依頼① > □□ > □□ ⇒①
依頼人:□□□□
依頼内容:□□□□□□□□□□□□□□□□□
回収対象:□□□□□□
対象特徴:“□□□□”□□□
募集人数:□人
募集要項:□□、□□□□□□□□□□□□□□□□、□□□□□□□□□□□□□□
報酬:□□□万円
〚音〛
そう、呼ばれるものがこの世に存在している。
科学技術が発達した現在、人間の営む生活というものは、遥かに豊かなものとなった。今となっては、世界全体が電子の海に覆われていると言っても過言ではない。
が、しかしこれでは〚音〛の説明がつかない。
簡単に言うのならば、これは文字の通り「音」を伴って発生する危険地帯。いわば、禁足地のようなものだ。
先ほど作者は科学技術が発達したと述べた。ここで気づいた者も多いだろうが、まさにそれが、この〚音〛の発生原因である。
悲しきかな、この情報を知るものは一握りの人間にのみ絞られる。事情を知り、音の発生に伴い禁足地を隠す。それの繰り返し。当事者でない限り、誰もそのことが分からないのだ。
今や世界中には禁足地が溢れ帰り、人間の住処は気づかぬうちに侵食されている。それが、この世界が抱える現状である。
が、少し真面目に考えてほしい。ここまで作者が説明した状況を聞いてさえ、人類が滅亡寸前だとは思えないのではないか。
それを描くのが、どこか狂ってしまった、ごくごく普通だった世界の物語である。
(PM:17時30分)
夏も終わりに近づき、蜩が煩く騒ぎ始める頃。
玖遠千風は、ひどく、恐ろしく、懐かしい地に足を付けた。
今年で弱冠を迎える彼女は、その年齢に似つかわしくない、つい最近まで使われていたようなセーラー服を身に纏っていた。
制服が小さいのか、はたまた彼女が成長したのか、制服は肌を締め付ける寸前のところまで迫っていた。スカートの丈も、すでに踝より少し上ほどまでしかなくなっている。
千風は動きにくいと思いつつも、手に持った紙切れに記された場所へ向かう。
と言っても、その紙切れにはたった一言しか書かれていない。人の集まる場所に迎え、としか。
目的地はあらかじめ把握している。それに加え、千風は数え切れないほど、いや、正確には数えられるが意識しないほど足を踏み入れた場所だ。
ゆえに、行先を間違えることはまずない。
道なき道の中心に、それはあった。人が四人、そこに集まっている。何も無い場所に、ただ呆然と立ち尽くしているだけである。
千風は不思議に思って、またそれが紙に書かれた場所なのだと理解する。
タイムリミットは迫っている。急がなければと、千風は歩む速さを少し上げた。
(PM:17時33分)
どうにも、木々のざわめきが煩い。もはや日が山の彼方に身を隠してしまった今、周囲には夜が一歩、また一歩と迫っている。
千風を含む5人は、目を合わせようともせず、会話しようともしない。ただ呆然と、その場に立ち尽くすのみであった。
全くの他人であることが、その理由の一つである。
しかし、この場に集う5人中、三人には共通して言えることがある。それらは、同じエンブレムの刺繍が施された制服を着ているということである。
これもまた、大きさが合わなくて肌を締め付けられていたり、肌が露出している者もいる。内1人、学ランを着ている者がいるが、その男は第2ボタンも外している。
冷ややかな夏風が木々の間を駆け抜けるので、千風は客観的に、相手の体調の心配をしてしまう。
残り2人は、3人とは別の服を着ていた。片方が男で、もう片方が女である。夏場に適した服を着ており、いかにも動きやすそうだ。
だからだろうか、この張り詰めた空気が付き纏う空間において、彼らは普通なのだという帷が降りている。制服を着用する者としないものとの、本当の帷がそこにあった。
ふと、千風は気づいた。事前に携帯電話に届いたメールには、本来の目的地の住所と、集う人数が記されていた。その人数は6。つまり、後1人足りない。
元より怪しいメールだった。それを承知でここまで来たのだから、このようなことがあっても何らおかしくはないだろう。
そう、千風は考えていた。その拍子に聞こえてきた。「千風ちゃん?」と。
あまりにも聞き覚えがある声。瞬間的に、千風は判断力が鈍くなったのを感じる。まはか、そんなはずはないと自分に言い聞かせた。
が、それでも目に現実を描写しなければ信じられない。千風は恐る恐る振り返る。
その際にまた一言。「やっぱり、千風ちゃんだよね」と。
千風は理解に苦しんだ。そこに立っている声の主もまた、同じ制服を着ていた。
典型的な黒髪黒瞳の背の低い彼女もまた、おずおずとしながら千風を見つめていた。だから、千風は理解して言葉を零す。
「望結……ちゃん……?」
千風にとって、その姿を見るのは実に二年ぶり。旧友の容姿は、あの時から時が全く動いていないように感じていた。
逸見望結。それが、旧友の名だ。
「久しぶり。高校の卒業式……以来かな?」
「ええ、もう2年も経ったのよね。でも、びっくりしたよ、容姿も背丈も変わってないんだから」
「そんなことないよ。一応、1センチほど身長は伸びたから」
「そんなの誤差よ。でも、何か安心できたな。少し気まずかったし」
「えへへ、千風ちゃんがそう思ってくれるならよかった」
穏やかで、優しく、澄んだ旧友の声が聞こえる。学校中の男子を虜にしただけはあるなと、千風はくだらない思い出を振り返る。
そんな感じで思い出に耽っていたからか、はたまた彼女たちの危機管理能力が低いのか、彼女たちはそれに気づいていない。
やっと気づいた時、木々のざわめきの中から姿を現した、機械音を放つそれは姿を現していた。
(PM:17時36分)
木々のざわめきを分け隔てるようにして現れたのは、一機のドローンだった。典型的な4枚のプロペラがついている個体で、操作主がこちらを見れるよう、機種にはそこそこ大きめのカメラレンズが取り付けられている。
一見非力そうな見た目のこれは、腹にそこそこ大きな四角い物体を抱えている。日のいたずらにより、それはよく見えないものの、かろうじて正面が網目状をしているということだけは視認できた。
集った者がそれを不思議そうに見つめる中、それは唐突に放たれる。『対象ノ集合ヲ確認』と。
典型的な機械音声に、千風は困惑する。それがスピーカーだと分かったから、謎の存在が声をかけてくるものだと考えていたからだ。
しかし、そんな困惑はどこかへ逃げ去る。千風の腕に、望結が力強くしがみついてきたからだ。その腕力は、華奢な身体からは想像できないものだ。
望結は怯えきっていた。足が竦んでおり、左右に小刻みに揺れている。千風の腕にしがみついていなければ、今にでも倒れてしまいそうだ。
そのような状況も露知らず。スピーカーは再び声を発した。『驚かせて申し訳ない』と、今度は音質の悪い男の声で。
『改めて、この依頼に応募してくれたこと、感謝する。諸君、依頼内容は理解していることを問う』
警戒しながらも、全員が首を縦に振る。
『では、改めて依頼内容を整理しよう。まず、本件の口外は一切なかったことを確認する。万が一、他者にこの事を話した、または聞かれたなどはないことを問う』
全員、首を縦に振る。
『本件は、依頼主、“佐藤由美”からのものであると断定する。依頼内容はメールに記載されていたとおり《娘が使用していたクラリネットの回収》である。ここに集った諸君。この依頼参加には間違いはないことを問う』
またも、全員が首を縦に振る。
『クラリネットには、依頼主、“佐藤由美”の娘の名前、“佐藤梨穂”が刻印されている。以上の対象を回収し、この山の麓に待機するスーツの男に渡す。以上が、依頼の全貌であることをここに宣言する。最後通告を行う。本依頼参加に間違いはないかを問う』
全員、固唾をのんで頷いた。
『次に、依頼の報酬などについての説明を行う。前提として《“佐藤梨穂”の名が刻印されたクラリネットを、山麓のエージェントに引き渡す》ことであると断定する。その地点から約30分の間に麓まで降りてきた者に、報酬として現金340万円が銀行口座に振り込まれるものとする。なお、銀行口座が存在しない場合はその場で手渡し、または郵便受けに投函されるものとする』
最初のメールに記載されていたことが、今一度再確認された。全員、黙ってそれを聞いていた。
『最後に、この依頼参加の条件として記載されていた《過去、辿陽高等学校に在籍したことがあり、それを証明することができる者》についてだ。こちらから見る限り、6名中4名の着用する制服を、辿陽高等学校のものだと把握した。辿陽高等学校に在籍したことを証明できるものをこの場で提示できるか、残りの2名に問う』
男の声に諒解し、2人は胸ポケットに手を入れた。そこから、1枚のカードのようなものを取り出し、ドローンに向かって見せつける。
取り出されたのは、辿陽高等学校の学生証明書だった。薄汚れたそれは、今もなお、彼らが在校生であったことを示していた。
ドローンは2人の至近距離で、奇妙で不気味なカメラの拡大音を鳴らす。その距離、僅か数センチ。羽が手を切ってしまうのではないかと、見ている者でさえ、喉元に鎌を突きつけられたような気分に陥る。
長くて短い時間の末、ドローンはついに定位置に戻る。
『2名が辿陽高等学校の元在校生であることを確認した。以上より、説明を終了、及び依頼開始とする。辿陽高等学校廃校舎に向かい、対象物を回収せよ。諸君らの健闘を祈る』
男の声は、ドローンの上昇と共に途絶えた。それは踵を返し、住処に戻るように草花と雑木が入り乱れる深林の中へ姿を晦ました。
(PM:17時47分)
静寂という怪物が、その場一帯を取り囲んだ。誰も、決して言葉を発想とはしない。ただただ、時間が逃げ去っていくだけである。
それでも、行動無ければ依頼達成は不可能というもの。よって、静寂が倒されるのは必然的であった。
「浦見ギル。ほら、一時的とは言え俺たちは仲間なんだ。名前くらい知っておいたほうがいいだろ」
私服を着た男は名乗り、そう言った。
あまりにも最もなことなので、その場の空気というものもあり、各自名前を公表することになる。
「金間青人。3年前までここに在籍していた。廃校になる丁度二年前のことだよ」
「谷口紗希よ。敬語とかそういうのいらないから。名前も適当に呼んじゃって」
「東雲結乃。4年前まで在学していた。今はフリーターとして生計を立てている。短い間だが、よろしく頼む」
「逸見望結です。えっと、堅苦しいのとかは嫌いなので、望結でいいです」
「……玖遠千風。望結とは幼馴染で、辿陽高等学校最後の卒業生です」
全員の名が明かされた。
以前として緊張状態は解けない。むしろ、ドローンの来訪があってから、より強くなった気がしないでもない。
千風や望結のように、積極的に前に出ない者は勿論、サバサバとした紗希ですら、言葉を発そうとはしなかった。
「……行こうか。ここから100メートルもない」
ギルが沈黙を破った。
皆、その言葉に頷き、ギルを先頭に歩き始めた。
面識の無い者同士であり、これから依頼を共にする仲間。その絆は、あまりにも脆いものである。それでもなお、彼女たちはやり遂げなければならない。
そして、彼女たちは1人を除いて知らない。また、知る必要性すらない。
そんな彼女たちの背中を、薄暗く色褪せた夕空は嘲笑っていた。
数ある作品の中から本作品を閲覧していただいた皆様、ここまで閲覧くださり、誠にありがとうございます。
本作品は私が夢で見たあまりにも夢見心地の悪い光景を小説として落とし込んだものになります。アニメ画風ながらもあまりにもリアルだったそれは、未だに私の記憶にこびり付いて剥がれてくれません。
以降、時間を見つけては続きを少しずつでも進めていきたいと考えていますので、今後とも本作品をよろしくお願いします。




