魔法使いと魔法剣士 2
「店主よ! ここに銀髪の子どもが来なかったか?」
胸元にある紋章から、男達は街の警備兵ではなく、屋敷に仕える護衛兵のようだ。
銀髪という言葉にテオもびっくりして目を丸くしている。
そしてシーラは彼等から姿を隠す様にフードを深々と被りグリースの背後に回った。
「銀髪の子どもと言うと、彼の事か?」
「いや、少年ではなく少女なのだ。 他にはここに来ていたということはないか?」
「さぁ……」
ジークフリードもシーラの様子から何やら察したのか知らぬふりをする。
「おじさん達、何でそんなに銀髪の女の子を探してるの?」
グリースはシーラの存在に気づかれる前にその理由を男達に尋ねた。
「家の者が心配している。 だから早く連れて帰らねばならないのだ」
「へぇ……」
「何が『心配してる』よ! 私が居なくなったら家が潰れて困るってだけでしょ! あんな家にはもう帰らない! それを両親に伝えて!!」
するとグリースの背後に隠れていたシーラが悲痛な声で叫んだ。
余程の事があったのか、目尻には涙が浮かんでいた。
「シーラ様! そんなこと言わずに早く帰りましょう!」
一人の兵士が宥めるようにこちらへにじり寄ってくる。
すると青筋を立てたグリースがシーラをドンと後ろへ押しやるとパチンと指を鳴らした。
突如店内に光の壁が現れそれが四角い空間となってグリースと兵士達を閉じ込めた。
「結界魔法だと? まさかあの子どもが……」
「お前等貴族の家の護衛兵だろ。 外で『ガキ』なんて言ったらあっという間に吊るし上げられるぞ。 少しは自覚を持て」
「うるさいっ!」
注意を受けた一人の兵士が剣を抜きグリースに向かって振り被った。
それをグリースがヒラリと避け自身に身体強化の魔法をかけると、背後から肘打ちを食らわし氷魔法で手足を拘束し床へと落とす。
見ていた残りの兵士達は子どもらしからぬ身のこなしに狼狽えるが、それぞれ詠唱し始めるとその魔力を剣に込めた。
「魔法剣士か。 大層な護衛を雇ってるんだな……」
そう言っている間にも炎や氷やらを纏った数々の剣がグリースへ一斉に襲いかかる。
するとグリースは先程倒した兵士の剣を取り、体格差も諸共せずそれらを薙ぎ払うと、全員に雷撃魔法をお見舞いした。
最後は床に転がり目を回している全員の兵士達に氷魔法で拘束して討伐完了だ。
「その程度じゃ魔法剣士の肩書が泣くぞ。 一回出直してこい」
結界の外から見ていたシーラとテオは舌を巻き、ジークフリードも嬉々として顎を撫でていた。
「ヴァルト仕込の剣術も衰えておらんな。 見ててスッキリしたよ。 しかも店には一切被害無しだ」
「そんなことしたら爺さんに殺されるからな」
「え……ヴァルト、爺さん……?」
「あぁ、ヴァルト・アーレンツは俺の祖父だ」
「「えぇ――――!?」」
テオとシーラは揃ってすっとんきょうな声を上げたが、直ぐ様尊敬の眼差しをグリースに向けた。
「グリースさんてあのヴァルト様のお孫さんだったんですね! 見事な剣捌きに僕は感動しました!!」
「ちょっと待って! グリードって偽名だったの?! しかもあんなの、カッコ良すぎる!」
「お、お前等ちょっと落ち着けって……!」
食い入るように迫るシーラ達の勢いに少年姿のグリースは思わず後ずさった。
「……これはどういうことかな?」
すると入り口の方から男の声がする。
全員がその方を向き、中でシーラだけはその姿を見て青ざめる。
「アラン兄様……」
そこにいたのはリシュとシーラの兄、アラン・エフモントだった。
背格好は本来のグリースに似ているが、燃えるような赤い髪を一つに束ね、鋭い目つきをしている彼はなかなかな美丈夫だった。
「なぜここにうちの護衛達が倒れている? 誰がやったんだ」
「俺だ。 言っとくがそっちが勝手に仕掛けてきたんだ」
先に剣を抜き襲ってきたのは兵士側である。
結界を張ったのは良からぬ雰囲気になった為、予防策でとった行動だと説明した。
「……これを君一人でやったのか。 なかなかな腕だな」
のびている兵士達の様子を伺うアランの言動にグリースはピクリと片眉を上げる。
そして再び顔を上げたアランは見定める様な目つきでグリースを見た。
一触即発かと思いきや、突然アランの方からグリースに頭を下げた。
「どうやらこちらが失礼な事をしたようだな。 申し訳なかった」
「あ、あぁ……」
思いがけない行動に目を丸くするグリースの横をアランはつかつかと通り過ぎると、背後にいたシーラの細い腕を掴んだ。
「見つけて頂き感謝する。 さぁシーラ、帰るぞ」
「いや! あんな所もう帰りたくない!!」
「我儘を言うんじゃない! お前は自分の役目を果たせ!」
嫌がるシーラを無理矢理に引き戻そうとするアランにグリースが慌てて呼びかけた。
「ちょっと待て。 本人がこんなに嫌がっているんだ、無理やりは良くないぞ」
「これは我が家の問題だ。 口を出さないでくれ! ほら帰るぞ!」
「離して!」
するとグリースがシーラを庇うように二人の間に割って入った。




