女神たち
「まあ、オレとの約束をちゃんと守ろうとしてたみたいだから許してやるよ。もうちょっと方法あったと思うけどな。何はともあれ、お前には戦闘力がないんだ。今日からしばらくはオレは下にいるから稽古してやるよ」
フレイが嬉しそうな顔をしながら頭を叩いてきた。そして、
「もう、ちゃんと褒めなよ、素直じゃないなぁ。ルイードくん、あそこまでして私を守ってくれてありがとう。君がああして時間を稼いでくれなかったら、正直、私もお兄ちゃんも間に合わなかったよ。本当に、ありがとう」
フレイアが優しい笑顔で頭を撫でる。無事に気絶から覚めたあとの話だ。
「…けど、俺は確かに、何も出来なかった……フレイ、稽古、厳しめで頼む」
俺は2人に向けて、謝罪と感謝の意味を込めて頭を下げたのだった。
ごめんね、この子は私が管理するからと言って大人のフレイアにフレイアを連れて行かれた。
先ほどの会議で決まったことなのだが、子供の方のフレイアは俺が付けた名であるアクアを名乗らせることにしたらしい。メインの理由はややこしいからだが、一応、変装などの意味もある。そのため、髪色も蒼くし、目も碧にした。
そのフレイアーーアクアは2人の死を知ってから、本当に感情が抜け落ちたかのように表情を変えていない。声も無機質なものなっており、その美貌も合間って、人形のような雰囲気があった。
なんとなく、嫌な予感がするのだが、俺にできることはないだろうと判断し、ノア達が寝かされている、神々が作り出した建物に入って行った。
「あ、ルイードさん。会議は終了ですか?」
「ああ、無事に終わった…大丈夫か?三人は」
入ってすぐにリコと会話をする。今回の負傷者は俺たちのパーティーメンバーだけだ。リコと俺は何もしていないが。
広い建物にあるのは三つのベッドのみ。もちろん、他の部屋もあるのだが、そこでは急遽きた神々がいるだけだ。今回来たのはイズンとその従者ーー神々の病院のような働きを持つグループのリーダーがイズンらしい。メインで治療をするのはイズンをはじめとした極一部だが、神薬などの薬品を運ぶ人が必要で、さらに、イズンの所有する魔法道具はかなりの大きさのものな上に、数も無数なのでそれらを運ぶ人々も合わせ、その数は膨大なのだーーそれに、フレイ、フリッグ、フレイアだけだ。それに合わせて聖獣も揃っているが。
フレイの聖獣、麗麒と富白は主になだめられて今は疲れて部屋で眠っている。妹と恋人を失ったのだ。その悲しみは俺に想像できないほどだろう。失礼かもしれないが、同情してしまう。俺なら耐えられないだろうな。もちろん、俺にとってもあの2人は大事なパーティーメンバーだったのだが、それでもきっと、2人の悲しみには遠く及ばないのだろう。
イズンの聖獣は綺麗な女の子と眼鏡をかけた男だった。男の方は明らかに博識と言った雰囲気で、イズンを恭しく扱いつつもバカにしていそうだ。藍色の髪と目を持つ男なのだが、久々に見た、男らしい男だった。ムキムキで体格に恵まれているという意味ではなく、細身で戦闘力は低そうなのに敵に回したら面倒そうな雰囲気を纏ったクールな男だった。顔も恐ろしいほど整っていたしな。もう一人の女の子も男と同じ髪色と目だ。こちらも恐ろしく顔が整っている。しかし、額から一角の角が生えていた。気が強そうな子だ。2人とも20代前半くらいの姿だった。
余談だが、イズンの魔法はなんと、詠唱でも魔法陣でもなかった。
かなり希少な、この人間界では伝説上のものとされている、魔導聖歌だったのだ。
また、当たり前のように二つ名も持っていた。天上の歌姫だそうだ。確かに、綺麗な歌だった。
しかし、あまり実践向きではなさそうだった。
まあ、あとはドジっ子なイメージを(俺に)持たれている莉八ちゃんだ。イズンが指揮棒をなくしたと言って大騒ぎしていたとき、彼女の聖獣でもないのに走り回って探していた。大変なことだ。
しかし、そうしてしまう気持ちは理解できるのだ。なぜなら、イズンは支援治療専門のはずなのになくした従者を殺しそうな勢いで叱っていたのだから。それは、助けたくもなるだろう…いや、俺はそっとしておくけどさ。
触らぬ神に祟りなし。
イズンの主力武器がその指揮棒なのだそうだ。じゃあ、自分で持ってろよ、と言いかけた俺を誰が責められよう。
さて、話を戻そう。今、俺の目の前には三つのベッドがあった。
「大丈夫です。今はまだ意識がないですが、イズン様が完璧に治療してくださっているので」
「そうか」
ノアさんやノトさん、ウンディーネは世界樹の同期のような三人で、付き合いもそんなに長くない。数ヶ月と言ったくらいだ。しかも、三人ともギルドでパーティー登録しているわけではなかった。つまり、見捨ててもよかったはずなのだ。
それなのに、あんなになるまで戦ってくれた。時間を稼いでくれたのだ。
「時間を、本当に稼いでくれたのは3人だ……俺は、何もできてない」
「それは違うよ、ルイードクン?実質、この3人が稼いだ時間は五分くらいで、君が稼いだのは、なんと!十分なんだよ〜!君のその美貌のおかげだね〜」
人を小馬鹿にしたような、楽しげな声が後ろから聞こえてきた。その声には、確かな聞き覚えがある。ついさっき聞いたばかりなのだ。
「……イズン神、ワザと人の傷を抉ってます?」
俺は半目で睨むようにしながら、振り向いた。
そこには、聖獣2人も引き連れて部屋に入ってきていたイズンがにこやかに笑って立っていた。腰には指揮棒を吊っている。従者に預けるのをやめたのか。
「あっはは!やっぱり傷になってたの〜?それは良かった。アクアちゃんが知ったら傷つくからねー!君が男色だ〜って知ったらね〜」
「違いますよ、断じてね。俺は被害者です」
ところで、俺はあいつとのやり取りをそう長い時間に感じなかったのだが、十分もやっていたのか?
思い出したくもないが、どんだけ長い時間顔見てんだよ。
「知ってるよ?君が進んでそうしたことはね〜。神を舐めちゃあ、いけないよ?」
みーんな、心が読めると思った方がいい、とイズンは顔は笑顔を保ったまま、目だけは真面目に言った。正直、ぐっとくる言葉だった。どうも最近、神が身近過ぎて困る。神の力を舐めてはいないのだが、きっと気は緩んでいたのだろう。みんなフレンドリーってわけじゃないのにな。
「…今回は、俺は何の役にも立てなかった、だから、次はーー」
俺が助ける、そう俺が言うのを妨げるようにイズンが言った。
「俺があいつを襲うって?あんまりオススメはしないよー?あの子は、あれで、神だからねぇ…それも、フレイア先輩と同格の」
イズンは試すような目で俺を見る。俺はそれを真っ直ぐに見返しながら言い返す。
「何で俺が襲うんだ。守るんだよ」
「無理だよ」
「無理じゃない」
「むりむりむりむりむりー!」
「無理じゃない!!!」
しばらくそんなやり取りをしていた俺たちはイズンの背後に立つ眼鏡の男が咳払いをしたことをきっかけに、一旦呼吸を整えてから話に戻る。
「無理なものは、無理なんだよ、理解して、人間」
「うるさい、なんで無理だなんて言うんだ。諦めたらそこで人生終了なんだぞ、歌姫(笑)」
「何その(笑)!!」
「うるせえ、なんだよ、天上の歌姫って。それならそのやかましい声を少しは惜しめよ」
「何おう!?私は喉を枯らしても魔法で治すから平気なんです〜!!とにかく、君には無理だもん!」
「なら、その理由を言えよ!」
「な!神に命令してんじゃないわよ!もしも私が攻撃魔法を使えたら、あんたなんかとっくにさよならしてるんだからね!」
ゴホンッ!
と再び咳払いをする眼鏡男子。瞬間、ピタリとイズンの動きが止まった。眼鏡男子はイズンへと呆れたような視線を向けて、腰を折って屈むようにしながら話しかける。
なんというか、イズンが小柄過ぎて身長差があり過ぎるのだった。
「イズン様、さっさと本題に入りませんか?(いつまで無駄に時間使ってんだよ。少年と口喧嘩したいだけなら聖獣を従えて来る意味ねぇだろうが。勝手に他所でやっててくれよ)」
あれ?なんだか、心の声が聞こえた気がするが…?
「え?あ、うん。そうだね。そうそう。ちゃんと覚えてるんだけど、本当はわかってるんだけど、偉澤に説明させてあげてもいいわ」
あくまで偉そばるイズンに対し、微笑みかけながら恭しく一礼をする偉澤。
「ありがたき幸せ。この偉澤、全霊をかけてご説明させて頂く所存であります。(それって忘れてるってことだろうが。無駄に見栄ばっか張ってんじゃねぇよ。本当、外見だけならフレイア神にも並ぶほどの美女だと言われるのに、残念なことだな)」
いやいや、だから、心の声だだ漏れだから。
「イズン様はこの者に今後の話をなさりに来たのでございますよ。(まあ、それを考えたのは俺なのだ。どうせ理解してないだろうし俺が説明するんだろう、それも)」
「う、うん、そうそう。その通りだよ偉澤。大正解。まあ、褒めておいてあげるわ」
イズンはうんうんと何度も頷いていた。
だから、覚えてなかったんだろ?みんなにバレてるぞ?
「当たり前だろう。俺を誰だと思ってる、歌姫。(お褒め頂き、喜びの極みでございます)」
おいおい、入れ替わってるぞ。表と裏が。
「が、ガキだと!?偉澤、お前、仮にも主を捕まえてガキだと言うのか!?」
「! そのようなことは申しておりません!(何!?ばれていたのか!!)」
いや、だから、さっきのは入れ替わってたから。
あと、反応するのはそこだけでいいのか?イズン。
「私がたった124年しか生きていない子供だと思ってバカにするのも大概にしろといつも言っているでしょうが!!いい加減にしなさいよ、このバカが!!!!!」
「バカになどしておりませんよ!事実しか述べておりません!私は世界の理を司っているのですよ!?」
あ、等々表と裏がくっついちゃった。
ところで、世界の理ってなんだ?
「事実しか!?確かに私は魔法操作なしで素でこの状態、さらに成長中の身体で、先輩方には遠く及ばないわ!だけど、それをあんたに言われるのはムカつく!!ユニズ!あんたどう思ってるのよ!」
「えっ!?わ、私ですか?!」
今まで静観を決め込んでいた女性が急に指名されてどぎまぎする。
「ええっと……」
適切な返答を探しているのだろう、目が泳いでいた。
もう、泳ぎまくってほとんど溺れていた。
「ユニズ、君はイズン様への制約の際に永久に真実のみを述べ続けると言ったね?じゃあ、それを実行しようか?」
「ユニズ、答えによっては、私がどうするかは…わかっているわよね?」
どうしよう?!
と、目で訴えられた。
そんな目で俺を見られてもな…困るんだが…
「おい!歌姫。早く本題を語ってくれないか?」
「むきゃー!あんたまで言うか!!?」
こうなったら、と言い、腰の指揮棒を抜いてーー
パシッ!
「!?」
「自分の聖獣と保護中の者に手を出すなんて、女神失格よ」
目を見開いたイズンが見るのは、
尊敬する大先輩フリッグが自分の腕を止めている光景だった。
実は、フレイアが目覚めてから数ヶ月間、ノア達こみでクエストをして過ごしていました。
時系列がめちゃくちゃ…
努力します。
さて、今回でこの章は終了です。
お疲れ様でした、ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
私の文章では理解しにくいかと思いますが、次章では二千年前のことなどをメインにやって行く予定です。
どうか、お付き合い願います。
また、自分の都合で申し訳ないんですが、今日からしばらくは投稿できません。
予定では12日の朝7時から投稿再開となります。




