表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/59

第5章⑥

 ここまでの間にマッドスターズでは、七人の選手がチームを去っていた。三十四歳センターバックの泉田が引退。主力・準主力級として活躍していた左サイドバックの多野、韓国人のイムが、J1のクラブ、そして母国のクラブへとそれぞれ移籍し、そこに加えて、出場の機会がほとんど無かった戦力外の退団が四人。

 そして、それと入れ替わる形で、ルーキーや他チーム等からの加入が六人あった。

 まずJ1の広島から、二年目十九歳のサイドアタッカー、相原賢治を一年間の期限付き移籍で獲得。相原は広島ユース出身の左利きミッドフィルダーで、アンダー代表の経験もある中々の有望選手だ。しかしそれでも昨年は、トップチームの厚い選手層に阻まれて出場機会が無かったため、広島としては試合経験を積ませたい思いから、J2へレンタルに出したといったところだろう。

 続いて水戸、山形からはそれぞれ、ミッドフィルダーの山本卓巳、ディフェンダーの中橋勇を獲得。どちらも二十代半ばの中堅選手で、山本は水戸でレギュラーを張っていた。中橋は控えが多く、身長も百八十センチ以下と決して高くはないものの、スリーバック、フォーバックともに、そつなくこなせる器用さが持ち味だ。

 ルーキーは二人で、間曽海星と渡辺友樹。二人とも高卒の選手で、間曽はJ1の柏ユース出身のフォワード。快足が武器で、主に、最前線のサイドであるウイングのポジションを務めていた。渡辺は、地元、新潟の高校出身。選手権ではキャプテン、そして県の代表校として冬の全国大会へ出場した。試合は一回戦で香川代表に惜敗したものの、センターバックとしてチームを牽引したディフェンダーだ。

 最後に、同じく新潟を拠点にしている格上クラブ、J1のシグナス新潟を戦力外になっていたベテランミッドフィルダーの三島圭輔をトライアウトで獲得し、合計で二十八人。経営面の難しさもあってか人数的にはやや少ない印象だが、個々の質は悪くない。まずまずの陣営を整えて、ストーブリーグを終えた。


 ……一月二十一日。

 前日に新入団選手たちによる合同会見を経て、この日は、チームの初練習日だった。

 慢性的な積雪の影響でクラブのピッチは使えず、近くの中学校の体育館を借りる形で行われた。

 練習の前には、新加入選手やコーチの自己紹介が行われ、キャプテン四年目の中津が、淡々とした口調で恒例となっている抱負を述べると、早速トレーニングに入った。

 といっても狭い体育館の中だ。出来ることは限られている。それにオフ明けから急に強い負荷を掛けてしまうと、いきなりの故障の原因にもなるため、ここでやるのは、あくまで一次キャンプに向けたウォーミングアップ程度のものだ。

 和気藹々とランニングやストレッチを済ませると、ペアを組んでのリフティングパス交換を挟み、体育館の壁から壁への短距離ダッシュ。それが終わると、今度は一人ずつ、規則的に並べられた小さなコーンをシャドードリブルのような形でジグザグに抜けていく。スパイクの金具が無いシューズのゴム底がフローリングの床で擦れるたびに、キュッ、キュッ、っと小気味良い音がして、それが天井の高い体育館に響いた。

 氷点下近い室温に最初は肩を竦めてブルブル震えていた選手たちも、練習が始まれば次々に上着を脱ぎ捨て、上気したかのような汗を流し始める。その中でも、浅川の息は乱れが大きかった。自身のストロングポイントであるターンや瞬発力のキレが出せない。

 原因は分かっている。自主トレを怠ったせいだ。

 そんな彼のコンディションの悪さをコーチ陣が見逃してくれるはずもなく――、

「へいへい、どうしたどうした、仁っ! 動けてないんじゃないかぁ?」

 浅川は思わず膝に手を置きたくなる気持ちをこらえて、再び走り出す。

 こちらよりも体型の緩い身体つきをしているコーチたちの姿を見ると、どの口が言うんだよとも思いたくなるが、現役選手を退いたら誰しもがそんなものだし、そこに八つ当たりをしたところで惨めなだけであることも分かっている。

 そんな自身の不甲斐なさに唇を噛みしめると、ボディブローでも打たれたかのように痛み出したわき腹を押さえつつ、オフシーズンの過ごし方を今更ながらに後悔した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ