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Phantom Zero  作者: 高槻 和真


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【外伝前章】零災対応機構

白羽市。


セレスティア本部。


珍しく、施設全体が慌ただしかった。


普段は現場要員が中心のこの支部も、今日は空気が違う。


大型モニター。


英語、中国語、ロシア語。


複数言語の通信が飛び交っている。


剣也はその様子を見ながら眉をひそめた。


「……なんか今日、本部うるさくないか。」


リアが端末を確認する。


「国際回線の使用量が通常の四倍。」


「零災対応機構からの査察チームが到着予定。」


「査察?」


剣也が嫌そうな顔をする。


「お役人かよ……。」


その時。


後ろから声。


「その認識、半分正解で半分ハズレだな。」


天城暁だった。


缶コーヒー片手。


いつものラフな格好。


だが今日は珍しくIDカードを首から下げている。


「零災対応機構――通称“ZDC”。」


「霊災対策を統括してる国際機関だ。」


剣也が歩きながら聞く。


「セレスティアの上?」


「形式上はな。」


暁が肩をすくめる。


「実際は、各国の利害が絡みすぎて統制なんざ取れてねぇ。」


リアが補足する。


「現在、霊災対策思想は大きく三系統に分類されます。」


指を立てる。


「第一に、日本・東アジア圏の“封鎖・浄化型”。」


「セレスティアがこれに該当。」


「第二に、欧州圏の“共存・観測型”。」


「そして第三――」


一瞬だけ止まる。


「旧エイドス系統の“統合型”。」


剣也が苦い顔をする。


「まだ残ってんのかよ、あれ。」


暁が鼻で笑う。


「思想ってのは、トップ潰した程度じゃ消えねぇ。」


廊下を歩く。


途中。


大型ガラス越しに訓練施設が見える。


対霊装備。


戦術ドール。


海外製と思われる機体も並んでいた。


剣也が目を止める。


「……見ない型だな。」


リアも見る。


「北欧支部製。」


「寒冷地用位相装甲。」


「へぇ。」


その時。


施設全体にアナウンス。


『査察チーム、到着しました。』


空気が変わる。


職員たちが一斉に動き出す。


エントランス。


自動扉が開く。


入ってきたのは、数人の武装警備員。


その後ろ。


長身の女。


灰色のコート。


金色の瞳。


年齢は二十代後半ほど。


だが空気が違う。


“現場”。


それも、かなり深い側の人間。


暁が小さく舌打ちする。


「……よりによってアイツか。」


剣也が聞く。


「知り合い?」


「昔な。」


短く返す。


女がこちらを見る。


視線が合う。


一瞬で分かる。


強い。


ただの研究員でも、役人でもない。


彼女が口を開く。


「久しぶりね、暁。」


日本語。


だが少しだけ発音が違う。


「相変わらず死に損ないみたいな顔してる。」


暁が笑う。


「そりゃどうも。」


女の視線が剣也へ向く。


次にリア。


そして――


ルナで止まる。


ほんの一瞬。


空気が変わる。


「……なるほど。」


小さく呟く。


「報告は本当だったのね。」


リアが即座に警戒態勢へ移行。


「識別照合。」


「ZDC欧州中央観測局所属――」


「エレナ・クロイツ。」


女――エレナがわずかに笑う。


「優秀。」


剣也が小さく聞く。


「何者だよ、あれ。」


暁が低く言う。


「“境界潜行者”。」


一拍。


「異界に入って、生きて帰ってきた連中の一人だ。」


沈黙。


剣也の表情が変わる。


「……異界に?」


エレナがその会話を聞いていたように口を開く。


「ええ。」


「あなた達が“境界”と呼んでる場所。」


「その先は、ちゃんと存在してる。」


その瞬間。


ルナの瞳がわずかに揺れた。


エレナはそれを見逃さない。


細く笑う。


「……面白い子ね。」

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