一体を葬る。


「「ガアァァァ!!」」


 魔物が咆哮を上げるが、私はすぐ様振り返り、通り過ぎた魔物一体を更に仕留める。

 鬼型の魔物はその場から動かずにこちらを観察している。

 小型の魔物以外の十体が一斉に動き出す。最初の小型の二体はルーカスに向かう。


 バン!!


 バンッ!!


 銃声が二度響き、小型の魔物が態勢を崩す。

 私は普段使わない銃を小型の魔物の足に命中させていく。

 私はルーカスの元にかけ、まず最初の二体を始末する。

 そのままルーカスの隣を駆け抜けて大型の魔物の攻撃を躱し、そのまま袈裟斬りして両断する。

 まともに動ける大型の魔物は四体。残り六体の魔物は銃撃を受け動きを鈍らせていた。

 私は湿地帯を駆け抜けて、負傷した魔物を倒しながら、大型の魔物の相手をする。

 魔物といえど魔力の特徴が瞳と身体に出て膂力が人の数倍から十倍に上がっているだけだ。

 傭兵ランクで言うところのAランク相当の私の敵では無い。

 湿地帯を縦横無尽に駆け抜けて、残り一体となった鬼型と対峙する。


「見ているだけなんて薄情なのね」


 私はそう言って私の本体を構える。

 鬼型の魔物は口らしき部分をニヤリとさせた。


 気のせい?今笑ったような……


「い……ぅ……ぞ……」


 魔物が何か咆哮とは違う声を発し、私に突進してくる。


 早いっ!!


 私は鬼型の突進を私の本体で受け止めるが吹き飛ばされる。


 なんて膂力……


 湿地帯をきりもみしながら吹き飛ばされ、何とか態勢を整える。


 人間の数倍から十倍??そんなものじゃないわ。下手したらSランク相当なんじゃ……


 これ程の強さの鬼型が最初から攻撃して来なかった事を疑問に思いながらも、どう対処するか考える。


 Sランク相当ならまともに戦っても勝ち目は無いわね。


「ルーカス!自身の命は自身で守りなさい!」


 私は展開している魔法を全て解除する。


「私の切り札。あなたに耐えられるかしら?」


 私は鬼型にそう微笑んだ。







「これは由々しき事態だよ、傭兵くん」


 腰に手を当て、ぷんすか怒っている。

 私はお尻が汚れるのも気にしないで湿地帯に座り込む。

 正直具現化しているのもギリギリだった。

 それは未契約時最後の切り札魔道砲を使ったからだ。

 魔力容量の九十九パーセントを使い何とか、鬼型を消し去る。

 最後に鬼型が逃げずに魔道砲に立ち向かって来たから何とかなったが、来なければ躱されて私たちはおしまいだったろう。


「……私は帰るわ」


 私は私の本体を支えに立ち上がるが、そのままうつ伏せに倒れそうになる。


「おっと!あー、わざとじゃないんだよ?」


 私を支える様にして胸に触れるルーカス。

 私は黙って睨む。


「そうだ!そうだよ!傭兵くん」


「何?というか何時まで触ってるのよ!?」


 ドンッとルーカスを突き飛ばし、肩で息をする。


「はぁ、はぁ」


「痛いじゃないか。傭兵くん。それより君だよ君」


 私?


「さっきのぱあっと光ってビュッと飛んだのは魔法だろう?僕の目はごまかせないよ。なんたって魔物の瞳と同じ青白い光が霧散してたからね」


 無駄に観察力が鋭いもいうか、魔物への執念というべきか……


「知らないわね」


「そうはいかないよ。傭兵くん。今日は君の体の隅々まで……」


「へ、変態!!」


 パシン!


 私は立ち上がって迫ってくるルーカスにビンタをし、その場を後にする。


「傭兵くん、傭兵くん」


「何よ」


「僕の銃使ったよね」


 そう戦いの前に良ければと渡されたので先程の戦いで利用させて貰った。


「銃の弾って高価なんだよね」


「何が言いたいの?」


「いや、良いんだよ。こんなしがない研究者の手伝いなんてしたくないよね。けど、その銃の弾高かったんだよねぇ」


「…………」


 仕方ない。金額を払えない訳ではないが払ったら払ったでしつこそうだ。


「服は脱がないわよ」


「傭兵くんは何を言ってるんだい?当たり前じゃないか」


 このクソやろう……。


 私は握り拳をルーカスに向けそうになるのをこらえる。


「街に戻るわよ」


 私はそう言って湿地帯を歩き出し数歩進んでから立ち止まる。

 後ろを振り向き、鬼型と対峙した場所を見る。


「意思があったなんてそんな訳ないわよね……」


「何かいいました?」


「何でもないわ」


 私は前を向き再び歩き出す。

 これから何をしなければならないか考えるだけで憂鬱になる。


 関わる人物を間違えたな。


 私はため息を吐いた。

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