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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
築く関係
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情報収集?

大精霊ウンディーネの住まう湖は光山を越えた先にあった。久々の遠出だとはしゃぐリコと昨日一日離れていたのが効いたらしい麗麟と白愛に囲まれ、地図を見ながら歩くルイードの後を追う。この子達を迷子にさせずに進むことを思えば地図を見ながら歩いた方がよっぽど楽だ。麗麟と白愛は私から絶対に離れない自信があるけれどリコは彼方へ此方へフラフラと行ってしまう。かなりの問題児である。

「今日は野営かな…」

ルイードのそんな諦めたような呟きが聞こえた。未だ光山にすらたどり着いていない。大丈夫だろうか。

「…野営はやだわ……急ぎましょ。麗麟、白愛いいかしら?」

「「……」」

私の説明なしの台詞の意味を2人ともすぐに理解したらしく、睨みあいをはじめた。理解…してるよね?

「主上は私が。残り2人はあなたがしてください」

「断る。私が主上をする」

どうやら、意味はばっちり伝わっていたようだ。

今は安全性と乗り心地で揉めている。どちらもいいけどなぁ。まあ、その判断は2人に任せておこう。

「ルイード、リコ。急ぎたいから麗麟か白愛の背に乗ってくれるかしら」

言うと、2人は少し驚いた顔をした。

「私たちも乗れるんですか?聖獣に?」

「途中で落とされそうだな…」

ルイードは驚いたというよりうんざりしたようだ。そう言えば、2人とルイードの中は良くない。それだと、麗麟の方がいいだろうか。あの子は麒麟だからどんなに嫌いでも危害は加えられないから。

「主上っ!私がお運び申し上げます!」

麗麟が嬉しそうな笑顔を向けてきたからそんな提案は出来なかったが。


「んー、ありがとう、二人とも。おかげで野営の危機は去ったわ」

フレイとも泊まった宿で走ってくれた2人を労う。結果的には獣になっても細身の麗麟よりも白愛の方が2人を乗せるのには良かったようだ。わざと高く飛んだりなどの可愛い悪戯はあったようだが。

おかげでルイードとリコは酔ってベッドでダウンしている。どこか満足げな笑顔の白愛が可笑しかった。可愛すぎて注意出来ないじゃない。

「いえ。主上に野営させたとバレたら大目玉くらいますから。当然のことをしただけですよ」

「私は主上をお運びしたかったです…」

そんな2人をしっかり褒めて頭を撫でまくって上げてから問題の湖の情報収集をはじめた。とっくに日は沈んでいたが、それくらいは月明かりでも出来る。ただ、街の居酒屋などに行くだけなのだから。

古ぼけた木の扉を押し開けると酒臭い匂いが鼻を刺した。不快、に感じないようにわざわざ24歳くらいの身体に成長させている。どうでもいいが、胸というのはいつまで成長を続けるのだろう。

麗麟は置いてきたが白愛は保険で連れてきている。麗麟を置いてきたのは何かあったときに逃げられないから。白愛を連れて来たのは何かあったときに戦えるから。

「こんばんは」

居酒屋というよりもBARと言った感じの店のカウンター席に座る。白愛も私もいつもとは違う服装にしてきた。私は赤髪赤目。それに真っ黒な膝上丈のワンピース。街の男の人からのプレゼントなのだが、肩も脚も胸もと少々露出が多すぎて今日この時までは着ることはなかった。まさか、機会があるとは思わなかったけれど。

白愛には魔法をかけてあげて私と同じく赤髪赤目にしてある。16歳くらいの外見の白愛と私はぱっと見、姉妹に見えるだろう。当然だが白愛にはお酒は飲ませない。また、彼女の服は赤いワンピース。ついさっきそこの店で買ったものだ。ちなみに高級品。安物なんて白愛に着せたら彼女の玉のような肌に悪いから、必要な出費だ。

「何になさいますか?」

カウンターの向こうの男が聞いてくる。お酒なんて全然わからないんですが。こんな見た目でも五歳児なので。

「オススメを頂けますか?」

正直、飲む気は無いんですけどね。お酒の匂いを漂わせるとルイードに怒られると思うから。

「私はジュースがいいなぁ。ありますか?」

男が頷いて去って行く。意外に人が多い。テーブル席もあって、本当に居酒屋とBARの間くらい。テーブル席が5、カウンターが8。そのほとんど全てが満席だった。

しばらくして私の前に置かれたのは赤い液体。白愛の前に置かれたのは桃色の液体。なんだろう。まあ、いっか。

「こんばんは、2人って、姉妹?」

早速、男三人が声をかけて来た。楽で助かる。

「こんばんは。ええ、そうですよ」

「こんばんは」

白愛には必要以上に会話に参加しないように言っている。わざわざ変装してきたのに、素性が暴露ては困るからだ。何か疚しいことがあるわけじゃないけれど、冒険者は野蛮だと認識されやすいから。

「可愛いね、2人とも。この辺りの子じゃないよね?こんな子がいたら噂になってるもんなぁ」

「ええ、ちょっとこの村に用事があって来たんですが、無事に終わったので休憩しようかなと」

「あれ?もしかしてご主人様がいる人?たまにいるんだよなぁ、美人を買って飾り立てるやつ。どうせ、君らを自慢するためによこしたんだよ。逃げちゃいな、そんなとこ」

あれ?もしかして勘違いされてる?そう言えばこの世界には奴隷があった。それだと思われてる可能性が高すぎる。心なしか隣から殺気を感じるし、男どもの目に蔑むような、哀れむような色を感じるし。

まあ、勘違いを利用しましょう。

「ご冗談を。そんなことをしたら後が怖いです。探索魔法が有効なの、ご存知ですよね?」

これは魔法の知識だから大丈夫。あっているはずだ。ただ、奴隷と聞くと、元の世界の大人たちの会話が勝手に思い起こされて、気分が悪い。

「あー、そう言えばそうだね〜。じゃあ、君は俺が買っちゃおうかな。ご主人様は誰だい?いくらで買えるかなぁ」

ーーああ、気分が悪い。そんな値踏みするような目で見ないでよ。簡単に人を買うとか言う人にご主人様なんて言うわけないでしょ。

そんな思考が隣から聞こえた。常時発動型の意思伝達魔法の恩恵だ。使おうと思わないと普段は喜怒哀楽くらいしかわからない程度なのだが強い意志は感じることができる。ここまではっきり聞こえるということは、白愛はかなりイラついているようだ。私もイラついているけれど。私たちが返事をしないでいると男が理解を示すようにうんうんと頷きはじめた。

「大変だよねー、守秘義務ってやつ?ご主人様からは逃げられないし、辛いよね〜。それにさ、そいつは知らないだろうけど、ここは最近危険なんだよー」

「危険?」

「水の大精霊がご機嫌斜めなのさ。いつ洪水が来てもおかしくないし、湖に近づくだけで攻撃されるしね」

やっと入った本題。向こうから振ってくれるとはなんて幸運だろう。

「そうなんですか?それはまた、どうして?」

「最近、気に入った子が人間だったらしいよ。で、そいつにフラれたらしい。どうやっても嫌がる彼に頭きて、八つ当たりだな」

なるほど、風の大精霊シルフかと突っ込みたくなる気まぐれ振りだな。気ままに生きるのにもほどがある。まあ、有益な情報だったと言えるだろう。十分だ。

「そうだったんですか?!そんなところに行けって命令されていたんですね…」

少し可哀想なフリをして見る。

「酷いご主人様だなぁ!そこで、俺の奴隷にならないか?俺は優しいぞ?肌身離さず、本当に、離さないぞ?」

効果は抜群。男の目が輝いた。しかし、

ーーキモい。キモい。目がキモい。死ね死ね死ね〜!

という意識が伝わってきたので時間切(タイムオーバー)れ。既に彼らに用はないしね。

私はおもむろに、勘違いに気づいたときから用意していた台詞を言った。

「ルシウス・ガルシア様をご存知ですか?私たちのご主人様です」

「んー?ルシウス・ガルシア?………え?」

舐めてかかって来ていた男たちの表情が凍りついた。ルシウス・ガルシア。この国の国名が入った、三代目国王の名だ。

「それでは、失礼致します」

「……」

私と白愛はさりげなく伝票を男たちに押し付けて店を出た。白愛はずっと男どもを睨んでいた。


「主上、あの男どもは失礼に過ぎます!殺らないんですか!?」

白愛が何やら野蛮なことを言い出した。

まあ、確かに自分の主が奴隷扱いされてたらやだよねぇ。そして、私のことでそこまで怒ってくれて嬉しいな。

…あれ?自分が奴隷扱いされたからなのかな?

「殺らないわ。無駄な殺人をして怨念と血を被れば麗麟に嫌われるもの」

麗麟なんて気にしなければいいのに…という白愛の言葉は聞こえなかったことにして。

「ウンディーネの不機嫌な理由もわかったことだし、今度は生態について聞いておきましょ」

そう言って、私は宿のロビーの椅子に座り、目を瞑る。隣に座った白愛にも、きちんと聞こえるように陣を張った。

「フリッグさん、よろしいですか?」

『もちろん。ウンディーネの生態ね?』

なぜか既に知っているフリッグさん。恐らく彼女も神なので、そんな理由からだと思いたい。そう言えば、ここ最近私の周りに魔力の気配を感じるときがあるけれど、もしかして使い魔…神なら聖獣を私につけてますか?

「ええ、お願いします」

『ウンディーネは潔癖性なのよ。それは恋愛においても同じ。男女交際経験がある人は絶対に無理なのよね。手を触っただけで浮気だって怒るし。気ままってわけじゃないのだけれど、完璧主義なのよ。攻撃はあまりの好まないけれど、決して侮れたものじゃないわ。自分より弱い相手はかなり嫌がる傾向にあるから、私やオーディンでも初めて会ったときは侮られたものよ』

「?フリッグさんやオーディンは強いんじゃないんですか?」

『そっちに行くと、能力制限がかかるのよ。特に、外向きの力はね。だから、レベル判定でも高レベルにはされないでしょう?』

「あー、そう言うわけでしたか…」

今、色々納得したかも。

『彼女には雷属性が有効よ。確か、使えたわよね?』

「はい。使えますよ」

『…ところで、どうして闇属性を取得しないの?』

フリッグが笑を含んだ声で言ってきた。咄嗟に返事ができない。というか、絶対に私に監視をつけてるよね?

『あなたの自由だけれど、彼にもらったものだからって可愛い気持ちからなら、力になってあげなくもないわよ?」

「……どういう意味ですか?」

『ダークハンドの成体がウンディーネが住む湖とシャーベルトがいるとダンジョンの間にある遺跡ダンジョンの最奥に現れたわ。それを取ってきて食べたらどう?彼に食べてないこと、暴露たくはないでしょ?』

力とは情報のことだったようだ。

ちょっと言い方が気になるけど記憶しておく。

「ありがとうございます」

『あと、この術式も教えてあげておこうかな』

「?」

フリッグは悪戯をする子供ような声で装飾品(アクセサリー)生成の術式を教えてくれた。

もちろん、覚えて起きます。

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