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2話 雑木林の奥は異世界ですか?


黙々と歩く。

やっぱ山道歩く時は長袖長ズボン、それからゴム長靴が最強だよな。

…………別にスニーカーが駄目って訳じゃないが、ゴム長靴の安心感は異常だ。

水溜まりや泥濘にも動じないしな。

…………にしても疲れた。

都会に出てから運動なんか全然やってなかったし、体力が著しく落ちている。


「はぁ、はぁ………ゼェ…………ヒュー………」


この呼吸音を聞いて貰えばわかると思うが、喋る元気もない。

まぁ喋っても独り言で虚しいだけだし、喋る必要もないんだけど。

いつの間にか地面ばかり眺めながらひたすらに歩いていた。


ここってこんなに広いのか?


疲れた。

面倒臭くなったきた。

もう引き返すか?

いつまでたっても獣道だし、何で俺こんな道に入ろうと思ったんだ?

俺馬鹿なの?

せめて水分くらい持って来とけよ。

喉乾いた!

よし、引き返そう!


……とか思った瞬間下の道が草じゃなくなった。


「…………ぇ?」


石、…………石畳だ。

訳が分からず目線を上に向けると、そこはまるで中世を思わせる異国情緒漂う風景が広がっていた。


「ドイツの林かな?」


いや、待て、ドイツの林は岡山県だ。

疲れるほど歩いたけど、たったの数十分で県を越えるのは無理だ。

それにドイツの林は確かにドイツ風だけどドイツ人は住んでなかったはずだ。

それに言っちゃ悪いが、ドイツの林って平日のこの時間帯こんなに人いないよな?

鳥取県過疎り過ぎて外国人居住地でも造ったのか?

ドイツ村的な?

いや、目の前の外国人達がドイツ人とは限らないから、一旦ドイツから離れよう。


石畳の街並みには外国人が沢山歩いている。

しかもどこかの民族衣装なのか、まるっきり漫画やアニメで観る中世時代のヨーロッパのようだ。

下町か庶民街か、そんな感じの通りを行き交う人々。

エプロンドレスと言うのか、そんな感じのワンピースに身を包んだ女性はバスケットを持ちながら歩いている。

少し開けた胸元に目がいってしまうのは仕方がない事だと思う………。


だって開けた服着てるんだもん。


たわわなそれを纏った女性と目が合う。

俺は紳士だから何事もなかったかのように、笑顔で手を振った。


「は、ハロー。」


そんな俺を見た女性が固まる。

大きく目を見開いたかと思ったら、目をギュッと瞑り、力の限り叫びだした。


「キャーァァアアアッ!!!」

「……ぇ?へ?」


その瞬間道を通っていた人々の眼が一斉に此方を向いた。


な、何だこれ?

何が起きているのかわからない。


最初に叫んだ女性は俺を指差しながらまだ何かを叫んでいる。


目が合っただけで俺は無実です、お巡りさん!


一斉に向いたかと思った眼達は、何故か俺を確認した瞬間に色々な態度を見せた。

女性と同じく叫び出す者、棍棒のようなものを持って俺を取り囲む男達。

何故かその奥ではへたりこむ者と、中には泡を吹いて倒れる者までいた。


とりあえずこの場を何とかしなければ……!

棍棒のようなものを持った男達は俺に対して何か怒鳴っているけれど、生憎俺は日本語しか分からない。

せめて敵意がないことと、何かの誤解だって事を解ってもらわなくては、俺の身が危険な気がする。

せめて言葉が分からない事を解ってもらわねば…………!


俺は全力で知っている英語を話した!


「アイキャントスピークイングリッシュ!」


…………何故か近くに居た男の内の二人が失禁しながら倒れた。


全然駄目じゃねーか!

しかも全然伝わってない。

そう言えば俺の英語力はたったの2しかない(主に成績的な意味で)……ゴミめッ!

いや、もしかしたら英語圏の人間ではないのかもしれない。

でも英語ですらこんな状態なのに他の国の言語が解るはずもない。

一か八かで俺は知っている言語を全て話すことにした。


「ボンジュール、ジュテーム、グーテンターグ、ハロー、チャオ、ニーハオ、マガンダンハーポン、クエンタコッタクエスタ、アリーベデルチ、アニョハセヨ、オラ、ボンジョルノ、ジャンボ、ハイサイあとー……えっとぉー………ナマステー!!!」


発音がもろにカタカナだとか、途中で何故かネクタイの値段聞いてたりだとかは気にしちゃいけない。

テレビでやってたイタリア語講座でそれだけ何故か覚えたんだよ!

どれかの言語圏であることを願って周りを見渡すと、水を打ったように静まり返っていた。

ゴクリと唾を飲む音が聞こえる。

棒を持つ手が震えている男が、じりじりと近付いて来ている。

そんな中、後ろに居た男の子の一人が、泣きながら何かを叫んで、俺に石を投げてきた。

石は俺には当たらなかったが、それを見た周りの人間が、一人、また一人と石を持ち、俺に向けて何かを叫びながら投げてくる。


「痛ッ!痛い!ちょ、やめ……!痛いって!」


何でこうなった!

俺何かしたか!?


石を投げる猛攻は一向に止まない。

むしろ石畳の癖によくそんなに投げる石が落ちてたなッ!


「入っちゃいけない場所だったなら謝るから!ごめんなさいッ!痛ぇッ!ちょ、マジで……」


腕で顔をガードするものの、強く投げつけられた石達に既に俺は満身創痍だ。

滅茶苦茶痛いし、意味不明。

とりあえずこの場から逃げなくては!とは思うものの、何故か歩いて来たはずの道は壁になっていた。


やべぇ………やべぇよ……、何だよここ。

林は?

逃げ出したいけど囲まれていて身動きが取れない。

しかも腕で顔をガードするのでいっぱいで、痛くて立ち上がれない。

腕ももう傷だらけだし、あとはもう亀のように丸まって時が過ぎるのを待つしかないのだけれど、頭を奴らの方へ向けるのは命取りな気がして、それすら出来ない。

体育座りのような格好で、腕で頭を、足で腹と俺の大事な息子様を守るので精一杯だ。


そんな折、一際強烈な一撃が俺の腕を襲った。

強い衝撃と共に後ろに倒れる。

それと同時に、あり得ないほど騒がしかった人の声も、痛すぎる石達からの猛攻も止んだ。


「……………ッ、……ぁ?」


ゆっくりと腕を解くと、辺りは石畳も外国人も居なくて、ただ、刈り込まれた草の上に無様に倒れ込んでいる俺一人がいた。

林と畑の間の刈り込まれた草の上。

奥を見ても獣道なんかない。

夢、だったのだろうか……………?


「いでぇ…………。」


それでも痛む身体と、石によってつけられた傷達はなくなっていない。


「……………何なんだよ……何だってんだよッ!」


半べそをかきながら、情けなく泣き言を言いながら歩く。

痛い………足も腕も血だらけ、鬱血だらけで上手く歩くことすら出来ない。

左足をへこへこ引きずりながら、数分の道のりがあり得ない位に遠く感じた。


「…………ただいまー……あ?」


玄関を開けてすぐに母さんが立っていた。

俺の姿を見て、とてつもなく驚いた顔をして、それから一瞬無表情になったかと思えば、ガシリと俺に抱きついてくる。


「ちょっ、母さん!?」


痛い!

怪我しまくってるところに当たって痛いッ!

しかも母さんに抱きつかれるとか何十年振りだよ!?

アラサーが母親に抱きつかれるとか、何か滅茶苦茶恥ずかしい!


痛みとこっ恥ずかしさで母さんを離そうとしたけど、次の瞬間母さんは声をあげておいおいと泣き始めた。


「すぐに帰るって言ったのに、何時間たっても帰ってこんし、日も暮れて来て、林に探しに行ってもおらんし……!最近就職の事煩く言い過ぎて家出でもしたのかもって………行方不明かもって…………!」


おおぅ…………何か滅茶苦茶心配かけてた。

一気に罪悪感が募る。

とりあえず母さんを抱きしめ返して宥めすかす。

ちょっと気分転換がてらの散歩の筈が、どうしてこうなった。


…………母さんがこんなに泣いてるの、初めて見たかもしれない。


「心配かけてごめん…………でもさ、超痛ぇからとりあえず離してくれん?」

「あんたその傷どうしたん!?救急箱!病院!救急車って何番!?110番!?」


……満身創痍の息子を警察に突き出すのだけは勘弁して下さい!

俺は無実だよ母さん!!


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