かくれんぼ
ごめんなさい!
休日は朝に弱いんですっ!
遅れましたー
「私が最後なの?」
アクアが不満気な声を上げる。かくれんぼで見つかった順が、自分が最後かと聞いているのだ。普通ならそれは鬼に見つかりにくかったことを意味し、嫌がることではない。しかし、アクア的には全員から探された、として少し不愉快なのだ。
1番対等ではないじゃないか、と。
それに、自分も鬼をして見たかった、というのもある。アクアは5年という短い人生の中で、初めて人と遊んでいるのだから、それも無理はないだろう。遊びたい盛りの子供なのだ。
「違うよ、ノアが見つかってない」
富白がにこにことそう言った。それを聞いてアクアが呆れ半分納得半分の顔をする。その顔はとても幼女が見せるそれは思えないほど大人びていた。
「あの人ならそうだろうね、流石は夜歩猫姫。じゃあ、探しましょうっ!」
しかし、次の瞬間にははしゃぐ子供のように目を輝かせていた。
「じゃあ、探してきなさい、アクア。莉八ちゃんと、富白も行ってきて」
フレイアがアクアを床に降ろしながら言う。
「はーい!」
「わかりました、フレイア神」
「りょーかいりょーかい」
三人はそれぞれ返事をして出て行った。
それを見届け、フレイアは微笑みをウォルトたちに向ける。
「ごめんなさい、お待たせしましたね。ここまでお呼びしておいて、申し訳がないです」
「い、いえっ!!そんな、申し訳なく思うなんてことはないですよ!」
フレイアの微笑みにやられたのかウォルトが慌てて声を上げる。フレイアはにこにこと微笑みを絶やさず、質問を始める。
「実は、お聞きしたいことがあって。あなたはあの子が住んでいた街で知り合った人だそうだから、ちょうど良かったんです」
フレイアたちは急にアクアたちがいなくなったことによってあの町の住民たちがどのような反応を示しているのか、調査の必要があると考えていた。なぜならば、アクアたち世界樹のメンバーに自覚はなかったが、あのパーティーはとてもよく目立っていたからだ。それに、あそこを去る時に試練の塔を破壊してきたことから、その有名振りは拍車をかけていることだろうと思っていた。
もしも、アクアたちを探してついてきたものがいるのなら、そいつらに害意がないかを確認しなくてはならない。アクアは魔法を封じているし、もしもそいつらに絡まれているときにロキやその仲間が来たら、対処できないからだ。
「あ、街のことですか!?はい、お話しします!」
その旨を告げるとウォルトは元気良く話出した。追っかけが多数来ていることや、それらは全てアクアたちに惚れ込んでおり、害意がないわけではないこと、ただし、全員アクアとの決闘で5秒もたなかったことを話した。
「なるほど、そうでしたか。では、今の首輪のままでも大丈夫そうですね…もうワンランクあげますか」
フレイアがブツブツと言っているのを聞いて麗麒が慌ててたように声を上げた。
「ま、まさか、魔法を全面的に切るつもりですか?おやめください!」
フレイアは長い詠唱及び陣による魔法の使用さえも切ろうとしていたのだ。
止めるのも当然と言えた。
「どうして?あの子が頑張れば問題ないわ」
「何を頑張らせるつもりですか…」
そんな2人の会話をウォルトたち兄妹は不思議そうに、残りの聖獣たちは苦笑しつつ見守っていた。
「お呼びして、ごめんなさいね」
「いえっ!!お茶、ご馳走様でした。失礼しますっ!」
フレイアはウォルトたち兄妹を見送り、聞いた内容を思い返していた。
なんでも、アクアが懐いていた巨人がいるらしい。
そして、そいつは此方にきている可能性が高いとか…
「…巨人と仲良くなるなんて……何考えてんのよ…」
フレイアは唇を噛んで、静かに怒りを堪えていた。
「いないーっ!」
アクアはノアが見つからなくてイライラし、地面を蹴った。
と、同時に地面にヒビが入る。
隣にいた莉八はひっと声を上げた。
「大丈夫っ!アクア!この辺りから匂いするっ!」
しかし、富白は自分や自分の主もそんなことができるからか、特に気にした様子もなく鼻をヒクヒクとさせて辺りの匂いを嗅いでいた。
「もー!支援魔法が使えたらなぁ!看破できるのにー!」
「あ、アクア様…落ち着いてください」
どんどん壊れて行く地面を見て莉八がおずおずと声をかける。アクアな短気ではないのだが、自分の力が及ばず悔しくなって腹が立つのだ。
今もなお、守られるだけだから。
「……(やっぱり、フレイア神が言っていた通り、力のコントロールが聞いてない…今まで通りの反応をするせいで、地面が追われているんだ。自分の運動能力が跳ね上がってることに気づいてない…!)」
莉八はそんなアクアの様子を見てそう思った。そして、これは報告の必要があるか、と記憶に残した。
「もうー!こうなったらっ!!富白っ!絶対この辺りなんだねっ!?」
「おう!間違いないっ!」
しかし、その考えは少しだけ間違っていた。
アクアは足にさらに力を込め、地面を強く蹴りつける。
ドゴォッ!!
地面は今まで以上に抉れ、地割れを起こす。そして…
「あいたっ!痛てて……ちょっと、アクアちゃん…転けちゃったにゃん…」
「ノア、みーつけた!」
物陰に自動隠蔽をして隠れていたノアが転んだことにより姿を現した。
アクアは力をコントロールできなかったわけではなく、自分の力を理解した上で使用していたようだ。
もちろん、イラついて地面を蹴っていた時はコントロールをしていなかった。だから、完璧に把握しているわけではない。
「白愛っ!さっすが白虎の鼻だねっ!!……あ…ごめ…んなさい…」
嬉しくなって富白に振り返ったとき、アクアは笑顔を曇らせた。
富白は苦笑して地面を見るアクアの頭を撫でる。
「気にすんな」
アクアは富白と一緒に遊んでいるうちに、白愛と遊んでいるつもりになっていたらしい。普段はしないのだが、この二人は性格もとてもよく似ているため、遊んで上がったテンションのせいでそう勘違いしてしまったようだ。
「白愛もこうして遊んだら楽しむだろうな。多分、お前以上に。けど、あいつは俺以上に鼻いいから、鬼になったら一瞬だよ」
「…そうかもね…」
富白にとっては最愛の恋人。思い出すのは辛いはずなのに、アクアに気を使わせないように笑ってそう語りかける。
「また会いたいな、白愛たちに」
「うん」
そんな会話を2人がしている間、ノアは転んで打った腰をさすりながら、呆然としている莉八とともにアクアたちを見守っていた。
「ところで、アクアちゃん。明日、表に行くからね?」
「…明日だった?」
部屋に戻る前にノアの部屋に来ていたアクアは急に振られた話に少しだけ不機嫌に答える。
不機嫌な理由は片手間に話をされるだけで、ノアは仕事をしているからだ。
「だから、ここに学校を作ろーっていったじゃん…にゃんで進んでにゃいの?」
「だから、獣人にそこまで教育を徹底させる意味がございますか?この国とは違い、勉強をするかどうかは本人の意思なのですよ?」
「頭いー子増やせばいいにゃん。そして私の仕事をやってほしー」
「ノア様ほどの頭はどうせ量産できませんよ…」
「量産とか言うにゃよー!アクアちゃん、明日の朝、まだ月が出てるうちに行くにゃん。今晩は満月だかりゃ、一日月光浴にゃん」
「月光浴…それで明日か…」
「ノア様、この者に関しての調査報告書なのですが、目を通されましたか?処遇は?」
「あー、処刑処刑」
アイルは無表情にたんたんと仕事をこなして行く。ノアも慣れているようだ。
「聖獣ちゃんたちは連れて行けにゃいにゃん。ノトは行くにゃよ?けど、残りは無理ー。フレイアちゃんもやめとくって言ってたし、2人でいくにゃ。寝坊しにゃいでね?」
チラリとアクアに視線を向けて微笑む。朝から行く予定だったのにアクアが寝坊したため達成できなかったクエストがあったのだ。
「はーい……ねぇ、ノア」
アクアはバツが悪そうに苦笑したのち、ノアに真剣な眼差しを向けた。
ノアは資料に判子を押しながら答える。
「にゃに?」
「王やり始めて、何年?」
「7年?かにゃ」
アイルに目配せをして確認をする。アイルはノアに取り立てられ、一介の執事から筆頭執事へと出世したのだ。
「7年?それにしては、若くない?」
ノアの外見年齢は16歳ほど。もちろん、神々の例があるように見た目では年齢はわからないものだが。
「うん、9歳からやってるにゃよ。最近では、仕事が退屈で」
「逃げる回数が増えましたよね」
アイルがノアの言葉を遮ってそう言う。真っ白な耳と尻尾がピクピクと揺れ動いていた。どうやら、笑っているらしい。
「アイル、主人に対して厳しいにゃあ」
ノアは不服そうにアイルとは反対に真っ黒な耳を伏せさせていた。
「…仲いーね」
「おさにゃにゃじみにゃよ、私とアイル」
「歳近いの?」
「ううんにゃ。5歳違うにゃ」
「……21?」
「はい」
アイルはにっこりと答えた。その顔は十代にしか見えない。なんなら、ノアよりもずっと若く、幼く見えるが、21歳らしい。
「本当、外見じゃ年齢ってわからないもんだね…」
それから、仕事の邪魔をするように世間話を繰り返して、アクアは部屋に戻った。
不機嫌なフレイアに首を捻ることになったのは言うまでもない。
バーって書いたからちょっと雑いかもです。
ごめんなさい




