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二人の気持ち 2

 グリースはソファに腰掛けるとバサリと服を脱ぎ肌を晒した。

 痛々しい熱傷と共に均律のとれた逞しい身体が目に飛び込んでくる。

 細身だと思っていたが脱ぐとまた違う印象だ。

 肩幅もあってしっかりと割れた腹筋が実に男らしい。

 あの身体能力はこの体あってこそなのだろう。 

 加えて少し疲れた様な横顔から漂う色気にもやられてしまいそうだ。

 リシュは手当に専念する為に何度も深呼吸を繰り返した。


「痛かったらちゃんと言ってくださいね」


「あぁ」


 …………。


 ぎこちない手付きで傷の消毒を始める。

 男に免疫のないリシュは、極力傷口以外を見ないよう視線を逸しつつ手当していくしかなかった。




「リシュの作るジャムはあの爺さんまで虜にしてしまったな」


 すると気まずさを取り払おうとグリースがポツリと話し始めた。 

 その声を聞いてリシュの緊張も徐々に解れていく。


「喜んでもらえて私も嬉しいです。 今度はまた違う味にもチャレンジしてみますね」


「それは楽しみだな。 でも試作段階だろうと、出来あがったら一番は俺に食わせてくれよ」


「グリースさんに、一番、ですか……?」


「言っとかないと誰かに先を越されそうだからな。 そこは一緒に住んでる俺の特権だから譲らないぞ」


「は、はい」

 

 これまで日常でしていた事なのに、改めて言葉にされると擽ったい気持ちになる。

 リシュはポッと頬を染めつつ薬を塗り、大きな綿紗でしっかりと傷を覆い包帯を巻いた。


「出来ました! 暫く無茶しないで下さいね」


「ありがとう、助かったよ」


 腕を軽く動かし包帯の締り具合を確認すると、グリースは口の端を上げた。

 それを見てリシュも安心した様子で救急箱を片付けていると、グリースの隣で横たわるガブが目に止まった。


「ガブさん、最近動く事が少なくなりましたよね。 使い魔でも体調崩したりするんですか?」


 リシュの質問にグリースが動きを止める。

 そしてヴァルトの言葉を思い出し、頭をかいた。


「体調不良ではない……その、ぬいぐるみだから」


「ぬいぐるみ……? じゃあ、傀儡の魔法で動いてた、という事ですか?」


「あぁ……」


 リシュは口元を隠し赤くなった顔を背けるグリースと、くったりとしているガブとを交互に見る。


 カチカチカチ。


 リシュの頭の中の靄が晴れたと同時にブワっと顔を真っ赤にした。

 

「じゃ、じゃあガブさんの台詞って、グリースさんの……」


 最後まで言い切る前にグリースがリシュの手を掴みぐいと体を近くに引き寄せた。


「全部、俺がリシュに言いたかった台詞だ」 


「――!」


「ずっと、ずっと前から好きだった。 俺の……恋人になって欲しい」 


 ブレること無く真っ直ぐと見据える瞳が『これは本心だ』と訴えかけている。

 リシュはヒリヒリする様な熱い視線に震えながら、グリースの前に座りゆっくり視線を合わせた。

 

「……私なんかで、良いんですか?」


「なんかじゃなくて、リシュがいい」


「グリースさんの力を吸い取ってしまうかもしれませんよ?」


「そうなったら一生側にいてもらおうかな」 


「えぇ!?」


 グリースはクスリと笑うと狼狽えるリシュを優しく抱き締めた。


「どんなリシュでも俺にとっては光なんだ。 だからこの先も一緒にいて、俺を照らしてほしい」


 リシュは両目を開き小さく肩を震わせた。

 体を包む腕の力、早鐘を打つ様な心音、少し熱くなった身体からその想いが存分に伝わってくる。

 捨てられた自分が誰かの光になれるなんて。

 いつしかリシュの瞳から涙が零れていた。


「……ダメ、か?」


 腕の力が一瞬緩むが、リシュは自ら胸元に顔を埋め大きく首を振った。


「いえ、すっごく嬉しいです……」


 恋人のフリをしていた時とは全く違う。

 彼の腕の中で温かく幸せな気持ちで満たされている事に気づいた。

 

「私も……グリースさんが、好き、です」


 リシュも意を決して思いを告げた。

 鼻を啜りながらの告白でも、彼は目を細めてそれを受け入れる。


「……ありがとう」


 グリースは安堵し再びリシュを抱き締めた。

 そうして暫く二人は幸せの余韻に浸っていると、リシュが何やら気づき目が泳ぎ出した。


「グリースさん、肩の傷が……」


「反対側だし大丈夫だ」


 グリースは離すまいと更に力を込めリシュを抱き竦める。

 んっ、と小さく声を洩らした後、暫く黙っていたリシュだったが、再びもじもじし始めた。


「でも……」


「でも?」


「そろそろ服を、着てほしいです……」


 グリースはようやく力を緩め、腕の中で真っ赤な顔を両手で覆うリシュの言葉を反芻する。


 ――――上半身は包帯のみ。


 他に身につけていない事にようやく気づき、急いで服を掴みそれを被った。


「っ痛ぇ!」


「あぁ、傷が開いちゃいます!」

 

 無理に動かしたせいか、グサリと突き刺さる様な痛みが走る。

 リシュも心配そうに顔を覗き込んだ。

 

「無茶しないでって言ったじゃないですか」


「……悪い」


 苦笑いを浮かべたグリースを見て、リシュも眦を下げて笑った。

 


  

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