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従順な娘〜声に出す

結婚して二年が経った。


その間のことは、うまく話せない。


夫と暮らし始めてから、いくつかのことが変わった。そしていくつかのことは、思ったより変わらなかった。




その日の夕食の後、夫が洗い物をしていた。


私はテーブルを拭きながら、今日あったことを話した。




転職してから入った会社で、上司に仕事の進め方を指摘された話だった。


「理由は分かるけど、言い方が少し引っかかって」


「どんな言い方だったんですか」


話した。夫は洗い物の手を止めないまま聞いていた。


「それは、嫌だね」


「そうなの」


「正しいことを言っていたとしても、言い方で感じ方は変わりますから」


「あなたはどう思うの?」


「自分は言い方を気をつけようと思うよ」


それだけだった。解決策になるのかはわからなかった。


ただ、嫌だったという気持ちが、言葉にして少し軽くなった。




別の日、夫が鉄道の話をしていた。


次の連休に行きたい路線があると言った。


私は聞きながら、少し疲れていた。


「今日はあまり聞けないかも」


言った。


「そうですか、また今度にします」


夫はそれだけ言った。


拗ねなかった。


また今度が本当に今度来ることを、お互いが知っていた。




また別の日、私が何かに苛立っていた。


理由がはっきりしない苛立ちだった。


夫が「何かありましたか」と聞いてきた。


「何かあった気がするんですけど、うまく言えなくて」


「言えなくてもいいですよ」


「でも何かある気がするんです」


「じゃあ、出てきたらまた話してください」


出てきたら聞いてくれる。その言葉が、妙に好きだった。




結婚する前、私は感情を打ち消すことに慣れていた。


怒りが浮かんで消えた。


悲しみが浮かんで消えた。


消える前に言えたのは、ずっと後になってからだった。




今は全部言えるわけじゃない。


まだ飲み込むこともある。


言い方を間違えることもある。


夫も同じだ。


言葉が足りないことがある。


伝わらないことがある。


ただ、言おうとしている。


お互いに、言おうとしている。


それが今のところ、私たちの形だった。




母からは今でも時々電話が来る。


相変わらずだ。ただ、以前ほど身体が重くならない。


少し変わったのか、慣れたのか、それとも別の何かなのか、まだ分からない。


夫に話すと、「そうですか」と言って聞く。


解決しない。ただ、話した後の方が少し楽だ。




夜、並んでテレビを見ていた。特に面白いわけじゃない番組だった。


「今日の夕飯、美味しかったです」


夫がそう言った。


「いつもありがとうございます」


「私もいつもありがとうございます」


くだらないやりとりだった。でも、言葉に出す。


窓の外で、夜が静かだった。


言えなかったことが、少しずつ言えるようになっていく。


思っていることを言ってくれるから、思っていることが言える。


それが今の私の、生きていく形だと思っている。

従順な娘 終

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