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戦女神様の魔神討伐記  作者: うにたこ
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第一話 メイブの祠の異変

シナリオ変更しました。また変更するかも。

目を開けると魔法陣に囲まれた草地があった。魔法陣の中央にはオべリスクがそびえ立っており、イシェールはそのオベリスクと背中合わせに立っていた。


ここはどこだろう。あたりを見回すと向こうの方に森が見えた。

森の方を見ると奥の方で何かがうごめいているように見えた。

イシェールは何となく興味をひかれ森の方へ足を向けた。


森の中に入ると蠢いているものの正体が見えた。人間3人分くらいの体長をもったワームであった。

それが百メートルほどの列を作って森の中を移動していたのである。ワームの太さは人間2人分ほどで、体色は黒く、節のある背中には赤い点々があり、目はない。


ワームの一匹が頭を上げ、左右に振っている。何かを探しているような仕草である。頭を左右に振りながらぐるりと辺りを見回しワームの口がイシェールのいる方向で止まった。目がないのにこちらが見えているのだろうか。


ワームが頭を上下に振り痙攣しはじめた。するとほかのワームたちもこちらを一斉に向いた。

ワームたちが列をなしてこちらの方へ来る。見た目よりも結構速い。あっという間にワームたちに囲まれた。


一匹が頭を振り上げイシェールを大きな口で噛みつこうとする。イシェールは半歩身を引き、ワームをかわす。すると横から別のワームが襲ってくる。これも半回転してかわす。今度は斜め後ろからワームが左肩に噛みつこうと襲っててきた。


とっさにワームの体を右の拳で殴る。拳がワームに触れた瞬間、一瞬かっと白く光ったかと思うとワームの頭が突如消えた。


何が起こったのかイシェールも驚く。右手を見ると白銀に光るひと振りの剣が握られていた。これがワームの頭を飛ばしたようだ。突然手に剣が現れて戸惑うが止まっている時間はなかった。まだワームが襲ってきているのだ。持っている謎の剣でワームの一匹を切りつける。


一撃で死んだ。あとは単調作業であった。ワームの攻撃が単純なのか、イシェールの動体視力と身体能力が高いのか、ワームは襲ってきては切り伏せられる。


やがて辺りは静かになった。イシェールの周りには粘ついた黄色いワームの体液と死体だけが残った。ぶんと剣を振って刀身についた体液を落とす。イシェールはワームの死体の山を眺めながらひとり考える。


(さっきの戦いからして私は戦いには慣れているようだ。恐怖心も感じなかった。それにこの剣。)


手に握っている剣に目を落とす。


(突然出てきたのに私はこの謎剣を使い慣れているみたいだ……。私は一体誰なんだ?さっきトーガという男が祠がどうとか言っていたが、そこに行けば何かわかるのだろうか。祠はこの森の中にあるのだろうか。…探してみようか。)


イシェールは剣を持ったまま森の奥へと進んでいった。











「ふあーあ。暇だな。」


伸びをしてあくびをしながら物見やぐらの下にいた男はつぶやいた。先ほど彼は物見やぐらの見張り番を交代し、梯子を下りてきたところである。


男の名はグラン。メイブの祠を守る役目を担う防人である。メイブの祠とは魔神を封じるためにつくられた結界の一部である。


この世界、テラムと呼ばれる地では太古の昔に神々と魔神たちがこの地を巡って激しいいくさを繰り広げていた。長きにわたる戦いの末、神々は魔神たちに勝利し、残った魔神たちをテラムから追い出して奈落の底にあるという冥府に封じ込めた。そして魔神たちが二度と地上に現れぬよう神々はテラムの各地に祠を幾つも建て、結界を作った。その一つがここテラム・キボスにあるメイブの祠である。


メイブの祠の防人はここで何百年も祠を守ってきた。

祠の結界が破られてしまえば魔神たちとその眷属の魔獣や魔物が地表に現れ、この地は魔神たちに制圧されてしまう。自分たちの土地を守るためにもメイブの祠を守ることは重要なことであった。


だが。この300年ほどはメイブの祠には何の異変もなく、平和だった。

祠の中には神官と特別な許可を与えられたもの以外入ってはならないという掟もあり、一日中森の真ん中にポツンとある祠を物見やぐらの上から監視したり祠近辺を見回ったりするだけ。凶暴な魔獣もこのあたりには生息していない。メイブの祠に配属される防人というのは、大変暇なのである。


この監視するという任務も今ではまともに機能していない。暇を持て余すので見張りのものは大抵物見やぐらの上や詰め所で仲間と酒を飲んだり博打を打ったりしている。グランはこのメイブの祠の防人になってひと月ほどになるがここでは兵士としての仕事らしいものはほとんど存在していなかった。


防人になる前は各地を旅して人々に危害を与える魔獣を退治する傭兵として生計を立てていたグランにとっては自ら望んだとはいえ少し味気ない生活ではあった。


「見回りにでも行ってくるか。」


そう言ってグランは祠のある森へ行くことにした。この森で使う事はないではあろうが傭兵家業を営んでいたころの習慣で簡単な革製の鎧を身につけ盾を背中に担ぎ、片手剣を腰にいたグランは森の中に入って行った。


メイブの祠近辺の森は静かである。

おそらく結界の影響であろう。この300年魔物が出たという話はほとんど聞いていない。小鬼だとか鬼火がでたという話がときおりでることがあるようだが大抵は酔っ払いのヨタ話で片づけられる。


このあたりは魔獣自体が滅多に現れないのでのんびりとした散策気分であった。仮に現れたところでキメラ1体までならグランひとりでも何とかなる。傭兵をしていた頃はそこそこ実力のある戦士だったのだ。

巡回で毎日踏み馴らされた道を歩いてきたグランは祠の近くまできた。


(…………?)


祠の方に何かいる。何かが蠢きひしめきあっている音がする。さらに近づいてみると祠の周りにワームが集まっていた。


(何だコリャア!?)


よく見ると祠の周りにいるのはワームだけではなかった。祠の入り口の上の方にはは猟犬ほどの大きさの巨大な蜂が、横の方からは羊くらいある大きなさそりがいた。祠の周りは魔物の巣窟になっていたのだ。


(まずいっ!すぐ戻ってほかの連中に知らせないと!!)


グランは魔物達に気づかれないように音を立てずにそっとその場を離れようとした。焦る気持ちはあるが今魔物たちを刺激すれば一度に大量の魔物が襲ってくるだろう。腕に覚えのあるグランでもそれはさすがに分が悪い。数が多すぎるのだ。応援を呼ぼうとグランが来た道を引き返しそうとしたそのとき、向こうの方でこちらのいる反対側から祠の方へ近づいてくる人影が見えた。


(誰だ?こんなときに。そっちへ行ったら魔物の餌食になっちまうぞ!?村のガキか?)


心の中で舌打ちしながらグランは仕方なく魔物を避けて祠の反対側へ回り込もうと移動を始めた。グランはじりじりと人影の方へと行き、何とか近づくことができた。草影で隠れて姿はまだ見えない。


「おい、あんた。このまま進むと危険だ。すぐに森を出るんだ。」


グランは小声でその人物に話しかけた。すると人影の歩みが止まった。


「メイブの祠というのはこの奥にあるのか?」


人影がグランに答えた。若い女の声だ。


「ああ。そうだ。だが今は魔物が祠の周りに溢れ返っている。このまま進むと魔物の餌食になってしまうぞ。今すぐ引き返しなさい。」

「私が通ってきた道にも魔物が結構いたぞ。」

「何だって!ああ、それじゃあもう森中に魔物が広がってるのか。村の方に被害が出る前に早く見張りの連中にも教えてやらないと。」

「まだ祠の結界の力が残っているからしばらくは奴らは森からは出られない。」

「え、本当なのか?何でそんな事をあんたが知っているんだ?あんた、神官か何かか?」

「いいや。たぶん違うな。結界の事は……確かそうだった気がする。」

「気がするだけかいっ!」


グランは思わず突っ込んでしまった。


「お前は先ほど引き返せと言ったが私はこの先の祠に用がある。と、思う。」

「あ、おいっ、ちょっと待て!」


人影の主はグランの制止も聞かずに草影から飛び出して祠の方へと走ってゆく。グランの眼の前をあかがね色の髪がかすめた。


「クソッ」


グランは悪態をつきながら銅色の髪の女を追いかけた。女は祠の前の魔物の群れに飛び込んでいった。右手には白銀に輝く剣が握られていた。柄と刀身の境目のない見たこともない剣だ。光そのものが形を成し剣となったのならこのような姿になるのだろうかと思われるような造形だ。


群れの中にいた一匹の大きな蠍が鋏と尾を振りかざし女に襲いかかってきた。女は鋏と尾の連続攻撃をかわし、攻撃がやんだところですばやく地面を低く掻い潜り蠍の頭に目がけて鋭く突きを入れて蠍を仕留めた。


蠍を仕留めたところで女の後方から今度は巨大蜂が襲ってくるが、振り向きざまに横に薙ぎ払われ、両断される。


女の立ち回りは周りにいる敵の動きすべてを予見しているかの様に一連の流れに無駄がなかった。戦っている様子は剣舞を舞っているかのように美しかった。


「すげえ……。」


女を助ける為に追いかけたつもりのグランだったが、見た事のない戦い方に僅かな間見とれてしまっていた。

女はかなりの剣の使い手のようである。このまま魔物の群れをすべて倒してしまうかのようにも思えたが、やはり数が多すぎたようだ。あっという間に囲まれてしまった。


女は突然剣を頭上に掲げた。


「?!」


次の瞬間、目を開けていられないくらいまぶしい光に辺りが包まれた。グランは反射的に目を半分閉じ、腕で光を遮った。光の射出が終ったあと、グランは目の前の光景に唖然とした。魔物たちの居た場所には魔物はおらず、代わりに黒い砂のような物が崩れ落ちて消えていくところだった。あれだけ沢山いた魔物の群れが一瞬で塵と化していたのだ。一体何が起こったのか彼にはわからなかった。


(これは、魔術か?)


昔、彼が傭兵をしていた時分に年老いた魔術師が魔術で魔物を殺すところを見たことがあった。

あのときの魔術師は炎の魔術を使って巨人の腹に風穴を開けたのだ。当時は十分それでもすごいと思ったものだが、今見たものはそんなものとはくらべものにはならなかった。一瞬で周りの生き物が塵になったのだ。しかも女は以前自分が見た魔術師のように魔法陣を歪な樫の杖で描き、やたら長たらしくて低い声色のおどろおどろしい呪文の文句をいっている様子もなかった。


グランが間の抜けた顔で目の前の光景に呆然としている間に銅の髪の女、イシェールは祠に向かっていった。


「ま、待てよ…。」


我に返ったグランは女の後を追った。止める声も聞かずにイシェールは祠に入っていく。


グランは石造りの祠の入り口の前で少し足を止めた。神官と許可を与えられたもの以外は足を踏み入れることを固く禁じられていたからだ。今まで祠の中まで入ることがなかったグランにとっては余計に禁忌を犯すことに気が咎められた。


しかし、正体不明のよそ者を神聖な祠に入れるわけにはいかないし、魔物が噴き出してきた場所に一人で進ませるというのはどうなのか。


「くそ、考えるまでもないか。」


グランは悪態をつきながら祠の中へ入った。どのみち部外者を祠に入れてしまった時点で懲罰は免れない。それなら余計に状況が酷くならないよう女を連れ戻すしかない。


「おい、あんた。勝手に中に入られては困る。戻ってくれ。」


イシェールは答えず奥に進む。


「おいっ!」


肩を乱暴につかもうと腕を伸ばした。しかし、軽くかわされ、グランの腕は宙を掴む。


「待てったら!」


今度は前に回り込んだのだが、どういうわけかするりと避けられイシェールは速度を変えずに祠の中の少し狭い通路を進んでいく。


「こらっ!」


引き留めようとしては避けられるという少し間抜けなやり取りをしながら彼らはなし崩しに二人は祠の最奥へと進んでいった。


奥は少し広い部屋になっており、石でできた床には焦げ茶や青、白の塗料で魔法陣が描かれていた。魔法陣の真ん中には紫色の石が埋め込まれており、見つめているとこちらが見つめられているような気分になる奇妙な淡い輝きを放っていた。そして、部屋の中は殺気のような嫌な空気が充満していた。


「……本当にここに魔神を封印しているのか?」


グランは誰に話しかけるわけでもなく一人そう呟いた。テラムの九つの祠には太古の魔神が封じられている。これは子供でさえ知っている古からの言い伝えであった。そして彼が防人として守るメイブの祠もその中の一つであるとは聞かされてはいたが魔神が封じられたのは何百年も昔の事である。あまり実感は湧いてはいなかった。


だが、今この場所の空気の禍々しさを目の当たりにすると何かとても悪いものがここにいるという事は感じとれる。


「魔神?」


イシェールがグランに聞いた。


「ああ。ここは魔神クーチュラインを封じていると伝えられているメイブの祠だ。あんたはよそ者だから知らなかったのだろうが勝手に入ったらひどい罰を受けることになる。今すぐここを出るんだ。」


自分の責任も重くなるのでここは何とか説得して彼女を連れ出し問題を軽傷で済ませたいとグランは思う。


「クーチュライン……。」


魔神の名を口にし女は目を閉じ沈黙した。何か思うところがあるらしい。


(クーチュラインという言葉には聞き覚えがある。確か黒い巨大な犬の化け物だ……。)


イシェールは欠落した記憶の奥を探っていた。黒い瘴気に覆われた巨大な化け犬クーチュライン。その破壊力は凄まじく、地上で圧倒的な力を見せつけていた。ともに戦う同胞たちはあれと相対したとき戦慄していた。いずれも恐れなど生まれる前にどこぞへ置いてきたといわれる猛者ぞろいであったのにも関わらずだ。


(そうだ。思い出した。私はここに封じられている『魔神』と戦ったことがある─。)


「瞑想にふけっているところ悪いんだが、ここから早く出て行ってくれ。俺には他にもやらなくちゃならないことがあるんだ。」


目の前の不法侵入者の処遇のこともあるし、森の魔物の大量発生について他の兵士たちや村人に伝えなくてはならない。ここで時間を潰している暇はない。グランはそう考え女に声をかけた。しかしそのとき足元が揺れ、地響きが鳴り響いた──。



この物語の中での防人さきもりとは、辺境の地で外部(魔物や魔神、もしくは敵対勢力)からの防衛をしている人達のことを指します。防人の人たちを管理しているのは今回のお話では魔神からの防衛になるので神殿の管轄になります。

…本来の意味は九州沿岸や対馬など列島の防衛をしていた兵士たちのことを指しますが、それとは別物とお考え下さい。

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