灰色の男
地下研究区画崩壊から数時間後。
白羽市西部・旧工業地帯。
空はまだ暗い。
だが街は眠っていなかった。
サイレン。
避難誘導。
封鎖線。
セレスティアの一般部隊が瓦礫地帯を後退していく。
「第三ブロック突破された!」
「侵食速度が速すぎます!」
「クソ、止めろ止めろ!!」
黒い霧の中から、
異形が現れる。
四足。
腕だけ異常発達した人型。
顔が割れたもの。
白い目。
侵食体群。
一般隊員が霊装を撃つ。
だが効かない。
「再生するぞ!?」
「核を狙え!」
次の瞬間。
隊員の一人が吹き飛ばされた。
悲鳴。
血。
瓦礫。
侵食体が迫る。
その時だった。
轟音。
巨大な赤熱斬撃が一直線に走る。
侵食体の群れがまとめて蒸発した。
全員が止まる。
煙の向こう。
ひとりの男が立っていた。
黒いコート。
灰色の短髪。
二十代半ばほど。
片手には、
異常な形状の霊装。
剣というより、
“杭”。
刀身全体へ赤い亀裂が走っている。
隊員が呆然と呟く。
「……誰だ。」
男は答えない。
そのまま前へ歩く。
侵食体が咆哮。
一斉に飛びかかる。
男が霊装を振るう。
赤い閃光。
空間ごと侵食体が断裂する。
再生しない。
エレナが遠隔モニター越しに息を呑む。
「嘘でしょ……。」
暁も顔をしかめる。
「まだ生きてたのかよ。」
剣也が振り返る。
「知ってんのか?」
暁は少し黙る。
そして低く言った。
「黒瀬湊。」
「セレスティア旧実験部隊所属。」
モニターの中。
湊が再び侵食体を切断する。
だがその直後。
ゴホッ――
血。
大量の血が口から溢れた。
湊は壁へ手をつく。
呼吸が乱れている。
リアが解析する。
「身体機能が異常低下。」
「内臓損傷。」
「細胞崩壊反応を確認。」
剣也が眉をひそめる。
「……なんでそこまでして戦ってんだ。」
その時。
湊がこちらを見た。
モニター越し。
なのに。
まるで剣也を直接見ているみたいだった。
湊が小さく笑う。
「……面倒なのが増えたな。」
その瞬間。
背後の黒霧が裂ける。
巨大侵食体。
今までとは比べ物にならない。
白い“顔”が無数に埋め込まれている。
隊員たちが青ざめる。
「A級反応……!!」
湊は血を拭う。
そして。
静かに霊装を構えた。
赤い亀裂がさらに広がる。
リアが警告。
「危険。」
「これ以上の出力行使は、生命維持限界を超えます。」
湊は笑った。
「最初から。」
「長生きする気なんかねぇよ。」




