魔法使いと魔法剣士
今日も屋敷内は春めいた空気に包まれている。
リシュが魔法で花を咲かせ過ぎたからではなく、想いが通じめでたく二人は恋人同士になったからだ。
それはもう目が合うだけで甘い幸福感に包まれる程に。
だがグリースは時折一人悶々としていた。
恋人同士の二人が一つ屋根の下。
言ってしまえば何時でもイチャイチャできるこの状況。
人嫌いだったグリースも一人の男だ。
大好きなリシュとこれでもかという程にイチャイチャしたいという願望があった。
しかしそう上手くはいかないのだ。
名前を呼んで頬に手を伸ばそうとすると、リシュはブワっと顔を赤らめ『何でしょうか?』と潤んだ瞳で見つめてくる。
そんなリシュがたまらなく可愛い。
ガブがいれば間違いなく叫んでいる。
しかしこれが踏み止まってしまう原因となっていた。
どうやらリシュは想いが通じ合った所が終着地だったようで、恋人同士のやり取り等を求める素振りが一向に見られない。
そんな彼女の瞳があまりにも無垢な為、邪な思いで手を出せばバチが当たってしまうのではと錯覚を起こしてしまうのだ。
普段は好戦的なグリースだが、恋愛に関する経験がない為にこの先どうすれば良いのか頭を悩ませていた。
この不甲斐なさに同居ネズミのレフカも『バカじゃないの?』と呆れていた。
◇
ある日リシュの付き添いで来ていた少年姿のグリースは、店のカウンターでも突っ伏したまま動かなかった。
「人の店に来て辛気臭い顔しおって。 営業妨害で訴えるぞ」
「そもそもジークが爺さんにアレコレ喋った結果がコレなんだから、文句言うなら爺さんに言ってくれ」
ヴァルトの言葉をきっかけに料理にも興味を持ち始めたリシュは、今回は本や材料など見て回りたい箇所が幾つもあるようで、その間グリースはジークフリードの店で待つ事にしたのだ。
「リシュちゃんが来ないのは寂しいのぉ……」
ジークフリードは嘆きつつお湯を沸かし始める。
「リシュなら用事が終わったら会いに来るって言ってたから心配いらないぞ」
キィィ……。
するとゆっくり店の扉が開き、隙間から銀髪の愛らしい少年が顔を覗かせた。
「こんにちは、ケフィンさんは居ますか?」
ケフィンとは、表通りで通っているジークフリードの名前だった。
「おぉ、テオじゃないか! 今日は一人で来たのかい?」
「兄なら後から来るそうです。 暫くここで待たせてもらっても良いですか?」
「構わんよ。 座って待ってなさい」
テオと呼ばれる少年はグリースに一礼すると、カウンターの隣の席に腰かけた。
歳は九、十歳位だろうか。
穏やそうな雰囲気だが吊り目がちな瞳がキリッと顔を引き締めており、なかなかな美少年である。
グリースはテオを見て小首を傾げた。
「お時間があれば先に持ってきた分を鑑定して頂けますか?」
「以前買い取った銀貨だな? 今回も質が良さそうだ」
「でしょう! 兄様の腕はすごいですよね!」
テオは目を大きく開きキラキラと輝かせた。
兄と聞き、グリースははっと気がついた。
「あぁ! 見たことあると思ったらゾーイの弟か!」
「兄様をご存知なのですか?」
「今は訳あってこんな成りだが知ってるぞ」
「僕はテオ・クナウストと申します。 いつも兄がお世話になってます」
テオはグリースに深々と頭を下げた。
「俺はグリースだ。 で、それはこの前見た動物が収めてある銀貨なのか?」
「兄がやったんですよ。 すごいでしょ!」
誇らしげに兄を称えるテオを見て少年グリースもつられて口元を緩める。
「テオはゾーイが大好きなんだな。 確かにこんな事が出来るアイツはすごいと思うよ」
「何じゃ、お前がそんなことを言うなんて珍しい」
「別に。 アイツの腕は確かだからな」
「グリースさんも兄の事が大好きなんだですね」
「いや、大好きということではなくてだな……」
バァン!!
「ごめんなさい! 暫く匿って下さい!」
突然店の中に飛び込んできたのは何とフードを被り顔を隠したシーラだった。
その表情から何かに追われているようだ。
「匿うって言ったって何があったんだ?」
「事情は後で話します! だから……、あれ?」
すると少年姿のグリースと目が合ったシーラは目を見開いたままジリジリとこちらに近づいてきた。
「まさか、グリード!?」
「!?」
シーラの直感力なのか、見事に正体を見破られグリースは焦りを見せた。
シーラもグリースに何か言いかけたが、眉を顰めぐっと口を引き結ぶとジークフリードの方に顔を向け詰め寄った。
「おじさんお願い! 少しの間で良いから!」
「おい! ここに銀髪の子どもが来なかったか!?」
すると再び店の扉が勢いよく開くと、どかどかと大柄な男達が店へと入ってきた。




