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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
非日常な日常
32/157

知らないうちに

フレイアは自分と同じ姿の者に気をつけろ、と言うものの、詳しく説明したがらなかった。いつもとても仲の良い麗麟と白愛にさえ、詳しくは話していないらしい。とにかく、気をつけろとは言ったものの、危害をなしてくることはないと思う、と。フレイアを狙って色々してくるだろうが、全て試験みたいなもので、フレイア、麗麟、白愛がいれば、苦しいときもあるだろうがなんとかなるらしい。そういうのなら、信じるより他はない。そもそも、俺はこのパーティーで、いや、この世界でフレイアを最も信頼しているのだから、フレイアが気にしなくても良いというのなら、そうなのだと納得できる。短い付き合いでここまで信頼してしまうのは、我ながらどうかと思わなくもないが。

さて、そんな本日の世界樹(ユグドラシル)の活動は、戦力確認だ。今のパーティーメンバー全員の戦力を一度きちんと確認しようということである。そんなわけで、俺たちはギルドに来ていた。

「あ、アクアちゃんじゃないですか!先日はお菓子をどうもありがとう」

「あら、テルさん。いえいえ、あなたがくれたお弁当、とても美味しかったわ。あの時のお弁当はみんな、パーティーメンバーみんなで頂いたのよ。本当にありがとう」

ギルドに入るなりフレイアが声をかけられる。そう言えば、リコと白愛とダンジョンへ行った日、なぜか家の前に山のようにお弁当があった。あれは全て頂き物だと聞いていたが、なぜ頂いたのか聞いていなかったな。

「アクア様!謹慎処分は明けたのですか!?だったら、是非合同パーティーを組みませんか?」

「ありがとう、だけどまだ明けてないのよ。またの機会によろしくね」

言って、純度100%の作り笑いを返す。男はそれで幸せそうな顔をして戻って行った。

「アクアさん!先日はお菓子をどうもありがとう」

「アクアちゃん!また決闘してくれないか?」

「アクア様、よかったらご飯をご一緒しませんか?」

なんだかフレイアに話しかける人が増えてきた。というか、減らない。よって進めない。フレイアは完璧な作り笑いを返し続けていた。

どうやら、知らないうちに人気者になっていたようだ。

「ごめんね?先に進みたいんだけどな。今日はレベルの確認に来ただけだから」

暗に退け、と言っているフレイアの台詞に引き下がる男たち。フレイアの実力を知っている冒険者ならではの反応だ。どうやら、フレイアは名実ともに有名人になったらしい。


レベルの検査。今日の俺たちの目的はそれである。フレイアの謹慎はあと一週間ほどあるので、その間にフレイの剣を習ったりもしたいと思っている。その前に今の状況を確認したかったのだ。

「じゃ、俺から行ってくる」

「「「「はーい」」」」

まずは俺が陣に立った。相変わらずいつ死んでもおかしくないギルドマスターが検査をしてくれる。果たして。

「剣士、レベル、えー…っとなぁ…42じゃなぁ」

「42っ!?」

「わー、おめでとう!ルイード!」

「おめでとうございます」

「よかったね」

「ご祝福いたします」

予想外の上がりぶりに四者四様の反応があった。それにしても、レベル20近く上がるとは。剣の神の加護、恐るべし。

「では、次は私が」

リコが相変わらず眠たげに陣にのる。

支援魔導師(サポーター)レベル、79じゃのう」

「あ、よかったです」

「おめでとう」

「おめでとう、4くらいか?上がったのは」

「よかったね」

「ご祝福いたします」

リコは対した感動もなさそうに陣から降りてきた。まあ、もともとかなりの高レベルだしな。

「じゃあ、次、私が行ってもいい?主上?」

「ええ、いいわよ」

元気良く白愛が陣にのる。果たして、未だ謎なそのクラスは?

「獣戦士、レベル99じゃなぁ…MAX?くらすあっぷをお勧めするのぅ」

「あら?獣戦士だったの?その上位は何かしら?」

「お似合いのクラスですね」

「レベルMAX……」

「上位職ですかぁ。いいなぁ」

獣戦士というクラスは初めて聞くが、驚きはそこじゃねえよなぁ。レベルMAXって…

「では、クラスアップをお願いします」

白愛が対した感動もなさげに言う。もしかして、レベルとかクラスとかを気にしてるのってこのパーティーでは俺だけなのか?

「はい、獣戦士の上位職は狂戦士になります。よろしいですか?」

「「「「「……」」」」」

マリが告げたクラス名に全員の動きが止まった。

「待ってください。どうして獣戦士の上位職が狂戦士なんですか?」

「戦士職の上位は全て狂戦士となっておりますが」

「「「「「……」」」」」

「如何いたしましょうか」

「やめておきます」

白愛が苦渋の決断、と言った顔でそう言った。賢明な判断だろう。正直、クラスを答えるときに狂戦士です、とは言いたくない。

「了解しました。では、獣戦士のレベル99で登録致します」

そう言えば白愛と麗麟は登録していなかった。パーティーの手続きのときに籍に入っているだけだ。やって来てよかったな。

「では、次は私が行ってもよろしいですか?」

「ええ、構わないわよ」

麗麟がフレイアに一礼したあと陣へ向かう。白愛とすれ違い様に「レベルの高かった方って話だから私の勝ちね」「うるさいです、狂戦士」という会話が聞こえた気がする。

「治療魔術師、ほう、回復役の上位職かのぅ。めったに会えんクラスじゃのう…レベルはぁ……56?すごいのぅ」

初めてギルドマスターが褒めた気がする。あと、隣からチッという舌打ちが聞こえたんだが、白愛か?

「すごいじゃない、麗麟。頼りにしてるわ」

「ありがとうございます。全て主上に頂いた魔力と知識のおかげですわ。お兄さんと共に主上に色々と学んだ日々を思い出しましたわ」

「うふふ、その記憶はないのよねぇ…」

そんな微妙な会話を終えた麗麟は白愛に目配せをして微笑んだ。余裕のある笑みに白愛が舌打ちをする。

お前ら、仲悪いのか?

「最後は私ね。そろそろ、二桁が欲しいところだわ」

フレイアが陣に向かう。パーティー最強の火力を誇る彼女だが、レベルは伸びない傾向にあるのだ。今回こそ、きちんと強さにあったレベルを…

「魔導師、レベル……3じゃ。まあ、パーティーメンバーの足を引っ張らんようにのう」

「フレイアさん、前回はレベル7でした。修行を怠るとレベルは下がります。ご注意ください」

「……」

フレイアが落ち込んで戻ってきた。

俺たちはなんて声をかけてやったらいいのかわからず、みんなで視線を逸らした。


『大丈夫だって。俺やオーディンもレベル判定したことれあるが、1だったぜ?あれはあんまり高性能じゃないんだよ』

頭の中で響く、フレイの声に励まされ、なんとか立ち直る。全く。もっと高性能な陣を描きなさいよ。

「フレイア、例えレベルが低くても俺たちの中の最大火力なのは違いないぞ?気にするな」

ルイードが気遣わしげに声をかけてくれる。私は微笑み返しながら答えた。

「なんか、フレイお兄ちゃんたちもそうらしくって…だから、気にしないことにしたの」

そう言うとルイードは少し苦い顔をした。しかし、すぐに安心したような笑みに変わる。

「そっか……あ、そうだ。これ。この間のダンジョンの最奥にダークハンドがいて…あげるよ」

ルイードは言いながら、ポケットから黒い宝石を取り出した。

「え…?くれるの?」

「?もちろん。フレイア、集めてただろ?俺に出来ることなら、なんでもするぞ?当たり前だろう?」

ルイードは私の問いに不思議そうに首を傾げ、当然のように私の手に宝石を乗せる。

「あ、ありがとうっ!」

予想外だったのもあるけれど、初めて男の人からプレゼントをもらった喜びから、自然に涙が零れた。何よりも、くれたのがルイードだというのが堪らなく嬉しい。それは、どうしてだろう。初めて優しくしてくれた人だから…なのかな。

「えっと…そ、そんなに喜んでくれるのか…?そんないいもんでもないだろ」

ルイードは顔を真っ赤にして顔を背けた。

私はルイードに抱きついて返事をする。

「いいものだよ!こんなに嬉しいプレゼント他にないよぅ……本当に、ありがとう」

ルイードはびっくりしたのか身体を硬直させた。徐々に熱くなってくる。

「えっう…ぅう……とにかく、渡したからな!」

身体をよじって私の抱擁を解き、去って行ってしまう。

「…あ、ちょっと馴れ馴れし過ぎたのかな……親しき中にも礼儀ありだよね…」

嫌われちゃったらどうしよう。そう思うと胸の深いところが痛かった。


小走りで廊下を歩いていると白愛に声をかけられた。

「顔、赤いよ」

「っ!!」

慌てて顔を隠す。確かに、かなり熱かった。

「全く。何、主上にふしだらな感情を抱いているんですか」

「あ、あれはフレイアにも否があるだろう?いきなり抱きつかれたら誰だってこうなるよ」

「そりゃあ、アスガルド一の美女ですもん。どんな男だってそうなるでしょう。けど、あなたはならなかった。今の今までね?それがフレイ神があなたを選んだ唯一の理由だったのに…」

「白愛。これなら、フレイ神に申請すれば新しく3人で暮らす家を探すことの許可が降りるのではないですか?」

麗麟の台詞に白愛の肯定の声。俺は一気に血の気が引いて行くのを感じた。

「ま、待て待て!フレイ神にこんなことを報告したら俺が殺されるだろうが!」

「主上にいやらしい感情を抱く人のことなんて知りません」

「なんか、いいように逃げなさいよ」

俺は二人を拝み倒して許してもらった。

「とにかく、次はないんだからね」

「わかったよ」

俺は両手を上げて降参の意思を示した。この2人に勝てる気なんて微塵もしないからな。麗麟だけならともかく、狂戦士はな。

二人は俺の反応に満足したらしく、フレイアに絡みに行った。フレイアは何処か寂しげな表情に見えて、儚げで、いつにも増して綺麗に……

「って、何考えてんだよ、俺」

俺は頭を振りながら外に出た。

素振りでもしよう。

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