プロローグ
2037年______。
世界は未曾有の危機に直面していた。地球磁場の異常な変化により、長らく伝説や神話の中にしか存在しないと信じられていた霊や妖といった隔離世の存在が、現実世界に姿を現し始めたのだ。
初めは些細な異常現象だった。街の路地裏に不気味な影が動き、深夜の山間部で人の目に見えぬものが囁く。しかし、人々を襲うことはまだなかった。
この脅威は「霊災」と名付けられた。当初は限定的な地域での小規模な異常現象と見なされていたが、やがて世界中で頻発し、人類はその対策に追われることとなった。都市伝説や噂で済ませられる段階は、すでに過ぎ去っていたのだ。
対策のため、政府・企業・科学者たちは先進国を中心に「霊災対策連合機構(Spirit Disaster Control Union)」を設立した。そして数年の研究の末に生まれたのが、**対霊戦闘人形“Anti-Spirit Combat Doll”、通称“ドール”である。製造年や製造元により細部の仕様は異なるものの、いずれも霊災の根源である霊的存在を感知・排除する「霊装技術」を搭載していた。
しかし、この兵器を制御するには、隔離世へ干渉できる特殊能力を持つ“シーカー”との完全な共鳴が不可欠だった。シーカーとは、霊的エネルギーと共鳴することのできる限られた存在であり、人類は彼らの力によって初めて霊災の根源に立ち向かうことができた。
青年とドールの共鳴は、世界を救う希望か──それとも、新たな悲劇の序章か。
この物語は、そんな時代に生きる一人の青年と、その青年が駆る人形の戦いを描く。