表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
401/401

武具商人・バロル

本日、7話同時更新。

この話は7話目です。

 最後に足を向けるのは、武具商であるバロル様のところだけれど……彼はピオロさんと一緒にいて、何やら険悪な雰囲気が漂っている。ピオロさんは飄々とした笑顔を崩していないが、向かい合うバロル様は明らかに不機嫌そうに腕を組んでいた。


 2人の横でやり取りを観察しているオレストさんもいるけど、あれは一緒にいると言って良いのだろうか? まぁ、顔馴染みがいるのは心強い。


 入り辛い空気ではあるが、挨拶をしないわけにもいかないのであえて足音を立てて近づき、会話に割り込む。


「ピオロさん、バロル様。少しお時間よろしいでしょうか? 何やら白熱されているようですが」

「リョウマ! ええとこに来てくれたわ。いやな、今バロルはんと仕入れの交渉をしとったんやけど、お互いの条件が折り合わんくてな。一息入れようと思っとったんや」

「仕入れ?」

「俺の工房で働く奴らのための食料だよ。俺が扱う武器や防具は誰もが使いやすい汎用品だ。職人を集めて、設備もこっちで整えて、大量生産の中でも安定した高品質と値段で信頼を積み重ねてきた。

 それで製造から運搬まで、工房で働く連中の飯をこいつの商会からまとめて仕入れてるんだがな……」

「うちも商売やからな。バロルはんの提示する額やと、運送費やらなんやらで赤字になってまう。勉強させてもらいたいのは山々やけど、中々難しくてなぁ」

「去年は異常気象の影響で不作だったから異論はない。ただ今年は去年のことを考慮して備えや品種の選定もやった結果、豊作寄りになったって話だろう。食料の値段も落ち着くはずだ」

「一旦上がった値段はそうそう落とせんわ。それに豊作は事実やけど、国王陛下の増魔期宣言も知っとるやろ。アレの影響で、軍の備蓄を増やしとる領主が多いんや。投機目的で買い込みを始めたアホな連中もおる。

 価格を吊り上げないだけ温情やと思って欲しいわ。うちは販路も仕入れも幅広くやっとるからあの値段でやっていけるけれども、地域への依存度が高い店で買うたらもっと跳ね上がるんやないか?

 大体、増魔期宣言はお前にとっちゃ追い風やから儲けとるやろ。冒険者から貴族、領主の軍の需要も抱えとるくせに、セコイこと言わんとき」

「べらんめぇ! 儲けてんのは否定しねぇが、生産と納品のために職員全員働き通し、時間がない中で楽しめる娯楽が限られてるせいで酒と飯の消費量も増えてんだよ。購入量も増やすから、結果的にはそっちの利益も増えるだろうが」


 俺の合流によって一旦交渉はクールダウンしたようだが、完全に冷めたわけではないようだ。先程と比較すれば険悪な空気はなりを潜めたものの、俺への説明の合間にもチクチクとしたものを感じる。


 ……というかバロル様“べらんめぇ”ってまさかの江戸っ子? 確かにせっかちな感じはするけど、マジで日本語とこっちの言葉の翻訳がどう機能してるのか分からん……おっ?


 そんな風に観察している俺の視線が気になったのか、彼はピオロさんから視線を外し、今度は俺に鋭い眼光を向けてきた。挨拶の時にも感じた、狸が威嚇するような警戒の視線だ。


「なんやバロルはん、急にリョウマを睨みつけて。普通の子供やったら泣いとるで?」

「普通の子供だったらそうかもしれないが、コイツは違うだろ。少なくとも俺はコイツを油断ならねぇ相手だと思って、今日は無理をしてでも(ツラ)を拝みに来たんだ」


 予想外の言葉に、ピオロさんと顔を見合わせる。警戒されていたのは感じていたが、最初から俺に会いに来ていたとは……


「この際だから率直に聞くが、スライムの糸を使った“防刃インナー”って防具、あれはお前が作って公爵家に売ってるんだろう?」

「ああ! ……失礼、製造は知人の武具商人を通して職人さんに頼みましたが、スライムの繊維提供と提案は僕ですね。ご存じでしたか」

「あたぼうよ! 俺はジャミール公爵家の軍からも装備調達を請け負っててな、そこから話を聞いたのさ“一部の隊で新型の防具が試験的に導入された”と。あと知人の武具商人ってのはティガー武具店だろ? 部下を送って売られていた防具の実物も確保した。

 実物を見て思ったよ、してやられた(・・・・・・)ってな!」


 おや? なんだか話が変わってきた。確かにティガー武具店では少量だけ販売が始まっているけど、公爵家への納品が優先で店頭は品薄なのによく手に入れたな……


「実物を見る前の俺は、普段着の下に着込める程度の防具じゃ耐久力なんてたかが知れているか、着心地が悪いか、高価な魔獣素材で補うか。どれを選ぶにしても割に合わねぇと思ったよ。普通の革鎧や金属鎧を着た方が実用的だろう、ってな。それが盲点だった!

 実物を見たら、軽い上に防具としての強度も十分。着心地も、命を守るためならある程度は仕方ないと思っていたら、違和感もねぇときたもんだ。一部とはいえ公爵家の軍に採用されたのも頷ける。

 だがな、そいつは俺にとっちゃ両手放しで賞賛するわけにもいかねぇのよ。なんせ“手強い競合相手が急に出てきた”ってことになるんだからな。今のところはまだ防具の違いで食い合いにはなってないものの、今後公爵家の他の防具にも手を伸ばすってんなら話は別だ。

 そこんとこを、どう思ってんのか聞かせてもらおうか!?」


 バロル様が俺を警戒していた理由には納得。公爵家相手の大商いに、突然競合他社が現れたと考えたら当然の反応だ。


 だが……


「個人的に、そこまでのことは考えてないですね。なんなら業務提携をしても良いのでは? と思ったくらいです。たとえばバロル様の工房でも防刃インナーを作って、バロル様の販路で幅広く売っていただくとか」

「……は?」


 警戒に満ちた顔が、一瞬にして間抜けなものに変わる。ピオロさんは黙り、オレストさんはいっそう楽しげにこちらを見ていた。


「僕は冒険者もしておりまして、趣味で研究しているスライム素材でこんな防具があったらいいな、ということを考えたのがきっかけでした。ですからハッキリ言ってしまうと、僕は装備関係に関しては、自分用の装備を整えることが第一なのです。

 公爵家やギムルで売っているのは、原材料が僕のスライムが吐く糸なので、比較的安価に生産できること。売れば協力してくれたティガー武具店の店長や職人さん達の儲けに繋がる。他の人の役にも立てばいい……と、色々挙げましたが、そこまで深い理由ではありません。

 利益を出して職人さん達に還元すれば装備の生産活動が継続できますし、継続していれば将来的により良い防具ができるかもしれない。より良い防具ができれば、僕の冒険者活動がより安全になる。改めて考えると“投資”という一面が強いですね。

 公爵家での導入が決まったのは、僕が年末の挨拶の時に若干の自慢を込めて公爵閣下に紹介したことがきっかけで、試験導入も決まりましたが……僕の目的は良質な防具そのもので、それで稼ぎたいとか、店を大きくしたいとかいう願望はありません。

 工房と職員は雇っていても生産するだけ、販売は公爵家の分も含めて完全にティガー武具店に委託しているので、そもそも大きくする店を持っていないですしね」

「……本気で俺の工房で作って売っても構わねぇのか?」

「現在の製造販売に関わってくれている方々のこともありますので、この場で構わないとは言えません。バロル様にその気があるのであれば一旦話を持ち帰り、職人達とティガー武具店の店長を交えて協議させていただきます。

 ただ、こちらの工房は新装備の開発に挑戦する気概と好奇心を持った方を集めたので、ほぼ“研究施設”になってしまったというか……売り上げに関係なく生活できる報酬は僕が保証していることもあって、皆さん研究の方が優先で生産量は多くないんです。

 研究と試作に時間を割くために、公爵家とティガー武具店での直売分のみに留めているのが実情ですから、納品分の生産にかかる時間を研究に回せるなら、強い反発はないと思います」


 自分達の作品をどこの馬の骨とも知れない奴がー、みたいなことはあるかもしれないけど、そこも含めて話してみないと分からない。


「なお、僕の装備の現物支給と、ギムルの関係者達の利益が保証される契約を結んでいただけることが大前提です。もしも品物の製法を把握した後、彼らを締め出して利益を奪うようなことがあれば、原材料であるスライムの糸の供給は停止させていただきます。

 ちなみに現時点でこれを供給できるのは、僕か僕の関係している場所だけですので」

「言われなくてもそんなくだらない真似、誰がするかってんだ! むしろ増やしてやらぁ!」

「それなら安心ですね」

「あたぼうよ! ……待て、本当の本当に製法を渡す気か?」

「関係各所が納得する形さえ整うなら、独占する気はありませんよ」


 まだ疑っているようなので、本心からはっきりと宣言する。すると彼はしばらく俺を睨んだ後、完全に毒気を抜かれた様子で頭を掻いた。


「俺が馬鹿みたいじゃねえか、ったく……分かったよ、こっちもすぐ返事はできねぇし、条件から諸々検討しておく」

「なんや、さっきまでカリカリしとった癖に。今更冷静に取り繕っても遅いんちゃうか?」

「やかましい! 試験的とはいえ公爵家に採用されて、これからって利権をぶん投げてくるとは普通思わんだろうが!」

「まぁ、それは完全に同意やけども。傍から見てると傑作やったで」

「……ああ、もう腹を立てる気にもなりゃしねぇ……」


 バロル様が深いため息を吐き、毒気を抜かれた顔でこちらを見ている。怒りや警戒は失せているが、俺の行動はまだ理解しきれていない様子。これに関しては時間が解決してくれるだろう。


 その後もしばらく3人で雑談をしていると、流れでバロル様とピオロさんの商談が再開したので邪魔にならないよう失礼する。俺が離れるとすぐにまた険悪な空気になっていたが、あの2人は別に仲が悪いわけではないようだ。


 狐と狸の化かし合いというかなんというか、あのやり取りもコミュニケーションなのだろう。


 ……さて、残りの時間はどうするか……


「お疲れのようですね」

「! オレストさん、ええ、少し。こういう場は不慣れなもので」

「不慣れという割に、そつなくこなされていたように見えましたが?」

「必死ですよ。言葉遣いも変になっていた気がしますし、というかやっぱり見てたんですね」

「私が招待したのですから、何かあれば手を貸すつもりで控えていましたとも」


 そんな子供の買い物を尾行していくテレビ番組みたいなことを……気にしていただけたのはありがたい、と思ったが、この人の場合は趣味でもあることを思い出した。


「ですが私の出る幕はありませんでしたね。他の皆様の目から見ても、リョウマ様は合格でしょう」

「合格というと、何か基準があったのですか?」

「基準というほど明確なものではありませんが、あえて言葉にするなら“商売に対する姿勢”でしょうか。説明すると長くなりますし、お連れのお2人がグリシエーラ様から薫陶を受けていたようなので、後ほど聞いてみると良いでしょう。

 それよりも小腹を満たしに行きませんか?」

「いいですね、行きましょう」


 こうして俺は残りの時間、オレストさんとビュッフェの料理と会話を楽しんだ。彼は趣味も多分に含まれているが、商会に集まってくる奴隷を通してジャミール公爵領一帯はもちろん、他領の情報や社会情勢等々にも詳しく、素直に勉強になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
一定時間漂う人以外の特定のものを害する効果のあるものはとても需要があるだろうな。 衣類の埃とり、毛足の長いのは使えないけど、コロコロ或いは弱めの粘着のなにかが需要ありそうね。 カルムさんとカルラさんへ…
最初は7話更新とは大盤振る舞いなと思ったけど、読んで分かった これは7話更新が良さそうな話の流れだわ
たしかに今回は登場人物が一気に増えたけれど、 流れに沿った丁寧描写のお陰ですんなり人物像が把握できたから まったく苦にならなかったです。 グレンさんも好きだけど、狸も好きだなぁ~ みんな優しいんだよな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ