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11話

読んでくださってありがとうございます!



感情表現が豊かな回になります。

扉を開けた私がまず見たものは、途轍もなく可愛い生き物だった。


「けいすけー!ぎゅう!」


そんな事を言いながら抱き着いてくる美咲さんに、私のような可愛いもの好きが勝てるはずもなかった。

私の、何故美咲さんがこんな事をしているのか、とか、兄に合わせなければならない、とかいう思考は瞬く間に消え去ってしまい、ただこの可愛すぎる生き物を愛でる事だけしか考えられなくなってしまっていた。


「よしよし……お姉ちゃんと一緒に遊ぼう?」


「んー……けいすけあったかい……もっとぎゅー…」


「ぎゅー、ね?……これくらいでいい?」


「……もっと……」


「なんだこれ!?なんだこの可愛すぎる生き物!?」


私の胸に子供のように顔を埋めてくる美咲さんに、私の精神は破壊尽くされてしまいそうだった。

今度は頭を優しく撫でる。

すると、ピクリと美咲さんが反応した。


「………あれ?けいすけ?なでかた……」


ん?美咲さんが何か言っている。まあ良いか。可愛いし。


「……だれ?」


ああ!可愛い!こんなに可愛い美咲さんが見れるなんて!


「……けいすけじゃ、ない……」


溺れそう……溺れて死にそう……


「……やだ!!」


ドン!


「きゃっ!?」


突然美咲さんから突き放された私は、思わず床に尻餅をついてしまった。

恐る恐る美咲さんを見ると……


「けいすけぇ………」


涙目でおろおろと兄を探す美咲さんがいた。

そして、兄がいない事を確認すると………


「うわぁぁぁぁん!!けいすけぇ!どこぉ!」


突然号泣し始めたのだ……

私は美咲さんに拒絶された事がショックで、呆然としてしまった。


(やだって言われた……やだって言われた……拒絶された………)


下から聞こえる足音にも気付かないまま。


* * *


僕は今、猛烈に焦っている。

僕は先程まで、”姉モード”の冬香に色々と美咲との恥ずかしい事を吐かされていたのだが、突然冬香が美咲を連れてくると言い出して階段を登って行ってしまったのだ。

今の状態の僕には、それは死刑宣告と同じ事である。


「何処に隠れよう………」


そんな小学生のような事を考えていると、二階が少し騒がしい事に気がついた。

どうやら冬香が何かやっているようだ。

僕は自分の部屋を漁られている危機的状況をなんとかしようと、重い腰を上げた。

すると……


「うわぁぁぁぁん!!けいすけぇ!どこぉ!」


突然、美咲の泣き声が聞こえてきたのだ。

普段美咲が泣くことなんて滅多に無い。

すると、状況は絞られてくる。


(……幼児退行か!)


美咲の数少ない天使モードである。あの状態の美咲なら、何か嫌な事があって泣き叫ぶ事も十分ありえる。

と、そこでもう一つの事に気付いた。


(……冬香……何やらかしたんだ?)


ここまで泣き叫ぶなんて、よっぽどの事があったに違いない。例えば、冬香にいじめられたとか。

可愛い物好きの冬香に限ってそんな事は無いと思うが、先程の”姉モード”の冬香を思い出すと、少し、いや、かなり不安になってきた。


「うぁぁぁぁん!」


美咲が泣き止む気配が全く感じられないので、居ても立っても居られなくなり、僕はリビングを横切って階段を全速力で駆け上がった。



「美咲!!」


バン!とドアを開けて自分の部屋を見ると、混沌とした状況が広がっていた。

まず、美咲が大声で泣いている。うん。知っている。

次に、シーツが滅茶苦茶に剥がされたベッドが目に入った。

多分美咲が剥がしたのだろう。

そして、本棚から落ちた少量の本。何時もの光景だ。

だけどな……


最後に見えたのは、虚空を見つめてブツブツと何か呟いている冬香の姿だった。”茫然自失”という言葉がぴったりの状態だ。

僕はまず、号泣している美咲を宥める事から始める事にした。


「……美咲?ほら、僕だよ。圭介。」


すると美咲は、バッ!と振り返り、赤く腫れた目で見つめてきた。そして……


「ふぇぇぇ……けいすけだぁ………」


よたよたと僕の元に歩いてきた美咲は、弱々しく抱きついてくる。

子供を撫でる時のように美咲の頭を優しく撫でると、美咲はようやく泣き止んでくれた。

香る甘い美咲の匂いに頭がクラクラするが、今はそれどころでは無い。


「美咲、何があったんだ?冬香に何かされたのか?」


すると、美咲はこちらを上目遣いで見て、僕のシャツの胸ぐらをキュッと掴むと話し出した。


「ぎゅーってされて………」


「うん。」


「可愛い、可愛いって言われて……」


「う、うん。」


「頭……撫でられた………」


「……………」


さあみんな!今の話の何処に美咲が泣く要素があったでしょう!今の話だけで答えが分かった人は、自分が天才だと自覚しましょう!


美咲が再び喋り出した。


「………頭、撫でられた………」


「うん……頭、撫でられたんだね………」


「撫でられたの………」


待て待て!なんでまた泣きそうになってる!?


「み、美咲?どうして撫でられたら嫌なんだ?」


すると、美咲は何処か凛とした表情を浮かべて言った。


「わたしのあたまを撫でていいのは、けいすけだけなの!とうかちゃんの撫でかたじゃダメ!」


「ぐはっ!」


僕は心に大ダメージを負った。

とんでも無く可愛い。可愛いんだが………


「冬香に撫でられたのが嫌だっただけなのか……」


「そう!けいすけしかダメなの!」


「そ、そうか………」


今の話を整理すると、部屋にやって来た冬香が、美咲の可愛さに悩殺され愛でまくっていると、撫で方で僕では無いと美咲が気づき、泣き出したと……


(なんていうか……理不尽だな……)


そう思った僕は、未だに虚空を見つめている冬香の方を見て、美咲に言った。


「……美咲、冬香にも甘えていいんだぞ?冬香の撫で方は、後から気持ちよくなる撫で方なんだ。」


思いっきりホラを吹く。こうでもしないと冬香が可哀想だ。


「……そうなの?」


「ああ。もうすっごく気持ちいいぞ?」


「んー………」


美咲はしばらく悩み、冬香の方に歩き出した。


「とうかちゃん……」


「ダメよ……ダメよ……美咲さん……」


えーてーフィールド完全中和……………精神崩壊してるな……


そのまま美咲の様子を見ていると、美咲は驚くべき行動に出た。


「とうかちゃん……ぎゅーしてあげる……」


なんと、空っぽになった冬香を抱きしめたのだ。

美咲の瞳には、慈愛の光が浮かんでいる。


「…………ん…………」


お、冬香の精神が復元され始めた。瞳のハイライトが元に戻り始めている。


「………あ、あれ…………」


「とうかちゃん………」


「……み、美咲さん!?」


完全に元に戻ったようだ。美咲は破壊の神であり、復元の神でもあるらしい。


「とうかちゃん、ぎゅー………」


「はわわわわ………」


冬香は自分に抱きつく美咲を見て、次に見守る僕を見て状況を理解したようだ。

しかし…………


「可愛ぃぃぃ!天使!天使がいるよ!お兄ちゃん!」


アホのままだった……


「はいはい……」


「美咲さん!次はお兄ちゃんにしてあげて下さい!お兄ちゃんしてほしいって言ってますよ!」


「けいすけ………」


美咲がどこか捕食動物のような目で僕を見る。


(捕食動物よりもプレデターって言いかたの方がかっこいいよな……)


そんな現実逃避気味な事を思いながら、僕は来るべき色欲の塊に備えた。


* * *


僕が美咲に揉みくちゃにされてから凡そ10分程経ったところで、美咲の正気が戻った。

抱き合ったまま見つめ合う二人。


「…………………」


「…………………」


先に動いたのは美咲だった。


「せいっ!」


「ぐはっ!」


僕の鳩尾にストレートを1発叩き込み、その勢いで僕から離脱した美咲は、霞んで見える程のスピードで荷物を持って無言で部屋から飛び出した。

顔を真っ赤にしながら。


それを見た冬香は溜息をつき、


「……もうお前ら結婚しろよ。」


とか言いやがった。兄に対してお前呼ばわり。許せない。

その発言の後半の二字熟語には一切反応を示さず、僕は冬香に向かって言った。


「二度とあの美咲と会えないようにしてやろうか?」


冬香が土下座して僕に泣きついたのは言うまでもない…


読んで下さった方々、ありがとうございました。


漸く冬香の弱点らしき弱点が見えましたね………



面白い!と思った方々、感想、評価等をお願いします!




次回の構想がまだできてないので、次の投稿は少し遅くなると思います。

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