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第1章⑭、対マジカル大阪、その二

 前半、土竜谷マッドスターズのボールで試合が始まった。

 開始早々、左サイドバックの多野が、自陣から挨拶代わりのロングボールを相手陣内奥へと蹴り出す。FWの近藤がダッシュで収めようとするが、これはそのままエンドラインを割ってしまう。

「ボールが伸びすぎたか……ちっ」

 多野が首を傾げてごちる。

 対するマジカル大阪のGKはあえて長いフィードを飛ばさず、最終ラインから繋ぐ形でCBにパスを出す。

 すかさず近藤、高村が相次いでプレスを仕掛けるが、相手は落ち着いてボールを回しながらなし、徐々にセンターラインまで押し込んでくる。

 MFの金城にボールが渡ると、スイッチが入ったような素早いターンから右サイドへ大きく展開。

 マンマークについていた笹木が軌道に引きつけられる。その一瞬の隙に、スルリと上がった金城は、折り返されてきたボールをペナルティアークの外からダイレクトのミドルシュートへと繋げる。

 鋭い縦のスピンが掛かったボールは浮き上がっていくようなコースでクロスバーの上に飛んでいった。

 大阪サポーターからは一瞬の歓声が上がり、マッドスターズサポーターは対照的な安堵の息を吐く。


 ――やっぱり、パスワークのレベルが高けえ。

 リザーブベンチに座って戦況を見つめる浅川は、思わず唇を噛んだ。

 五人のMFが繰り出すボール回しは、その正確性と美しさから、五色のパスとも言われている。

 特に、日本代表にも選ばれている金城にボールが入ると、他のMF4人の動きが敏感になって、パスの受け手を即座に作るというのが徹底されているようだった。

 細かいパスで狭い中央を突破したかと思うと、今度はサイドに開いて、スペースをワイドに使ってくる。

 コチラがこぼれ球を拾っても、陣形が掻き乱された状態では、前線に蹴り出すしかない。

 それをなんとか高村がキープしようと試みるが、屈強な相手CB、沢中のマークに苦しみ、上手くいかない。

 戦前の予想通り、ボール保持率は明らかにマジカル大阪側が優位に立ち、獲物をジワリジワリと追い詰めるかのように多彩な攻撃を仕掛けてくる。マッドスターズの面々は、それを凌ぐしかない状況が続いた。


 最大のピンチは42分。釣り出される格好となったCB熊沢のスペースにスルーパスを通されてしまい、抜け出した相手FWの渡辺に一対一の状況を作られてしまう。

 腰を落とし、両手を広げるGK犬飼との僅かな駆け引きから、ゴールの右を狙ってくるシュート。

 コースは、確実に枠を捉えていた。しかし、これにギリギリで反応した守護神犬飼が、指先で外へ弾くファインセーブを魅せ、事なきを得る。

 この危機を凌いだマッドスターズは、どうにか0‐0で前半の長い45分を終えることになった。

 シュート数は2本対7本と圧倒され、マッドスターズにほとんど良い所は見られなかったが、スコア上はイーブン。勝利のチャンスはある。

 しかし、疲労度という目に見えないビハインドを背負って迎えた後半9分に、それは決壊する。

 この日、六度目のコーナーキックを与えてしまうと、ファーサイドに巻いて入ってきたボールを相手CBの沢中にヘディングシュートで合わせられる。ピンボールのように飛んできたボールは甲高い音と共に、クロスバーを叩き、一度は救われたかに思われたが、直後、落下点にフリーで待っていた金城の右足ダイレクトボレーが炸裂し、これがサイドネットの内側へと突き刺さってしまった。

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