救出
どうしよう。
俺、どうしようっ!?
人生最大の大ピンチが去ったと思ったら、今俺は目の前にこの街最悪の大ピンチに陥っている!
息つく暇もなかった。
なぜなら、人生最大の大ピンチを解決したのが、それを上回る大ピンチだったのだから。
目の前にいるのは人よりもずっと大きな犬。
巨大過ぎる犬。
俺の記憶が確かなら、レベル96指定のガルムだ。
死にましたー
俺、ここで妹と共に死にましたー。
しかし、次の瞬間俺は予想外の光景を見る。
「お座り、伏せ」
「わんっ!」
アクアさんが指示するとあの凶暴でテイムは不可能と名高いガルムが従ったのだ。
それも、尻尾を振って心から幸せそうに。
「いい子ね。あなた、毎回来てくれる。名前、あげてなかったね……ムイ、でいい?」
「わんっ!」
何か、呑気に名付けしてるし、ガルム嬉しそうだし、ネーミングセンス微妙だし…
もう、わけがわからない。
「あの、アクアさん…こ、このガルムは…」
声を掛けるとアクアは今俺の存在を思い出したかのような反応をした。ガルムを見ていた時よりもずっと感情を感じない顔でこちらを向いた。そして、首を少しだけ傾げる。
「? どうして私を知っているの?外出は久しぶりなのに」
央都では初めてのはずだけど?とアクアは長く流れるポニーテールを揺らして不思議な気持ちを表した。無表情で。
「あっと…俺のこと覚えてない…ですか?あの…以前お手合わせ願った…」
「あっ!あのしつこかった男たちの1人?」
「……」
やな覚え方だな!おいっ!
「そうですが…その…決闘のあと、エレンを探したりとか…」
「…エレン……?」
アクアは眉を寄せて怪訝そうな顔でさらに首を傾げた。まさか、エレンまで忘れていようとは。
そう言えば、あのときの召喚獣のうちの一体がこいつか。なるほど、俺も忘れていたよ。
あのときはかなりの数だったからな。インパクトが。うん。インパクトが。
しかし、俺はもう自分を思い出してもらう手立てがない。仕方が無い。助けてもらった礼を言って立ち去ろう。
そう、諦め掛けたときだった。
「あっ、うん!エレンね!思い出したっ!確か…名前も聞いてたはず……ウォシュレット?」
「俺水洗っ!?」
「あれ?違う?ちょっと待ってて…ウォシュレット、ウォシュレット、トイレ?お手洗い?ウォシュレットじゃなかったっけ…なんか、そんなんじゃ…」
アクアは頭を抱えて必死に思い出そうとし始めた。
やめてくれ、どんどん悲しくなってくる。
「ウォルトです。お久しぶりですね」
「ウォルト…?え…なんか違う…」
えー、本人が言ってるのになんか違うんですかー?
もはや誰も解答にたどり着けねえよ。
「まあ、うん。ウォルト。お久しぶり。その子は?」
アクアが無表情に戻って先ほどより幾分か柔らかくなった口調で問う。視線の先はどうやら俺の後ろでまだ怯えている妹にあるようだった。
「あ、妹のウォルナだ。ウォルナ、地元で有名になってたアクアさんだ……ウォルナ…?」
振り返って改めて妹の状態を確認するとどうやら怯えで震えているのではなかったらしい。
では、なんなのか。
俯いてカタカタと肩を震わせている。
そして、目からは涙が……
「し、し、知ってる……知ってるに、決まってるじゃない…」
「…?あ、うん。有名だもんな…?」
「ちがうっ!そうじゃなくっ!私が、このお方をっ!知らないわけがっ!ないのよっ!」
なんだなんだ。ウォルナは興奮したように俺に突っかかってきた。殴られるくらいの勢いだった。あのアクアがビクッと肩を揺らしていたほどだ。
「お兄ちゃんっ!知らないのっ!アクア様の!ファンクラブっ!!」
「し、知ってるけど…会員とかは生で見たことねえな……ウォルナ?まさか…」
「その通りっ!そのまさかよっ!」
ウォルナはそう叫びつつ、小型の空間魔法から一枚のカードを取り出した。それを俺に見せつけるように顔の前にかざしてくる。
「私はっ!アクア様ファンクラブ正式会員なのよっ!」
そのカードに書かれている会員ナンバーは1。
つまり、会長だった。
「うっ?」
アクアが軽く怯え、引いていたことは気づかなかったことにしよう。
「アクアさんのファンクラブがあるのは知っていたがーー」
「お兄ちゃんっ!アクア様をそんな馴れ馴れしく呼ばないでっ!ああ!わたしっ!アクア様に助けられた!アクア様に救っていただけたっ!こんなっ、こんな幸せなことっ!!」
「ああっ…それ以上騒がないでー!そんなに騒いだら…」
顔を真っ赤にして、溶けてしまいそうなほど赤く熱くなっているであろう頬に手を添え、身体をくねらせている、そんなウォルナにアクアは慌てた様子で落ち着かせようとし始めた、が。
どうやら、アクアさんの願いは叶わなかったらしい。
「あっ!アクア、見ーつけた!!」
どこからか現れた白銀の髪と緋色の目を持った少年が元気よくそう声を上げた。
と、同時にアクアの顔が青くなる。
「ガルムっ!いえ、ムイっ!走りなさいっ!」
未だ伏せをしていたガルムのかなり高い位置にある背に軽く地を蹴っただけで飛び乗り、走り出させていた。
「はいっ!ストーップ!ルールは守ろうね」
「やあっ!ひくひくひくー!」
走り出した方向には、アクアと同じくらいの女の子と16歳くらいの女の子が2人、立っていた。
そして、ガルムにひかれかけていた。
そして、なぜか俺は妹共々、王の住まう城の一室に案内されていた。
目の前では美形だらけの喧嘩イベントが発生している。
女の子だけでなく、男の姿もあった。
それがまた超絶美人で。
アクアさんはこんなのに囲まれて生活しているのだから、あの町の男たちになびかなかったのは当然のことだよな、と納得してしまった。
いや、そう言えば以前、家柄は悪く両親はいないって言っていたか。
じゃあ、この生活は最近に始めたものだろうか。
それにしては馴染んでいるが。
「ずーるーいっ!なんで隠れる側がどんどん鬼になってるのよー!」
「えー?だって、見つかったあと、暇じゃないですかー!」
「それに、隠れる範囲を央都に設定されているので、いくら麒麟とはいえ、一人で全員を探し回るのは厳しいですよ」
「だからって、見つけるたびに鬼が増えて行くことないじゃない?!それに、私を見つけたのは富白だったよ!?」
「申し訳ございません、アクア様。私は疲れました故」
「なんかごめんなさい!ゆっくり休んでください麗麒っ!」
「アクア様はお優しいんですね(イズンとは大違いだな。外見年齢もそこそこ違うようだし、精神年齢にも差があるのか。なるほど、今なら自分好みの性格に育て上げられると。まずは無表情を辞めさせないといけないな。…いや、自分にだけ表情を変えて見せるというのもありなのか?うむ、捨てがたい…)」
なんか、心の声がだだ漏れの男がいるのも気になるが…それよりもどうしても消化できない謎があった。
「ふふふ、アクア。楽しめたかしら?それじゃあ、もう外出するなんて騒がないのよ?」
そう言って優雅に微笑む少女。
口調や仕草から大人な雰囲気だが、外見年齢は18歳と言ったところだろう。
問題は、その容姿だ。
金髪碧眼。小振りな桜色の唇にすっとした鼻。
抜けるような白さを誇る、シミひとつない美しい肌。
完璧すぎるスタイル。
綺麗なソプラノの声。
その全てが、あの街にいた頃の、アクアの姿と瓜二つだったのだ。
しかし、自信を持って言える。
俺はこの少女とは初対面だ。俺が以前にあっているのはあの幼女の方。
これは、あまり外したことのない俺の勘だが。
だからこそ、俺はそれを信じていた。
「お母さんは参加しなかったの?かくれんぼ」
かくれんぼしてたのかよ!
かくれんぼの最中に軽く人助けかよ!
もはや意味わからねえよ!
今更だけど、あの状況でガルム呼び出すとか、過剰防衛だよ!
色々と突っ込みたかった。しかし、俺はそれをぐっとこらえることに成功していた。
ところで、隣で妹のテンションがとんでもないペースで上がり続けているのだが、どうやら上限というものもないらしいし、上がるところまで上げておけばいいのだろうか?
「アクア様が2人。アクア様が2人。幼女と少女。どっちもかわい。どっちもきれい。どっちも欲しい…」
どうしよう。妹が怖い。
俺はとりあえず、妹とは距離をおこうと思う。
「ふふふ、私も参加したよ。麗麒に探索魔法を教えてあげてたの。鬼としての参加だね」
にっこり微笑んで手を広げる。
どうやら、アクアとは違い、表情豊かなようだ。
「お母さんが鬼で参加してたなら、勝てるわけもなかったね…」
アクアも苦笑のつもりなのか、少しだけ口角を上げて、その少女に抱き上げられ、膝の上に乗せられる。
そのまま、ぎゅうっと抱き締められ、頭を撫でられていた。
その様子は、一枚の絵のように美しかったが、少女の笑みに黒いものが混じっているように感じた。
「ふふふ、アクア。ガルム召喚したの?魔法禁止だって、言ったよね?隠れる側は」
ああ、お説教をするつもりだったのか。なるほど、よかったよかった。美人の黒い笑みはとても怖い。
「うっ…だって、あいつらが悪いんだもん」
アクアは視線を泳がしながらボソボソと言い訳を試みていた。辺りにいた美形男子三人はニヤニヤと、女子三人はニコニコとそんなアクアの様子を眺めていた。
どうやら、1番下の妹的な扱いのようだった。
「あ、遅れました。アクアさん、助けていただいてありがとうございました」
今更ながら、立ち上がって頭を下げる。
ウォルナも礼を言っていなかったことを思い出したのか慌ててたちあがり、礼を言った。
しかし、アクアの反応は予想外のものだった。
「? 私、あなたたちを助けたの?」
俺のことを尋ねていた時のような不思議そうな顔で首を傾げる。
いやいや、俺に聞かれてもさ。
「えっと…あの男たちに絡まれて大変だったところだったので…」
「そ、そうそう。せっかく入荷した商品を持って行かれるところだったんですよ!」
「お前は商品の前に自分の身も狙われていたことを不安に思えよっ!」
そんなやりとりをしている間も、ここにいる美形たちはおろか、アクアでさえも何を言っているのかわからないといった表情で俺たちを見ていた。
その生暖かい目が辛い。
「アクア、人助けをしたの?偉いわね」
「していないよ?」
「あら?そうなの?なら、あなたは何をしたのかしら?」
アクアを膝の上に抱いた少女が微笑みながら問うも、アクアはすぐに否定する。
「私は、私を子供だというやつを追い払っただけよ。腹が立ったから」
「ふふふ、それが結果的にはよかったのかもね?」
腹が立ったからでガルムを召喚するのかこの幼女。
最近の子供って怖いな。
「ああ、そうだったんですか、アクア様(なんだ、ガキって言われて怒るならイズンとさして変わらないじゃないか)」
「はっはっはー!アクア、いーだろ!俺はもうお子様扱いじゃないもんね」
「富白、見苦しいですよ」
「わあ、バッサリですね、麗麒さん」
「……」
「……」
別にいいけど女性陣なんか多いはずなのに2人が本から少しも顔を上げないんですが。さっきからページめくるさ作業しかしていない。
「お兄ちゃん、ここって、お城よね?アクア様たちは何しにここにいるんだろ?」
妹の問いに俺は大変真面目にこう答えた。
「違う。ここは変人の巣窟だ」
もはや何が書きたかったのか…
すみません
今から寝ますのでうちミスも多いかもです
よろしかったら直しますので報告お願いします




