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ブラッディ・メナス  作者: ルイン
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第9話 目覚め

遅くなりすみません。


第10話 静かなる決意



白い天井が、ぼんやりと視界に浮かび上がった。

俺は重い瞼をゆっくりと開け、かすれた息を吐いた。

全身に鈍い痛みが残っているがーーーうん、生きてる。

首筋に包帯が巻かれ、微かな血の匂いが鼻を突く。

窓から差し込む夕暮れの日差しが、静かに部屋を満たしていた。


「ん…?ここは…どこだ…?」


上半身を起こそうとした瞬間、激しいめまいが襲ってきた。俺はベッドの端を掴み、歯を食いしばる。


「っ…くっ…はっ!?そうだ…みんなはっ…?それにここは…うぐっ!」


ガチャッ…


「っ!イオさんっ…!」


その時、部屋に誰かが入りながら声を上げた。顔を向けるとそこにいたのは自分の依頼者であるルナリアだった。


「!ルナ!ここってどこなんだ…?みんなは…!」


「あっ!無理なさらないで下さい!順を追って説明しますから…」


俺を支えながらルナリアは事の経緯を説明してくれた。

彼女によれば自分達がいるのはロシュトール城塞で、しかも城塞全域を警備しているバラメリア隊の駐屯地にいるという。

謎の男との戦闘後、倒れていた自分達を巡回していたバラメリア隊が発見し、駐屯地で治療くれたおかげで、自分達は事無きを得たらしい。


「そっか…騎士団の駐屯地だったのか…ってことは?」


「はい。ティニア、リグスさん、ミュレーさんもご無事ですよ」


「そっか…良かったあ…」


バフッ


無事ということを聞いた瞬間、体から急激に力が抜けた自分はベッドに倒れ込むように寝転がった。


「…あの男は、どうなったんだ?あいつらが捕まえてくれたとか?」


仲間の無事が分かれば気になるのは一つ。あの男があの後どうなったかだ。

するとルナリアに聞くと、彼女は顔を曇らせながら視線を泳がせた。


「っ…」


「?」


(怖がっている、のか?)


どう見ても言うのを躊躇っている…それ程恐ろしい事があったと言うのか?


「あの方は倒されました。…イオさん、貴方の手によって」


「へ?俺が?でも俺、首を切られて瀕死になってたはずじゃ…」


「…やっぱり、覚えていらっしゃらないのですね…」


「?」


少し間を挟んだ後、彼女は俺の手をそっと握り、静かに、しかしはっきりとした声で説明を始めた。


「イオさんは……首を切られた直後、様子が一変しました。目が真っ赤に輝き、まるで獣のような咆哮を上げて……傷などものともせず、マントの方に襲いかかったんです。あの見えない刃——無影剣を素手で弾き返して返り討ちに…血を浴びながら、まるで……本物の怪物のように。その方を倒された後は、そのままイオさんも倒られて…その後は、先程私が説明した通りです…」


ルナリアの声が少し震えた。彼女の瞳には、あの時の恐怖と、感謝の色が混じっている。


「私を、私達を守ってくれた…本当に、ありがとうございます。でも、あの時のイオさんは……私が見知ったイオさんとは、まるで別人のようでした」


俺はルナリアの手に包まれている自分の手を見つめた。

獣……?

自分の中にそんなものが…そのような力が潜んでいるというのか?


「…ごめん、かなり怖がらせちゃったみたいだな…」


「あ!そんな、イオさんは悪くないですよ!」


ルナリアは首を振りながらも、掴んだ手を離さず続けた。


「…確かに、怖くないと言えば嘘になります。でも、本当に感謝しています…」


ルナリアは俺の握り拳を掴んだまま自身の額に当てる。


「…本当に、ありがとうございます…」


「っ…」


(す、すっげえ気まずい…)


ここまで感謝してくるとは思わず、どうしていいか分からなかった俺は半分白目を剥きながら狼狽してしまう。

…自分もまだまだだな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ガラガラッ


「あっ!イオ!」


「お、やっとお目覚めか旦那」


そうして少しベッドの上でゆっくりしていると、部屋の扉が開いてティニア、リグス、ミュレーが入ってくる。

包帯とかはしているがルナリアの言う通り、あまり大きな傷もないようでまずは安心だ。


「旦那って…いつからお前の主人になったんだよ」


「まあまあ細かいことは気にしない気にしない♪ーーー話はルナちゃんから聞いたぜ。とりあえず大丈夫そうで安心したわあ」


「私も聞いたわ。全く…心配かけちゃってっ…」


(…ああ、ルナがさっき言ってた俺のことについてか)


2人が言う「話」ーーー恐らく俺が凶暴化した件についてだろう。

俺が言わなくても、どうやら2人は俺が言おうとした事を分かっていたようだ。


「ごめんティニア、心配かけて」


「謝るぐらいなら次から心配かけないように努力しなさいっ。ったく…」


「はは…ミュレー、そろそろーーー」


「ん?おーい、イオくーん?俺には何もないのかよ?」


ミュレーに話しかけようとした時、リグスが自分に対して何の言葉もないことに突っ込んでくる。


「あ、リグスは軽薄そうだから敢えて無しで」


無論リグスはスルーする。こいつに付き合っていると日が暮れるからな。


「いやなんでやねん!」


「ぶっ…ふふ」


ミュレーが思わず横を向いて吹き出す。口角を上げて小さく笑いながらのおまけ付きで。


「ってミュレーおまっ!?鼻で笑いやがったな!?」


(あ、あはは…リグスさんも大変ですね…)


ルナリアはそれを冷や汗を流しながら見ていたのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そうして、和やかな雰囲気が少し漂った後、俺は本題に入るために再びミュレーに視線を向ける。

あの男、そして手紙に書かれていた奴らと言う文面について聞くためだ。

だがミュレーは少し悩んだかと思えば、なんと首を横に振りながら話すのを拒否したのだ。


「…申し訳ありません。やはり、話すことはできません」


「は?おいおいそりゃないだろ?」


「ちょっ!?なんでよ!」


リグスとティニアが交互に反論する。

それはそうだ、後で話を聞いてもらうと言って了承を得たはずがこれでは意味がない。


「…」


(やっぱりなんかあるっぽいな…)


対して俺はミュレーの様子を伺いながら考え事をしていた。

ミュレーは確かに堅い人間だが、信頼できる奴や自分が認めた奴に対してはかなり柔らかくなり笑顔も増える。元にさっきのリグスとの会話がそうだ。

…だが、今のミュレーはその接し方になっていない。

隠し事をしているの確かだ。が、話せないのは重い事情があるのか、それとも単に俺達が関係者じゃないからか…どちらにせよ、簡単に口を割ることはしないだろうな。


「ルナリア様」


ミュレーはルナリアに向き直し、膝を付きながら頭を下げる。

…その時、もどかしそうな顔をしていたのは気のせいだろうか?


「…誠に申し訳ありません。今はまだ、全てを話す訳には参りません」


「そんな、ミュレーさん…」


膝をつく体勢のままミュレーは続けた。


「ーーールナリア様、こちらの方もお渡し致します」


「?」


するとミュレーは懐から一通の手紙を取り出し、膝を付きながらルナリアに差し出した。


「ヴァールタリア現国王陛下から、ルナリア様へ直接渡すように仰せつかった物です」


「…えっ?」


ルナリアは手紙を受け取り封を切った。皆の視線が集中する中、彼女は静かに読み上げ始めた。


『愛する娘、ルナリアへ。


半年間、お前を遠ざけ、冷たくあしらったことを、改めて謝らせて欲しい。

そして家族として…何より、父親として何もしなかったことも。

しかしこうするしかなかった…こうするしか、お前を守れなかったのだ。

我が妻であるリムルも同じ考えだった。

…いずれ時が来たら必ず、全てを教えるつもりだ。 今は、どうか旅を存分に楽しんでほしい。

お前が生まれて初めて知る世界の広さ、美しさ、厳しさを、自分の目で感じてくるのだ。 それが、私とリムルの願いだ。

…長く書いてしまったな。手紙でしか伝えれない私を許してくれ…


父より』


ルナリアは手紙を胸に抱き、目を閉じた。長い睫毛の先が、わずかに濡れている。


「……お父様……」


彼女はゆっくりと顔を上げ、ミュレーに顔を向けた。


「…私、お父様とお母様に嫌われているわけでは、無かったのですね…」


ミュレーがゆっくりと頷くと、ルナリアの目にうっすらと涙が浮かび上がる。


「…ふん」


物凄い小さく不満そうに鼻を鳴らす音が聞こえ、その出先を見る。するとリグスの顔が怪訝そうな顔になっているのが見えた。


(?リグスのやつ、なんであんな訝しそうな顔なんだ?)


彼は俺の視線を感じたのか、すぐにいつもの飄々とした表情に戻った。

気にはなったが、今はあまり触れないでおくか。


(それにしても、頑なに話さないのはおかしいな…少し探ってみるか)


ミュレーとルナリアの会話が終わった頃を見計らい、俺は「ある事」をミュレーに話し出した。


「なあ、やっぱり話してもらえないんか?」


「何度も申しますが、お話しするわけにはーーー」


「ふーん。じゃあ俺が考えていた『奴ら』とは違うんかなあ?」


「!?」


(?)


(何を聞いてるのよ?)


(なるほど、あいつらか)


ミュレーがそれを聞いて血相を変える。どうやら「当たり」のようだな。

その間ルナリアとティニアが疑問の顔を浮かべているのも無理はない。2人には後で説明するとしよう。

…リグスにはその様子が見られない。もしかして知っているのだろうか。


コンコン


そうして話していると、部屋の扉をノックする音が響いた。


「ご歓談のところ失礼致します。少々宜しいでしょうか?」


「あ、はい!」


ルナリアが了承した後扉が開けられる。

ここに駐屯しているバラメリア隊を象徴する青色の鎧に身を包んだ兵士が1人立っており、開けると同時に会釈をした。


「失礼致します。ルダン様がお呼びでございます。大変恐れ入りますが、執務室までお越しくださいますようお願い致します」


「ルダン様が…分かりました、すぐに向かいます」


ルナリアの言葉を聞いた兵士はもう一度会釈して部屋から出て行った。


「おっ、ここの責任者とご対面かあ。面白そうだぜ♪」


「ちょっと?ルダン様は伯爵の地位もあるお方なんだから、粗相のない様にしてよ?」


「へいへーい」


場違いなリグスの発言に、ティニアが思わずため息をつきながら注意する。

なお、リグスは全く聞いていないようなので、ティニアにとっては不安しかないだろうな。


「…」


「ミュレー?」


ミュレーの沈黙を見たルナリアが声をかける。


「…いえ、問題ありません。行きましょう」


コツ、コツ


執務室に向かおうとした時、窓を何かで叩く音が聞こえた。

何かと思い窓の方見ると、そこには一羽の鳩がいた。


「ん?」


「およ?伝書鳩じゃねえか。イオ、お前さんのか?」


「いや、俺は使ってないからあれはミュレーの伝書鳩だな」


伝書鳩は騎士団の間で使われている連絡用の鳩だ。長距離を移動でき、尚且つ連絡する相手を識別できるよう独自の訓練を施されており、騎士団間の連絡に多いに役に立っている。

野生の鳩でもある程度簡単な訓練は可能らしく、市民の間でも簡単な連絡手段として使われている。

なお、俺の場合は直接その場に行ってからではないと気が済まないので使ってはいない。

…決して訓練させるのが面倒くさいと言う理由ではないぞ?


「皆さん、先に行っててください。後からそちらに向かいますので」


バルコニーに出ながらミュレーは俺達にそう言った。


「…分かった。とりあえず行こうか、みんな」


手紙の内容が気になるが、後で聞いても問題ないだろう。ルダン伯爵を待たせるわけにもいかないだろうしな。

俺達は部屋にミュレーを残して執務室に向かうことにした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…」


イオ達が部屋から出た後、伝書鳩から手紙を受け取ったミュレーは内容を見て怪訝な顔を浮かべていた。


「…メイル、お願い」


バサバサッ


返信用の手紙を足にくくりつけた後、メイルと名付けられた伝書鳩は再び空へ飛び立って行く。


「ルナリア様、どうかお気を付けて…」


メイルを見送りながら、ミュレーは密かにそう呟いたのだった。




第9話 終了

ご精読ありがとうございました。

ちょい複雑にしすぎたか…?

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